その壱 出会い
「・・・師匠と訪れてから東ばかりだったからか。随分と懐かしいな」
───ライノの花が咲き誇る季節
七耀歴1206年、4月1日。
車窓から流れる景色をぼんやりと見つめながら、スヴェル・ワグナリアは目的地を目指して鉄の箱に揺られ続ける。
本来なら車窓からの景色ではなく、目的地である町でゆっくりと味わう予定だったライノの花。学院が始まるまでの間、花見酒でもしようかと立てていた計画は予定が狂いお流れとなってしまった。用意した酒は結局身内のところに送っておくことに。心底残念である。
「内戦が集結してから一年半。大荒れだった北が落ち着いたかと思いきや、今度は西が荒れかけとは。この国はつくづく闇に愛されてるな」
これから起こるであろう災難を想像し、深いため息を吐く。それを励ますようにシャラン、と腰に付けた鈴が鳴った。
程なくしてリーヴス駅到着のアナウンスが流れた。目の前の座席に置いてある荷物と愛剣の入った袋を取り、列車の出口へ向かう。
その時だった。帝国では珍しい黒い髪が見えたのは。
「・・・間違いない。あれが
数週間前に渡された依頼書と、外見も一致した。
隣には大貴族の三男も見える。交友関係の広さも確認できた。しかし
「困ってるな、あれ。《灰色の騎士》は流石の人気だな」
すぐさま出来上がった人だかりの中で、苦笑いを浮かべている。遠巻きに見ているだけだが、その苦労が理解出来るほどのもの。その辺りの対応は英雄となって暫く経った今でも慣れてはいないらしい。
まあいいか、と。分校に行けばどうせ会うことになる。今はスルーして空き時間で町を一通り確認したかった。
人だかりから向けられる訝しむような視線を切り、一応フードを被ってスヴェルはリーヴスの町へと繰り出した。
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(VIII組・戦術科にIX組・主計科・・・か)
リーヴス探索を終えトールズ第II分校に到着したスヴェルは、直後に始められた略式の入学式でのクラス分けを目を瞑りながら聞いていた。
戦闘時の有効な戦略を学び、より軍隊に近い授業を行うVIII組・戦術科。
導力機器操作や情報処理を学び、企業的な授業の多いIX組・主計科。
それぞれ8人ほど生徒が割り振られたが、スヴェルを含めた数人は未だに待機のままとなっている。
どうせこの後集められるのだろうが、一応確認だけはしておこう。
残された3人を順番に見ていく。
(銀髪のは内戦時に活動していた貴族連合預けの《
いや、俺も人の事は言えないか。
経歴やら体質やら、大っぴらには言えないことが山のようにある。教官を含めた自分の所属することになるクラスの面子の中でも、特殊な部類に入るはずだ。
(そして、もう一人。・・・まさかここにいるとは思わなかったが)
最後に一人、ピンク色の髪をした生徒の方を見やる。
染めているものではない、天然のピンク髪をポニーテールに纏めた快活そうな少女。
依頼書には直接記載されていなかった、スヴェルが第II分校に赴くことになった
(いや、考えるだけ無駄か。あっちを離れて数ヶ月は経っていた。連絡も取れていなかった訳だし、事情は皆目見当がつかん)
取り敢えずは後回しにしておくことに。
それから少し。VIII組、XI組は担当教官からそれぞれ説明を受け、オリエンテーリングのために校舎に向かって行った。残ったのは先程の数人とIX組の女子が一人。教官数名のみ。置いてけぼりのようなものである。
「・・・・・・って、なんか気迫に呑み込まれちゃったけど・・・・・・」
「ああ・・・・・・結局のところ、僕たちはどうすれば───」
「・・・・・・」
「・・・・・・まあ、今から話があるだろう。一人困り顔の教官がいるのは何故なのか知らんが」
(・・・・・・?今の声、なんか聞き覚えがあるような・・・・・・?)
