ご注文はうさぎですか? ~ココアと双子の弟~   作:燕尾

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……第12羽目です。






昔話 ~保登香菜のお家事情~

 

 

国の都市のような発展をしていないこの街でも企業は存在する。

その中でも頭を張るような大企業の末の子として俺は生まれた。

上には歳が離れた兄が二人と姉が一人。一番年上なのが姉で、そして長男、次男と続いて俺。ちょうどココアと同じような立ち居地だがその年の差はかなりあった。俺が生まれたときは兄や姉たちは皆、祝福していた。そして、忙しい両親に代わって兄姉たちが俺の世話をしてくれていた。

そんな兄や姉たちのおかげで俺は自分で立ち上がり、言葉を覚え、すくすくと育っていった。

そして拙いながらも会話が出来るようになった歳のある日、普段家にいない両親が珍しく俺たちのところに帰ってきた。

 

「――ただいま」

 

「ただいまですわ」

 

「お帰りなさいませ、お父様、お母様」

 

兄たちはそろって膝を突いて、両親を出迎える。

この両親がすべての原因だった。俺の本当の両親は俺たちを会社の跡継ぎの道具としてしか見ておらず、どこぞの国の王様にでもなったように自分の子供を従えていた。

俺はそのとき姉の後ろに隠れながら自分の両親を見ていた。幼心ながらに悟っていたんだ。こいつらは怖い、って。

 

 

 

 

 

それから全員で夕飯の食卓を囲んでいたとき、両親は兄たちにあることたずねていた。

 

「――はどこまで出来るようになった?」

 

「会話が出来るようになっています」

 

「文字の読み書きや計算は?」

 

「……そちらはまだ」

 

そう答えた長男に両親は冷ややかな目を向ける。一体何をしていたんだ、と。

 

「――はまだ三歳です。今の子達でもそんなことする子は――」

 

「いいこと、あなたたちは将来私たちの会社を継ぐのです。――だってその一人、歳は関係ありません。私たちの子供に一人でも無能がいたら困ります」

 

「ですが――」

 

「――私たちに異を唱えるのか。お前たち?」

 

「す――すみませんっ! 来週までには必ず!!」

 

顔を歪め、慌てた顔をする兄たち。そのときは俺はどうして兄たちが怒られて、怯えているのかわからなかった。だが、その日を境に兄たちの態度が変わった。そして俺に対して過剰ともいえるような教育をし始めたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――うっ!?」

 

俺の手を教鞭で張った長男は焦りや怒りが入り混じったような目で俺を見下ろす。

 

「一度教えただろう!? どうして間違えるんだ、こんな簡単な問題を!!」

 

「だって――ひっ!?」

 

パァン、と教鞭が机をたたく。

 

「口答えするな! いいか、これが出来るまで部屋から出さないからな!」

 

それだけ言って部屋を出て行く長男を俺は必死に止めた。

 

「え、おに、おにいちゃん! わからない! ぼく、わからないよ!!」

 

「そのくらい自分で考えろ!!」

 

「――っ!!」

 

力強く振り払われて尻餅をついてしまう。今まで感じたことのない痛みが俺の中を駆け巡っていた。

その日俺はご飯も食べさせてもらえず、寝落ちするまで解けるわけのなかった問題を考えることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

姉はまだ比較的によかったと思う。

 

「お、とうさ、ま、おかあ、さま……お、おかえりなさい、ませ……」

 

「――、もっとスムーズにいいなさい! 突っかかっては駄目よ!!」

 

「でも…」

 

「言い訳していないで練習しなさい! あなたも――家の一人なのだから!!」

 

必死の形相。

いつも優しい笑顔を向けてくれていた姉はどこにもいなかった。

 

「おねえちゃん、どうしてこんなことするの……? おにいちゃんたちも、おねえちゃんも、怖いよ……」

 

「……っ!!」

 

怯えた顔をした俺に姉は顔を歪ませる。だけど頭をブンブンと横に振って、鋭い目で俺を見る。

 

「明日までに突っかからずにちゃんといえること。いい、わかったわね?」

 

そのまま姉は出て行った。まるで俺のことを直視しないように、目に涙を貯めながら。

 

「ごめんなさい、――。ごめんね……!」

 

