ご注文はうさぎですか? ~ココアと双子の弟~   作:燕尾

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どうも、燕尾です。
新年度始まりました。欝です。憂鬱です。
ダラダラ寝ていたい。動画見ていたい。学校にも行きたくないし、バイトも金・土連勤ふざけるな~休みを潰すなコンチクショウ







昔話part3 ~連れられた先にて~

 

 

 

暖かい重みと、柔らかい感触を感じて目を覚ました俺の視界に入ってきたのは、知らない天井だった。

 

「ここは……」

 

周りを見渡すと見たこともない一室。誰かが俺を連れてきたのだろう。

 

「ん……?」

 

身体を起こすとくいっ、と腕を引かれる。そのほうを見ると一人の女性が俺の手を握りながら息を立てて寝ていた。

 

「うわぁ!? ……っ、痛っ~~!!」

 

驚きで飛び上がるが、激しい痛みで俺はすぐに縮こまる。

 

「ん、んうぅ――?」

 

声を上げたせいか、俺の手を握っていた女性が目を細く開ける。そしてその瞳は次第に大きくなっていった。

 

「あっ、やっと起きたんだね!!」

 

笑顔を浮かべて何か言っている女性。だが俺には何も聞こえなかった。

 

「もう二日も寝ていたんだよ、君。それにすごい怪我をしてたから心配だったの。 一応お医者さんには連れて行ったけど、命に別状はないっていっていたわ」

 

口だけが動いて何も聞こえない。それは俺にとって、恐怖でしかなかった。

 

「どう? 寝ている間に包帯とか変えたけど、不自由はないからしら?」

 

「!? ――っ!!」

 

そして女性が手を伸ばしたとき、俺は痛さも忘れて、その女性の手を払った。

はじかれた女性は驚いた目をして俺を見る。そのときの俺はどんな顔をしていたかわからないが、少なくとも好意的ではなかっただろう。

 

「え、えーっと、ごめんね? 別にあなたに危害を加えようとか、そういうのじゃ――」

 

慌ててわたわたしている女性を尻目に俺は机の上をさした。

 

「かみ、と、ペン……ちょうだい」

 

上手く発音できているのかわからないが、女性には通じたようだ。

メモ帳とペンを受け取り、俺はすらすらと書いていく。

 

 

 

頭蹴られてから耳が聞こえない、だからなに言っているのかわからない

 

 

それを見た女性はなるほど、と手を打って、もう一つペンを持ってきてメモ帳に書き込んでいく。

 

 

ごめんね? そうとは知らなかったから――身体に不自由はない?

 

 

ない

 

 

良かった。あんなところに倒れて気を失っていたし、すごい怪我だったし二日も寝てたから心配したよ。

 

 

なにが目的?

 

 

 

「……目的?」

 

不思議そうに首を傾げる女性。

 

 

どうしてここに連れてきた?

 

 

それはあなたが倒れてて、怪我をしてて、危なかったから…かな?

 

 

うそ

 

 

嘘じゃないわ、あなたに危害を加えようとして連れてきたわけじゃないよ。

 

 

 

女性の書いている言葉は本当のことだっただろう。だが、このときの俺はこの女性の言葉も何も信じられなかった。信じられるのはここには居ない一人の姉だけだった。

 

「……困ったわ」

 

聞こえなくてもなんていっているのかわかるほど女性は困った顔をしていた。

しかし、俺にはそんなことを気にする余裕もなかった。

そのとき、空気を換えるかのように部屋の扉が開かれた。入ってきたのは俺の倍以上はある男性。

 

「あ、タカヒロ君」

 

「どうやら起きたみたいだね。調子はどうだい?」

 

 

 

誰?

 

 

俺が紙を向けると男性は不思議な顔をする。

 

 

ごめんね、私と同じで事情を知らないから。私の夫のタカヒロ君だよ。君の怪我の治療をしたのもこの人なんだ。

 

 

……ありがとう

 

 

姉に普段から礼儀礼節を重んじろと教えられていた俺は不承不承ながらもお礼を書く。信じられなくてもそれは礼儀だ。それに少なくともこの人たちは敵ではないと理解できた。

 

 

礼には及ばないさ。それでも妻が君を運んできたときは驚いたが。

 

 

男性は威厳ある雰囲気を出しながらも、優しく問いかけてきた。

 

 

どうして君はこんな傷を負って、あんなところに倒れていたんだい?

