ご注文はうさぎですか? ~ココアと双子の弟~   作:燕尾

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お久しぶりです。
ようやく卒論、発表が終わりました。
あんなのはもう過去のことです。何にも覚えていません!!





怪談 ~お友達は大胆!?~

 

 

 

「ふう、さっぱりした……」

 

千夜とシャロが上がってから風呂に入った俺は少し長めに風呂に入れさせてもらった。思った以上に身体が冷えていたのだ。

今は上がったことを連絡しにチノちゃんの部屋に向かっているところだ。

 

「コウナくん」

 

そんな時、唐突に後ろから声をかけられる。

 

「あ、タカヒロさん。どうしたんですか?」

 

タカヒロさんは制服を身に纏って、これからラビットハウスのバータイムに出るようだった。

多くは自分から語らないタカヒロさんが俺に何の用かと思っていたのだが、一つだけ心当たりが、頼んでいたことがあったのを思い出す。

 

「以前言っていたバータイムの話。許可しようと思ってね」

 

タカヒロさんから告げられた内容はまさしく俺の頼みごとのことだった。

 

「ほんとですか!」

 

「ああ、とはいっても君は高校生だからあまり長い時間は働かせられないが。それに心配はしていないが学業が疎かにならないようにシフトを組むつもりだ」

 

「基本は金曜と土曜日ぐらいですかね」

 

「そんなところになるね」

 

「十分ですよ。これからよろしくお願いします」

 

「ああ、こちらこそ。よろしく」

 

それだけを伝えてタカヒロさんは店のほうへと出て行く。

駄目で元々で頼んだことだったので俺は小さくガッツポーズする。

気分が上向きの状態で俺はチノちゃんの部屋に行く。そのせいでこの後俺はとんでもない過ちを犯してしまった。

 

「おーい、風呂上がった――」

 

チノちゃんの部屋のドアを開けて目に入ってきたのは下着姿のリゼとココアだった。

 

「こ、コウナ…」

 

「コウくん…」

 

「……よ?」

 

俺は目の前の光景が信じられなかった。

えっ? どうしてココアとリゼは服を脱いでいるの? ここはチノちゃんの部屋で脱衣所じゃないし、二人は濡れていなかったし、着替える必要も――

俺はそこで気づいた。二人の服の間にチノちゃんの学校の制服が混じっていることに。

落ち着け俺。ここで対応を間違えれば待っている未来は――確実なる死。

ここは動揺せず紳士的なところを見せて切り抜けるのだ! 俺!!

 

「二人とも健康的なから――だふぁ!?」

 

「こっち見るなぁ!! 出ていけぇ――――!!!!」

 

どこからか取り出した一丁の銃は綺麗な直線を描き見事に俺の眉間へとクリティカルヒットした。

 

「す、すみません! ごめんなさいっ!!」

 

勢いよく俺はチノちゃんの部屋から出る。これは完璧に俺が悪い。

 

「女の子の部屋に入るのにノックを忘れたのはまずかった」

 

「うんうん、次から気をつけようね――コウくん?」

 

肩をがしっと掴まれた俺は恐る恐る振り返る。そこにはもはや恒例といっても差し支えないココアの笑顔。当然服は着ている。

それをちゃんと確認した俺の意識はそこで途切れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皆で夕食をとった後はチノちゃんの部屋に集まって思い思いに雑談していた。

 

「なんだかいつもより一気ににぎやかになったね?」

 

「そうですね。こういうことは初めてですので、なんだか新鮮です」

 

「というか俺がここにいてもいいのか?」

 

「せっかく皆で集まっているのにコウくんだけ仲間はずれにはしないよ!」

 

その気持ちは嬉しいことではあるのだけれど、一つの部屋に女の子五人に男一人というのは聊か居心地が悪い。

 

「ところで、こんな機会だからみんなの心に秘めている事を聞きたいんだけどー」

 

そんななか千夜が唐突に切り出す。言い方からすると、なんだか恋バナが始まりそうな様子だ。それに気づいた周りも変な空気に包まれ始めた。

ここは余計なことに巻き込まれる前に退散したほうがよさそうだ。

 

「ちょっと俺は用事があるからこれで――」

 

といって立った瞬間、ココアにがっしり腕をとられた。

 