 

 

 

 

「違う! 何度言ったらわかるんだ!!」

 

「うぐっ!!」

 

椅子を蹴られ、俺はそのまま床に転がる。

 

「お前の出来次第なんだよ、お前の出来次第で俺は…俺たちは!!」

 

次男も長男や姉と同じような焦燥した顔。もはや別人のようだった。

 

「だって、おにい、ちゃん。何言っているのか、わからないよ……」

 

「いいからやれ! つべこべ言わずにやれ!! さっさと立って教えたとおりにやるんだよ!!!」

 

一番酷かったのは次男だった。

 

「だから違う!」

 

「ぐっ!?」

 

少しでも間違えれば殴られ、

 

「お前がっ! 出来そこないだとっ!! 俺たちが困るんだよっ!!!」

 

転がったところを蹴られ、

 

「やめ、おにいちゃ――」

 

「無駄口を叩くなァァァ!!!!」

 

何かを言おうとしたら壁に叩きつけられて、

 

「……」

 

「おい、なに寝てるんだよ」

 

「っ!?」

 

気を失えば強引に目覚めさせられた。

 

「出来もしないのにいい度胸だな、おら、さっさとやれ!」

 

俺はもう自分で言葉を発することさえ出来なかった。

 

 

 

 

 

そんな兄や姉たちの指導が続けられて、一週間。ボロボロになりながらも父が言っていた期限の日が来た。そして両親の判断は、

 

「及第点、急ごしらえにしてはまあいいだろう」

 

「ですが、率直に言ってまだまだですわ」

 

父はいいとして、母の言葉に緊張が奔る兄姉たち。

 

「今回、あなたたちが――の教育を怠ったのは見逃します。ですが、次はないと思いなさい。いいですわね?」

 

「はい、申し訳ありませんでした。お母様」

 

頭を下げる兄たち。これで少しは重圧から解放されるというような安堵した表情をしていた。俺はただ疲労と痛みで、動くことも出来ず、話すことも出来ず、ただ突っ立っているだけだった。

そんな俺に、両親たちは更なる追い討ちをかけてきた。

どさ、と置かれる本の山々。そこには政治学、法学、経済学に経営学、教育学に社会学、経営情報学に語学に生活科学に文学に地理学に心理学に数学に統計学に物理学に化学に工学に医学に哲学にマスコミ学に社会福祉学に国際関係学、果ては帝王学まで、すべての学問をさらっているのではないかという量の本だった。

 

「お父様、これは…」

 

何とか紡いだ言葉だったが、俺は本の山に圧倒されていた。

 

「見てわかるだろう、次はこれを学べ」

 

「えっ…」

 

「期間は――二年だ。お前がちょうど五歳になる頃に試験をする。これをすべて頭に叩き込め」

 

「……」

 

俺は呆然とする。兄たちの暴力つきの指導からやっと解放されたと思ったらまだまだ続くのだ。しかも期間は二年。今の時点で俺は三歳を過ぎてから実質二年なんてもう切っていた。

絶望に俺の顔が引きつる。こんなに多くの学問を二年近くで究めろだなんて無茶振りにもほどがあった。

泣きたかったけど泣けなかった。文句を言いたいけど言えなかった。あの家では両親がすべてで、その子供である俺たちは従わなければ生きていけなかった。

俺たちは何も言えなかった。だが、そんな中で一人だけ反論した人がいた。

 

「――お父様、これはいくらなんでも酷過ぎます!!」

 

声を上げたのは姉だった。

 

「…なに?」

 

「次男の――でもこれらの学問全部を修めたのはついこの間です! それを二年の間に、それもこんな小さい子が理解できるわけありません!!」

 

「俺の方針に口出しするのか?」

 

「教育のためといっても到底認められません!」

 

「おねえ、ちゃん…」

 

正面に立って父と対立する姉。そのことに驚く母と、二人の兄。

 

「……」

 

父は逡巡した後、姉の頬を思い切り引っ叩いた。

 

「――うっ!!」

 

「おねえちゃん!!」

 

強く叩かれたのか倒れた姉に駆け寄った。そしてそんな姉を見下ろしている父はさらに追撃をかける。

 

