どうも、燕尾です。
ごちうさ第二羽、あの軍人少女の本格登場です。
「――ん?」
「あ、起きた?」
目を覚ますと目の前にはココアの顔があった。というか、そのまま更衣室に運ばれていたのか俺。
「……ココア、なにしてるの?」
「ん~? 膝枕だよ。それと、ココアお姉ちゃん、でしょ?」
ムスッとした顔で俺の口に指先を当てるココア。
「はいはい……それで、何で膝枕してるのココアお姉ちゃん? それに、何で俺は寝てたんだ?」
「覚えてないのかな、コウくん?」
そういわれて、思い出すのはさっきの出来事。
ココアに目隠しされて一瞬しか見えなかったけど、下着姿の女の子、綺麗だったな。
「……コウくん、鼻の下伸びてる」
「そんなことはないよ」
「あの子の下着姿、可愛かったよね?」
「ああ、それはもう――」
そこではっ、と気づく。ココアはさらに頬を膨らませていた。
「コウくんのバカバカバカっ、他の女の子に浮気して!」
「痛い痛いっ! ぶつけられた所をジャストに叩かないで!?」
「むぅ~!」
銃をぶつけられた場所をポカポカと叩くココア。
「なにをしているんだ、お前たち……」
そこで呆れたように顔を出したのは先ほどのツインテ少女。その姿は当然下着ではなく、この店の制服と思しき姿だった。
「さっきはすまなかった」
「いえ、女子更衣室なのに突然入った俺が悪いんです、気にしないでください」
ポカポカ――
「ぶつけた頭は大丈夫か?」
「まだ痛みは残ってますけど、大丈夫です」
ポカポカ――
「――って、だから痛いって! やめてココアお姉ちゃん、俺が悪かったよ!」
「コウくん、本当に反省してる?」
「してる。本当にごめんなさい、ココアお姉ちゃん」
「うん、よろしい!」
お姉ちゃん呼びに目を輝かせて許してくれるココア。正直、このちょろさは心配になるほどだ。
そんなやり取りを見ていたツインテ少女はため息をはいた。
「とりあえず二人とも、制服に着替えて下にこい」
「あ、うん、わかった!」
「はい、すぐ行きます」
そして、俺とココアはそれぞれ着替えて下に降りる。
「どうかな、コウくん!」
先に着替え終わっていたココアがクルクルと回る。
白のシャツに黒のスカート、そしてピンクのベストのようなエプロンに胸元の大きなリボン。配色もココアが一番似合う暖色系だ
「ああ、似合ってる。可愛いよ」
「えへへ……ありがと、コウくんもかっこいいよ」
二人でほめているところにチノちゃんとツインテ少女がやってくる
「ふーん」
「いいです、二人とも似合ってます」
面と向かってそんなこと言われるのは少し恥ずかしい。改めて見ると二人はココアとは色違いの制服でツインテ少女は紫の制服、チノちゃんは水色の制服だった。
「改めて紹介します。こちらはバイトのリゼさんです」
「天々座理世だ、リゼでかまわない」
「本当にバイトさんだった…」
「なんだと思ってたんだ?」
「ん~、強盗さん?」
「違う!」
リゼさんが叫ぶ
まあ、銃を持って潜んでいればわからなくはないが、その勘違いはどうかと思う。
「私は父が軍人で、幼いころから護身術とかいろいろなことを仕込まれているだけで」
それなら納得だ。とはいっても染まりすぎな気もするけど。
「普通の女子高生だから信じろ!」
うん、それは無理だ。とりあえずは銃を捨てるところから始めてください。
「俺は保登香菜。で、こっちは姉の心愛です。俺のことはコウナで構いません」
「私はココアで大丈夫だよ!」
「ああ、よろしく。コウナ、ココア」
「自己紹介も済んだところでリゼさん、先輩としてコウナさんとココアさんにいろいろと教えてあげてください」
それを聞いたリゼさんは目を輝かせる。
「きょ、教官ということだな!」
「うれしそうですね」
「この顔のどこがそう見える!?」
チノちゃんの指摘に反発するリゼさん。だけど、
「すっごいにやけてますよ、とりあえずよろしくお願いしますリゼさん」
