どうも、燕尾です。
一ヶ月経ってしまいました。てへぺ――
ラビットハウスから離れて次にやってきたのはシャロの働くフルール・ド・ラパン。
今日のバイト先はここだ。
執事服のような制服に袖を通したところでドアがノックされる。
「コウナ、制服のサイズはどう?」
「ああ、ピッタリだよ」
入ってきたのはシャロだ。だが、その顔は何故か紅くなっていた。
「――ってなんでそんな顔を紅くしているのさ? 風邪でも引いた?」
「いやその、さっきリゼ先輩のところに行ってきたんだけど…その……なんだかいかがわしさが、ね」
シャロの話に俺はああなるほど、と納得してしまう。
確かにリゼのプロポーションならその反応もおかしくはないのだろう。スカートもラビットハウスや甘兎庵と比べるとかなり短いものだし。
「それじゃあこれから少しの期間だけどよろしく、シャロ」
「ええ、よろしくね」
そして掛け持ちバイト第二段が始まるのだった。
「おお…リゼ、その制服ピッタリだね」
「そ、そうか? ありがとう……」
もじもじしながら照れた様子を見せるリゼ。そんなリゼを見て俺は少し顔をそらす。
「確かにシャロの言ったとおりだな。少し淫靡な感じがする……」
「でしょ?」
どうしてだろうか、ちょっと脚の露出が多いだけの制服なのに、どうしてここまで感じてしまうのだろうか。
「リゼは魔性だった……?」
「おい、コウナ! 適当なこと言うな!!」
銃を構えるリゼに俺は両手を挙げて謝る。てか、こんなところにまで持ってくるなよ。
「ほら、お客さんが来たよ! だからその物騒な
「まったく仕方がない奴め――いらっしゃいませ」
入ってきたお客さんにいたって普通の出迎えをするリゼ。
「あ、先輩。恥ずかしいとは思いますけど仕草を変えて」
こんな感じで、と言うようにシャロがお手本を見せる。それは確かに少しやるのに勇気がいるような仕草だった。
だが、そこはラビットハウスでもアルバイトをしているリゼ。仕事と言うものに妥協はしなかった。
「い、いらっしゃいませー」
多少の恥ずかしさはあれどきっちりとやるリゼ。だがしかし……
「……」
「はわあ~~ッ」
「どうしてお前たちが顔を紅くして照れているんだ!?」
「すみません、なにかいけないものを見た気がして…」
「破壊力がありすぎて…」
どうしてシャロとリゼでこうも差が出てくるのだろうか。やっぱり身体つき――
そこまで考えたところで頭と背中に何か冷たいものが押し付けられる。
「おいコウナ~? なにか変なこと考えているだろ」
「とーっても不愉快なことを考えられた気がするわ?」
「そんなことないよ? だから銃とナイフを離してくださいお願いします!」
慌てて取り繕う。どうしてこう言ってもないことを読み取れるんだろうか。
「ほ、ほら! お客さんもいるんだから、落ち着いて!」
不服そうにしているが、何とか矛を収めてくれた。
「そういえばシャロはどうしてここでバイトしているんだ?」
ふと疑問に思ったことを口にしたリゼ。だが、それはシャロにとって答えづらいものだった。
「そ、それはっ……!?」
やはりと言うか慌て始めるシャロ。
「ここの食器がすごく気に入っていて決してお金に困ってるとかそういうわけでは――」
あーあ、ものすごいテンパっているよシャロ。これじゃあ疑問に思ってくれって言ってるようなものだ。
「そういえばティーカップ好きとか言ってたっけ」
だが、リゼはシャロの言葉を鵜呑みにしていた。これはチャンス、とここぞとばかりに俺も便乗する。
「親に頼らず自分で稼いだお金で欲しいもの買いたいって、リゼも思ったことはあるんじゃないかな?」
「ああ。その気持ちはわかる。ラビットハウスで働き始めたのはそれが元だ。まあ、どうしてラビットハウスかといわれたらちょっとした縁だけどな」
「初めて自分のお金で好きなもの買えた時ってうれしいですよね」
「感動したなー」
最初に自分の買ったものを想像する二人。だが、俺にはリゼとシャロが想像しているもののジャンルがものすごくかけ離れているようにしか思えなかった。
「コウナは最初に何を買ったんだ?」
するとリゼからそんな質問がとんでくる。
「そうだね。俺は保登家の一人一人に向けてプレゼントを贈ったよ」
