その鶴は必ず舞い戻る   作:零ミア.exe

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その鶴は必ず舞い戻る

「翔鶴」
「はい、なんでしょう?」
「翔鶴は、俺を恨んでいるか?」



 ◇◆◇◆◇◆◇



 時刻は夜の十一時頃。
 鎮守府はけたたましい金属製の音に包まれていた。

『総員、出撃準備! 敵襲だ!』

 その鎮守府の提督は建物内の放送機材を用いて、切羽詰まった放送をしていた。

『準備が完了した艦隊から随時出撃! 布団から起きない者はそっとしておけ! 俺が回収する! 繰り返す──』

 繰り返しの放送の時には冷静になったのか、先ほどよりも落ち着いた放送が流れた。



 ◇◆◇ ◇◆◇



「あと起きてないのは……っと」

 俺は先程の放送の後、出撃した艦娘のログと着任している艦娘のデータを照らし合わせ、寮内を駆けていた。
 幸いにも起きなかった艦娘は少なく、数にして二人だけだった。

「望月は回収したから、あとは翔鶴だな」

 ただ、そのうちの一人が主力艦なのがあれだが。しかも彼女はこの鎮守府で唯一の正規空母。起きてもらわないと困るが。
 それでも、時は一刻を争っている。
 俺はノックなしで翔鶴の部屋のドアを開けた。

「翔鶴! 起きろ! 敵襲だぞ!」

 一応留まって声をかけてみるが、反応がない。
 埒が明かないと判断した俺は、ずかずかと翔鶴の部屋へと入っていった。
 艦娘寮の部屋はワンルームになっているので、あっさりと翔鶴を見つけることが出来た。

「おい、翔鶴。起きろ」
「…………」

 まるで起きる気配がない。これでは、ここが襲撃された時に巻き込まれてしまう。今は迎撃に向かっている他の娘らが抑えてくれているが、いつこっちに砲撃されるか分からない。
 俺は彼女をお姫様のように抱き抱えて、部屋を離れた。



 ◇◆   ◆◇



「なあ翔鶴、君は……」
「────」

「翔鶴! そのまま押し切れッ!」
「────」

「よくやったぞ、翔鶴」
「────」

 いつからだろうか。

「翔鶴、どうした?」
「────」

「翔鶴……!?」
「────」

「おい翔鶴、しっかりしろ!!」
「──……」

 ──彼女が目を開かなくなったのは。



 ◇◆   ◆◇



「あと少し……」

 翔鶴を抱き抱えて走り出すこと数分。
 俺は艦娘寮から脱出し、この鎮守府にある地下シェルターへと向かっていた。途中、横目で海岸の様子を見ると、明らかに飛行機型ではない艦載機がちらほら見えていた。そのいくつかはこちらへ向かってきていたが、迎撃されて水面へと落ちた。
 こちらへ敵の艦載機が流れてくるのも時間の問題。
 そう悟った俺は、シェルターへと向かう足を早めた。
 ──その時だった。

『提督! 一機取り逃しました! 早くそこから逃げてください!』

 ポケットの無線機から、叫びにも近い声がノイズ混じりに響き渡った。

「嘘だろ!?」

 改めて海岸を見渡すと、確かに艦載機らしき飛行体が目視でも区別がつくくらいにこちらへ迫ってきていた。
 シェルターまではまだ五百メートルくらいの距離があり、翔鶴を抱えたまま走るのでは到底間に合わない。
 だからといって翔鶴を見捨てるのは、最初から選択肢になかった。それは俺のプライドが許さない。

「……俺は……」
『提督!? 早くその場から離れてください! 提督ッ!!』

 ──俺の首の角度が三十度を超えた。
 数秒後には、ここは火の海だろうか。俺は数秒のうちに攻撃範囲から離脱出来ない。
 人の足は遅い。百メートルを全力で走って、ようやく一桁ないし二桁ぐらいの秒数。それなのに、人を腕に抱えた状態で五百メートルを走るとなると、単純に五倍以上はかかるだろう。
 そうやって、最悪のケースの考え始めた時だった。
 突然()()()()()()()()押し倒され、尻餅をついた。

「──私が怪我しやすいからって、提督にまで怪我を負わせる訳にはいかないわ」

 その艦載機を、一閃の希望(一本の矢)が貫いた。力を奪われた艦載機は、海へと墜落。命の危機は去ったのだった。
 しかし、俺はそのことよりも、それを放った人物に驚いていた。