「親の俺がやれと言っているんだ。子供であるお前たちは俺の言うことを聞くのは当然だろう、それなのに――」

 

「あうっ!!」

 

「俺に意見するなんて、100年早い」

 

「う゛っ!?」

 

酷く冷たい目をしながら姉に殴る蹴るの暴力を与える父。二人の兄は震え上がって動けず、唯一止められそうな母は当然のことといわんばかりの表情でとめようとしなかった。

だけど、俺は――俺だけは、俺のことを庇って苦しんでいる姉の姿を見ていられなかった。

 

「やめて!! おねえちゃんにひどいことしないで!!」

 

そういいながら父の脚にしがみつく。そんな俺を父は鬱陶しそうに睨んだ。

 

「――、お前も俺に逆らうのか?」

 

「ひっ…」

 

「私はいいからやめなさい、――!」

 

「や、やめない! おねえちゃんがずっといたいいたいしてたのぼく知ってるから!!」

 

「……っ」

 

もう教わった言葉遣いとか関係なかった。ただ姉を救いたい一心で俺も父に抵抗していた。だけど高が知れている小さな子供の力は何の意味もなさなかった。

結局、俺と姉は父親の怒りが収まるまでずっと殴られ、蹴られ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しばらく頭を冷やすんだな」

 

どさどさ、と父に呼ばれた付き人は乱暴に俺と姉を何もない部屋に放り込んだ。

 

「ぅ……」

 

「うぅ……」

 

散々暴力を受け続けた俺と姉は身体を動かすことはおろか、声を上げることも出来なかった。

 

「心の底から反省したら出してやる。自分の行いをよく振り返るんだな」

 

意味の分からない一言を残して、ばたん、と扉を閉める父。

まるで独房のようなところに放り込まれた俺たちは月明かりでしかお互いの顔を確認できなかった。

 

「お、ねえ、ちゃん…」

 

「……どう、して」

 

「……?」

 

「どうして、お父様に逆らったのよ。私みたいになるって、わかっていたでしょう……!?」

 

姉は目に涙を貯めて、まるで心配した母親が子供を叱るように言った。

 

「あなたまで、こんな目にあう必要はなかったのに…私たちは、教育なんて言って、あなたに酷いことしていたのよ……!」

 

「おねえちゃん……」

 

「余計なお世話よ、私のことなんか放っておけばよかったのよ! あなたは知らない振りして二人のお兄ちゃんのように黙っていればよかったのよ!!」

 

そういわれた俺はもう我慢できなかった。

 

「だって、だってぇ……おねえちゃんも、おにいちゃんたちも、すごく怖がってたんだもん……! ぼくが出来なかったら、おねえちゃんたちがお父様や、お母様にひどいことされるってわかったんだもん……!!」

 

「…っ!!」

 

俺も大粒の涙を流しながら言った。

姉や兄の態度が変わったあの日から、俺は少しずつ理解していた。この一週間、俺にきつく当たりながら物を教える三人の顔はできない俺に対する焦りと、そこから来る苛立ち、そして何よりあの二人への怯えだった。

俺の出来が悪かったら姉や俺たちだけじゃなく、兄たち含めた全員がこんな風になっていただろう。

 

「だからぼく、がんばった。おねえちゃんたちがお父様とお母様にひどいことされないように、泣いちゃったりしたけど、いっぱい間違えちゃったけど、がんばったんだよ……なのに、どうしてそんなこというの……?」

 

このときに俺は初めて心の底から抗議した。兄たちからの暴力も、皆の厳しい指導も最後は受け入れていた。だけど、こればかりは到底受け入れられなかった。

俺の悲痛な叫びに姉は痛む身体を無理に動かして、俺を優しく包み込んむ。

 

「おねえちゃん……?」

 

「ごめんね。――、ほんとうにごめんね……!!」

 

「おね、え、ちゃん……うう…うああああああああん!!」

 

泣きながら撫でてくれるあの頃のような姉の優しさに、ついに俺は決壊した。

 

「ごめんね――。痛かったよね、辛かったよね、よく頑張ったね。あなたは私の自慢の弟よ……」

 

しばらく俺たちは号泣しながら、お互いの存在を確認すように抱きついていた。

 

 

 

 

 

