戦車道の世界に魔王降臨 作:そばもんMK-Ⅱ
今回、早速甘粕がちょっとやらかします。BGMは「PARAISO」あたりですかね…。
~これまでのあらすじ~
カッス「我慢しきれなかった(予想通り)」
西住みほが目を覚ましたとき、世界は異形の様相を呈していた。
「え……?」
まず感じたのは、肌を打つ冷たい雨の感触。
少し離れたところからは、轟轟と流れる水の音。
時折雷鳴がとどろき、強い風が森の木々を揺らしている。
どうやら自分はいつものように戦車から体を出しているようだが、辺りを見渡してみても、まるで酩酊しているかのように、事態の認識が遅々として進まない。
先ほどまで自分たちは、確か格納庫にいたはずだ。
それが、目を覚ましてみれば、なぜか自分の車両である
尋常ではない何かが起きていることだけは理解できたが、具体的なことは何一つとして分からなかった。
「なに……これ……?」
ここが明らかに黒森峰の艦の上でないことだけはすぐに分かった。
そして、西住みほには……否、
理解はできているが、だからこそ理解できない。
「なんで……これ、決勝の……?」
そう。ここは忘れもしない、先の全国大会の決勝戦を戦った舞台。
一体、何が起きた?
抗えない強烈な眠気と共に意識を失い、目覚めてみればこの状況。
そう、これではまるで――
「ねえ、みほちゃん……」
同じく意識を取り戻した砲撃手の女子が、みほに震える声で尋ねていた。どうやらこの戦車には、
どうやら全員、無事なようだ。意識を取り戻した彼女らを見て、しかし全く安堵は出来ない。
だって、これは絶対におかしい。
こんな非現実的なこと、あるわけがない。
「これ、夢だよね?そうなんだよね?」
夢。そう、夢だ。自分はきっと、悪い夢を見ているのだと。
そう、思った刹那。
「――っ!全速後退!急いでっ!!」
反射、直感、悪寒、警鐘。
理屈ではない本能と勘が、みほを動かしていた。
叫びとともに操縦手の肩を蹴り、この場から離れさせる。普段ならば決してしないような荒っぽい指示だったが、それでも事の異常性を目の当たりにしていたからか、操縦手の女子は文句など言わず、すぐさまそれに従う。
幸いにもすぐに動かせる状態だったため、みほの指示通り即座に動くことが出来た。
そしてそれが、結果的に救いとなった。
「く、うぅ、っ!?」
轟音と爆発音とともに、先ほど自分たちがいた場所に
着弾地点は濛々と昇る爆炎と土煙に包まれ、もはやその様子を窺い知ることは出来なかった。
しかも、それで終わりではない。
「また!?」
二発目、三発目、四発目に五発目。彼方から響いてくる馬鹿げた音量の発射音。
「急いで!森の中に!」
駄目だ、駄目だ、
あれを喰らえばどうなるか分からない。いや、違う。
どうなるかなど馬鹿でも想像が出来る。
「一体、何が……」
弾着の衝撃が地を揺らす中、なおも続く発射音の方向を、まだ開けている場所にいるうちに少しでも確認しておく。異常事態ではあるが、いや、だからこそというべきだろうか。
西住みほは常日頃よりも更にその能力を十全に、十全以上に発揮していた。
それは直感であり、それは戦術的観察眼であり、そしてそれゆえに、彼女の行動は
「な……っ」
そして、
『――ほ、――――!――じか――――ろ!』
「っ、お姉ちゃん!?」
ノイズまじりの通信が、呆然としていたみほの意識を引き戻す。
「お姉ちゃん!大丈夫!?」
『みほ!よかった、お互い無事なようだな。安心した――などと言える状況ではないか』
無線越しに聞こえてくる姉の声に、ようやっと少し息をつくことができた。しかし、安堵ばかりしてはいられない。
「とにかく、一度合流しないと!お姉ちゃん、今どこにいるの?」
互いの現在位置を交換し、そうして自分たちが現在同じ森の中にいることに気付いた。