「し……翔鶴……?」
「はい、提督。翔鶴はここに」

 俺の目の前には、弓を構えた翔鶴が立っていた。
 つい先程まで俺の腕でぐったりとしていた彼女が、俺の目の前で敵を叩き落とし、二本の足でしっかりと地を踏み、艶やかな銀色の髪を靡かせている。
 俺はそれに見惚れ、呆気に取られるしかなかった。



 ◇◆◇◆◇◆◇



「以上が、防衛戦での艦娘の被害及び建物の被害です」
「はぁ……良かった……」

 結果から言えば、鎮守府の建物は無傷。艦娘達も中破以上の娘は出なかった。

「それで、今回の()()()()()()()()()である翔鶴さんですが……」
「翔鶴は……大丈夫なのか?」
「身体に大きな損傷はないし、意識も思考もハッキリとしてて、艤装とのリンクも異常は見られませんでした」
「……つまり、完治したということか?」
「概ねその通りです」
「明石。……翔鶴は、何か言ってたか?」
「私には、何も……」
「そうか……」



 ◇◆   ◆◇



 半年前。

「翔鶴! 起きろ翔鶴!!」
「司令官……」

 俺は大本営に出張することになった。内容はただの研修。特別なことは何も無かった。
 ただ、通った経路が問題だった。

「目を開けてくれ……翔鶴……」
「司令官……翔鶴さんはもう──」
「うるさい!!」
「ッ……」

 俺は小型ボートを使って、海を経路に使った。
 本来ならば海を通る必要は無かった。
 しかし、その頃は鎮守府の建て替えなどで資金繰りが難しく、更には研修の為の費用も全部こっちで負担することになっていた。そのため、海を進むことにより、交通費を削ることになったのだ。

「なあ翔鶴、ホントは起きてるんだろ? また『ドッキリでしたー!』とか言って起き上がるんだろ?」
「…………」
「翔鶴……」

 その結果、潜伏していた敵の潜水艦によって翔鶴は大破──否、ほぼ轟沈と言っていいだろう。

「…………」
「……司令官」
「いい。お前らの所為じゃない」
「でも……」
「…………」

 だが、仕事は待ってはくれない。

「取り敢えず、翔鶴はボートに乗せて、先を急ぐぞ」
「……了解です」



 ◇◆   ◆◇



 明石と執務室で別れた後、翔鶴の部屋を訪ねた。翔鶴は快く部屋に入れてくれた。

「……調子はどうだ?」
「明石さんが頑張ってくれたので、もう心配ありません」

 確かに顔色は良く、とても落ち着いている。
 俺はそれで大丈夫だと判断し、単刀直入に話を切り出した。

「翔鶴」
「はい、なんでしょう?」
「翔鶴は……俺を恨んでいるか?」
「えっ?」
「翔鶴は、俺を無能だと思っているか?」
「えーと……」
「翔鶴……」

 俺は膝の上の拳を強く握り、目線を下へと向けた。あの日から、翔鶴にあわせる顔がなかったのだ。

「提督」
「……っ!」

 だが、それでも──。

「提督は……()()()()、いつもみんなの事を考えていて、いつも冷静で……時々怒ることもあったけれど」

 ──翔鶴は俺へと近づき、俺を抱きしめた。

「でも、いつも自分に自信を持っていたわ」
「翔鶴……」
「私、貴方に指輪を渡された時、本当に嬉しかった。貴方から特別に想われてたって、思い知らされたの」

 翔鶴の抱きしめる力が少し強くなる。

「だから、あの時貴方を庇ったの」
「…………」
「私は艦娘で、貴方は人間。艦娘は姿かたちの同じ代わりがいるけれど、人間に代わりはいないわ」
「……翔鶴」

 俺は翔鶴の背中に手を回し、お返しと言わんばかりに抱き返した。

「そんなこと言うな」
「提督……」
「俺が指輪を渡した翔鶴は、お前しかいないんだ」
「……はい」
「だから……そんな悲しいこと言わないでくれよ……」
「……ごめんなさい」

 それから数分の間、俺と彼女は、互いを確かめるように抱き締めあっていた。

「……お熱いですねぇ」
「……ッ!?」
「あ、あああ明石さん!? いつからそこに!?」

 その様子を、薬を持って戻ってきた明石に見られるまでは。



うみかぜままのたんぺんをかきたい(ほっさ)






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