「よろしくねリゼちゃん」
「上司に口を聴くときは言葉の最後にサーをつけろっ!」
「落ち着いて、サー!」
やっぱり、リゼさん。なんだかんだで影響を受けているんだな。
「コウナ、返事がないぞ!」
「すいません、サー」
ちなみに言うと、サーは男性につけるものだ。女性なら普通はマムだ。
俺たちはリゼさんに連れられて保管庫にやってくる。
「じゃあ、このコーヒー豆の入った袋をキッチンまで運ぶぞ」
そういって、リゼさんは大きな袋を一つひょいと持ち上げる。だけど、
「お、重い…これは普通の女の子にはキツイよ…」
やっぱりココアには文字通り荷が重かったかようだ。そしてその言葉を聞いたリゼさんは慌てて袋を置いた。
「あ、ああ! 確かに重いな、普通の女の子には無理だ! 普通の女の子には無理だ、うん」
ここは何も言わないほうがいいのだろう。別に力がある女の子だって普通だと思うけど。
「それじゃあ、大きい袋は俺が持っていきますよ。二人は小さい袋を持ってもらえますか?」
「そうするよ。コウくん、お願いね?」
「すまないなコウナ。頼む」
そう言って二人は小さい袋に手を伸ばす。だが、
「よっと……」
「小さいのでも重い! 一つ持つのがやっとだよ~!」
持ち上げるのに苦労しているココアに対して袋を四つ両腕に掲げるリゼさん。リゼさんは再び慌てて三つの袋を下ろして、
「ああ、確かにっ! 一つがやっとだ! 一つが……」
もういいじゃないか。素直に持って行きましょうよ…
「なんだコウナ、何か言いたいことでもあるのか……?」
ジト目でリゼさんを見ていると視線に気づいた彼女は言ったら撃つといわんばかりの眼光で睨んできた。
「いいえ、なんでもないです――よ、っと」
俺は大きい袋を二つ両腕で抱える。それを見たココアとリゼが驚く。
「すごいねコウくん、力持ちだね!」
「私でも二つは無理な――んでもない! さすが男だ!」
もう取り繕わないでっ、リゼさん!
なんだか、リゼさんの意外な一面を見た気がした。
「ココア、コウナ。メニュー覚えとけよ?」
メニュー表を差し出してくるリゼさん。
受け取ったココアと一緒にメニューを見る。改めてメニューを見たココアは難しい顔をした。
「コーヒーの種類が多くて難しいねー」
「そうか? 私はひと目で暗記したぞ? 訓練しているからな」
「すごいっ」
「チノなんて香りだけでコーヒーの銘柄を当てられるぞ?」
「私より大人っぽい!」
褒められたチノちゃんは少し照れていた。
「だが、ミルクと砂糖は必須だ」
「あっ! なんか今日一番安心した!」
うん、可愛いと思うのは仕方が無い。ほのぼのするよ。
「コウくんはどう? 覚えられそう?」
「ん? 俺はもう覚えてるぞ?」
「ええっ!?」
「なんだ、コウナも訓練していたのか?」
「訓練じゃないですよ、生まれつきです」
どういうことだ、と首を傾げるココアとリゼさん。
そういえばココアにも言ったことはなかったな。
「俺は目に映ったものを映像のように記憶できるんです」
「映像記憶って奴か。でもそれって一種の病気じゃなかったか?」
「まあ、そういう人もいますけど俺は一応大丈夫ですよ」
「そ、そんなこと聞いたことなかったよっ!?」
ココアが身を乗り出して詰め寄る。
まあ言う必要がなかったからね、それに苦労することもあったし。
「コウくんの裏切り者~!」
そういうココアにも出来ることはあるだろうに、例えば――
「チノちゃんはなにをしているんだ?」
チノちゃんは持っていたノートを見せてくれた。そこにはいろいろと書かれた計算式。
「春休みの宿題です。空いた時間にこっそりやっています」
「へぇ~どれどれ……」
ココアはノートを見る。そして、
「あ、その答えは128で、その隣は367だよ~」
すらすらと答えを言うココアに驚いた表情をするチノちゃんとリゼさん。
「ココア、430円のコーヒーを29杯頼むといくらだ?」
「12470円だよ」