 

 

「……」

 

俺は紙に書こうとする。だが、紙に触れようとしたペン先はカタカタと震えていた。

小さな雫が目の前の紙とペンを濡らし、視界がぼやけた。

その直後、俺は強くも柔らかな感触に包まれる。

 

 

ごめんね、無理しないで。

 

 

赤ん坊をあやすようなゆっくりとしたリズムで背中をポンポン叩く女性。

俺は両手で押しのけようとしたが、女性はさらに抱きしめる力を強めた。俺は何とか離れようとするが、女性とはいえ大人の彼女の力に勝てることはなかった。

そしてなにより、自分の反発心とは裏腹に安らぎを求めていた心は素直だった。

結局俺は、泣き疲れて眠りに落ちるまで、女性から離れることはなかった。

 

 

 

 

 

目を覚ましてから夜が明けた次の日。二人と男性の父親を含めて、俺は改めて話をした。

実家のことに姉のこと、それからあの日になにがあったのか、すべて話した。

信用したわけではない。だが、事情を把握できない以上何も進まないし、最悪身元を調べられて実家に送られることになる。それだけは避けたかった。

三人とも、俺の話を聞いて顔を顰めていた。

 

「ひどい……酷すぎるわ」

 

「二つとも普段のイメージと実態はかけ離れているようだ。全部信じていたわけではないがまさかそこまでとは」

 

「親の風上にも置けんな…」

 

「ねぇ、タカヒロ君、お義父さん――」

 

「じゃが、それは……」

 

「君もいまの――家の話は知っているだろう。下手に手を加えるのは危険だ」

 

「お願い! 私がちゃんと面倒見るから!!」

 

「一応言っておくが、こやつはペットではないんじゃぞ?」

 

それから少しの間三人はなにやら話し合いをしていた。そして、結論が出たのか、女性は驚きの一言を書いて俺に見せた。

 

 

コウナくん、うちの子にならない?

 

 

俺は目を見開いた。

何をどう話したらそんな結論になるのかわからなかった。

 

 

なんで? 話、聞いてた?

 

 

もちろん。

 

 

意味が分からなかった。どう考えても俺は爆弾を抱えた厄介者でしかないのに、何を思ってそんなことを言うのか、理解できず、信じられなかった。

 

 

……僕の家族はお姉ちゃんだけ。

 

 

そのお姉さんはいまいないのよ?

 

 

「お、まえ……!」

俺の小さな手が女性の胸倉を掴む。だが、彼女はひるむことなく真剣な表情で俺を見返した。

 

 

あなたみたいな子供が、この先生きていけるわけないでしょう? あの時だって放って置いたら死んでいたのかもしれないのに。

 

 

「それで、よかった……あの、まま…消えれていればよかった……! 僕がいるから、お姉ちゃんが、辛い思いを、する。だから…僕なんか……いなければ、よかった!!」

 

伝わっているかも分からない俺の言葉を聞いて女性はあからさまに怒りをにじませる。

 

 

いいわけないでしょっ!!

 

 

「……っ!?」

 

書きなぐったメモ用紙を突きつけられて、俺は息を呑んだ。

 

 

いなければいい人なんかいないわ。そんなこと言ったらあなたを守ったお姉さんが救われないじゃない!! 

 

 

「二人とも、少し落ち着きなさい」

 

男性が冷静に俺と女性の間を仲裁するが、女性の興奮は収まらなかった。

 

 

決めた。コウナくん――うちの子になりなさい。嫌なんて言わせないんだから!

