奏さんも最後の卒業作品です!
紅魔館は一時期全てが分断される寸前まで追いやられたが、愛原の子孫、もとい私の恋人である奏さんが全てを止めてくれた。お嬢様との関係も悪化せず、妹様もことの事情を受け止めた。
「みんな、ごめん!」
「…咲…」
愛原家の妖刀、咲名千里を乗っ取るために人柱となった倉見の第一令嬢、片波 咲。彼女にはまだ倉見としての信念が心底にあったみたいでお嬢様との共謀により紅魔館が半壊という結果となった。しかし咲さんの中でもまだ奏さんの事が忘れられず、躊躇していたようだ。自分の行いが果たしていい事なのか、それとも今までの生活を崩壊させる恐ろしいことなのか、咲さんと奏さん、そして私たち家族が支えてきたその経験が語っていたらしい。
「咲……どうして…こんなことを………?」
「レミリアの指示なのよ。でも、私の中でも少しだけ奏くんを憎んでる部分があった………彼ではないとはいえ、私の大切な倉見の人たちは愛原によって殺されたんだ。恨んでないといえば嘘になる」
「なるほどな………レミリアも同じ意見か?」
「え、ええ……本当にごめんなさい」
「今更いいですよ。お嬢様。誰も死人は出ていないですし……一件落着です」
「そうだな。美鈴達も無事だし、フランの狂気化もいつの間にか克服出来たようだし、またあの生活に戻ろう」
妹様の狂気化はそもそも妹様自身が少しだけでも心に「ズレ」が生じると発症してしまう。つまり、自分の中で「破壊したい」と思う物や人物を強く恨むことでズレが生じて狂気化が出てくるらしい。これは妹様が「破壊しない」というのを根底におけば狂気化の可能性は極めて低くなると永琳さんが言っていた。
「さて、私は夕食の準備をしてまいります。どうぞゆっくりと……」
「レミィ、一緒に話さない?」
「パチェ……うん、行きましょう」
「フラン様、門の前で遊びませんか?」
「いいの!?行く行くー」
それぞれ個々が親友や大切な家族に連れられ、特定の場所に消えていった。私はそれを見て微笑みながら台所に向かう。すると誰かの手が私の肩を掴んだ。
「あ、咲夜さん。俺も手伝うよ」
「いいんですか?ありがとうございます」
いつもならここで断っていた私だが、今は恋人同士であるからか、喜んで頼んでしまっていた。
ーーーーーーグツグツと何かが沸騰している音が台所内に響く。
「奏さん」
「んー?」
包丁でじゃがいもの皮を向きながら奏さんは返事をする。私も同じことをしていたが包丁とじゃがいもを置いて
「この戦いで、私は強くなれたでしょうか?」
「ああ、君は強くなった。俺よりも成長したんじゃないかな?」
彼は即答だった。
「それに、フランが狂気から離れたのだって咲夜さんの言葉があったから、レミリアや咲が今の状態になれたのも、メイド長である君が居たから、だと思うんだ。もちろんお世辞でなんか言ってないよ?」
「そう………ですか…………ふふっ」
自然と笑みが零れてくる。奏さんにここまで優しく褒めてもらったことはないし、別に私の心が乱れてたわけじゃない。ただ単に褒めてくれたのはこれが初めてかもしれない。
「それに……………………」
「それに?」
「な、何でもない……」
「ええー、言ってくださいよ」
少しだけ奏さんは顔を赤らめる。少し言いにくそうだったが、意を決してこう答えた。
「レミリアと戦った後、咲夜さんの服が破れてて、一瞬水色の下着が見えた。とても素晴らしい領域だっーー」
バァァァァンという音が奏さんの頬から鳴る。顔を真っ赤にした私が右手で頬を叩いた。普通、叩いただけでバァァァァンなんてならないけど、この時は妙に力が入った。
「や、やめてくださいよ!あの時は勝負下着だったんだから!」
「え?勝負下着?咲夜さんの勝負下着って水色なの?」
「え?あっ、ああああ!忘れてください!」
顔を赤くして硬直する奏さんと忘れさせようと奏さんの周りをくるくる回る私、傍から見たら本当のバカップルだ。こんなひとときが幸せと思う私は変わり者なのだろうか?