リゼさんが出したちょっと面倒くさい計算問題も一瞬で答えを言い当てるココア。
「それじゃあ、ココア。10パーセントの食塩水300グラムとxパーセントの食塩水450グラムを混ぜたとき7パーセントの食塩水が出来ました。さて、xに入る数字は?」
「5パーセントだよ――って、コウくんまたお姉ちゃんを呼び捨てにした!」
「こいつ、馬鹿そうに見えて意外な特技を…!」
リゼさんが顔を歪めながら言った。
ココアはどういうわけか暗算が得意だ。以前にフラッシュ暗算を試したのだが、間違えることなく全問正解した。ただ自覚がないだけで、ココアはちゃんとした特技を持っている。
「はあ、私も皆みたいに何か特技があればなぁ~」
無自覚って本当に怖いよね。
「いらっしゃいませー♪」
研修という形で今日は来店に合わせてココアと一緒にお客を出迎える。
「あら、新人さん? しかも二人もいるなんて」
「はい、今日から働かせて頂くココアって言います。それでこっちの子が私の弟のコウナです!」
「いらっしゃいませ、コウナと言います。よろしくお願いします」
俺はココアの紹介にあわせてお客さんに一礼する。
「よろしくね、キリマンジャロお願い」
「はーい!」
「かしこまりました」
「ふーん、ちゃんと接客できているじゃないか」
「心配ないみたいですね」
その様子を見ていたチノちゃんとリゼさんが感心したように頷いた。
「やったー! 私注文ちゃんととれたよ!」
「あー、はいはい」
「えらいえらい、です」
ニコニコと戻ってくるココアを軽く流すリゼさんとチノちゃん。ココアは無邪気に喜んでいた。
「この店の名前ラビットハウスでしょ? ウサ耳はつけないの?」
「ウサ耳なんてつけたら別のお店になってしまいます」
確かに、着けたらなんかどこぞのメイド喫茶になりそうだ。
「リゼちゃんはウサ耳似合いそうだよねー」
「そんなもんつけるかバカ!」
するとリゼさんは自分がつけたところを逡巡したのち、叫んだ。
「露出度高すぎだろ!」
「ウサ耳の話しかしてないのに?」
なにを想像してたんですかリゼさん。まあ予想はつきますけど。
「教官! じゃあ何でラビットハウスなのでありますかっ?」
なぜそれをチノちゃんに聞かないんだ?
「それは、ティッピーがマスコットだからじゃないのか?」
「うーん、でもティッピーうさぎっぽくないよ? もふもふだし」
ココアがそういいながらチノちゃんの頭にいるティッピーを撫でる。
「じゃあ、どんな店名がいいんだ?」
「ずばり、もふもふ喫茶!」
「そりゃ、まんますぎるだろう……」
リゼさんが恐る恐るチノちゃんの様子を伺う。
「もふもふ喫茶……!」
しかし、チノちゃんは目をキラキラさせて前のめりになっていた。
「気に入ったんだな、チノちゃん……」
幾人かのお客さんが来店し、注文を受けたときに俺とココアは、リゼさんがあることをしていることに気づいた。
「リゼちゃん、なにやっているの?」
「ラテアートだよ。カフェラテにミルクの泡で絵を描くんだよ。この店ではサービスでやっているんだ」
「へぇー、そういうこともしているんですね」
「絵なら任せて! これでも金賞をとったことあるんだから!」
張り切って腕をまくるココア。だけどそれって確か――
「町内会の小学生低学年の部とかいうのはナシな?」
ココアが固まった。うん、賞をもらったのはその時期だったはずだ。
「まあ、何事も経験だ。手本としてはこんな感じに……」
リゼさんが作ったラテアートはハートの花が咲いたような絵だった。
「わっ、すごい上手い!」
「器用なんですね、リゼさん」
「そんなに上手いか?」
少し照れた様子のリゼさん。褒められるのに慣れていないのだろう。
「すごいよー。リゼちゃんて絵上手いんだね。ねっ、もう一個作ってみてよ」
「しょ、しょうがないなー! 特別だぞ! ちゃんと作り方も覚えろよ!」
おや? なんかリゼさんの様子がおかしくなったぞ?
