東方想幻華 (一時連載休止)   作:かくてる

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15話 紅魔館の主

「せぁぁ!」

 

 レミリアが放ったグングニルを時空真で弾き返そうと刀の根本をグングニルに先端に当て、力を入れる。

 

「ッ!」

 

 時空真は妖刀ではあるが、咲名千里とは全くの別物。使い始めて数ヶ月の俺にはとても「使いこなす」ことは出来なかった。しかし、流石は妖刀。かなりの強度を誇り、吸血鬼の妖力がふんだんに込められている槍でさえも耐えている。

 

「くそっ、俺が持たない………」

「あら?口だけなんて言わせないわよ?奏?」

 

 まだまだ余裕を持っているレミリアに対して、俺はグングニルの進行を止めることが精一杯だった。

 

「まだまだァ………!」

 

 時空真の方向をグングニルごと変え、進行方向を自分から遠ざける。そのままグングニルはまっすぐ進んでいき、奥の壁に突き刺さった。その威力は鳥肌が立つほど凄まじかった。俺はそれだけで息が切れ、腕の筋肉を酷使しすぎたため、軽く出血していた。

 

「はぁ………はぁ…」

「あら、龍人も体力が無いわねぇ………紅魔「スカーレットシュート」」

 

 もう俺には刀を振り回す余力なんて無かったため、何とか動かせる足を利用してそれを避けていく。こんな狭い空間では飛ぶことはおろか、高くジャンプすることも不可能だ。体力がもう底を尽きそうで、俺は膝をガクンと落とす。

 

「もう終わり?紅魔館の主はこんなんでは満足しないわよ?」

「それは………どう、かなっ!」

 

 グンッと飛び上がり、時空真を両手で持つ。そしてそのまま重力に身を任せ、縦に振り下ろす。ない筋肉で全力で振り下ろした。

 

「ッ!?」

「はぁ…………幻滅よ。奏、咲夜とばかり遊んでいるから、愛原本来の力を忘れたのかしら?」

 

 グングニルをまた出現させ、俺の刀を片手で受け止めていた。出血も傷もなし、改めてレミリアの強さと体の強靭さに戦意が削がれていった。

 

「これで王手よ。愛原 奏」

 

 ズブッ………という鈍い音が反響する。そして床にはドロドロとした赤黒い液体と霞んでくる視界。それと遅れてやってきた尋常じゃない痛み。

 

「あ、あっ、ああああああああああ!!」

「あっはははははははははははは!!いい叫びだよ奏!!」

「か、がはっ……」

「ほらぁ……もっと叫びなさいよ……」

 

 俺は意識が朦朧とし、自分の内蔵が掻き回されているのが想像出来てしまった。吐き気もを催し、俺は吐瀉物ではなく、吐血をしていた。もう声なんて出ない。

 

「か、奏……くん?」

「……?………咲……どうしたのよ?早くこいつを境界の狭間に送りなさい?」

「……………ッ!」

 

 咲は俺からは目を背ける。恐らく、俺の凄惨な姿を見ていられなくなったのだろう。

 

「も、もう……やめようよ…レミリア…」

「………」

「こんなことしたって…結局は幻想郷なんか支配できない。奏くんみたいな強力な妖怪が幾千といるこの世界で、あなたが支配することなんか不可能よ……!」

「それは…やってみないと分からないでしょう?自分のものさしで人を図ってはダメよ。咲、それとも何?あなたもこの龍人に手を貸すの………?なら、容赦なんてしないわよ?」

「さ………き……」

 

 俺が辛うじて出した声に咲は体をこわばらせ、もう一度顔を背ける。そして意を決したのか、涙を流しながら何かを唱え始めた。

 

「私はっ!いつだって奏くんの味方なんだ!」

 

 無数の光の粒子が咲の伸ばした手の先端に集合していく。そしてしばらく経った後、それは一本の棒状の物が輝きながら生成されていった。

 

「あなた…………」

「私は!倉見の仲間なんかじゃない!奏くんの仲間だ!」

「もう、あなた達には本当に呆れたわ」

 

 グングニルを俺から抜き取り、咲に投げる。しかし、俺よりも体が身軽なため、咲はそれを軽々と避ける。そしてようやくその棒状の物が姿を現した。

 

「奏くん!」

 

 次に咲は俺に駆け寄り、貫かれた腹部に手を当てる。そしてさっきと同じような粒子が俺の体の中に入っていった。そして見る見るうちに痛みと傷が消えていく。

 

「これはあくまでも応急処置よ、完治した訳じゃないから気をつけて!あと………ごめんなさい……私のせいで…こんな目に…」

「いや、いいさ。結局は俺達の仲間だったんだろ?信用してくれてたんだろ?なら、それに越した事はないよ」

「うん……ありがと………それと……これ」

「これは……咲名千里……」

「前に言わなかったっけ?咲名千里はいつでも復活させることが出来るって」

「聞いてねぇよ………」

「もう、つべこべ言ってないで戦うよ!」

 

 俺は愛刀を握りしめ、隣に相棒がいるという安心感が身に染みて伝わってくる。

 