言うまでもないが、二人は地図など持っていない。だが、ここはあの日の決勝の舞台となった場所だ。緊急時の合流地点から要注意箇所、敵手の潜伏予想地点まで全て、彼女らは頭の中に叩き込んでいる。
その程度出来なければ、黒森峰のメンバーにはなれないのだ。
そう。だからこそ、逸見エリカも赤星小梅も、先ほどみほを糾弾していた三年生ですらも、この異常事態の中でそれでも動くことが出来た。
それはひとえに、西住まほの功績だろう。彼女は状況の異常性に気付くやいなや、混乱する部隊を落ち着かせるために指揮を執り続けていたのだ。
その気構えと胆力は、間違いなく賞賛に値するだろう。
結果的に、この混乱の中全二十両が合流を果たすという最高の結果を齎したのだから。
「――さて。まずは皆の無事を喜ぼう」
集まった面々を見渡しながら、まほは言葉を紡ぐ。その声こそ普段通り凛としているものの、肩は震え、視線は泳いでいる。
どれだけ気丈であろうと、どれほどの才を備えていようと、彼女とて一人の少女なのだ。
「だが、状況は依然不明のままだ。なぜ我々がここにいるのか、我々を攻撃してくる者らは何者なのか。我々が知り得ている情報は非常に少ない。そこで、各員がこれまで目にしたモノをこの場で余さず伝えてくれ。どんな些細なものでも構わん。今は少しでも情報が欲しい」
そうして始まる情報共有。もはやこの状況を夢だと笑うものなど存在しなかった。
齎される情報の数々を整理しながら、まほは徐々に状況を解き明かしてゆく。
「……その時、追ってきた車両は?」
「
森へ逃げ込むまでの間、敵戦車の攻撃を受けたと話す車両の乗員がいた。しかもその戦車は、かつてこの場所で戦った相手であるプラウダ高校のものであったという。
「私たちは最初エリアの端の端にいたんだけど、
決勝の舞台で試合エリアとして指定された範囲。そこからどうやっても外に行けないと話す者がいた。その人物は先ほどみほを裏切った三年生だったが、今はそんなことなど気にしていても仕方がない。
聞けば聞くほど、状況の異常さが露わになっていく。
「隊長……これは、一体なんなんですか……?」
赤星小梅が震える声で、泣きそうになりながらそう尋ねてきた。口には出さないが、それはこの場の全員が抱いている疑問であり、恐怖だった。
「……分からん。だが、一つだけ言えることは」
まほとてそれは同じだ。この場にいる者は全て平和な世界を生きる少女に過ぎない。冗談のような非現実的現実の中、恐怖に慄かないものなど存在しない。
「ここは既に、私たちの知る世界ではない。……これは決して、夢ではない。私たちが見ているのは、紛れもない現実だ」
何故って、これはあまりにも生々しすぎる。思考はクリアで、夢の中にいるような浮遊感など微塵も存在しない。
体に打ち付けられる雨が、冷たい。
雷の音が、砲撃の音が、鉄と油の匂いが、仲間たちの言葉が。
否が応でも、これが紛れもない現実であることを伝えてくる。
「……整理してみよう。確認された敵車両は今のところ合計七両。T-34/85、T-34/76、そして
そう。仔細は不明だが、どうやら敵手の正体はかつて決勝で、この舞台で戦った相手であるプラウダ高校の者らであるようだ。
「なんでプラウダが……?」
「それも不明だ。そもそもこの状況だ、奴らが本当にプラウダの面々なのかすら怪しい。……いや、それどころか」
――その先を言おうとして、まほはしかし言葉に出せなかった。
そう。そもそもこのような状況で襲ってくる相手が、
そんなことを言ってしまえば、きっとさらに恐怖が深まってしまうだけだから。
――そもそも、私たちは何故こんなところにいる?
ここに来る前、確か私たちは格納庫で口論をしていて。
抗えない眠気とともに意識が飛んで。
気付けばここにいた。
「――待て」
そうだ。私はその時、何を見た?
あの場にいた全員が、本当に全員この場所に揃っているか?