 

 

さっきとは違った、命令口調。

 

「ふざ、けるな…絶対出て行く」

 

逸れに対して俺は思い切り首を横に振るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

香風夫妻に拾われてから一ヶ月、俺が負っていた怪我は完治し、鼓膜も再生してようやく耳が聞こえるようになった。

怪我が治ったことで香風の家にいる理由はなくなったのだが、しかし俺はこの家から出ることは出来なかった。

 

「おはよう、コウナくん」

 

そう、この人だ。ノックもなしに入ってくるこの人だ。元々はこの人たちの家だから必要ないのだが、毎日毎日唐突に突撃してくるものだから気が休まらない。

 

「……」

 

「ちょっと、無視は良くないよ。挨拶は基本。コミュニケーションの始まりなんだから」

 

「……おはよう、ございます」

 

そういった俺の顔は無愛想だっただろう。だが、そんなことも気にせずに女性――香風アイナさんは満足げに頷いた。

 

「はい、おはよう。調子はどう?」

 

「問題ない、です」

 

「そっか。それなら、今日――」

 

「いい」

 

ずっとこんな感じだった。アイナさんが俺を誘ったり、色々と興味を引こうとしたりして、それに対して俺はそっけなく、アイナさんを見ることなく、断る。そんな毎日を繰り返していた。

そんな日々を過ごす中で、ある日ちょっとした変化が訪れた。

いつもの通り、ノックもなしにドアが開かれる。

しかし、やってきたのはアイナさんではなく、彼女を二周りも幼くしたような容姿の少女――チノちゃんだった。

 

「こ、こん、にち、は…」

 

「……こんにちは」

 

つたない挨拶をするチノちゃんに一拍遅れながらも俺も返す。

不本意でここの家に居り、香風夫妻やマスターに対して無愛想のように接していても、さすがに自分より年下の少女につれない態度は俺は取れなかった。

 

「おかあさんが、おにいちゃんがあそんでくれるって……」

 

「……えっ?」

 

「あそんでくれないの……?」

 

不安げに瞳を潤ませるチノちゃん。それを断ることは俺には出来なかった。

 

「いいよ――何して遊ぼうか?」

 

「っ、それじゃあ、えほんよんでっ!」

 

ぱあ、と表情を明るくして、とことこと自然に俺の膝の上に乗るチノちゃん。

そうして、俺の日常にチノちゃんが加わった。そのことによって態度も少し軟化していったことに当時の俺は気づかなかった。今思えば少なからずこれを狙ってチノちゃんを俺のところに向かわせたんだろう。それに俺自身、生まれた境遇ゆえに年下の子と接することはなかったから新鮮さを感じてもいた。無邪気に寄ってくるチノちゃんと俺が仲良くなるのはそう遅くはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が香風の家にお世話になり始めて半年が経った頃のある日の夜。みんなが話していたこと俺が知ったのは偶然のことだった。

 

「アイナ、親父。大変なことになった」

 

「なんじゃタカヒロ。お前がそんなことを言うなんて珍しいの」

 

「なにがあったのタカヒロくん」

 

ドアの隙間から覗くと、タカヒロさんとアイナさん、マスターが深刻そうな顔をして話していた。

 

「――家が、本格的にコウナくんやそのお姉さんの行方を捜し始めたようだ。この近辺でも、強引な捜査をしているらしい」

 

自分の実家の名前が出て俺は心臓が跳ね上がる。

タカヒロさんは友人の伝などを使って俺の姉の行方を探してくれたり、実家の情報を得て俺の居場所が知られないように情報を錯綜してくれたりしていた。だが、それにもそろそろ限界が訪れたのだ。

そして重苦しい空気の中、タカヒロさんはその口を開いた。 

 

「――コウナくんをこの街から離れさせるべきだと、俺は考えている」

 

タカヒロさんの言葉にショックを受ける。俺のことを思っての言葉なのだが、そのときはそう思うことが出来なかった。

ただ、"ああ、自分の居場所はどこにもないんだな"と考えてしまった。

 

「でも、ようやく…」

 

「その気持ちはよくわかる。だけどアイナ、それは俺たちのエゴだ。このままここにいても彼がまた辛い思いをしてしまう可能性のほうが大きい」

 

「……」

 

アイナさんは唇を噛む。

 

「残された時間は後どれくらいなの?」

 

「一週間。それが限界だろう」

 

「短いのう。もう少し何とかできんのか」

 

「これ以上は周りにも被害が及びかねない。さすがにそこまでは頼めなかった」

 

「いいんです、お父さん。タカヒロ君もありがとう」

 

