ご注文はうさぎですか? ~ココアと双子の弟~   作:燕尾

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どうも燕尾です。
はい、コウナくんの過去話です。完全オリジナル話part2です
嫌いな人は回れ右セヨ!!






昔話Part2 ~一つの終わり~

 

 

 

「――とまあ、ここまでが生まれたころから少しの話だ」

 

「……」

 

千夜は呆然としていた。

 

「千夜、大丈夫か?」

 

「え、ええ! だいじょうぶ、大丈夫…よ?」

 

俺が顔を覗き込むと千夜は慌てたように手を振った。

 

「さすがに予想外だっただろ?」

 

「予想外、というかなんといえばいいのかしら、想像以上だったわ…誰もそんな経験したことないでしょうし」

 

「俺みたいなやつがあちらこちらいたらそれはそれで問題だよ……で、どうする? まだ話し続けるか?」

 

そう問いかけると千夜は悩み出した。このまま俺の話を聞いてもいいのだろうか、と。

 

「本当に今更だけどコウナくんは大丈夫なの? 私が聞き出したのにこんなこというのは酷いと思うけど、その、昔のことを思い出して辛いならもう……」

 

「別に聞きたいならかまわないよ。千夜の言う通り今更だし、過去のことはそれなりに割り切っているから」

 

「それじゃあ……聞かせてくれるかしら」

 

「わかった。それで――どこまで話したっけ? ああ、そうだ。実家から逃げ出したところか」

 

「ええ…」

 

「どう話したもんかな……俺と姉は家から逃げ出したあと、足がついて父親に見つからないように、いろんな場所を転々と周っていたんだ」

 

とにかく追っ手が来ないように、どこにいるのかわからせないために、俺と姉は色々と隠蔽しながら逃げ回っていた。

 

「俺も姉も名前を変えて、とにかく最初は周囲に知られないように隠れながら過ごした」

 

「それじゃあ、コウナくんの名前は本名じゃないのね」

 

「ああ、香菜の名前は姉が付けたんだ」

 

――菜の花の花言葉は快活、明るさ。鮮やかな黄色い花は皆の心を明るくするの。

 

「そんな菜の花の香りをみんなに運んで元気付けられる人になってほしい、そういう意味をこめてね」

 

「心優しいお姉さんね」

 

「ああ……」

 

そんな姉との二人での暮らしは余裕があったわけではなく、色々と切り詰めながらぎりぎりの生活を送っていが、決して嫌ではなく、あの家に居たときよりずっとよかった。

 

「格安の宿に泊まったり、姉の友人を頼ったり、父親や母親の息が掛かっていない親戚のところに身を寄せたり――ときには雨風しのげる廃墟なんかに入ったりしながら生きてきた」

 

「は、廃墟…?」

 

「そう、廃墟」

 

お金は姉が今まで貯めたものを切り崩していたけど、バイトなり何なり稼ぎ口が見つからないうちは極力使わないようにしていた。だからそういうところで凌いでた日もあった。

 

「不満なんてなかった。あの家に居るより、姉と笑い合って一緒にいられる日常のほうがずっと幸せだった」

 

目を閉じれば思い浮かぶあの頃の光景。優しい笑みを浮かべてる姉が俺は大好きだった。

 

「俺も姉の負担を軽くしようと色々したよ。逆に失敗したこともあって迷惑かけたときも合ったけど問題なく俺たちは生活していたんだ――だけど、そんな生活も終わりを迎えた」

 

俺は布団の中で拳を握る。忘れもしない、忘れたくても忘れられない、あの出来事。

 

「一年くらい経ったある日。住んでいたところに一人の男がやってきたんだ」

 

「男の、人?」

 

「そう、そいつは父親のライバル会社の社長で、偶然街で見かけた俺たち――というより姉の保護と支援を申し出てきたんだ」

 

「どうしてお姉さんだけ?」

 

「本当の両親たちは俺が生まれたということを周りに言っていなかったんだ。その意図はよくわからないけどね」

 

だから俺ははっきり言うとついでのようなもので、俺を連れて行くつもりはなかった。

 

「お姉さんの保護と支援…でもそれって――」

 

