どうも、燕尾です。
ごちうさ第18羽目です。
今日のバイトは空気が重かった、というのも――
「……」
――ぷくつーん
餅のように頬を膨らませるチノちゃん。チノちゃんの上にいるティッピーもチノちゃんの気持ちを表現しているのか、頬を膨らませていた。
「ね、ねえ、チノちゃん?」
「なんですかコウナさん?」
氷のような冷機を感じるトーン。俺はそれ以上踏み込むことができなかった。
「……いや、なんでもない。ごめんね」
「そうですか、お仕事に集中してくださいね」
「うん、ごめん……」
――すっごい気まずいっ!
チノちゃんの機嫌がすこぶる悪くて、その不穏な空気が俺たちのところまで届いている。
「コウナも気づいていたか」
「あれで気づかないって言うほうが余程だよ。リゼ、何か心当たりある?」
「いや私もない――ココアは何かわかるか?」
「? 何を?」
「いや、今日のチノなんか機嫌悪いだろ?」
「へ? そうかな? チノちゃんはいつも私につんつんだよ?」
「いつもそんなあしらわれ方してんの?」
「そうだった。確かにココアに対してはチノちゃんはつんつんしてるな…」
機嫌の良し悪しに限らず、ココアの扱いはあまり良くない。
「とりあえず、チノちゃんに事情を聞いてみようか」
意を決して俺とリゼはチノちゃんに話を聞く。
「チノ、なにがあったんだ?」
年長者として問いかけるリゼ。するとチノちゃんは事情をポツリと話し始めた。
「昨日ココアさんと私の部屋で遊んでいたときトイレに抜けたんですけど、返ってきたら机の上に毎日少しずつやるのが楽しみだったジグソーパズルがほぼ完成状態になっていたんです……」
「おう……ココア、なんてことを」
ショックだっただろう。楽しみを奪われて。
「しかも一ピース足りなかったんです」
「それはへこむな」
「悲しすぎるね…それは……」
事の顛末を聞いた俺たちは微妙な顔をするばかりだった。
事情を聞いた俺たちはココアに話しをする。
「――だってさ、余計なことしたなココア」
「うええっ? チノちゃん喜ぶと思ったのに!?」
「それは善意の押し付けだよ。ココアお姉ちゃん」
チノちゃんが手伝って欲しいといったのだったらまだしも本人に話も聞かず想像で行動したのは良くなかった。
「で、でもパズルのピースは最初から足りなかったよ?」
おろおろとするココア。自分が招いた事態に動揺している用だ。
「なくしたのがココアのせいと思ってはないだろうけど」
「楽しみを取られてショックだったんじゃないかな? ほら、ココアお姉ちゃんだってよく手を貸してきた兄さんたちに怒ってたことあったでしょ?」
「わ、わたし…わたし……」
わなわなと震えるココア。そして――
「お姉ちゃん失格だあああ!!」
「あ、ちょっ!? お姉ちゃん!?」
叫びながらラビットハウスから飛び出していった。
「…まぁ夜になる前には帰ってくるだろうから、いっか」
「お前ってたまにシビアだよな、コウナ…」
一つ一つ関わっていたら疲れるしね。子供みたいなココアだけど、もう高校生だ。余程のことはしないだろう。
「チノちゃん、昼休憩もらうね?」
俺はエプロンをはずして、外に出る準備をする。
「それはいいですけど、コウナさん。どこか行くんですか?」
「ちょっと散歩にね。ちゃんと時間までには戻るよ」
そう言って、俺はラビットハウスから出て行く。
「……コウナさんって、案外嘘が下手なんですね」
「前言撤回だな」
「おいコウナ。少しは落ち着いたらどうだ?」
「ん? なに言ってるのリゼ。ちゃんと落ち着いているよ?」
「だったらその体の震えをどうにかしろよ…」
呆れた視線を受ける。
やだなぁ、リゼは何か勘違いしているよ。これはちょっと寒いだけだよ?