「じゃあ、行くぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

「幻世「ザ・ワールド」」

「禁弾「スターボウブレイク」」

「……え?」

 

 見覚えのある二つの声と共にナイフや弾幕が背後からレミリアを襲う。そして後ろを振り返ると愛しい家族がそこにいた。

 

「さ、咲夜さん!フランも……」

「お嬢様、私はお嬢様のやり方には納得しかねます。なので、今ここでそれを止めさせてもらいます!」

「今更幻想郷を支配したって意味無いよ!お姉様!また一緒に笑おうよ!」

「もう心に決めたの!私はどれだけあなた達に言われようとも!自分の信念は曲げるつもりは無い!」

「………咲夜さん、フラン。レミリアを殺すつもりでいってくれ。実力が桁違いだ。でも三人いたらいける」

 

 咲夜さんはレガミクトセレナを取り出し、フランはレーヴァテインの火力を強め、俺は咲名千里に妖力を込め直す。そしてレミリアに先端を向ける。

 

「静符「アブソリュート・シン」!」

 

 凍結現象を用いた最上級の技、もといスペルカード。振り下ろした咲名千里の軌道に沿って針のように鋭い氷がレミリアを襲う。流石にあっち側も体力が切れたのか、少しだけ避けるのが遅れていた。

 

「「495年の波紋」」

「パーフェクトスクウェア!」

 

 2人の弾幕が時々レミリアの肩や膝に当たる。レミリアは歯を食いしばり、怒りの声を出した。

 

「調子乗らないで!「紅色の幻想郷」!」

 

 大玉弾幕と通常弾幕が俺達の周りを囲う。それもとんでもない密度でしかも弾速も早い。当たったら大怪我じゃ済まないし、それに避けるのも精一杯だ。

 

「奏くん!しゃがんで!」

「お、おう!」

 

 咲に言われた通り、わけも分からずその場でしゃがむ。すると咲夜さんが俺の前に出てきた。

 

「さ、咲夜さん!危険だよ!」

「………」

 

 咲夜さんのその横顔は戦闘中でありながらもとても美しいと感じるほどだった。俺が惚れた女性は実はとんでもない美貌の持ち主だったのかもしれない。そして咲夜さんの口から予想だにしないスペルカードの名が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

「真符「時空斬鉄」!」

「なっ!?」

 

 あの技は、俺が極めたラストスペル。いつのまにスペルカードくすねたんだ………これにはレミリアも驚きを隠せず、ブラックホールにそのまま吸い込まれていく。

 

「くっそぉ!」

「これで終わりです!月光「ムーンソードレイン」!」

 

 妖力消費が一番激しい技、人間の咲夜さんにとってまるで諸刃の剣だ。しかし、威力は絶大。

 

「ああああああ!!」

 

 レミリアはそれを全て受けてしまい、小さい爆発を繰り返し、その後大きな大爆発と共にレミリアは血を流しながらその場に倒れる。

 咲夜さんもそこで膝をつく。

 

「お、終わった………の?」

「……咲夜さん……」

 

 咲夜さんの肩に手を置き、労いの意味も込めて微笑む。咲夜さんは大粒の涙を流し、俺に抱きついてきた。

 

「お、終わったぁ!」

「いでででで!咲夜さん苦しい!」

 

 そんな俺達バカップルを微笑ましく見ていたフランと咲。見てないで助けてくれ!するとその後ろに倒れるレミリアの体が少しだけ動いた。

 

「………レミリア……」

「………」

 

 俺達はレミリアに駆け寄り、咲名千里を鞘から抜く。するとレミリアは両手を広げ、泣きながら叫ぶ。

 

「殺したいなら殺しなさい!あなたの宿敵、倉見の末裔よ!」

「………」

「じゃあ、殺す」

「え、奏!?」

 

 フランが驚きの声と共に、俺の右腕にしがみつく。俺はそれを振り払ってもう一度レミリアに向けて振り上げる。

 

「やめて!?奏!」

 

 フランの悲痛な叫びが聞こえるが無視をして思い切りレミリアに振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

「…………………え?」

「これで、「倉見」のレミリア・スカーレットは死んだ。これからは「紅魔館の主」のレミリア・スカーレットとして生きてもらう」

 

 咲名千里はレミリアの額の前で停止し、俺はそんなことを言う。本心ではあるが、ここは全てをぶつけよう。

 

「俺は「紅魔館の主」であるお前が好きだ。倉見のレミリアは俺が殺した。それでいいな?」

「………奏……」

「奏さん………私がいながら「好きだ」なんて軽々しく言わないでくださいよ。傷つきます」

「え、いや、そういう意味じゃなくて……咲夜さんはまた別の意味で好きだよ?」

「分かってますよ」

「ふふっ……じゃあ、お姉様………また…あの日々に戻ろ?」

「…………うん……」

 

 レミリアのその顔は濁りがなく、これまでの行いを払拭するかのような輝かしい笑顔だった。

 これは「異変」とは呼ばれることもなく、すぐさま人々の「記憶」から消去されていった。

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