「そう。千夜も店を営んでいるならわかると思うけどおいしい話には裏がある。姉もそれをわかって断っていたんだ。生活が安定していて必要なかったっていうのもあったし、そもそも街で見かけただけの人が俺たちのところに来た時点で怪しいからね」

 

独自のルートで調べ上げたのか、尾行したのかわからない。けどライバルでも父親と少しでも関係のある人間に姉が頼るわけがない。

 

「とにかく姉がその話を受けることはしなかった。男もそのときはおとなしく引き下がったんだけど――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろここも潮時ね…申し訳ないけど仕事先も変えないと」

 

その日の夜、俺たちは住む場所を変えるため家を出る準備をしていた。

 

「ごめんね。何回もこんな事になって」

 

申し訳なさそうに言う姉に俺は首を横に振った。

 

「ううん、お姉ちゃんが居るなら僕はどこでも大丈夫だよ」

 

「…ありがとう。コウナ」

 

優しい手つきで俺の頭を撫でてくれる姉。俺も気持ちよさそうに目を細めて笑った。

 

「さて、それじゃあ行きましょうか――」

 

立ち上がって姉は俺に手を差し伸べる。俺も頷いてその手をとった。そして家を出ようとしたそのとき、

 

 

 

 

 

「おらぁ!!」

 

 

 

 

 

古い扉が乱暴に蹴破られた。

 

「!!」

 

「っ、なに!?」

 

急に入ってきたサングラスをかけたスーツ姿の男は俺たちを見ると面倒くさそうに頭を掻いた。

 

「お前か、――家の長女って言うのは」

 

「誰ですか、人の家に土足で勝手に入り込んできて」

 

「あーあー、そういう下らない問答はやめようぜ。わかるだろ、お友達とかじゃないことくらい」

 

「父の手のものですか」

 

父という単語に俺はびくりとする。だが、男はにやりと歪ませるように笑った。

 

「お前の親父とは関係ねえなぁ。まああると言えばあるがすごい遠回りな関係だな」

 

「なら今日来た男の手先ですか。随分と行動に移すのが早い」

 

「ふん、頭の切れる女だ。あんなお坊ちゃまみたいな社長さんのものにするには勿体ねえな」

 

下衆染みた目で姉を見る男。

 

「そこまでにしておけ」

 

だが、その男の後ろから奴を咎めるような厳格な声が聞こえてきた。

 

「アニキ」

 

「ペラペラ喋るのはお前の悪い癖だ」

 

すみません、と俺たちの前に現れたときとは打って変わったような殊勝な態度。

そして道を開けるように横に逸れて、姿勢を正した。

アニキと呼ばれたいかにもヤクザの首領を張っているような顔つきの男は俺らを見てふう、と静かに息をついた。

 

「――家の長女よ、用件は唯一つだ。俺たちと一緒に来てもらう」

 

「デートのお誘いはもっとムードというものを出さないと誰一人として相手にしなくなるわよ?」

 

「生憎だが、俺にはしっかり家内がいるから心配しなくても結構だ」

 

「そんな人間が人攫いだなんて、奥さんも悲しむわね」

 

「そういう仕事だからな、あいつも承知で俺と一緒に居るんだ」

 

「あ、アニキ…? ノロケ話はそこまでに……」

 

「……とにかく、一緒に来い。おとなしくしていれば危害は加えない」

 

男たちがにじり寄って来る。そのときの光景はあの時の父親と重なった。

 

「私はこの子と一緒に暮らしたいだけ…この子を残してどこかに行くつもりはないわ。だから――」

 

姉は腕を振りかぶる。

 

「悪いけど、そのデートのお誘いは断らせてもらう、わ!!」

 

そう言って姉は煙幕を張った。

もしものために逃走ルートは確保していた俺たちは気づかれないように家から脱出する。

 

「こっちよ!」

 

「うん!!」

 

俺たちはあらかじめ用意していた道を走り抜ける。だが――

 

「あがっ!?」

 

「コウナ!!」

 

誰かに頭を掴まえられ、俺は地面へと押さえつけられた。

 

「ガキが! 下手に出てりゃ、調子に乗るなよ!!」

 

怒りに顔をにじませた下っ端の男が俺の頭をもう一度地面に叩きつける。

 

「がっ!?」

 