「あ、もう出来てるね」
「うぅ……奏さん切り替え早すぎです…」
「いや、今日はいい情報貰ったよー」
「奏さん、明日からハリネズミになってるかもしれないですね」
「しれっと怖いこと言わないで咲夜さん」
ナイフを取り出し、奏さんを脅す。それに対して慌てる奏さんは少しだけ可愛かった。
ーーーお嬢様と咲さんの共謀事件から約2年。今ではもう二人は以前の二人に戻っており、私と奏さんの仲も未だ良好。立ち位置も変わっていないし、私はメイドとして働いている。
「奏さん、紅茶をお持ちいたしました」
今日は快晴、奏さんが座っていたところは屋上のベンチ、咲名千里と時空真の二刀の手入れをしていた。いつまでも鮮やかに光り続ける二本の刀は妖しく紫色に光っていた。
「ん、ありがと」
「妖刀って凄いですね……」
「何が?」
「レガミクトセレナを持っているといつも思います。「刀の中にも心があるんだな」って……」
「あぁ、見た目はただの金属の棒だ。でも心はある、使い方を間違えれば自分も死ぬ、一心同体の存在だ。それが具現化したのが咲ってところかな」
「なるほど………」
奏さんは立ち上がって試しに咲名千里を縦に振り下ろす。少し重みを感じさせる重い音が鳴る。しかしそれを感じさせないくらい軽々と振り回す。そしてそれを鞘に収める。
「かっこいい……」
「へへっ、そりゃどーも」
「最近異変ないですもんね。奏さんの戦う姿なんてもう数ヶ月見てないですよ」
ちなみに修行の方はもうしていない、私がレガミクトセレナを使いこなせるようになったため、奏さんの教えられる範囲がもう無くなったとか。
「それよりも、紅茶に毒入ってるよな?」
「ええ、青酸カリです」
「毒じゃねえけど危険だな……」
「龍人ですし死なないでしょう?」
「まぁ美味しいけどさ……」
奏さんは紅茶を一気に飲み干した。そして「ほぉ……」
という白い息が奏さんの口から出てくる。そこから数秒の沈黙。
「そう言えば、今日はこのあと雪が降るらしいね」
「雪………ですか…」
「そ、白銀の………ね。まぁ夜中らしいけど」
そう言われ私は空を見上げる。今は雲一つない青空。今から雪が降るとは考えにくい。まだ午後の3時だから、これから来るのだろう。
「ね、咲夜さん」
「はい?」
「今日の夜、お茶しない?」
「?ええ、分かりました」
首をかしげながらも、私は奏さんの要望に首肯した。私自身がお茶をするなんてあまりない経験だし、今日のお仕事はもう夕飯しかない。予定はガラガラだ。
「では、失礼します」
ハイヒールの音を立てながら屋上の扉を開け、室内へと入る。いつまでも経っても奏さんとの会話は緊張する。まだ心臓が高なっているのが自分でもわかる。
「恋人になってもう2年…………」
私は告白されて以降、奏さんに「好き」と言われたことがない。仲がいいのは事実だが、愛を確かめる時間は皆無に等しい。もう少しスキンシップを増やして欲しい。軽いセクハラなら奏さんは躊躇なくしてくるからもう少し過激に………なんて思っている自分がいた。奏さんは普通に私のパンツの色を覗いて当てたことだってあるんだ。なのに、それ以上のことを彼はしない。
「キス……………したいなぁ」
本心か言葉に表れた。そして、その後には誰かの人影がいた。
「あらあら、咲夜も成長したわね?」
「ッ!?」
ガタッと座っていた椅子が倒れる。
「お、おおおおお嬢様!?」
「あら、別に恥ずかしがらなくていいわよ。こちとら従者の成長に喜んでいるのだから」
「は、はあ……」
「もう、あなた達結婚したら?2年も付き合っているのでしょう」
「…………それは無理です」
それだけは断言できた。私と奏さんは結構してはいけない理由がある。それはお似合いじゃないからではない。仲が悪いわけでもない。
「私は人間です。そして彼は龍人です」
「…………」
「私はおそらく、あと数十年で命を落とすのでしょう。彼はそれでもまだ若々しい体を持つ。私よりも奏さんの心が持たないんです」
「あなたは……吸血鬼の眷属になるにはないの?」
「ええ、人間のままこの体と別れたい………それが理由ではダメでしょうか?」
「……いえ」
お嬢様の顔は暗くなっていく、そして振り返って「晩御飯お願いね」といって扉の方へと歩く。
「彼は………そんなこと絶対に気にしないわよ……」
去り際のお嬢様の言葉、それが少しだけ心に響いた。泣きたくなる衝動を抑え、私は夕飯作りに専念した。
ーーーーーー午後9時。仕事を終え、風呂に入った後、奏さんが自室の前で待っていた。
「そんな所にいたら冷えますよ。奏さん」
「あ、咲夜さん」
「ええ、分かっています。行きましょう」
「ん」
「…?」
奏さんが手を差し出してくる。私はそれを理解することが出来ず、その場で首をかしげ、すぐにそれを察する。
「………はい……」
顔が赤くなる。私の手は奏さんの右手に収まった。やばい!緊張する!奏さんの手は小さいながらもゴツゴツして男の手と思わせるものだった。
「さ、着いたよ」
「………わぁ…」
バルコニーに降り注いでいるのは白銀に光る雪。それはとても幻想的で見るものを魅了させる何かがあった。
「お茶も作ってあるから」
「奏さんが作ったのですか?」
「あぁ、毒は入ってないよ?」
そう言いながら私は椅子に座る。少し冷えるがそれ以上に雪が綺麗で寒さなど忘れていた。
「はぁ……美味しいです」
「だろ?勉強したんだぜ?」
ドヤ顔する奏さん。その顔がいつの間にかとても愛おしく感じた私は異常なのだろうか。照れ隠しに紅茶をのぞき込む。
「毒なんて入ってないから大丈夫だって」
「当たり前です。人間なんですから死にますよ?」
「……あぁ」
奏さんの顔が暗くなっていく。私はそれに対して首を傾げる。
「どうしたのですか?」
「咲夜さん……俺は……」
奏さんは恥ずかしそうに顔を紅潮させながら辺りを見回す。何を緊張しているのだろうか?