痺れを切らしたピンク髪の女子が、困り顔で話す。それに乗じて蒼髪の男子が当然の意見。銀髪の女子はどこか我関せずを貫いているように見える。スヴェルは取り敢えず混ざっておいた。自分も無言ではまた気まずくなりかねない。
「・・・・・・将軍、いえ分校長。そろそろ“クラス分け”の続きを発表していただけませんか?」
「・・・・・・!」
「へ・・・・・・」
「フフ、よかろう」
「やっとか・・・・・・」
何故ここまで間を開けたのか。それもあの女傑の趣味なのか。
兎も角、黒髪の教官に促され、漸く分校長が口を開いた。
「───本分校の編成は、本校のI〜VI組に続く、VII〜IX組の3クラスとなる。そなたら4名の所属は《VII組・特務科》───担当教官はその者、リィン・シュバルツァーとなる」
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教官たちに連れられ、スヴェルたちは分校の奥にある箱要塞の前に来ていた。
「わああっ・・・・・・!送られた図面で見ましたけどこんなに大きいなんて・・・・・・!」
金髪の女子が、箱を見て歓喜の声を上げる。その様子に、隣の老人が呆れながらに言う。
「フン、この程度ではしゃぐな。伝えていた通り、お前には各種オペレーションをやらせる。ラッセルの名と技術、さいぜい示してみるがいい」
「は、はいっ・・・・・・!」
(ラッセル・・・ということは、彼女はリベールの?)
各種オペレーションを任せられる、ということはそれなりに導力機器を扱ったことがあるということになる。ラッセルと聞いて、なるほどと確信もした。
ちなみにリィン教官は生徒3名からシカトを決め込まれている。スヴェルに至ってはフードを取っていないため、リィンからは顔すら見えない。前途多難そう。
「現在、戦術科と主計科はそれぞれ入学オリエンテーションを行なっているが・・・・・・VII組・特務科には入学時の実力テストとして、この小要塞を攻略してもらう」
主任教官のミハイルから告げられた一言に、リィンが強い反応を示した。若干訝しんでいる。
「こ、攻略・・・・・・?」
「そもそもこの建物は一体・・・・・・」
疑問を口にする生徒。見計らって白髪の老人───G・シュミット博士から、建物の説明が行われた。
「アインヘル小要塞───第IIと合わせて建造させた実験用の特殊訓練施設だ。内部は導力機構による可変式で、難易度設定も思いのまま───適性対象として、
「なっ・・・・・・」
「ま、魔獣───冗談でしょ!?」
「いや。一応訓練要塞なんだから、魔獣がいても可笑しくはないが?」
「・・・・・・なるほど。《VII組》、そして《特務科》。思わせぶりなその名を実感させる入学オリエンテーションですか。新米教官への実力テストを兼ねた」
魔獣が放たれているということに驚きを隠せない二人を置いて、得心がいったように話すリィン。何当たり前のことを言っているのかとスヴェル。
少し満足気に、ミハイル教官は話を続ける。
「フッ、話が早くて助かる。と言っても、かつて君がいた《VII組》とは別物と思うことだ。教官である君自身が率いることで、目的を達成する特務小隊。そういった表現が妥当だろう」
「なるほど・・・・・・それで」
銀髪の女子の方に視線を向けるリィンだが、プイッとそっぽを向かれ。
まるで異議ありッ!といった感じで、ピンク髪の女子が苦言を呈した。
「ちょ、ちょっと待ってください!黙って付いてきたら、勝手なことをペラペラと・・・・・・そんなことを・・・・・・ううん、こんなクラスに所属するなんで一言も聞いていませんよ!?」
「適性と選抜の結果だ。クロフォード候補生。不満ならば荷物をまとめて、軍警学校に戻っても構わんが?」
「くっ・・・・・・」
不満は大アリ、しかし逆らう訳にもいかず。渋々と彼女は引き下がる。
「・・・・・・納得はしていませんが、状況は理解しました。それで、自分たちはどうすれば?」
「ああ───シュバルツァー教官以下5名は、小要塞内部に入りしばし待機」
そう言うとミハイル教官は、4種の鮮やかな球体をリィンに渡す。
「その間、各自情報交換と、シュバルツァー教官には候補生にARCUSIIの指南をしてもらいたい」
「了解しました」
「フン、これでようやく稼働テストが出来るか。グズグズするな、弟子候補!10分で準備してもらうぞ!」
「は、はいっ!」
シュミット博士から指示を出された金髪の少女。元気よく返事をする姿を見ながら、ミハイル教官を残しアインヘル小要塞に足を踏み入れた。
