どうも燕尾です
バイトの途中、携帯からの更新です
「ココアの家の養子!? 義理の姉弟!?」
リゼは驚いたように叫ぶ。
確かに振り返っても俺とココアの関係を喋ったことは一度もなかった。
「ああ、それに保登の家に養子に入る前は香風家――つまりチノちゃんの家にお世話になっていた」
「そうだったのかチノ!?」
リゼがチノちゃんに振り向く。だけど、チノちゃんは難しい顔をして首を傾げる。
「……確かに、うちに男の子がいたことはなんとなく覚えています。ですけど、あまり詳しいことは――」
「まあ、チノちゃんがあまり覚えていなくても無理はない。俺が小学生になりたての頃に数ヶ月ほどだったから、物心がついているかどうかぐらいの年だし」
「コウナくんはこの街出身だったのね」
「ああ」
「あっ――」
すると、チノちゃんが何かに気づいたように声を上げる。
「ココアさんとコウナさんが家に来たときに、コウナさんが私の顔をじっと見ていたのは…」
「まあ、そういうことだよ。目の前にいる女の子がチノちゃんなのか少し心配になってたんだ」
「でもどうしてココアの家の養子になったんだ?」
リゼがこともなさ気に聞いてくる。
「……」
まあ、そうだよな。そこは気になるところだろう。しかし、
「悪いけど、今はそれを話すつもりはないかな。いろいろあった、それだけ覚えておいて」
勝手なことを言っている自覚はある。けど、今これをいっても空気が悪くなるだけだ。
「まあ、話したくないなら仕方がないな」
リゼはあっさり引き下がってくれた。
「そうね、無理に聞き出すことじゃないもの」
「はい、コウナさんはコウナさんです」
それに千夜もチノちゃんも同意してくれる。
「ありがとう、千夜、チノちゃん」
「気にしないで、でも――」
「ん? どうした、千夜?」
何かに疑問を持っていそうな様子の千夜。
「えーっと、あのね? ココアちゃんとコウナくんは、こんな言い方は本当は駄目なのだけれど、いわゆる他人ってことよね?」
「保登家の人間になったとはいえ、究極的に言えばそうだな」
すると千夜は一番の問題点を言い出した。
「それでいて、年頃の男女がベッタリしているのは大丈夫なのかしら」
「あっ……」
それにリゼが短い声を漏らし、
「そうですね……」
チノちゃんはまったく気づかなかったように頷いた。
千夜の言うことはもっともだ。だけど、
「まあ、十年ぐらい兄弟姉妹していれば本当の家族のようにはなるさ」
幸いにも、保登家の人たちからは暖かく迎え入れられ、大切に育てられ共に育っていった。
「それに小さい頃からココアは弟や妹に憧れていたんだ。同い年だとわかった瞬間、姉として俺にずっと構っていればこうもなるよ」
「ですが、コウナさん。前にココアさんと一緒にお風呂に入っていました、よね……?」
ピシィ、とその場の空気が凍りついた。
「コウナ……」
それと同時にリゼから向けられる氷点下の視線。俺は疲れたように息を吐いた。
「それは以前、学校の始まる日にちを教えなかった罰としてココアが乱入してきたんだよ。リゼだって制裁とか言って俺の弁明も聞かずに色々したじゃないか、それと同じだよ」
「私は、お前の風呂に乱入なんてしていない!!」
「そういうことじゃなくて、あの時のリゼと同じようにどうやっても聞き入れてもらえなかったの! そりゃ、俺だってちゃんと抵抗したよ!?」
さっきも言ったとおりお互い年頃の男女なんだ。タオルを巻いているとはいえ、一緒に入るのはどう考えてもおかしいに決まっている。
「ココアはそこらへんの感覚が鈍いというか、男女というより"姉"としての意識が一番前に出ているから……」
「まあ、ココアさんだったらそうですよね」
短い間だけど、ココアとともに過ごしたチノちゃんは理解してくれたようだ。
「なるほどな……んっ、なるほど?」
「ちょっと、どうして首を傾げるのさリゼ?」
「いや、ちょっと気になることがあって」
そこは疑問に思うことはないはずだ。現にずっとココアは意識もせず、俺に接してきているし。
「コウナがそう言っている割にはココアのやつが――」
なにやらぶつぶつと呟いているリゼ。しかし残念ながらその内容が聞こえることはなかった。
「何を言っているのかわからないけど、俺はちゃんとココアにしっかりと認識させようとしているんだぞ?」
「そうだったんですか? 心当たりはありませんが……」
「ほら、呼び方とか、基本的に俺はココアお姉ちゃんなんて呼ぼうとしないだろ? あれはそういう意味も含んでいるんだよ」
「コウナくん、それは分かり辛いと思うのだけれど…?」
えっ、そこまで分かりづらい? 俺的にはずっと言い続けているから、あと少しで理解してくれるとまで思っていたのに?