「あの……お姉ちゃん」
そこで、手を挙げる妹の姿が目に入った。何か新たな情報があるのか、とまほは発言を促す。
「ああ、どうしたみほ?そうだ、おまえたちからはまだ何も聞いていなかったな。何でもいい、何か見たのならば教えてくれ」
その言葉に、みほは頷いて。
「私、見たの。こっちに砲撃してくる
「敵の戦車か?車種は?」
「ううん、違う。
そして、あまりにも出鱈目な事実を明かす。
「――カール自走臼砲。しかも明らかに、あのカールは異常だった」
「一分も経たないうちに行われた砲撃は、合計五発。カールは一両しかないのに、明らかに異常な頻度で砲撃が続いたの」
「――」
まほが、そしてのみならず話を聞いていたこの場の全員が絶句する。
冗談を、馬鹿なことを言うのはやめろと、咎める者はいなかった。
――開発国、ナチス・ドイツ。
――製造期間、1940年から1942年。
――配備期間、1941年から1945年。
――主砲、8.45口径600mm砲。
ラインメタル社が開発し、独ソ戦においてはセヴァストポリ要塞包囲戦やブレスト・リトフスク要塞攻略、あるいはレニングラードなどにおいて実戦投入された、史上最大の自走砲。
堅牢な要塞、城塞を文字通り
そんな化物が、敵手には存在するのだ。
加えて、みほの話によれば、たった一両のカールから砲撃が
カールの発射速度は、おおよそ10分間に1発。しかしこの場においてはその五十倍、最低でも10分で50発の頻度で砲撃が飛んでくる。
悪夢としか言いようがないだろう。
「あと……あともう一つ。私、見たよ」
「……なんだ」
まだ、まだあるのか。これ以上知りたくない、と軋む心が悲鳴を上げた。
しかし、まほは聞かねばならない。それが指揮官たる自分の役目なのだ。
「カールの前にね、あの人がいたんだ。甘粕さんが、笑いながら私を見ていたんだ」
「――――」
ああ、やっぱり。
どこか他人事のように、西住まほは先の予感通りの言葉を受け止めていた。
そう。あの場にいた者たちの中で、唯一彼のみがこの場にいない。
思い返す。今までのことを全て。
――あの決勝の後、私たちのもとに彼は来た。
――その後、私は夢の中で彼と出会った。
――彼は、
――最後に見た彼が、どうしようもなく恐ろしかった。
「――」
言葉が出ない。そんなことはありえないと当たり前の考えが浮かぶが、しかし本能でそれが否定できない。
――彼が、甘粕正彦こそが、この状況を作り出したとすれば。
全ての辻褄があってしまうのだ。
――その通り。
「……っ!?」
彼の声が聞こえた。視線を感じた。その一つ一つに込められた圧、圧、圧。
足がすくむ。怖気が走る。歯はがちがちと音を立て、脂汗が滲んでくる。
――おまえたちの
怖い。ただひたすらにその存在が巨大すぎる。
――
心からの激励と叱咤が終わり、圧が消えてからも、私たちはしばらく動くことすら出来なかった。
魔王なりの激励を終え、期待で胸が張り裂けそうになるのを堪えながら、甘粕は背後に目をやった。
――カール自走臼砲・Ⅶ号試作車輌「フェンリル」。
自身が創りだした
甘粕正彦が振るう夢の力は、分類すれば五つ、その五つの中でさらに二つの、合計十種の類型に分けることが出来る。
――身体能力を強化する
――体力や耐久面を強化する
――イメージを遠距離に飛ばす
――他者や場の状況を解析・解体する
――そして、残る最後の一つ。甘粕正彦がこの場において真っ先に用いた夢。
即ち、イメージそのものを具現化する
先の全国大会の舞台を、当時の天候まで合わせて再現したのは創法の界。
そして、フェンリルを創造したのは創法の形。
余談ではあるが、プラウダ高校の戦車を操っているのは、かつてこの決勝の舞台を戦った少女たちを再現した、いわゆるエキストラである。
明確な自我を有し、自ら考え、そして動くがしかし彼女たちは決して実在の人間ではない。
当の本人たちはそもそも邯鄲に入っていないが、それでも
身近なもので例えるならば、映写機が映し出す映像といったところであるが、しかしこの場においては紛れもなく存在するのだ。
よって攻撃されれば当然被害を受ける。この場において黒森峰に逃げ場はない。
話を戻そう。夢の力によって創形されたカールは、現実と変わらぬ威力を有しながら、しかし甘粕正彦の夢によって、その一切の弱点を埋められている。
移動速度が遅いならば、
創り出される砲弾の数に限りなどない。
次弾装填に時間がかかるならば、最初から砲弾を装填完了時の位置に創りだせばいい。
そして、未だ見せてはいないが、例えば砲身そのものを捻じ曲げて砲撃することすら可能だ。夢においては、物理法則すらも操作される。
他にも、他にも、他にも――。
しかし、これはあくまでも試練なのだ。
これだけのことを為しながら、甘粕正彦は黒森峰の面々を心の底から応援している。
――乗り越えろ、勇気を出せ、おまえたちにならばそれが出来る。
そう、信じているのだ。
「――来い」
閉じていた目を開く。その表情は心からの喜悦と期待に満ちており、そしてまた同時に破壊を齎すものとしての凶相であった。
全ては人の輝きを目にするため。おまえたちが輝ける未来を選べるように。
試練はまだ、始まったばかりだ。
カールと聞くとなんだか別のウザい水銀をを想像してしまうあなたは、紛れもなく獣の爪牙です。
今回甘粕が創りだした「フェンリル」は、戦後米軍に接収され、解体されたとされています。全七両のうち最後の車両であり、試作のまま終わった車両です。そして、カッスの夢によっていろいろと滅茶苦茶なことをやっていますね(白目)
弾数無限、発射間隔超短縮、移動問題の克服。馬鹿げた兵器創造やっててもまだ序からせいぜい詠の段でしかないとかやっぱ頭おかしい。