どこが変わってるかと言うと………そうですね。告白のタイミング?的なものです。
ではごゆるりと
奏さんを担いで歩いてから約10分後。私はさっきまでいた洞窟の中に入った。ここなら誰にも見つからないだろう。奏さんをひとまず寝かせて、私は救急用のポケットから包帯を取り出す。
「奏さん………」
彼はもう虫の息だった。パーカーとTシャツを脱がせ、折れたであろう腰に包帯を巻き、出血しているところも止血する。近くの綺麗な沢から水を汲み、奏さんの元へと走っていく。
「飲めますか……?」
「あ、あぁ………ありが、とう」
辛うじて言葉を出す奏さん。とても辛そうな顔で受け答えをしていた。私の心は後悔と自分への憎しみに蝕まれていた。悔しさのあまり、下唇を強く噛んでしまい血が滲んでしまっていた。
「今日はここにいましょう」
「あ、あぁ…」
せめて奏さんが怪我している間、私は精一杯彼のために尽くしたい。そう思っていた。短い返事をした後、奏さんはもう静かな寝息をたてながら深い眠りについていた。
私は自分への戒めのため、レガミクトセレナを取り出し、頭上から腹の前へと振り下ろす。それを約500回程行った。豆が潰れ、手に力が入らないほどだった。でもこれくらいしないと自分の気が収まらない。自分の不甲斐なさで人を傷つけた。守る側の人間が、逆に人に守られた。それを考えるだけで、自分の中からなにか熱いものがこみ上げてきたみたいになる。日も沈み、月はもう真上に上がっていた。午前1時程だろうか?私は服を脱いでタオルを取り出し全身の汗をタオルで拭く。拭き終わり、もう一度服を着た。表に戻ると、奏さんが目を覚ましていた。
「か、奏さん!?」
「え、あぁ、咲夜さん」
「大丈夫ですか?体の方は……」
「あぁ、大丈夫だよ」
奏さんの体にはさっきのような大きな傷はもう無かった。これも龍人の再生能力なのだろうか?
私は奏さんの前で正座をし、頭を下げた。
「さ、咲夜さん?」
「申し訳ありません。私の不注意のせいで、奏さんにこんな大怪我を負わせてしまって……」
「い、いいよ、顔を上げて?もう治るから……」
「いいえ、こうでもしないと私の気が収まりません。どうかこのままでいさせて下さい」
「あ、うん……」
奏さんは黙り込むが、何故か気まずさなど微塵も感じなかった。やはり自分の心に余裕が生まれなかったからだろう。するの奏さんは唐突に口を開いた。
「レミィに裏切られて……紅魔館からも追い出されて……そりゃショックを受けるよね……」
「……はい。ですがそれは奏さんも同じのはずです」
「俺は違うよ………咲とは……そりゃ相棒のような存在だったけど…そこまで付き合いが長かったわけじゃないんだ。咲夜さんの方がショックは大きいと思うよ」
「……………」
強いんですね……奏さんは……
心の中で奏さんに尊敬の眼差しを送る。大切な人と別れても、いつまでも笑顔を向けられるこの人の強さが私には理解できない。私は更に顔を俯かせてしまう。
それを見かねたのか、奏さんは更に優しい声を投げかけてくる。
「だから……切り替えよう………また紅魔館に戻って___」
「嫌です」
「……え?」
私は奏さんの言葉に思い切り被せた。もう自分の中にはお嬢様なんていなかった。
「私はもう紅魔館になんか戻りたくありません。ですから………」
私は少しずつ涙ぐんでいた。泣きたくなる衝動を抑え、必死に自分の本音を奏さんに告げようとする。
「一緒にどこかへ逃げませんか?」
「………」
「どこでもいいです。紅魔館の手の届かなところ……霊夢や魔理沙………文とも疎遠になってもいい………!私はあなたと共にこの先の生涯を歩んでいきたいんです………私は……私は……」
これを告白というのだろうが、自分の中にはそんな恥すらも忘れていた。私のことを愛してくれなかったお嬢様なんかもうどうでもいい。紅魔館に戻っても本当の愛は絶対に貰えるはずがないのだ。なら、戻る意味もないし、紅魔館での私の存在意義はもう無くなったんだ。