「力になれなくてすまない」

 

「いいの。私こそ無理言ってごめんね。ただでさえ私だけでも大変なのに、コウナくんのことまで。本当は私がもっと頑張らないといけなかったのに」

 

「そんなことないさ。君はずっとコウナくんと向き合っていたじゃないか。それは俺じゃ出来なかったことだ」

 

「コウナ君には私から話すわ。私が連れてきたのだから、その責任はちゃんと果たすわ。それと、預ける場所は保登さんの家が一番いいと思う」

 

その言葉にタカヒロさんも、マスターも反対することはなかった。

それから数日後、アイナさんの口から現状を話され、すべての事情を最初から知っていてただ頷くだけだった俺は街を離れ、保登の家に転がり込むことになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――そんな感じで俺は保登の家に預けられて、数年後に養子縁組を結んで、ココアたちと兄姉弟妹になったんだ」

 

「そう、だったのね」

 

「引いた?」

 

「そんなことは…ないのだけど」

 

千夜はちょっと目を逸らす。それだけで、大体わかった。

 

「気を使わなくてもいいよ。最初も言ったとおり、面白くもないただの昔話だし」

 

あはは、と笑う俺に対し、千夜の顔は晴れない。

 

「ごめんなさい。コウナくんが話したがらなかった理由がよくわかったの。私も最初は聞くつもりはなかったのだけれど、日を追うごとに気になって、それで……本当にごめんなさい」

 

「だから気にしなくていいよ。さっきも言ったとおり昔のことは大体割り切ってるし、いまこうして皆と居られるのが幸せだと思っているから。ただ――」

 

「ただ?」

 

「そう遠くないうちに姉だけは見つけたいかな」

 

「――っ、コウナくんはお姉さんが見つかったらどうするの? ココアちゃんのところから離れちゃうの?」

 

「それはなんともいえない。姉が今どんな状況にあるのかも知らないし、わからないことだらけだから」

 

姉がライバル会社の家から逃げて、不自由のない普通の生活を送れているのであれば心配はないのだが、もしそうじゃなかった場合、俺は――

 

「ただ残るにしろ、離れるにしても、ちゃんと話はするよ。それがいままで助けてもらった俺の責任だから」

 

「そう……」

 

そのときの千夜は寂しそうな、でもそれを誤魔化そうとする、なんとも癒えない表情をしていた。

 

「さて、そろそろ寝ようか。それと――他の皆も口外しないでくれな? 特にいま言ったことはココアには絶対言うなよ?」

 

「「「っ!!!」」」

 

三つの布団がびくりと跳ね上がる。やっぱり起きていたんだな。

まあ、あんなに短期間で部屋とトイレを行き来したら誰だって目は覚めるだろう。

 

「それじゃあ、おやすみ」

 

俺は苦笑いしながら、俺は自分の布団に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寝付いてから数時間、夜も明けてきたころ、俺は柔らかい感触に目を覚ます。

 

「すぅ…すぅ…」

 

布団をめくると、そこにはココアの姿がまたあった。

 

「何してるんだ、ココアは…寝相が悪すぎるにもほどがあるだろうに」

 

頭を撫でてやると、ココアは幸せそうな顔をする。

 

「んぅ……ココア、お姉ちゃんだよう…コウくん……」

 

「……まったく、どんな夢を見ているんだか」

 

「コウナくん、私のことも千夜お姉ちゃんって呼んでいいのよ……」

 

「千夜も来ていたのか……」

 

はぁ、と思わずため息が出てしまう。

 

「駄目だよ千夜ちゃん…コウくんのお姉ちゃんは私なんだから……」

 

「ちょっとぐらい、いいでしょう……」

 

「夢の中で喧嘩するなよ…まったく……」

 

それに千夜。千夜は俺にそう呼ばれたかったのか?

そんなどうでもいいことを考えながら、俺はそのまま目を閉じてまた眠りにつく。

起きてから、先に起きたココアに千夜が隣で寝ていることに気づき、頬を膨らませて、俺が大変な目にあったのはまた別の話。

 

 

 







いかがでしたでしょうか?
次からは日常へと舞い戻ります。




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