「ちょ、ココア!?」

 

腕にかかるやわらかい圧力が俺の思考能力を奪ってくる。

 

「ココアお姉ちゃん、だよ! 駄目だよコウくん、逃げるのはお姉ちゃんが許しません!!」

 

「コウナさん、おとなしくしてください」

 

「逃げるのは男らしくないなぁ、コウナ?」

 

「しっかり訊かせてもらうわよ、コウナ」

 

ココアだけじゃなく、チノちゃん、リゼ、シャロまで俺の退路を断つ。

 

「ふふ、コウナ君。逃がさないわよ?」

 

トドメといわんばかりに千夜がチノちゃんの部屋の鍵を閉める。

 

「それじゃあ、みんな――」

 

そして千夜は姿勢を正して座り直し、言った。

 

「――とびきりの怪談を教えて♪」

 

「「恋をした瞳で怪談を語るな!!」」

 

俺とシャロのツッコミが重なった。そして勘違いした自分が恥ずかしい。

 

「怪談ならうちのお店にありますよ」

 

「えっ、そうだったの!?」

 

知らなかった事実に俺やココア、リゼが驚く。

 

「リゼさんとココアさん、コウナさんはここで働いていますけど、落ち着いて聞いてください」

 

まあ俺は幽霊の類は別に怖いと思っていないのでなんともないが、ココアは少し苦手のようでぎゅっと俺にしがみついてくる。そしてそれはココアだけではなく、いつの間にかリゼも俺の袖を強くつまんでいた。

 

「私や父も何度か目撃しているんです。この喫茶店は、夜になると――」

 

雰囲気を出すチノちゃんにココアとリゼが息を呑む。

 

「店内を白い物体がふわふわと彷徨うんです!」

 

必死に怖がらせようと声を上げるチノちゃん。だけど、

 

「チノちゃん、一生懸命怖がらせようとしているけど――」

 

「ティッピーでしかない!!」

 

「夢を壊せないよ!」

 

さすがに口に出すことは憚られたけど俺もココアもリゼも同じことを思っていたに違いないだろう。俺たちの顔は微妙なものになっていた。

しかし満足したチノちゃんはリゼにタッチしていた。

 

「では次はリゼさんの番です」

 

「もう終わり!?」

 

驚くリゼだったが、これ以上チノちゃんには引き出しはないと思ったのかひとつ咳払いをして気を取り直す。

 

「これは小さい頃に使用人から聞いた話なんだけど」

 

「使用人!?」

 

お嬢様校に通っているからなんとなくはと思っていたけど、やっぱりリゼって裕福な家庭の生まれのようだ。

 

「仕事を終えて帰ろうとすると、ゆっくりと茂みの中から何かが地面をはって近づいてきたんだ。その使用人はあまりの恐怖に逃げ出したという――」

 

んー、なんだかそれは虫とか蛇とか、そういう生き物の類だと思うけど、確認していないならわかるわけもないよな。

 

「犯人はホフク前進の練習をしていた私だ」

 

「バラしちゃだめじゃん!」

 

「怪談の意味がないだろ!?」

 

俺とココアは一緒に突っ込んだ。ここにはまともに怪談できるやつがいないのか!?

もはや呆れかかっている俺やココアに真打登場といわんばかりに千夜が口を開いた。

 

「あのね、とっておきの話があるの。切り裂きラビットっていう実話なんだけど――」

 

千夜が語り始めた刹那、大きく光ったと思ったら轟音が鳴り響いた。

そしてそれと同時に、周りの明かりがすべて消え去った。

 

「わっ!?」

 

「てっ停電!?」

 

「バーのほう大丈夫かな!?」

 

「みんな落ち着け、あわてると危ないから。チノちゃん、懐中電灯か明かりになるものない?」

 

「はい、こんなときのために…」

 

各々あわてている中、チノちゃんはクローゼットからあるものを取り出し火をつけた。

 

「とりあえずこれで大丈夫そうだな」

 

「よりにもよって懐中電灯じゃなくてロウソクか!?」

 

まあ、怪談にロウソクはぴったりなのだけれど、雷や暗がりを怖がっているココアやリゼ、シャロには少しつらいだろう。

 