痛みで意識を失いかける。だけどここで気を失えば全部が終わってしまう。唯一俺を見捨てて逃げてくれれば姉はなんとかなるのだろうけど、彼女はそんなこと絶対にしないだろう。

 

「コウナ!!」

 

「おっと、俺に手を出そうとしたらこいつがどうなるかわかるよなぁ。おとなしくするんだな」

 

下っ端は俺の首を持ち上げて姉にさらす。

かろうじて開かれた瞳が姉の悔しそうな顔を映した。

俺がヘマをしなかったらこんなことにはならなかった。何のために俺は姉に鍛えてもらったんだ。

情けなくて、苦しくて、怒りがわいた。その怒りが俺を突き動かした。

 

「ぐ、ぎゃあああ!? 手が、手がぁ!?」

 

下っ端は突然に悲鳴を上げて俺を乱暴に落とす。掴んでいた手には小さなナイフが刺さっていた。俺が、自分のポケットに忍ばせていたサバイバルセットのナイフを突き刺したのだ。

 

「コウナから離れなさい…この下衆!!」

 

「うごっ!?」

 

姉はひるんだ下っ端男を蹴り飛ばす。吹っ飛ばされた男はごろごろと地面を転がっていく。

 

「コウナ、大丈夫!?」

 

「ごめん…お姉ちゃん……」

 

「あなたは悪くない、油断した私の責任よ。ほら、私に掴って。逃げるわ」

 

姉はそういったけど俺は首を振った。

もう小学生に上がる年の子供を背負ってあの二人から逃げ切られるとは思えなかったからだ。

 

「だいじょうぶだよ、僕も走れる。だってお姉ちゃんに鍛えられたんだから」

 

家を離れる決心をしてから今までの二年間。俺もただ過ごしていたわけではない。もしのものために備えて姉から鍛えてもらっていた。そのおかげで身体能力はかなり向上していた。

 

「…わかったわ、無理だと思ったらすぐに言うのよ」

 

「うん」

 

それをわかっていた姉も余計な押し問答をせずそういった。その直後、

 

「この、糞ガキがああぁぁぁ!!! 殺す!! じっくり痛めつけてから殺してやる!!」

 

「「!!」」

 

姉の蹴りを食らった男が怒りに狂ったように叫ぶ。

 

「行くわよ!」

 

「うん!!」

 

姉は再び煙幕を撒き散らしてから、俺たちは走り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、追いかけてこないかな……」

 

それから建物の陰に隠れながら移動していた俺たちは下っ端の男を撒くことに成功した。

 

「油断しては駄目よ、まだあいつらはきっと私たちを探しているはずだから」

 

姉の言う通り男たちを撒いたとはいえ、まだ安全とはいえなかった。

物陰から様子をうかがう姉。慎重になりすぎているといえなくもないが安心できるような状況が一番油断になると、俺は逃げようとした一年前のあの日に学んでいる。

 

「コウナ、こっちよ。静かにね?」

 

俺は無言でうなずいて姉の後ろをついていく。そのとき、大きな乾いた音がなった。

 

「――ッッッ!!」

 

その直後、今度は俺ではなく姉が声も出さず倒れた。

 

「お、お姉ちゃん!?」

 

「う、あ……ああああああ――――!!!!」

 

それから遅れてやってくる姉の叫び声。彼女は脚を押さえながら苦悶の表情を浮かべていた。

 

「お姉ちゃん――」

 

どうしたの、と俺は続きを言うことができなかった。

姉の太腿から流れる赤黒い液体。そしてその流出口は真っ黒い穴が空いていた。

 

「本当は使いたくはなかったんだが……仕方あるまい」

 

低い声で淡々と言うのは兄貴と下っ端から慕われていた方の男。

 

「あ、ぐ……」

 

「安心しろ、死ぬようなところには撃ってはいない」

 

男はそう言うが、打ち抜かれた脚からはおびただしい量の血が流れ出ている。そして、俺の想像を超える痛みが姉を襲っているのだろう。

 

「お姉ちゃんにこれ以上近づくな……!」

 

転がる姉に近づく男の前に俺は両手を広げて立ちはだかる。

だが、それは小動物が敵を威嚇するようなものに等しかった。

 

「小僧、そこをどけ。邪魔をするなら容赦はできん」

 