「ココアたち全員に?」
父さんには万年筆を、母さんには調理器具を、一番上の姉さんにはエプロンを、兄たちには大学で使えるようなシャープペンシルとポールペンなどの文房具のセットを、ココアにはそのとき欲しがっていたペンダントを――
「うん。本当はプレゼントをするつもりはなかった、というかプレゼントの前に俺を受け入れてくれた恩を返したくて店の手伝いをしてたんだけどね」
なにか役に立てることをしたくて俺はベーカリーの手伝いを始めたのだが、母さんや父さんが"働いたらそれに相応しい対価があるもの"って言ってお小遣いというかバイト代みたいなのを渡してきた。
ならということで俺はお金を貯めて皆が使いそうなプレゼントを贈ったのだ。
それに手伝いを始める前――俺が保登の家に来た最初の頃に色々と迷惑を掛けていたこともあり、罪滅ぼしみたいな一面もあった。今となっては忘れたい黒歴史の一つだが。
しかし渡したときの皆の喜んでいた表情は一生忘れないだろう。
「そう…素敵じゃない」
「コウナらしいな」
優しい笑みを向けてくる二人に俺は少し顔が熱くなった。
「…ただの自己満足だよ。なにもしないで世話になるっていうのも居心地が悪かったし」
「もしかしてコウナ、照れてる?」
「照れてない」
シャロに言われて俺は即座に言った。だが、それを答えと受け取った二人は小さく笑う。
「コウナが照れるなんて珍しいものを見たな」
「いや本当に違うから」
どんなに否定しても二人の答えは変わらず、俺はさらに顔が熱くなるのだった。
それから数週間。俺とリゼはラビットハウス、甘兎庵、フルール・ド・ラパンの三つのバイトをこなしながら生活を送った。
そして父の日の数日前、甘兎とフルールの短期バイトも終わりを告げた。
「今までお疲れ様、コウナくん」
千夜が給金袋を持ってそういった。
俺の掛け持ち最後のバイトの場所は甘兎庵だった。ちなみにリゼはいない。彼女はフルールが最後だった。
「お疲れ千夜。数週間お世話になりました」
「ううん。お世話になったのは私のほうよ。コウナくんやリゼちゃんと一緒に仕事するの楽しかったわ」
「俺も千夜やシャロと働けて楽しかったよ。なんていうか、ラビットハウスとはまた違った雰囲気があったし」
「それなら
冗談めかしく言う千夜だったが、俺は首を横に振った。
「それはちょっと厳しいね。ラビットハウスでも喫茶店とバーの両方入っているから」
「そう、それは残念」
笑顔でそう言う千夜。だが俺はちょっと違和感を感じた。どこか本気で残念と思っているような、そんな雰囲気。
「はい、これお給料。お疲れ様、コウナくん」
「う、うん。ありがとう」
手渡される封筒。俺はそれを受け取るが、千夜が封筒から手を放さなかった。
「……千夜?」
「えっ? あ、ご、ごめんなさい」
千夜は慌てて手を放す。やっぱりどこか様子がおかしかった。
もしかして、と俺は一つ考えが浮かぶ。
「千夜」
「なにかしら、コウナくん」
普段の様子で返す千夜。そんな彼女に俺は言った。
「別にこれが最後じゃないよ。それに、理由がなければいけないなんてないから」
「あ……」
千夜の表情が一気に変わる。どうやら正解だったみたいだ。
「だからこれからも、よろしく」
そう手を出すと、千夜はおずおずしながらも俺の手をとってくれた。
「コウナくん、ありがとう……よろしくね?」
「うん、よろしく。千夜」
俺たちはお互いに笑顔を浮かべながら握手をした。
「ただいま――」
「おかえり、コウくんっ!」
「うわっ!?」
ラビットハウスに帰るなり、いきなり飛びついてきたのはココアだった。
ココアの勢いを受け止めきれず一緒に倒れこんだ。
「あ、頭打った……」
「コウくん、コウくん、お帰りコウくん!!」
胸に顔をうずめ、ぐりぐりと擦るココア。
「ちょ、くすぐったい、ああもう、頭擦るな! 離れ、ろ!!」
ぐいっとココアを引き剥がす。
「はぁ…」
そこで見えたココアの顔に俺はため息が洩れた。
「……なんでちょっと泣いてるのさ」
「だって、だってぇ……!」
ココアは涙目で、体を震わせていた。
「一緒に暮らしてるから毎日顔も合わせてるし、学校だって一緒だし、俺がラビットハウスのバイトが休みの日は夜まで別行動でしょ。それと変わらないじゃん」