「いまの季節は冬ではありませんよ、コウナさん……」
「それにしても、ココアの奴、帰ってこないな」
「心配しなくてもすぐ戻ってきますよ」
つん、とまだ機嫌の悪いチノちゃん。
「悪気はなかったんだからいい加減許してやったら?」
「私もこんなことでいつまでも怒っていたくないですけど」
「一度怒っちゃったから引っ込みがつかなくなってるんだね」
ばつが悪いように、チノちゃんが頷く。その気持はわからなくはないが、俺やリゼからしたら早く仲直りして欲しいものだ。
まあ、ココアはチノちゃんの様子の変化に気づいていなかったけど。
「さて、俺はそろそろココアのことを探しに行くよ」
「探しに行くって、当てはあるのか?」
「そんなの、ある訳ないだろう!」
「威張るな! 冷静になれコウナ!!」
脇から拘束してくるリゼに対抗する。だがどういうやり方をしているのか、リゼを振りほどくことは出来なかった。
「くそ、HA・NA・SE!」
「お前、一体どうしたんだ! キャラが変わりすぎだろ!?」
背中に当たる双子山の柔らかさも、今の俺には感じなかった。ただただ、ココアが心配なのだ。
「チノちゃん!」
すると、ようやくココアが帰ってきた。手にはなにやら大きい箱を持っている。
「パズル買ってきたから、これで許してっ!!」
「8000ピース!? 時間が掛かりすぎますよ!」
「だったらみんなでやろうっ! ねっ、ね?」
ココアは俺やリゼを見てくる。何か期待しているようなのだが、俺はそれに答えずゆらりとココアに迫る。
「――ココア」
「こ、コウくん…? どうしたの、何か怖いよ……? それと、ココアおねえ――」
「ココア」
「……はい」
俺はにっこりと笑う。
「――少しお話、しようか?」
「……はい」
俺はココアの首根っこを掴んで二階へと引きずって行くのだった。
ココアとのお話も終わりタカヒロさんと交代した後、俺たちはココアが買ってきたジグソーパズルに取り組んでいた。だが――
「協力して欲しいことがあるって聞いてきたけど…」
ヘルプできてくれたシャロが呆れたような視線を向ける。
「手伝ってぇ~」
「始めたはいいんですが、片付かないんです……」
ココアが涙目で呻いて、チノちゃんはげんなりとしていた。
「これは大変そうね」
いつの間にか俺の隣に腰掛けていた千夜が呟く。
「まあ、何しろ8000ピースだからね。簡単ではあるけど」
「あら? ならコウナ君が手伝えばすぐじゃないかしら?」
俺が手伝わないのには理由がある。
「俺が手伝うとすぐに終わるからあまり手伝わないんだ。それに――」
ちらりと俺はリゼに視線を向ける。
「……楽しい」
黙々と、だが楽しそうにパズルを組み立てていくリゼの邪魔になるようなことはしたくなかった。
それから千夜とシャロを加えてパズルを組み立てていく。
「ジグソーパズルなんて久しぶりだわ」
「パズルは端っこから作るのがセオリーだよな」
それから段々中へと派生させていくのが一番楽なやり方だ。
「チノちゃんが作ったところと合体!」
「あいそうですね」
シャロが自分で作ったところをチノちゃんが作ったところに繋げる。
「こっちはリゼちゃんの作ったところと合体だよー」
また、ココアがリゼの作ったものと繋げる。
その様子を見ていた千夜が少ししょんぼりしていた。
やれやれ、と俺はパズルを見る。そして千夜が作っていたところを判断してパズルの塊を寄せる。
「ほら千夜。これと千夜が作ったの、繋げられるんじゃないか?」
「えっ…あっ……!」
千夜が持っているピースがぴったりと填まり、二つをつなげた。
「な?」
「ありがとう、コウナくん」
「いやいや、たまたまだよ。千夜のと合いそうだったからね」
「ふふ…そうね。そういうことにしておくわ♪」
どうやら気づかれているみたいだ。ちょっと恥ずかしい。
「コウくん! こっちも繋げられるんじゃないかな!?」
