戦車道の世界に魔王降臨   作:そばもんMK-Ⅱ

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本当にありがとうございます。

~これまでのあらすじ~

――大好きだ、みほ。私はお前を、愛しているよ――



第5話 「想いの勝利」

 「――嬉しい」

 

こんなにも楽しく戦車に乗ることが出来たのは、何時以来だろう。

 

心から信じあえる仲間がいて。

 

心のまま助け合える仲間がいて。

 

大好きなお姉ちゃんも一緒で。

 

胸を張って、戦える。

 

西住みほは優しい少女だ。例えそれがどれだけ正しい(・・・)道であっても、どれだけ楽な道であっても。

 

それが大切な誰かの痛みを伴うものならば、彼女はその道を選ばない。

 

迷う友達(だれか)がいるならば、一緒に迷おう。

 

泣いている友達(だれか)がいるならば、ともに泣こう。

 

そしてその手を握ってあげよう。

 

辛いとき、苦しいとき、悲しいときに。

 

友達として、そっと優しく寄り添って、そして一緒にそれを乗り越える。そんな人間になりたいと。

 

彼女は願い、そしてその道を選んだのだ。

 

そう、その選択を。その勇気を。

 

「私は尊敬するよ、みほ」

 

西住まほは何より眩しいと、そう感じるのだ。

 

『ふぇ!?お、お姉ちゃん!?』

 

ふと発せられた自分の言葉に、無線の向こうで妹が慌てているのが手に取るように分かる。

 

みほはもともと優しい子だ。

 

だからこそあまり強く出れないところもあって、そしてそのくせ悪いことは誰にも相談せずに抱え込んでいってしまう。

 

自身への称賛は周囲に譲り、周囲への中傷は自分が引き受ける。

 

それはなるほど、確かに立派な心掛けで、あの子らしいとは思うものの――

 

「聞こえなかったか?ならばもう一度、何度でも言ってやろう」

 

「私はおまえを、心の底から尊敬する。嘘じゃない。おまえの優しさに、おまえの勇気に。私は憧れているんだよ」

 

――それでも、自分をもう少し誇りに思ってほしいと、姉としては思うところがあるのだ。

 

「おまえがいなければ、私は多分ここにいない」

 

『――え?』

 

「悪い意味じゃない。私は今、おまえと共にあることを、誇りに思っている」

 

(みほ)に恥じない、格好いい姉であろうと頑張った幼少期も。

 

(みほ)を守ろうと、躍起になっていたこれまでの黒森峰でも。

 

そして、真に(みほ)と一緒に戦うと決めた、今この時も。

 

私の視線の先には、いつだってみほがいた。

 

「感謝しているよ、みほ」

 

規律を破ってでも、大切な仲間を助けた。

 

自分の心に、嘘をつかなかった。

 

何時だって、みほは私にできないことをやってのける。それが羨ましくて、眩しくて、そして何より誇らしいのだ。

 

『――私だって、そうだよ』

 

『お姉ちゃんは強くて、格好良くて、そして優しくて。私、いつだってお姉ちゃんみたいになりたいって、そう思ってたんだ』

 

――だから、返ってきたみほの言葉に、私は言葉を失っていた。

 

「……そう、か」

 

こんな情けない私のことを、おまえはそんなにも褒めてくれるのか。

 

嬉しいな、本当に。

 

さっき泣いたばかりなのに、また泣けてきたじゃないか。

 

「……私なんかで、本当にいいのか?」

 

『もう……。お姉ちゃん、それ悪い癖だよ?』

 

「え?」

 

『自分のことはいつも後回しで、いつも謙遜ばっかりで。そのくせ悪いことは全部一人で抱え込んじゃう。私が悪い、みんなは悪くない。それじゃ、いつか壊れちゃうよ』

 

待て、待ってくれ。それはみほ、おまえのことじゃないか。

 

そんなおまえだからこそ、私はおまえを守ろうと――

 

『似てるよね、私たち。私だって、お姉ちゃんと同じだもの』

 

『全部全部、私が頑張らないとって、勝手に背負い込んでた。私が守るんだって、意地張っていたんだよ』

 

「――」

 

ああ、そうか。

 

また、おまえは私の先にいたんだな。

 

馬鹿で意地っ張りな私と違って、優しいおまえだから気付けたんだな。

 

『でも、それじゃダメなんだ。だって、人には限界があるから』

 

全てを背負って、たった一人でどこまでも進んでいく。そんなことが出来る人間はまず有り得ない。

 

少なくとも、私にそんなことは出来ないのだ。

 

「だから――助け合って生きていく。当たり前のことだったな」

 

そう。それは本当に当たり前で簡単で、しかしそれゆえに誰もが言いよどむ言葉。

 

辛いとき、苦しいとき、悲しいときに。

 

友達を、家族を頼るという、当たり前の選択。

 

「なあ、みほ――」

 

自分がこんな言葉を吐くのは、何時以来だろうか。

 

「私は、おまえを助けるから」

 

自分を縛って、縛って、いつの間にか自分さえ見失って。

 