父と同じような本物の圧というものを俺は実感する。このままいれば、あのときのように抗うこともできず、ただ叩きのめされて、ボロ雑巾のようになると、俺の直感が告げていた。

だからといって、ここを退く気は俺にはさらさらなかった。

 

「こ、うな…駄目、逃げなさい……!!」

 

「お姉ちゃんはずっと僕を守ってくれてた。だから今度は僕が守る、お前なんか怖くない!!」

 

姉のバッグから小ぶりのナイフを取り出して、切っ先を男に向ける。

 

「帰れ! もう僕たちに構うな!!」

 

「小僧、気概と度胸は認めてやる。しかしお前はまだ幼い。歯向かうには力も、立場も、何もかもが足りない」

 

刹那、男が振るった腕を間一髪のところで俺はかわす。そして男の腕を切りつけた。

男の服の袖に切り口がついて、そこの傷から紅いものが滲む。自分の傷を見た男はほう、と感嘆した声を漏らした。

 

「……まさか俺に傷をつけるとはな」

 

「うるさい、うるさい、うるさい!! 早くどっか行け!!」

 

「喚くな、今のうちにそこの娘を引き渡せ。じゃないと――」

 

途端、視界から男が消え、代わりに来たのは横からの強い衝撃。俺は意識がまた吹っ飛びそうになった。

 

「ふはははは、ようやく見つけたぞ…ガキ共」

 

「おい、落ち着け。そこの小僧は――」

 

「殺す。この舐め腐ったクソガキ共は俺が殺す!!」

 

やってきたのはさっき姉が蹴り飛ばしたチンピラ風の下っ端。

 

「まずはお前からだクソガキ。あの女に絶望を味わわせてから殺してやる」

 

馬乗りになった下っ端は俺を殴る。殴って殴って殴りまくる。

 

「がふ、ご、あっ!?」

 

「コウナ!!」

 

最初の衝撃で鼓膜が破れた俺はもう姉の声も聞こえなかった。

殴られすぎて痛覚がおかしくなったのか、痛みという感覚もなくなってきた。

 

「もうやめて、お願い!! 私、いくから! あの人のところに行くから! だから……もう、これ以上コウナを殴らないで!!」

 

「ごぼっ――」

 

「お願い、お願いよ…もう、やめて……」

 

姉が何を言っているのかは俺にはわからない。ただ、涙を流して苦しそうにしていたことだけはわかった。

 

「おい、そこまでにしておけ。本当に殺したらことだ」

 

「フゥ――フゥ――」

 

男に肩をつかまれ、興奮しながらも下っ端は止まる。

暴力の嵐にさらされた俺は虫の息だったが辛うじて意識が残っていた。

 

「おい俺だ。対象を捕獲した。今すぐ迎えをよこせ。場所は――」

 

男がどこかに連絡した数分後、黒塗りの車が目の前に止まった。

姉を担いだ男は下っ端を引き連れてその車へと歩みを進める。

 

「マ゛、デ……」

 

俺は立ち上がり、声にならない声を上げる。

 

「がえぜ……お゛ねえぢゃんを、かえぜ……」

 

自分でもわからない声は男たちに届いたようだ。俺を見た姉は口を手で押さえ、男たちは目を見開いていた。

一歩、また一歩と俺は身体を引きずる。力が入らずに倒れても這うように近づく。その様はまるでゾンビのようだった。

 

「……お願い。少しの間でいいから、あの子のところに行かせて」

 

「変なことは――」

 

「しないし、出来ないわ。逃げたにしてもこの脚じゃすぐに追いつけるでしょ? 行く前に――せめてあの子を屋根のあるところに置かせて」

 

「……いいだろう」

 

男は姉を俺の目の前に下ろした。男は無粋だと思ったのか姿を消す。

 

「お゛ねえ゛ぢゃん……」

 

うつろな瞳で姿を移す俺を姉はふわりと抱きしめた。

 

「ありがとう、コウナ。格好良かったわ。さすが男の子ね」

 

安心させるような笑顔に、優しい手つきで撫でる姉。

 

「もう大丈夫よ。だから、今日は安心してゆっくりと休みなさい」

 

「よか、った……」

 