俺が無言でチノちゃんとリゼに確認を取ってみると、千夜に同調したように頷く二人。
俺の今までのやり方が悪かったことに、俺はがっくりとうな垂れるのだった。
「今日は雨でお客さんがが来ないね~」
外を見ながらそんなことを言うココア。
「雨の日晴れの日関係なく、この店に来る人は早々いないけどね」
俺たちが来てから幾日、ラビットハウスが繁盛した日はそんなになかった。
「なんじゃとコウナ! お主言っていいことと悪いことがあるじゃろう!!」
だが、それを認めたくないティッピーが噛み付いてくる。なんとなく言い放った言葉だったのだが、ティッピーには我慢ならなかったのだろう。
だけどそう簡単に喋るのは駄目ですってば、チノちゃんが大変でしょうが。
フー、フー、と威嚇するように毛を逆立てている。
「お爺ちゃん曰く、この店は隠れ家みたいな場所をと言うコンセプトでつくったらしいので」
興奮しているティッピーを慰めるように撫でているチノちゃん。
「こんな天気なのに来てくれてありがとね」
ココアは振り向いていま店に来ている二人にお礼を言う。
「ちょうどバイトだった予定が空白になっただけだし」
「シャロちゃん、もう少し素直になったほうがいいと思うの」
つん、とそっぽを向くシャロに優雅に微笑む千夜。いまラビットハウスにいるお客さんはこの二人だけだった。
「それにしても私たちが来た時は晴れていたのに…」
「誰かの日ごろの行いのせいね」
シャロは千夜と俺に視線を向ける。
ちょっと待って、そこまでやんちゃはしていないはずだよ、うん。少しからかったり、からかったり――からかったりしているだけだよ。
「シャロちゃんが来るなんて珍しいことがあったからかな?」
「えっ!?」
ココアの無自覚な指摘にシャロが動揺する。
確かに普段はバイトで忙しいシャロはこの店に来ることはあまりない。それにコーヒーも苦手だって確か言っていたし、なおさら進んで来る理由もないだろう。
「コーヒー苦手だって言っていたのに、大丈夫なのか?」
そんな雑談混じりに話しているところに注文されたコーヒーを淹れたリゼがトレンチ片手によってくる。
「はい、ちょっとだけなら平気なので――」
――数分後
「みんなー! 今日は私と遊んでくれて、ありがとー!」
……すごい。話には聞いていたけどコーヒー、というよりカフェインでここまで酔っ払うなんて想像もしていなかった。
一口ぐらいは問題なかったけど、口をつけていく回数が多くなっていくうちに飲む量も増えていって、そして一気に飲み干したシャロ。そして最終的に出来上がったのが――
「時間が空いたらいつでもきてねー」
「いいの? 行く行くー!」
ご覧の有様。超ハイテンションのシャロだった。
「チノちゃん! ふわふわー!!」
ココアと話していたはずのシャロは次はチノちゃんに抱きついていた。
「いつの間にチノちゃんに!?」
「ココアが二人に増えたみたいだ」
チノちゃんはシャロの豹変振りに引き気味だった。だけど、ココアのように対応するわけにも行かず、なされるがままだ。
「コウナー!!」
「ちょ、シャロ!?」
次のターゲットに俺を定めたシャロは弾丸のごとく突っ込んでくる。
「おわっ――!?」
勢いを殺せず、そのままシャロと一緒に倒れこむ。
「コウナっ! 大丈夫か!?」
「コウナさん!?」
「あらあら…」
「……」
思い切り背中を打った俺は息がはき出る。
「いつつ……シャロ、大丈夫?」
「んふふー、コウナー、コウナー♪」
俺の確認もなんのその、覆いかぶさっていたシャロは思い切り俺に顔を近づけて、しまいには頬ずりしてくる。
あああああ、なんかいい匂いが! 女の子特有のすごいいい匂いが!! まずい、このままだと非常にまずい!!