「チノちゃん、もう一本もらえるか? ブレーカーの様子を見に行って――」

 

「ダメ!」

 

そこまで言って立ち上がろうとしたところでココアが遮ってきた。

 

「コウくんお願い。ここにいて?」

 

「いや、でも――」

 

「――お願い?」

 

不安そうに揺れるココアの瞳。

 

「はぁ、わかったよ」

 

昔からココアのこの目には弱い俺はため息をついた。

 

「ふふ、盛り上がってきちゃった…♪」

 

「楽しそうだな、千夜…」

 

「もちろん。こんな機会滅多にないもの――それじゃあ、始めるわね」

 

そして、そこからは千夜の独壇場だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――おしまい」

 

「「「「「…………」」」」」

 

暗い中、千夜の話を聞き終わった俺たちはぐったりとしていた。

普段怪談なんて信用しない俺でも少し怖いなと思ってしまうぐらい千夜の話は真実味を帯びていて、なにより雰囲気があった。

ところどころでも空気でも呼んでいるのかといいたくなるほど、タイミングよく雷が鳴り響いたりして、よりいっそう恐怖心が煽られた気がする。

 

「ぜ、絶対取り憑かれる……」

 

千夜の話が終わってからというものガタガタと俺の腕の中で震えているココア。

 

「今日はもう遅いですし、そろそろ寝ましょうか」

 

どうやら今日の怪談はここまでのようだ。まあそろそろいい時間だし。あまり遅くなったら成長時期の俺たちの身体にも悪いだろう。

 

「それじゃあ、俺は部屋に戻るから。おやすみ、みんな――」

 

部屋から立ち去ろうとする俺の腕をココア、リゼ、シャロの三人が掴む。

 

「……ちょっと?」

 

「お願いコウくん、ここにいて!!」

 

「さすがに同じ部屋で寝るのはダメだろ。みんないるのに」

 

「私たちは構わない!」

 

「寧ろコウナに居てほしいの!!」

 

必死に引きとどめるココア、リゼ、シャロ。俺は困ったようにチノちゃんと千夜に視線で助けを求める。

 

「私は構いませんよ」

 

「ふふ、もっと面白くなっちゃった♪」

 

だけどチノちゃんは無表情で受け入れて、千夜は面白そうに言った。

結局俺はしがみ付いてくる三人を振りほどくことができず、一緒に一夜を共にすることになった。

 

「それでは皆さん、電気消しますね」

 

『おやすみ~』

 

布団を並べて寝る準備をして、チノちゃんが電気を消す。

 

それから数分、誰かはわからないが、すうすうと静かな吐息がいくつか聞こえてくる。

俺も目を閉じて自然と意識がなくなるのを待つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、こう――くれ」

 

どれくらい時間が経ったのだろうか。誰かが身体を揺すってくる感覚を覚えた。

 

「……ん、んぅ?」

 

目を開けると俺の身体を跨ぐようにかぶさっていたのは――リゼだった。

 

「りぜ……? どうしたの?」

 

俺は眼を擦りながら問いかける。だがリゼが何か言うその前に俺は状況のまずさに気づいた。

 

「って、何で俺の上に乗って――んぐぅ!?」

 

「ちょ、声が大きい! みんな起きちゃうだろ!?」

 

リゼの柔らかい手が俺の口を塞ぐ。そして小さな声で強く俺をたしなめた。

幾分か落ち着きを取り戻した俺は、周りを見た。今の声で目が覚めた人はいないようだ。

 

「ご、ごめん。でもどうしたの、リゼ?」

 

そう問いかけるとリゼは顔を赤く染め俺から目を逸らし、もじもじし始めた。様子のおかしいリゼに俺は首を傾げる。

 

「その、なんていうか――に、ついてきてくれないか?」

 

周りを起こさないために小さな声で喋るのはいいものの、小さすぎてなんていっているのか聞こえなかった。

 

「ついていくって、どこに?」

 

聞き返すとリゼはさらに顔を紅くして鋭い目で俺を睨んだ。

 

「だから――手洗いだよ、手洗い! 何度も言わせるな!」

 

「いや、トイレくらい行けばいいでしょ」

 

「それはっ、そうだけど…その……」

 