そして挙句、妹やその友達に、自分の間抜けさを気づかされた。格好悪いと、本当にそう思うよ。

 

でも、やっと帰ってこれたんだ。

 

「だから、おまえが私を助けてくれ」

 

一緒に往けると、もう一度信じることが出来たんだ。それが嬉しくて仕方がないんだよ。

 

今ここに、少女を縛っていた鎖は砕け散った。

 

ここに、ついに比翼は完成する。

 

ならば、恐れるものなどありはしない。

 

『うん!じゃあお姉ちゃん、提案なんだけど――』

 

見せつけてやろう。そして高らかに宣言しよう。

 

これが私たちの見つけた、私たちの戦車道だ。

 

 

 

 

 

 「なによ……なんなのよこれは!?」

 

ふざけるな。一体なぜ私がこんな目に遭わなければならない?

 

西住まほの造反により、紅組は完全に指揮系統を喪失していた。今無様にも喚いているこの三年生が半ば強制的に戦術指揮を任されてはいるものの、そんな程度の覚悟と責任で、彼女たち(・・・・)の進撃を上回ることなど出来はしない。

 

『ちょっと、私たちはどうしたらいいのよ!?――あああっ!?』

 

基本の戦法は、従来通りの制圧前進。黒森峰最大の切り札であるVIII号戦車(マウス)すら白組に寝返っている時点で、戦いは既に掃討戦に入っているといってもよいだろう。

 

保有する車両の台数も、総火力も、そして結束力も、全てにおいて白組が勝っている。

 

それでも、伊達に三年間戦車道に身を投じていたわけではなく、練度のみはなんとか拮抗してはいるものの、それがなんだというのか。

 

戦車道において同程度の実力を持つ者同士が戦う場合、当たり前ではあるが勝敗を左右するのは装備の質と指揮官の実力、そして何よりその戦いに懸ける想いの強さである。

 

精神論じみてはくるが、それは人生のあらゆる局面で言えることだ。

 

例えば、スポーツの試合で”負けてもいい”と考えてプレーをする選手と、”勝つために全力を出す”と考えてプレーする選手。どちらがプレーに集中し、またどちらがより大きな成果を出せるか。

 

余程捻くれた考えや逆張りをしない限り、後者の方が良い結果が待っているだろうと答えるだろう。

 

ならばこの場において。

 

西住まほと西住みほの二人が最強となるのは自明の理だろう。

 

想いが違う。絆が違う。

 

圧倒的な火力に裏打ちされて、みほが遊撃の立場となり自由に動き回る。

 

相手の戦術を、配置を、行動を、まほが驚異的な精度で予測し、対応し、あるいは潰す。

 

そしてなにより、二人は互いのことを知り尽くしている。

 

みほは姉の指示の意図を最低限の言葉ですべて把握し、そして姉を最も効率的にサポートする。

 

まほはそんな妹の行動さえも全て理解し、敵味方全ての行動を完全に把握し支配する。

 

無論、彼女たち姉妹だけではない。逸見エリカが、赤星小梅が、白組の仲間たち一人一人が、己の果たすべき役目を理解している。

 

結果生じるのは、全員が十全の実力を発揮できる戦いだった。

 

邪道?異端?馬鹿なことを。

 

これこそが勝利への最短経路。

 

制圧前進、臨機応変。かつて盲いていた西住流(ヒカリ)の先に見つけた、比翼の西住流。

 

チーム全員の実力と個性を最大効率で発揮させることこそが最優先。

 

今回こそかつての黒森峰が得意としていた戦法とほぼ同じ、火力にものを言わせた短期決戦という戦法をとってはいるが、その意味に大きな差があるのは言うまでもないだろう。

 

「それが、最良の選択だと信じているから」

 

巧みに指示を飛ばしながら、まほはふと呟いていた。

 

かつて家訓に、流派のしきたりに従っていたころとは、同じ行動でもそれにつながる過程が違う。戦いにかける想いが違う。

 

自ら選んだ道を進むことが出来る。それが私は、たまらなく嬉しいのだ。

 

――そして、当たり前に強いということは、訪れる結果も当たり前のものということだ。

 

『――紅組、全車行動不能。よって、白組の勝利!』

 

審判を務めていた甘粕の声が響き渡る。

 

心からの称賛と歓喜に満ちたそれは、魔王が送る勇者への賛辞だった。

 

西住まほの寝返りから、僅か二十分。白組の被害はゼロ。

 

誰にも文句など言わせない。そう言わんばかりの完全勝利だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合を終えた格納庫。そこでは勝者であるみほたち白組が、歓喜とともに輪を作っていた。

 

輪の中心にいるのは、言わずもがな西住みほだ。

 

この場の誰よりも早く、己が勇気を示した誉れ高き勇者。

 

彼女を始めとして、それぞれが見せた勇気に。その輝きに。格納庫を訪れていた甘粕は見惚れていた。

 

素晴らしい。なんと眩しいのだろうか。

 

これこそ青春。これこそ友情。これこそ愛。

 

――ああ、永遠にこの輝きを見ていたい。もっと、もっと見てみたい。

 

ならばどうする?次は果たして、どのような試練が相応しいだろうか。

 

「……いや」

 

違う。そうではないだろう、甘粕正彦。

 

俺の試練で、あの輝きを壊す?先ほど見せたあの勇気を、ならばさらにそれを上回れと?