「ほ、ほら、シャロ? 離れてくれ。いつまでもこんな体勢だとまずいだろ?」
「嫌ー! コウナとこうしてるのー!!」
いやいやと駄々を捏ねるように首を横に振るシャロ。
「いや、嫌じゃなくて、少し落ち着こう。俺はどこにも行かないから、な?」
「駄目なのー! コウナは私とこうしてるの!!」
「幼児退行か!? いいから離れなさい! じゃないと――」
「――コウくん?」
シャロの陰から見えるココアの笑顔。
「……命が危ない」
はい、またこのパターンです。
「zzz……」
一頻り暴れたシャロは酔っ払った人の末路のように眠ってしまった。
ようやく落ち着いたことに俺は息を吐く。
「はあ、一難去った」
シャロにはカフェイン取らせたらいけないことがよくわかった。今度から気をつけねば。
「雨激しくなってきたねー」
「風も強そうです」
あれから一向に雨が収まることはなかった。それどころか強い風まで吹き始めて、大嵐になっていた。
「迎え呼ぶから家まで送ってやるよ」
このままでは帰れないリゼが家に連絡しようとしたときに、千夜があわてて席を立った。
「いえっ、私が連れて帰るわ!」
そしてシャロを背負い、外へ出ようとする千夜。だけど体力のない千夜はシャロを抱えた時点でプルプルと体を震わせていた。
「じゃあまたね」
「お、おい…」
リゼの制止も聞かずに大嵐である外へ出る千夜。そして、
「千夜ちゃーん!!」
案の定、店から数歩歩いたところで潰れてしまった千夜。
「コウくん! お願い!!」
「わかってる!!」
俺は飛び出して二人の元に駆け寄る。
「千夜、俺の背中に乗ってしっかり捕まって。シャロは抱えていくから」
「ごめんね、コウナくん…」
「謝るのは後で、ほら、早く!」
「ええ…」
最初に千夜を背負い、シャロを両腕で抱えてラビットハウスへと舞い戻る。
「大丈夫みんな!?」
ココアが急ぎでタオルを持ってきてくれる。
「ごめんなさい、迷惑かけちゃって」
「ん……あれ…いつの間にびしょ濡れに?」
千夜はしょんぼりと頭を下げる。
さすがに目覚めたシャロは自分が濡れている事態に首をかしげている。
「チノちゃん、千夜とシャロをお風呂に入れさせてあげて」
「でもコウナさんもびしょ濡れですよ」
「俺は後でで良いから。タオルで拭いて着替えれば問題ないよ」
「わかりました。千夜さん、シャロさん、こちらへ来てください。それと今日はもう泊まっていってください」
「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらうわね。コウナくん、早めに上がるから少しだけ待ってね」
「俺のことは気にしないで良いからちゃんと温まってきて」
「それだとコウナくんが風邪を引いて――そうだわ! コウナくんも一緒に入りましょう!!」
「「「「「っっっ!?!?」」」」」
いきなり何を言っているんだの和菓子少女は!?
「千夜、なにを言っているのよ! そんなの無理に決まっているでしょ!?」
「私は大丈夫なのだけれど…」
どこでそんな信頼を勝ち取ったのかはわからないけど、さすがにそれはまずすぎる。
「ほら、早く行くわよ!!」
シャロに引っ張られていく千夜に、その後についていくチノちゃんとリゼ。
残った俺とココアはなにも言わずただその背中を見ていた。
「――くしゅん!!」
さすがに濡れたままで時間が経ったせいか体が冷えて、思わずくしゃみが出てしまった。
「コウくん、早く拭かないと風邪引いちゃうよ。ほらこっちにおいで。お姉ちゃんが拭いてあげるから!」
「いや、自分で拭くから大丈夫だよ」
「こっちにおいで?」
「だから自分で――」
「こっちに、おいで?」
「……はい」
ココアの笑顔の圧力に負けた俺はココアの目の前に座る。
「むー……」
苛立っているせいか、少々乱暴気味に俺の頭を拭くココア。
「こ、ココアお姉ちゃん……? そのあまり乱暴に拭かれると痛いかな…」
「何か言った? コウくん」
「いえ、なんでもございません!」
「「……」」
ココアからやってくる不機嫌なオーラのせいで。俺もなにも言えず、無言の時間が続く。
「コウくんの馬鹿……」
小さく呟いた弱々しいココアの声も静かな店のなかではよく通り、俺の耳にも入る。
俺は息を吐いて、後ろにいるココアの頬に手を当てる。
「――ココア」
「……ん」
いつものように、ココアお姉ちゃんだよ、とは言わず、同じようにココアは俺の頬に手を当てる。
チノちゃんが戻ってくるしばらくの間、俺たちはなにも言わずにお互いの存在を確かめるようにいるのだった。
いかがでしたでしょうか?
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