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───小要塞内部
「機械仕掛けの訓練施設・・・・・・博士ならではといった感じだな。───で、概要についてどこまで知っているんだ?」
辺りを見回し、設備から博士らしさを感じながら、リィンは隣の少女にジト目で問いかける。
尋ねられた少女は、少しだけ首を横に振った。
「───詳しくは何も。地上は一辺50アージュの立方体、地下は拡張中という事くらいです」
「へ・・・・・・」
「ふむ、よく知ってるな」
「・・・・・・知り合いですか?」
「まあ、そうだな。こんな場所で会うなんてさすがに想定外だったが。───それはともかく」
スヴェルたちの方を向いたリィンは、情報交換を始めることにした。
「“準備”が整うまでの間、互いに自己紹介をしておこう。申し訳ないが、到着したばかりで君たち3人のことは知らなくてね。俺は───」
「フン・・・・・・名乗る必要なんてないでしょう?」
どこか棘のある言い方で、ピンク髪の少女がリィンの言葉を遮る。
「《灰色の騎士》リィン・シュバルツァー。学生の身でありながら、1年半前にあった帝国の内戦を終結させ、クロスベル戦役でも大活躍した若き英雄。帝国どころかクロスベルでも知らない人はいないくらいの有名人じゃないですか」
「・・・・・・」
「補足すると、その後も在学しながら帝国各地の事件や変事を解決し・・・・・・昨年10月の《補北方戦役》ではオーレリア・ウォレス両将に協力する形で、ノーザンブリア併合に貢献したらしい」
「そ、そうなの!?オーレリアってさっきの・・・・・・」
「どちらも人間の領域を踏み越えたような存在だ、単独で軍を薙ぎ払えるほどのな。渾名まで付いている」
「え、あの人ってそんなに凄いんだ・・・ていうか、ノーザンブリア併合に貢献したって・・・・・・!」
挙げられる功績を聞いて、逆に怒りを瞳に宿す少女。静観していた銀髪の少女が、少し不満そうに口を挟む。
「・・・・・・誤情報ですね。実際には───」
「いや、よく知ってるな。英雄なんて過ぎた呼び名だが。それでも、改めて名乗らせてくれ」
それを更にリィンが遮り、話を修正する。
「リィン・シュバルツァー。トールズ士官学院・本校出身だ。先月、卒業したばかりでここ第II分校の新米教官として本日赴任した。武術・機甲兵教練などを担当、座学は歴史学を教えることになる。《VII組・特務科》の担当教官を務めることになるらしいからよろしく頼む」
「っ・・・・・・」
「───では、自分も」
次に話始めたのは、蒼髪の男子。
「クルト・ヴァンダール。帝都ヘイムダルの出身です。シュバルツァー教官のことは一応、噂以外にも耳にしています」
「ヴァンダール───そうだったのか。すると、ゼクス将軍や、ミュラー中佐の・・・・・・?」
ヴァンダールの名を聞いて、リィンは少し驚きながら尋ねた。
「ミュラーは自分の兄、ゼクスは叔父にあたります。まあ、髪の色も含めて全然似ていないでしょうが」
「それは・・・・・・」
どこか自棄を起こしたような言い方をするクルトに、リィンは言葉を詰まらせた。自分の知る二人のヴァンダールとは、髪色も体格も全く似ていないからだ。
「───それはともかく、その眼鏡は伊達ですか?あまり似合っていないので外したほうがいいと思いますよ」
「うっ・・・・・・」
「ぷっ・・・・・・あはは・・・・・・!」
「まあ、それなりに需要はありそうですが」
「・・・なるほど、確かに需要はありそうだな。似合っていないのは間違いないが」
「・・・・・・はあ、似合ってないのは自覚してるから勘弁してくれ。よろしく、クルト。───それじゃあ続けて頼む」
「ぐっ・・・・・・ああもう。分かりました!」
何故かこちらもヤケクソに言う。一体なにがあったのか。
「ユウナ・クロフォード。クロスベル警察学校の出身です。正直、よろしくしたくないけど・・・・・・そうも行かないのでよろしく!」
「クロスベル出身か・・・・・・なるほど。ちなみに警察学校というのは、クロスベル軍警学校の事だよな?」
「併合前は警察学校でした!それを帝国が勝手に変えて・・・・・・それとも正式名称以外は使うなって言うんですか!?」
自分の知識と少し違うユウナの出身が気になり訊ねたリィンだったが、怒りながら返されてしまった。
クロスベルに思い入れのある人にからすれば、侵略者になる帝国人に勝手に組織の名を変えられるだけでも琴線に触るのだろう。
「いや、他意はない。悪い、無神経だったようだ」