どうもはっきりしないリゼ。その様子に俺はなるほど、と気づいた。そして布団から出て立ち上がり、リゼに手を差し伸べる。

 

「わかったよ。行こうか」

 

「ああ、ありがとう……」

 

リゼはその手を恥ずかしながらもぎゅっと握って、俺たちは他の皆を起こさないように部屋を出る。

 

「それにしても、そこまで千夜の怪談が怖かったのか?」

 

「む、むしろ何であの話を聞いたコウナは平気なんだよぉ」

 

プルプルと暗闇に怯えながらも俺の手を放さないリゼ。

 

「こんなこと言ったら千夜に悪いけど、よくあるような話だしなぁ。実際にあったかどうかなんてわからない話なんていくらでも誇張は出来るだろ?」

 

「まあそれはそうだけどさ…」

 

「待ってリゼ。言いたいことはわかるからそれ以上は言わないで」

 

リゼの目は雄弁に語っていた。だから俺はそれ以上言わせないように遮る。

そうこう話している間にトイレについた。この香風家には店のスペースに一つ。居住スペースの一階に一つ、二階に一つの全部で三つある。

 

「その、コウナ…」

 

リゼはもじもじしながらも申し訳なさそうに上目遣いで俺を見る。俺は手を振る。

 

「あーはいはい、皆まで言わなくていいよ。少し離れて待ってるから」

 

「本当にすまない、私のわがままで」

 

「気にしなくていいよ。申し訳ないって思うなら、早く済ませてきて」

 

ああ、といってリゼはパタンと入っていく。俺はトイレから少し距離をとる。

 

「コウナ、そこにいてくれているか?」

 

ちょっとするとリゼの声が聞こえてくる。

 

「ああ、いるよー」

 

それからまもなく、

 

「コウナ、いるか?」

 

「いるよー」

 

……

 

「コウナ――」

 

「いるって!」

 

何度確認したら気が済むんだ。というかどこまで怖がってんだよ!?

それから少ししてから流れる音が鳴る。それと同時にドアの横に近寄る。

 

「……すまない」

 

出てきたリゼは羞恥やら申し訳なさやらで微妙な顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コウナ…起きてコウナ」

 

お互いそれぞれの布団に入ってから意識が薄らいできた頃、俺を起こそうとする声。

 

「ん……シャロ、どうした?」

 

「ごめんなさい、起こしてしまって。でもお願いがあるの――」

 

 

 

 

 

「コウナいてくれてる?」

 

「いるよ」

 

リゼと同じくトイレから出る直前まで何度も何度も確認してくるシャロ。

この時点で俺はなんだかいやな予感がしていた。

再び布団に入り、今度こそと思っていた矢先、

 

「あの…コウナさん……」

 

「今度はチノちゃんか」

 

「えっと、よくわからないですけど、すみません……」

 

「いやごめんごめん、俺の問題だから気にしないで」

 

チノちゃんのお供をし、

 

「……今度は誰だ」

 

「ふふふ、コウく~ん……」

 

布団にもぐりこんで腰あたりに抱きついて来るココア。

 

「どうやったらチノちゃんのベッドから寝惚けて俺の所に来るんだよココア……」

 

「ここあ、お姉ちゃんだよ~……むにゃむにゃ」

 

「むにゃむにゃ、って……」

 

どういう夢を見ているのか知らないけど俺はココアを抱えてベッドに戻す。俺はため息をつきながら、布団を被る。

しかしある程度時間が経った頃、

 

「……完全に目が覚めてしまった」

 

俺は閉じていた瞳を開ける。

何度も寝るタイミングを失った俺はとうとう寝られなくなってしまった。

 

「はぁ……」

 

それでも寝ないと明日が持たないため、息を吐きながら意地でも目をつぶる。

それから数分後。がさごそと衣擦れの音が鳴り、俺に近づく気配が感じられる。

 

「……」

 

「……」

 

俺は寝たフリをし続ける。するとあろうことに俺の懐にもぐりこんできて俺にしがみ付いてくる。

またココアが入り込んできたのかと思って掛け布団をはがす。だが、そこにいたのはココアではなかった。

 

「ひゃ…!?」

 

「…千夜? 何してんだ?」

 