「ねえ、――」

 

「なに、おねえちゃん?」

 

身を寄せ合いながら、姉は俺に言った。

 

「私と一緒にここから逃げましょう」

 

突然の提案に俺は目を見開く。このときの俺は逃げるのは賛成だった。だけど、

 

「でも、おにいちゃんたちは…」

 

俺に暴力を振るっていた兄たちも、ある意味被害者のだ。そんな二人を放ってはおけなかった。だが、それは百も承知といわんばかりに姉は頷いた。

 

「もちろん、私だってあの子たちをこんな場所に残しておけない。ちゃんと話すわ」

 

そこから、俺たちは家から出て行くための計画を立てた。といっても、全部姉一人が立てた計画だったのだが。

俺たちは反省を装って、部屋から出してもらう。

そして親が仕事でいなくなった日に姉は兄二人を説得し、しばらく帰ってこないのを確認してから俺たちは出て行く準備をした。

しかしそれは当然容易ではなかった。この家にいるのは俺たちだけではない。父に雇われた手伝いもいるし、家周辺には父の息がかかった人間たちが大勢いた。

俺が出来ることは何もなく、姉たちの準備が終わるまで俺は色々な学問を学んでいた。

この頃あたりだった。自分の記憶力が異常にいいと気づいたのは。小さいが故に少し変えられると気づかないのだが、まったく同じものであれば一度見たものは忘れることはないと気づいた。

俺はそれを生かして、いくつかの学問を表面上修めていった。

そして両親を誤魔化しながら、誰にもバレないように、気づかれないように、家から出て行く準備を進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――それから一年後

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大分長くかかってしまったけれど、今日、この家を出るわ。あなたたち、準備は大丈夫かしら?」

 

「ああ、問題ないよ」

 

「大丈夫」

 

「うん、ばっちり」

 

俺たちは一つの部屋に集まり、隠れながら準備したものを背負う。

家のお手伝いさんや警備員たち、また周辺の状況把握に時間がかかって、姉と決意したあの日から随分と時が経ってしまったが、ついに実行する日が来た。

 

「それじゃあ、行くわよ!」

 

姉の一声で、俺たちは家を飛び出す。

廊下には一人の警備員が周辺警戒をしている。そして、歩いて来る俺たちを見て首をかしげながら問いかけてきた。

 

「お嬢様方、どちらに――」

 

「あなた方にも随分とお世話になったのだけれど――ごめんなさい、少しの間眠ってもらうわ」

 

「な――がっ!?」

 

そう言って姉は警備員の顎を殴った。どんな屈強な人間でも、脳を強く揺さぶられればしばらく動けなくなる。

そして倒れた隙に、長男が睡眠薬をしみこませたハンカチで眠らせる。

この時間は最小限の警備員しかおらず、しかも両親の子供ということで警戒心などない。武道など習っていた姉たちが隙を突いて無力化するのはたやすいことだった。

 

「せいっ!! 」

 

「はあ!!」

 

「ふっ!!」

 

余談だけど、警備員を次々と倒していく姉を見ていた俺は、絶対に彼女を本気で怒らせないようにしようと、心に誓っていた。

そして、子供たちにしては大掛かりな家出も順調に進んでいた。そろそろ、影響力がなくなる場所まで出ようとしたそのとき、目が開けられないほど強い光が俺たちを照らした。

 

 

 

 

 

「なっ!?」

 

「なに、どうなってるのお姉ちゃん……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分と幼稚なことを考えたものだな」

 

 

光源の奥から聞こえてきたのは俺たちがいま最も聞きたくない声だった。

父が部隊とでも言えるほどの人間を引き連れて待ち構えていたのだ。

 

「なんで、まだこっちにいる時期じゃ……それにどうやってこのことを――」

 

そこで姉は気づいた。俺の後ろで不穏な動きをしていた二人に。

 

「――! こっちに来なさい!!」

 

「っ、うんっ!!」

 

俺は姉の声に瞬時に反応して彼女のところに飛び込む。

その直後、俺がいたところに誰かの腕が振るわれていた。

姉は俺を抱きとめて、俺の気を失わせようとした二人を睨んだ。

 

「あなたたちね……お父様に連絡したのは」

 