俺も涙を流しながら笑い、そのまま姉の胸の中に沈んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

痛む足を引きずってコウナを雨風の受けない場所に降ろし、私の上着をかぶせる。

気を失ったとしても目を瞑る顔は年相応の幼い可愛らしい顔だった。

名残惜しむようにもう一度私はコウナの頬を撫でた。

 

「ごめんねコウナ。あなたを一人にしてしまう駄目なお姉ちゃんで…」

 

コウナの前髪を上げる。

 

「いつか、いつか必ず、私はあなたを迎えに行くわ。そのときあなたが私を許してくれるのなら……」

 

私は白いおでこに優しくキスをした。

 

「もう一度……一緒に暮らしましょう。私も……頑張る…からっ――ね?」

 

涙を流しながらぎゅっと手を握った。それに反応するように弱い力で握り返してくれるコウナ。

 

「そろそろ行くぞ、娘」

 

男が背後に立ってそういう。

無粋と言いたかったが、この状況では文句の一つも言えない。負けた私にこれをさせてくれただけでも御の字だった。だけど意思だけは伝えようと男を睨もうとする。

だが、振り向くと男の手には救急箱があった。

 

「あなた、それ…」

 

「勇気と度胸のある小僧に餞別だ」

 

「どういうつもり?」

 

「俺はこういう小僧は嫌いじゃない。別の形で出会っていれば、組に勧誘していたところだ」

 

「そんなことは絶対にさせるわけないでしょ」

 

「そうだな。お前を出し抜くには色々と苦労しそうだ」

 

目の前の男は始めて顔を崩した。だがそれも一瞬、すぐに仏頂面に戻る。

 

「ほら、さっさといくぞ」

 

「わかってるわ――コウナ、行ってきます……」

 

私はコウナに背を向けて歩く。いつか来る"ただいま"を言うために――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん――うぅ…?」

 

気を失ってからどれくらい経ったのか、俺は目を覚ます。

目を動かすとそこは見知らない場所だった。外は雨がとめどなく降っている。

 

「痛――っ」

 

身体に奔る鈍痛。その痛みに俺はさっきまでのことを思い出す。

 

「そうだ、お姉ちゃんは…」

 

周りを見渡しても姉の姿はいなかった。その代わり、自分の隣に置かれていたのは赤十字が描かれた一つの箱。

 

「お姉ちゃん…どこ……?」

 

俺は痛みを堪えながら立ち上がり、姉を探す。

 

「お姉ちゃん! お姉ちゃん!!」

 

叫んでも姉が姿を現すことはなく、ただ見えるのは延々と雨が激しく地面を叩いているだけ。

 

「……」

 

俺はその場にへたり込んでしまう。それと同時に涙がこみ上げてきた。

 

「お姉ちゃん…う、あ、うぅ……」

 

何も出来なかったという後悔と自責。ただ姉に守られ続け、その結果、俺は姉を失うことになった。

 

「うあああああ――! ひぐっ……えぐっ…あ、あああああ――――!!」

 

俺は声を上げて泣いた。姉を連れ去った元凶の男を憎み、人攫いの二人を恨み、自分の無力さを呪いながら、何度も姉の名前を呼んだ。俺の元にいない姉の名を、俺は声が枯れ、涙が枯れるまで、叫んだ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

痛む身体を引きずりながら俺は途方に暮れていた。

 

大事な人が居なくなって、それでもどこかに居るのではないかと希望を持って歩いていたが、時間が経つに連れて嫌でもわかった。

俺はまた倒れた。もう何もする気になれない。このまま朽ちていくのならそれでもいい。

 

どのみち、お金もなければ荷物もない――何もない俺が生きていくことは不可能だ。

 

身体も言うことを聞かなくなってきたし、長時間雨に打たれて身体も冷たくなってきた。

 

それに何より、さっき散々寝たのに眠かった。

 

「おねえ、ちゃん――」

 

最後に一言だけそう呟いて、俺は眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「も~雨が降るなんて、でも傘持って行って正解だったわ。タカヒロ君には感謝しないと――って、あら? あれは――?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







いかがでしたでしょうか?
後悔などしておらん。私は遣り切った。これにて私の物語は閉幕です(嘘)

ではまた皆さん、また次回にお会いしましょう。
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