 

それはあまりに無粋というほかないだろう。

 

宿業を、あらゆる縛鎖を、彼女たちは乗り越えた。ならば齎されるべきは祝福であり、断じて裁きなどではないだろう。

 

「――なあおい、そうは思わんか、おまえたち」

 

ああ、そろそろ来ると思っていたよ。もとより俺がこの場に足を運んだのは、おまえたちに会っておきたかったからなのだからな。

 

「貴様……!」

 

顔を真っ赤にしながら、紅組のメンバー……西住みほが乗り越えるべき壁として魔王に利用された者たちが歩いてくる。

 

その数は二十はくだらない。

 

納得がいかない、馬鹿げている、おそらくはそんな理由だろうか。

 

「情けない。情けないぞおまえたち」

 

その様が、悲しくて悲しくて仕方がない。

 

周囲を囲まれ、浴びせられる罵詈雑言の数々に、しかし甘粕正彦は一切動じない。静かな、そして重い威圧とともに放たれた言葉が、周囲の三年生たちの口を止める。

 

「おまえたちが本当にその言葉を浴びせたい相手は、俺ではないだろう?彼女らが、西住みほが気に入らんのだろう?ならばなぜ、己の思いを彼女らにぶつけない?」

 

これまで散々、好きなように彼女を攻撃していたではないか。

 

その行動自体は決して褒められたものではなかろうと、気に食わないと心の底から思うならば、なぜその思いを直接ぶつけない?

 

「彼女に味方が現れたからか?なあおい、まさか殴り返される覚悟もなく殴っていたとは言わんよなあ?」

 

本当に気に食わないと、許せないと思っているならば、この程度の障害で足が止まるなど有り得ない。

 

「おまえたちの言葉には何の重みも熱も宿っておらん。なあ、それで一体何を為せるというのだ?」

 

多数派の意見に安易に同調し、道から外れた者を徹底的に攻撃しながら、しかしその言葉には己というものが存在しない。

 

「自分は守られていると、そう思っていたか?何をしても、それが正義のもとに行われるならば許されると?――阿呆が」

 

そんな脳に蛆の湧いた無知蒙昧の輩を、甘粕正彦は何より嫌悪する。

 

「見ていられんよ。ああ、人とはそんな堕落した存在ではないだろう」

 

ああ、出来ることなら今すぐにでも俺自ら喝を入れてやりたいよ。

 

だが、違う。それ(・・)をするのは俺ではない。

 

「――あら、甘粕さん。それに他のみなさんも。これは一体どういう状況でしょうか?」

 

ゆえに、輪を離れて声をかけてきた坂井一美の姿を目にした甘粕は、静かに笑みを浮かべた。

 

「なに、彼女らがおまえたちに話があるというのでな。ここまで案内したというわけだよ。おまえは彼女らの傍にいなくても構わんのか?」

 

その言葉はほとんどが出まかせだが、そこに含められた意味は明白だろう。

 

「ええ。私には、やらなければならないことがまだ残っていますから。……可愛い後輩のために動くのが、先輩というものでしょう?」

 

坂井はそれを理解した。なるほど荒療治だが、同時にもっとも手っ取り早いのも確かだろう。

 

「それで、みなさんは西住さんに会いに来たと。ええ構いませんとも。では、どうぞ中へお入りください」

 

つまりはこれが、彼女たちへ課される試練。

 

安易な逃避も、鞍替えも許されない。

 

逃げることなど許さない。

 

「その果てに、おまえたちの覚悟を見ることが出来ると信じているから」

 

有無を言わせぬ甘粕と坂井の言葉に、紅組の面々は格納庫の中へ、渦中の少女のもとへと導かれる。

 

「では、存分に尻を蹴り上げてやるがいい。俺はそれを見届けよう」

 

「いえ、私は信じています。既に答えは見えているのですから、きっとおのずからその道を選んでくれますよ」

 

「くはっ――」

 

返ってきた言葉に、甘粕は思わず面食らい、そして笑う。

 

なるほど、(試練)は不要と。つまりそう言いたいのだろう?

 

いいぞいいぞ、思う存分語り合うがいい。その果てに彼女らも、必ずや飛び立てると信じているのだ。

 

口を挟むつもりだったが、委細承知した。俺はただ、おまえたちの行く末を見届けよう。

 

甘粕正彦は魔王である。ゆえに、勇者の勇気に敬意を表す。

 

古今、魔王とはそういうものなのだから。

 

 

 

 




【朗報】カッス、我慢する

決め手になったのはみほたちへの敬意と、坂井先輩の言葉でした。魔王甘粕であれば、間違いなくこの選択をすることはできなかったでしょう。

よっしーの言葉は今でもカッスの胸に刻まれていると、それを示せたならば幸いです(今回の話に自信がない)

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