「っ・・・・・・別に。あたしも言い過ぎました。でも───納得はできません」
「ああ、だろうな」
「・・・・・・?」
「では、次は私が」
二人のやりとりに違和感を覚えたクルトをスルーし、銀髪の少女が自己紹介を始める。
「アルティナ・オライオン、帝国軍情報局の所属でした」
「・・・・・・!?」
「へ・・・・・・」
「・・・それ、サラッと明かしていい事じゃないと思うぞ」
(あっさり明かすのか・・・・・・)
いきなり衝撃的なカミングアウトに、二人はフリーズ。スヴェルとリィンはそれでいいのか、と。自己紹介のついでに明かしていいほど軽い情報ではないのだ。
「一応、ここに入学した時点で所属を外れた事になっています。どうかお気になさらず」
「・・・・・・聞き捨てならないことを聞いた気がするんだが」
「情報局って、噂に聞いた・・・・・・って、それより“事になってる”って何よ!?」」
(
「失礼、噛みました」
「素なのかわざとなのか判別がつかんな、これ」
(ハハ・・・・・・相変わらずだな)
アルティナの性格を知らない3人からすると、機密性の高そうな情報をあっさり明かすその言動には不安がある。実際公にすることの出来ない情報もかなりあるのだが。
一応自己紹介が終わったと判断して、最後にスヴェルが話始めた。
「───じゃあ、最後に俺が」
「・・・・・・その前に、そのフードを取ってくれないか?入学式の時から被りっぱなしで顔が見えないんだ」
「あ、忘れてた」
しまったしまったと心の中で反省。小要塞に入った時点で取るべきだったのかもしれない。
パサリと、フードを取る。
「・・・・・・え」
その顔を見て、ユウナが驚きの声を上げる。
金髪に薄い紫の目。見覚えがある、なんてものではなかった。
「───スヴェル・ワグナリア。クロスベル出身だ。と言っても、ここ数ヶ月の間他所へ行っていたわけなんだが」
苦笑気味に笑い、ユウナの方を向いた。そして、放心するユウナの頭に手を置き、ゆっくりと撫でる。
「・・・・・・久しぶりだな、ユウナ。今まで連絡もせずにいてすまなかった・・・・・・数ヶ月だが、立派になったものだ」
「え」
「・・・知り合い、なのか」
「そのようですね」
ふむ、と考え込む3人。
暫く放心していたユウナだったが、頭に置かれた手が動いているのを感じ、再起動。そして抱きついた。
「・・・ベル兄っ!」
「おっと」
タックルをかます勢いで抱きついたユウナを受け止め、スヴェルは笑みを浮かべる。こういうところは数ヶ月経っても変わらないか、と。
当のユウナは、スヴェルの胸に顔を埋め泣きながら話し出した。
「・・・・・・心配、したんだから!・・・・・・家に行ったら留守になってるし、連絡は一切取れないし・・・なんで連絡くれなかったの!?」
「・・・・・・すまない。急な用事だった上に、行き先で通信機器が壊れてしまってな。連絡手段のない場所だったこともあって声も聞かせてやれなかった。埋め合わせならこれから、必ずしよう」
「・・・・・・うんっ!」
「(リィン教官、凄く入りづらい空間が目の前で形成されているのですが)」
「(あれ、止めないと進まないのでは?)」
「(あ、ああ、そうだな・・・水を差すのは申し訳ないが)」
目の前で発生する2人だけの(雰囲気的な)閉鎖空間に、リィンたち3人は居た堪れない気持ちになりながら、これ以上は時間がまずいと判断した。具体的にはシュミット博士のオーラが壁を貫いて管制室から「早くしろ」と直接言われているような幻聴が聞こえたからである。
「その、2人とも。水を差すようで悪いんだが時間もないことだし、そろそろ進めたいんだけど」
「・・・・・・あ」
「・・・・・・コホン。ユウナ、話はまた後だ。オリエンテーションを優先しよう」
「うん、分かった」
顔を赤くしながらゆっくりと名残惜しそうにスヴェルからユウナが離れる。兄離れはまだまだ先だな、とスヴェルは少しだけ嬉しそうに微笑んだ。
その時、スピーカー音が小要塞の一階に鳴り響いた。
「お、お待たせしました!アインヘル訓練要塞、Lv0セッティング完了です!《ARCUSll》の準備がまだならお願いします!」
「これって、さっきの金髪の・・・・・・」
「僕たちと同じ新入生だった筈だが・・・・・・」
スピーカーから聞こえたのはシュミット博士に連れられた金髪の少女の声。博士の言った通り、オペレーションを任せられているらしい。
「了解だ、少し待ってくれ!」
「さて───いきなりになるが、4人とも、これを持っているか?」