だから……この人と共に過ごしたいから……告げるんだ…
「私は、奏さんが好きなんです………!」
「……!」
「だから……あなたと恋人として……平和に暮らしたいんです………レミリアお嬢様の事を忘れられるくらい………」
奏さんはずっと黙ったままだった。黙って私の話を聞いてくれていたんだ。私は手を差し出し、最後にこう放とうとした。
「だから、私と一緒に逃げ………んぅ?!」
その途中の事だった。私の唇が彼の唇に塞がれ、言葉が出なくなった。その唇はまるで「黙れ」と言わんばかりに強く押し付けてきた。
「んん…………んっ……」
永遠に続くような感覚に陥る。キスという初めての行為に私は顔が蕩けてしまう。しかしそれとは裏腹に奏さんの顔は真剣に私を見つめていた。
「俺も咲夜さんのことが好きだ。いつまでも君と一緒にいたい」
「な、なら!」
「でも、俺は逃げたくない」
「っ!」
奏さんの瞳には自分の意思を貫こうとしている強い意志が伝わるほど真剣で力強いものだった。
「確かに俺も、咲夜さんと2人きりでどこかで暮らしたい。でも、それは紅魔館に報告してからの方がいいんじゃないかな?レミィや咲が裏切っても、フランやパチュリーが君を愛していた気持ちは本物だったと思うよ。だから…」
奏さんは一呼吸置く。そして少しだけ戸惑いを見せながらも意を決して話し始めた。
「俺は自分でこの戦いにケリをつけたいんだ。それを………大好きな君と一緒に見届けたいんだ………。それが理由じゃ……ダメかな?」
彼がこんなにも私のことを想ってくれて、それに逃げることはいくらだって出来るのに、彼は絶対に逃げない。それが私と違う。奏さんの強さなんだ。
「……いいえ、私は奏さんに一生付き添っていきます」
「はははっ、今のプロポーズみたいだね?」
「なっ?!ち、違いますよ!」
「分かってるよ……」
「で、でも、この戦いが終わったら……将来のこと…少し考えてみませんか?」
「………あぁ、一緒にな……」
奏さんの顔はさっきよりも優しく、笑顔だった。私も流れていた涙を拭いて、笑顔を返す。
「じゃあ、明日に備えて寝ようか……」
「あ、あの!」
「ん?」
私は奏さんの手を握り、顔を果実のように紅潮させる。体の隅から隅まで熱くなっているのが分かるほど緊張していた。
「さ、寒いので……一緒に寝ませんか?」
「っ!?」
これには流石の奏さんも顔を真っ赤に染め上げる。そりゃそうだ。私だって初めてのことなのだから……奏さんはオドオドと辺りを見渡しながらこう答えた。
「え、あ、う、うん………いいよ…」
「あ、ありがとうございます…」
私は奏さんが使っていた布団にモゾモゾと入り込む。奏さんとの距離が約15センチ程で、お互いの息がかかるくらい。嬉しさもあるが、同時に恥ずかしさもあり、どうしていいか分からなくなる。
「明日……紅魔館に向かおう。一刻も早くフラン達を助けないとね」
「ええ…………でも今は…忘れてほしい……です……」
そう、今は私だけを見ていてほしい………そんな思いから…奏さんとの壁が消えつつある。
「咲夜さん……………」
「ん………」
私は静かに唇を前に差し出す。奏さんは躊躇いもせず、私の唇に自分の唇を重ねた。さっきとは違う暖かさがあり、男の人とは思えないほど柔らかい唇。しっかりと保湿が行き届いているのも感じ取れた。今ではこんなことを考えられる余裕も出来ていた。ゆっくりと唇を離し、口を開く。
「やっぱり……奏さんはすごいですね…………人の心が読めるみたいに…優しく声をかけられるなんて……」
「いや……これができるのは……咲夜さんだからだよ」
少し恥ずかしそうに奏さんは言う。それを聞いて私はまたもや顔を赤く染める。
「は、早く寝ようか……」
「は、はい……」
そう言ってお互いが外側を向いて寝る。その時、私と奏さんは1時間ほど顔が真っ赤になっており、眠ることが出来なかった。
1時間後、今日という日に感謝をし、愛する人の温もりを感じながら、私は眠りにへと入っていった。