スタイリッシュにミルクを注ぎ、絵かき用の棒をくるくると回し――
「うおおおおお――――!!!!」
ものすごい速さで描いていく。
「できた――!」
そして出来上がったものは、主砲から弾を打ち出した戦車の絵。
「まったく上手くないって、私なんか!」
そういうリゼさんの顔はどこか誇らしげだった。
「いや……上手いってレベルじゃないよ、というか人間業じゃないよ…」
「そんなことないってー!」
あ、わかった。リゼさんって褒められると調子に乗るタイプなんだな。
「よーし、私たちもやってみよう、コウくん!」
「そうだな、一つやらせてもらおう」
そういって、俺とココアはカフェラテにミルクを注いで絵を描いていく。
冷めないように手早く、だけど崩れないように慎重に、リゼさんがやっていたようにする。
「う……なんか難しい、イメージと違う……」
しかしココアは思いのほか四苦八苦していた。
「どれ、見せてみ……っ!?」
リゼさんがココアのラテアートを見る。すると、顔を真っ赤にして手で覆った。
「笑われてる!?」
プルプルと震えているリゼさんを見たココアはショックを受けていた。
うん、まあなにもいうまい。俺は俺で集中する。
「こんなものかな?」
「コウくんもできたの? 見せて見せて!」
ココアが覗き込んでくる。俺が描いたのは月で餅をつくウサギの絵。
「コウくん、私より上手ー! 裏切り者ー!!」
「またそれか。ココアのも十分可愛いよ、ねっ? リゼさん?」
「どうしてそこで私に振るんだ、コウナ!?」
「いや、素直に言えばいいと思って」
「もー……そうだ! チノちゃんも描いてみてよ!」
「えっ? 私もですか?」
それは俺も気になる、ココアとリゼさんのしか見てないし。
了承したチノちゃんがミルクを入れて黙々と描いていく。
「どんなのが出来るか楽しみだね」
「ああ、そうだな」
俺たち姉弟は楽しみに待っていたが、リゼさんは何故か思案していた。
「どうしたんですか、リゼさん?」
「いやな、チノが描く絵って確か――」
「できました」
そこまでリゼさんが言いかけたところでチノちゃんの完成の声が聞こえる。
「まあ、とりあえず見ればわかりますね」
そう言ってカップを覗いてみると、言葉を失った。
「こ、これは……」
「思い出した、チノが描く絵はどうしてか昔の名画家のようになるんだった……」
前衛的な絵、とでもいえばいいのか、チノちゃんが描いたのはあのフルネームが長い画家が描いたようなものとそっくりだった。
「チノちゃんも仲間ー!」
「仲間?」
しかし、そんなことを知らないココアはチノちゃんの手をとって喜んでいた。
「違うぞココア。こういうのは私たちと一緒にしちゃ…」
「リゼさん、諦めましょう。ココアにはもうなにも聞こえませんよ」
意外な事実をいろいろと知った初日のバイトだった。
いかがでしたでしょうか?
ではでは、またの更新に会いましょう、さらばっ!