「「……」」

 

二人の兄たちは自分たちが持ってきた荷物を乱暴に降ろし、父の元に行く。

先に口を開いたのは長男だった。

 

「姉さんと――には悪いけど、僕たちは――家を離れるつもりはなかった」

 

「どうして……」

 

「どうして、だって? そんなこともわからないのか、姉さん」

 

姉の疑問に次男はあざ笑うかのように言った。

 

「当たり前だろ? やることやって有能になれば将来は確立されているんだ。俺は庶民に落ちるつもりはないんだよ!」

 

「姉さんの話を聞いて僕はすぐにお父様に連絡したよ、そして今まで協力したフリをしてずっとお父様に報告させてもらった」

 

「最初から、裏切っていたのね……」

 

「当たり前だろ、俺たちがあのまま家に残っていれば必ずお父様に知られる。事情を知っている俺たちが姉さんたちを逃がせば、どうなることぐらいわかるだろ!」

 

「そういうことだ。お前の浅はかな行動は一年前から知っていた」

 

「ずっと、泳がしていたってわけね。悪趣味な男……」

 

もはや敬語すらしなかった姉の瞳には嫌悪しか映っていなかった。

 

「まだ学生のお前が、お前の倍を生きている俺を出し抜くことなど不可能だということを教えたまでだ」

 

「二人の連絡がなければ知らなかったくせによく言うわ」

 

「使えるものはすべて使う。それが上に立つものの役目であり、権利だ」

 

にじり寄って来る父に姉と俺は後ずさる。

 

「――、よく聞いて」

 

「おねえちゃん?」

 

「いまから全力でこの場から逃げるわ。合図したらあなたの背負っている荷物を全部捨てて私の背中に飛び乗って」

 

「……うん」

 

 

「3…」

 

「姉さん、諦めて僕たちと帰ろう」

 

俺は姉の背中に近寄る。

 

「2…」

 

「俺たちはあの家から出られないんだよ!」

 

すぐに捨てられるようにバッグの肩掛けを気づかれないように外しかける

 

「1…」

 

「子供のお遊びに付き合うほど俺も暇ではない、さっさと戻れ。こんな下らんことした話ぐらいは聞いてやろうじゃないか」

 

姉は両手を上げる。それを降参と受け取った兄たちは俺たちに歩み寄る。

 

「今!!」

 

そして俺はバッグを乱暴に兄たちへと放り投げ、姉の背中に飛び乗る。その直後姉は何かを地面にたたきつけた。

瞬間、黒い煙が広範囲へと広がっていった。

 

「なにっ!?」

 

「これは、煙幕!?」

 

「小癪なマネを……!!」

 

この場にいる俺と姉以外の全員が慌てる。

 

「しっかり掴っていなさい、あと煙はなるべく吸わないようにね」

 

「わかった」

 

「行くわよ!」

 

「うん!」

 

そこから姉は一気に駆け出した。

姉も自分の巻いた煙幕で見えないはずなのに、どういうわけか彼女はするりと煙の外――しかも父や兄たちの後ろのほうへと抜け出していった。

そして姉はもう一つのボールを地面に叩きつける。すると今度は白い煙が空中に舞った。

 

「これは……まさか――!?」

 

黒鉛の煙の中にいる父親の声が聞こえた。それも今まででの中で初めて聞くような焦った声だった。

姉は煙の中でもがくみんなを冷たい目で見ながら、マッチに火をつける。

 

「皆、さようなら」

 

「やめろ――」

 

父の声も聞こえなくなるほどの爆音と、それとともに広がる火の手。

 

「お姉ちゃん!?」

 

俺を背負いながら離れていく姉。考えてもいなかったことに戸惑う俺なのだが、姉はいたって冷静だった。

 

「大丈夫よ、最初に撒いた黒い煙には私が作った火を消す成分が入っているから――振り向いちゃだめよ。私たちはこれから二人で生きていくのだから」

 

「……うん」

 

俺たちは燃え盛る火を背にして、ただひたすらに走った。

 

 

 







しばらく失踪していたこと、この話を作ったこと、私は申し訳ないと思っていません。
ただ時間が取れない中、こんなことを書きたいと思った、それだけです。
次回はこの続きです。


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