するとココアがぐいぐい、と自分が作ったパズルの塊を寄せてくる。
「ん? いや、それと繋げられるやつは――うん、ないな」
「……むぅ。コウくんの馬鹿」
何で罵られるかはわからないが、急激に不機嫌になるココアだった。
千夜とシャロを加えてから一時間が経った。
二人を加えても依然として終わることはなく、みんなの集中力が切れ始めていた。
「ちょっとこれ、まずいんじゃないの?」
「そろそろ一旦、休憩を挟まないとな」
「おーい、ハートマークが出来たぞー」
「リゼ先輩、疲れてるなら休んでください…」
リゼもまともそうに見えて疲れ切っているし、ココアに至ってはパズルピースを持ったまま寝てる。
「あの、ココアさん。無理に責任とろうとしないでください」
そんなココアの様子をチノちゃんは勘違いして、寝ているココアに擦り寄るチノちゃん。
ちょっと面白いから俺はそのまま黙っておく。
「私もう怒って――って、寝てる!?」
案外早く気づいたみたいだ。
でも、チノちゃんも仲直りしようとしていることからそろそろ大丈夫だろう。
「ほらココア、起きろ」
「はっ! いけないいけない! 寝ちゃダメだ!」
「その通りです。まだパズルは完成していないんですから」
一転して態度を変えるチノちゃん。こうしてみるとチノちゃんはツンデレの才能があるんじゃないかと思えてくる。
「そういえば、これ完成したらどうするんだ?」
「喫茶店に飾るのもいいかもねー」
「いや、そうじゃなくて。これ何も下に敷いてないのにどうやって移動させるんだ?」
リゼの一言に、場の空気が重くなる。
そういえば何も敷かないでパズル作ってるのなんてすぐに気づくはずなのに俺もすっかり気にせずやっていた。
「私…気付いてたのにこの空気になるのが怖くて何もいえなかった…もっと早く言っていれば…私のせいでっ…!」
「余計重くなるから、自分を責めるのやめて!?」
「そうだよ千夜、なんとかなるって! ほら、組み立てたパズルだって簡単に崩れるわけじゃないんだから、紙一枚下に入れるぐらいできるから!」
シャロと俺で必死に千夜をフォローする。千夜は一度ネガティブなスイッチが入ると大変だ。
「そうだ! 休憩がてら何か甘いものでも食べないか、気分転換にもなるだろ?」
空気を変えようと、俺はそんなこと提案する。
「そうだね。そろそろお腹も空いてたしみんなの分のホットケーキ作ってくるよ!」
「! 私も手伝います!」
本当は俺が作ろうかと思ったのだが、後に続くように、チノちゃんも立ち上がるのを見て、言葉を引っ込めた。
「それじゃあ、二人とも。任せていい?」
「お姉ちゃんに任せなさい!」
「はい、私とココアさんで作ります」
そうして、二人はキッチンへと行く。
その様子を見て、俺とリゼは安堵した。
「どうやらあの二人、自然と仲直りできたみたいだな。よかった」
「うん。もう心配する必要はないみたいだね」
「えっ!? あの二人喧嘩してたんですか!?」
まったく気付いていなかったのか、シャロが声を上げる。
「だって、いつも以上にチノの口数が少なかっただろ?」
「それに声のトーンもいつもより低かったし」
そう言う俺たちに千夜とシャロはお互い顔を見合わせる。そして、
「「いつもあんな感じじゃないの?」」
二人は口を揃えていった。
「こいつらが鈍感なのか、私たちが勘繰り過ぎなのかわからなくなってくるな…」
「ん~そこは一緒に過ごしている時間が長いから、ってことにしておこう。あまり深く考えたらダメだよ、リゼ」
「…それもそうだな」
リゼは思考を放棄するように頷いた。
そんな他愛のない話しをしていると、慌てた足音が聞こえてくる。
「うわーん! チノちゃんが口利いてくれないよぉー!!」
何事かと思ったら、またココアが何かやらかしたらしい。
「自分でどうにかしろ」
「少しは自分の行動に責任を持ちなさい」
俺たちは突き放し、ココアをそのまま回れ右させる。