「でも、それでも寂しかったの。近くにいないってわかってたら、なんか寂しかったの!」
まあ確かに、ラビットハウスのバイトが休みのときは二階でゆっくりと自分のしたいことをして、外に出ると言うのは夕飯の買い物ぐらいしかしなかった。
だが、それでも一週間のうちの大半は香風家で過ごしている。そう考えるとココアの我慢が相当効いていないということもある。
「まったく、ココアは本当に甘えん坊だ。こんなんじゃモカ姉さんに笑われるぞ?」
「ぐすっ…たぶんお姉ちゃんはコウくんに嫉妬するだけだもん」
甘えん坊モードのくせに妙に冷静だな。そして姉さんの性格をよく知っているようだ。俺はココアの背中をぽんぽんと叩いた。
「ココア。どこに行っても、どんなに離れても、最後俺が帰ってくるのはココアたちのところだよ。あのときにそう約束したでしょ?」
「うん……」
それはココアたち保登の人たちと本当の家族のようになったときのこと。俺が保登家と養子縁組を組んだときのことだ。
「それにお互いもう小さい子供じゃないんだから、こんなことで泣かない」
「うん、ごめんなさい……」
ココアはギュッ、と強めに俺に一回抱きついてからようやく離れてくれた。
「よし! それじゃあ、今日の夜ご飯はココアの好きな物を作ってあげるよ。なにがいい?」
「ほんと!? えっとね、今日は――」
はしゃぐココアに、大概俺もココアに甘いと思うのだった。
数日後、父の日――
俺はバーでバイトしているとき、ある変化に気付いた。
「タカヒロさん。今日はいつもの蝶ネクタイじゃないんですね?」
タカヒロさんはいつも蝶ネクタイをしていたのだが、今日はナロー・タイをつけていた。しかも柄がうさぎと、随分と派手というか、目立つ柄のネクタイをしていた。
「ああ、チノとココアくんが父の日にと手作りのネクタイをプレゼントしてくれたんだ」
そういうタカヒロさんはどこか嬉しそうだった。いや、実際嬉しいのだろう。日ごろの感謝を伝えてもらって嬉しくない親はいない。
「よかったですね。思春期になってもこうしてプレゼントしてくれる子供ってそうそういないものですよ」
「そうだね。だがそれは親離れした一つの証だと俺は思っているよ。寂しくはあるけどね」
「そういう君は先日送っていたみたいだけど、何を贈ったんだい?」
「とあるブランドの名入れのグラスを。父さんは人並みに酒を飲むので使ってもらえたらなと思いまして」
今回掛け持ちバイトしたのもそのグラスが少しお高めだったからというのが一つ。それともう一つが――
「あとはタカヒロさんに、これを」
「……これは?」
「シェイカーとマドラーのセットです。今日は父の日ですからね。日ごろの感謝と――昔出来なかったお礼です」
まとめてやるのはどうかと思うのだが、こういう機会がなければあの時のお礼は出来なかった。
「そんなこと君が気にすることはなかったのに。俺も妻も、当然のことをしただけだった。それに、結局俺たちは君の助けにはなれなかった」
そんなことは決してない。あのときにアイナさんに見つけられなかったら、タカヒロさんたちと会わなかったら俺はどうなっていたか自分でも分かっている。
「俺にとっては十分でした。いま楽しく過ごせているのはタカヒロさんたちや保登の家の人たちのおかげだから。ですから、受け取ってください」
「そこまで言ってもらって受け取らないのは却って失礼だね。ありがとう、コウナくん。大切に使わせてもらうよ」
「はい。ぜひ使ってやってください」
「息子よ一つ聞きたいことがあるんじゃが――おお、コウナもおったか。そういえば今日は
「
会話に一区切りがついたタイミングでやってきたティッピーが俺の頭に乗って目線をタカヒロさんに合わせようとする。
「ワシの秘蔵のワインが一本足りないんじゃが?」
「ああ、アレなら昔なじみに譲っちまったよ」
あっけからんというタカヒロさんに対してティッピーは目を剥いた。
「なぬっ!? アレはワシが楽しみに取っておいたんだぞ!? それなのに…ワイン……ワイン~!!」
「というか、うさぎってワイン――お酒呑んでも平気なのか?」
上でわんわん泣くティッピーを余所に俺はそんなことを考えるのだった。
次は早く更新できると良いなぁ……(希望薄)