小さな悲鳴を上げたのは千夜だった。

 

「こ、コウナくん…これは、えっと…その…あのね?」

 

千夜はあわてたように手をブンブンと横に振る。俺はもうため息を吐くのも億劫になるほど呆れ返っていた。

 

「まあいいや。ほら、早く行くぞ」

 

立ち上がった俺に対し、千夜は首を傾げていた。

 

「えっ? 行くって、どこに?」

 

会話が噛み合わない俺もえっ、と返した。

 

「トイレだよ、千夜もトイレについてきて欲しくて俺のところに来たんじゃないのか?」

 

「違うけど……?」

 

「はっ? そしたら何で俺のところに?」

そう聞くと千夜は指先をつんつんと突き始めて、何かいいずらそうにしている。

 

「えっと、それは……」

 

――ガタリ

 

「ひゃ!?」

突如鳴った音に千夜は驚き、ぎゅっと俺に抱きついてきた。しばらく何が起きたかわからなかった俺は頭の中を整理する。

 

「……まさか」

 

「違うの、別に怖いとかそういうのじゃないの! ただ少し不安になったから、コウナくんのところに行けば安心かなって……!!」

 

うん、否定はしているけど結局は怖くなって俺のところに来たんだね。

 

「わかった、わかったから少し落ち着こう? ほら、みんな起きちゃうし、俺はどこにも行かないから」

 

「っ!? はうぅ~……」

 

羞恥から頬を染め、上目遣いで見てくる千夜。それがなんだか色っぽく俺は少しドキッとした。

 

「だけど、自分の話した怪談で自分が怖くなってどうするのさ」

 

「だって、自分が怖いと思っていないと他の人を怖がらせることは出来ないって思って…」

 

まあ、理論としてはわからなくはないけど。色々と身体というか意地というか張りすぎでしょ。まあそれはいいとして、

 

「どうして俺のところに来たんだ? リゼのところでもシャロのところでもよかっただろ?」

 

「それは……その、暖かかったから…」

 

暖かかったから? どういう意味だろう?

 

「まあ理由はなんでもいいんだけど、戻るのは……無理そうだな」

 

千夜は俺の袖をくいっと引っ張り、首をブンブン横に振る。

 

「少しでいいの。私と一緒にいてくれないかしら」

 

懇願するような千夜の瞳に俺は勝てるわけもなく、渋々了承する。とりあえずは千夜が眠りにつくまで、添い寝をすることになった。

 

「ごめんなさい、こんなことになって……迷惑、よね?」

 

「仕方がないでしょ、あのままだとかえって俺も寝られなくなるから。千夜が寝るまで傍にいるよ」

 

「ありがとう、コウナくん」

 

どういたしまして、と俺も横になる。しかし一つの布団で寝ているため、千夜との距離が近く、吐息がかかって、なんだかドキドキしてしまう。

お互い向き合いながら無言で寝転がっている状況。このしん、とした静寂を打ち破ったのは千夜からだった。

 

「ねえ、コウナくん……」

 

「…なに?」

 

「コウナくんはなんでココアちゃんの家に養子になったの?」

 

「……それは今教えるつもりないって言ったはずだけど」

 

「駄目?」

 

「駄目、だな」

 

「どうしても?」

 

「今はね」

 

やけに聞きたがる千夜に俺は違和感を感じる。

 

「どうしてそこまで聞きたがるんだ?」

 

「だってコウナくん。今じゃなくても教えるつもりはないでしょう?」

 

どうやら、俺の考えは見透かされていたらしい。俺は少し冷や汗を垂らして表情がゆがむが、すぐに立て直す。

 

「聞いても気分のいい話じゃないからね。ろくでもないことばかりだから」

 

「わかるわ、コウナくんがここまで言うのを渋ることだもの」

 

「だったら聞きたくないと思うのが普通だと思うけど?」

 

「お友達のことだもの、知りたいと思うのはおかしいかしら?」

 

「……」

 

もはや俺には何も言い返せず、ただ口を閉ざすばかり。

 

「本当に面白くもない、昔の話だよ」

 

だが、話すことを決心した俺の口からはするりと言葉が出るのだった。

 

 

 

 

 







はい、いかがでしたでしょうか?
次回更新は二月中予定です。


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