それからちょっとしたとき、また慌てた足音が聞こえる。
「大変です、ココアさんがケチャップで死んでます!」
今度はチノちゃんだった。どうやらさらにココアがなにかしたらしい。
「構ってもらいたいんだよ、真に受けるな」
「食料を無駄にするなってココアに言っておいて、チノちゃん」
チノちゃんも回れ右させる。
閉められた扉を見つめ、俺とリゼは深くため息を吐くのだった。
休憩にココアとチノちゃんが作ったホットケーキを食べ、再び作業をすること一時間――ようやくパズルが完成した。
とはいっても、半分くらいから俺がほとんどやったのだが。
「コウナが最初から本気出してたらもっと早く終わったんじゃないのか?」
「まあ、それはそうだけど」
みんなでやっていたものを俺一人で完成させるのはさすがに気が引けた。
そう話しながら額縁に完成したパズルをはめて、糊を塗っていた俺はあるものを発見する。
「ん? これは…」
「どうしたの、コウくん?」
覗き込むココアに俺はそれを手に取り魅せる。
「いや懐かしくて珍しいものがね。チノちゃん、これ手作り?」
「あっ、知恵の輪だ! なつかしー!」
ココアは知恵の輪を手に取り、構造を見る。
「昔おじいちゃんが作ってくれたんです」
「へぇ、器用なもんだね。店の営業もこれくらい器用に出来たらよかったのに」
「なんじゃと!?」
ティッピーが俺に肉薄するが、俺は片手で受け止めココアへと渡す。
「ココア、モフモフしてていいよ」
「わーい♪」
「ノォォォォ!」
「勝手に決めないでください! ティッピーは返してもらいます!」
チノちゃんがすぐにティッピーをココアから取り上げる。
「パズルピースに知恵の輪か…チノってパズルゲームが好きなんだな?」
「はい。知恵の輪も難しく作られていて何度も挑戦しても解けなかったんですが、いつか自分の力で解いて、おじいちゃんをあっと言わせてみます」
チノちゃんの目標に俺たちは顔を綻ばせる。
ここまで楽しんでもらえているんだ。マスターも製作者冥利に尽きているだろう。実際に満更でもないようにしているし。
「パズルといえば、ココアが完成させたパズルのピースはどこに行ったんだろうな?」
「こういうのは忘れた頃に見つかるのがよくあることですけど」
「そういうシャロちゃんは学校にランドセルを忘れたまま帰ってきた事があったわ」
「!!」
ほう、それは珍しい。というか、ランドセル忘れて帰るって…
「明日学校行けないー、って困っていたわね」
「というか千夜! リゼ先輩やコウナの前で昔の話やめてよ!」
「それは可愛いね」
「可愛くない!」
勢いでチノちゃんのベッドを叩くシャロ。すると、その上に乗っていたティッピーが跳ねて、そこからあるものが出てきた。
「ん、何か出たぞ?」
「これは…パズルのピースだね」
それは最初のパズルの最後の一ピースだった。
「ティッピーの中にあったなんて、気付きませんでした」
気付かないはずだ。まさかティッピーの毛に埋もれていたなんて誰がわかるというのか。
「わぁ、これで完成するね! よかったねチノちゃん!!」
興奮でかちゃかちゃと知恵の輪を適当に玩びながら喜ぶココア。
そのとき、何かが外れるような音がした。そこに注目すると、ココアの手にははずされた知恵の輪があった。
「ココア、お前」
「あらあら…」
「ココア、あんたね…」
「見事にはずしたね」
「……」
睨むチノちゃんにさすがのココアも、冷や汗をダラダラ流している。
「あ…あはははは…はは……」
「うううう――ココアさん!!」
「はい、お姉ちゃんって…」
「呼びません!!」
どうして呼んでくれると思っていたのだろうか?
せっかく仲直りしたのに、またチノちゃんの機嫌を損ねたココア。
長引くかと思ったのだが、次の日ちゃんと謝るココアはチノちゃんの許しを得るのだった。
いかがでしたでしょうか?
ではまた次回に!