「君が好きだ」
「ッ!」
唐突の「好き」に私も同じように顔を赤くして自分の口を塞ぐ、それと同時に嬉しさがこみ上げてきた。
「だから……少し…少しでいい………こうさせてくれ」
塞いでいる手を握り、奏さんはグイッと私に顔を近づける。私は少し驚き、体が固くなっていく。そして、奏さんは段々と近づけていき、ついには私と唇に重なった。
「んっ…………ちゅ…奏………さん」
「はぁ………好きだよ……咲夜さん……」
「もっと……私を……見て…」
この言葉は私の心の底から思っていたこと。自分が生き甲斐を感じる瞬間。私の今の顔はきっとだらしない顔になっているのだろう。でもこれ以上の幸せが無いのだから仕方ない。
奏さんはもったいぶるように、唇を離す。私はそれに少しだけ物足りなそうな顔をして
「奏さん、足りませんよ」
「へ?んぐっ」
次はお互いの唇を貪るような情熱的なキス。お互いの吐息が直に当たる。そしてそのまま舌を入れ、舌同士も絡ませていく。
「んっ……じゅる……れろ……ぷはぁ……はぁ……」
「さ、咲夜さん……」
私と奏さんの唇の間に、雪に負けないほどの白銀色の糸が引く。奏さんの顔も私と同様、とても惚けていた。
「私も…あなたが好きです。奏さん……」
「あぁ、俺は君を失いたくない」
奏さんはそう言った後、一度深呼吸をしていた。そして何かを決したのか、私の手を握って、私の目を見て、真剣な顔でこう紡いだ。
奏さんの愛が伝わる、その瞬間。
「結婚しよう」
「……え?」
予想の斜め上を行く答え。私の目からは嬉しさが具現化した涙が流れ始める。拭っても拭っても流れ続けている。私は思わず「はい」と言いそうになった。しかし突き放すようにこう言った。
「ダメです」
「……なんで?」
「………私は人間、あなたは龍人。寿命の差があります。そんなことしたら、私が死んだ時にあなたの精神が崩れる可能性だって捨てきれません。だから、このまま恋人同士としてーーーーーー」
「そんなの関係ない」
少し強い声で奏さんは私の言葉に被せる。そして奏さんはそのまま話し始める。
「咲夜さんは確かに人間だ。それに寿命はあと数えられるほどだ。でも俺にはそんなの関係ない」
一呼吸置いて、彼はまた気持ちを紡いだ。
その言葉は私には初めてのもの。
「俺は君を愛してるから」
「ッ!?」
私はまた涙が溢れ出す。
「その気持ちさえあれば、俺は君との短期間、ずっと過ごしていける」
「………浮気しませんか?」
「当たり前だ」
「……ずっと愛してくれますか?」
「そうしないと俺は気が済まない」
「…私のそばにいてくれますか?」
「俺の心も満たしてほしい」
「………」
嬉しい……彼の気持ちが表れた唯一の瞬間だった。奏さんが私をどれだけ大事にしてくれているのか、愛しているか。対面していても伝わるその強い気持ちが私の心を響かせていた。
「さて、返事はどうする?」
少しイタズラな笑顔で奏さんは返事を要求した。もちろん、私の導き出される答えは一つだった。
「………はい、喜んで」
瞬間、奏さんの温もりが私の全身を痺れさせる。数秒して抱きしめられていることに気づいた。私も負けないように、強く、離さないように抱きしめる。
「愛してますよ………奏さん…」
「あぁ、俺もだ……」
奏さんの手に私の手が持ち上げられる。そして薬指に何かを取り付けられた感触があった。
「これは………指輪…」
「にとりに頼んだら最高級の作ってくれたんだ」
「綺麗……」
ダイヤモンドが月明かりに照らされて反射する。これが「結婚指輪」。人生で初めての経験。白銀に光り続ける雪が指輪の上に落ち、溶ける。
「俺は……死ぬまで君を愛し続けるよ」
「ええ、離さないでくださいよ?」
私は死ぬまで彼を愛し続けよう。残りの数十年、お嬢様に尽くそうと思っていたこの気持ちは奏さんのためにも使おう。なぜならこれ程愛してくれた人はいないのだから。
「好きだ………愛してる…咲夜」
「ええ、私も……奏」
白銀色の雪は…いつの間にか消え、月明かりが私達を照らした。
動き出した恋の秒針~茜色の銀時計~
end………
お疲れ様でした!
咲夜編はとても話が飛んでて読みにくかったと思いますが、自分なりに全力は尽くし…………たので、お読みいただけるととても嬉しくて地球を真っ二つにしてしまいそうです。