準備に取り掛かったリィンが見せたのは、小型の導力端末。表面にはトールズ士官学院の紋章である《有角の若獅子》が施されている。
「ええ、それなら───」
「送られてきたヤツね。まだ起動はしてないけど・・・・・・」
懐から取り出し、実際に起動させる。それを見て、リィンは説明を始めた。
「戦術オーブメント───所持者と連動することによって様々な機能を発揮する個人端末だ。
「
「
「正確には、帝国ラインフォルト社とエプスタイン財団の共同開発ですね。いよいよ実践配備ですか」
「見た目は何ら変わりないように見えるが」
「ああ、新機能についてはおいおい説明するとして───ユウナ、クルト、アルティナ。これを受け取ってくれ」
そう言って3人に渡されたのは先程ミハイル教官から預けられた球体。
「これは・・・・・・」
「エニグマにもあった・・・・・・たしか“マスタークォーツ”でしたっけ」
「ああ、基本概念は同じはずだ。開いたスロット盤の中央に嵌められるからセットしてくれ・・・・・・ところでスヴェル」
一つ気掛かりになっていることがあったリィンは、その理由であるスヴェルに直接訊ねてみることにした。
「ん?どうした、リィン教官」
「君はマスタークォーツを既に持っているんじゃないか?他の戦術オーブメントも使ったことがありそうだし」
「そうだな。持ってるぞ、数種類」
「え、なにどういうこと!?ベル兄はもう持ってるの!?」
「ああ。今はあっちにあるから、1つしか持ってないけどな。気にするな、戦力的には何ら変わりはしないさ」
「なら問題なさそうだな。とりあえずセットして、確かめて見てくれ」
「了解だ」
それぞれマスタークォーツをスロット盤にセットする。すると、身体が淡く光った。
「わわっ・・・・・・」
「これが・・・」
「マスタークォーツが装着されることで、ARCUSllが所持者と同期した。これで身体能力も強化され、アーツも使えるようになったはずだ」
「・・・なるほど」
「な、なんかエニグマとは結構仕様が違うような・・・・・・」
「エニグマから更に進んだオーブメントだ。利便性はかなり向上しているだろうな」
『───フン、準備は済んだか』
ユウナたちがARCUSの性能に驚いているところに、シュミット博士がアナウンスを入れた。
そういえば待たせたままだったな、と思い出す。
「シュミット博士。ええ、いつでも行けます」
『ならばとっとと始めるぞ。Lv0のスタート地点はB1、地上に辿り着けばクリアとする』
「B1・・・・・・ということは地下から始まるのか」
(・・・ん?地下?いやでもまさか)
『は、博士・・・・・・?その赤いレバーって・・・・・・ダ、ダメですよ〜!そんなのいきなり使ったら!』
『ええい、ラッセルの孫のくせに常識人ぶるんじゃない!』
「ラッセル家ってだけで酷い言われようだな・・・」
「?ベル兄はどういう意味か分かるの?」
「ああ、まあ、な」
「?」
濁すような返事をするスヴェルに、ユウナは不思議がりながらも追求はしなかった。スヴェルの反応でなんとなく後で分かる気がしたのだ。
『───それでは見せてもらうぞ。《Vll組・特務科》とやら。この試験区画を、基準点以上でクリアできるかどうかを───!』
(───!間違いない!)
「みんな、足元に気をつけろ!」
リィンがそう言った瞬間、5人の立っていた床が傾き、滑り落とされるような状態になった。
「え───」
「なっ・・・・・・!?」
予想外の事態に反応できず、ユウナとクルトはそのまま床を滑り落ちていった。リィンは床で止まりながら、二人に向けて指示を出す。
「バランスを取り戻して、落下後の受身を取れ!二人は───」
「よっと」
どこからかアンカーワイヤーを取り出したスヴェルは、天井に突き刺して宙吊りに。
「クラウ=ソラス───」
アルティナはどこからか“黒い傀儡”を出現させ、それに乗ることで落下を防いだ。
手慣れた様子で態勢を整える二人に安堵しながら、リィンは床を滑ることにした。
「あのままじゃ二人とも受身は取れなさそうだな・・・仕方ない。今回ばかりは手伝ってやるとしよう」
「・・・・・・?スヴェルさん?」
「アルティナ、悪いが先に行くぞ」
直後、ワイヤーを巻き上げ天井を蹴ると同時にアンカーを強引に引き抜いたスヴェルは、リィンを追い抜いて地下へと降下していった。
「・・・・・・不思議なことをする人は他にもいるのですね」
割と異様な光景を目にしたアルティナだったが、こんなのは日常茶飯事だったらしい。特に反応することもなく、目を丸くするリィンと共に下層へ移動するのだった。