どもー燕尾です。
二話続いた話もこれで終わりです。
「モフモフ天国さいこー」
クレープを美味しくいただいた後、休憩と称して俺たちはベンチで日向ぼっこをしていた。ココアは座った途端に寄ってきたウサギたちを抱き締めて歓喜の声を上げながら愛でている。
一方でチノちゃんは好かれるタイプではないのか、飼いウサギのティッピーを抱き締めるだけだった。
「良いんです。私にはティッピーがいますから……」
なんでもないように言うチノちゃんだけど、落ち込んでいる表情を見ればそれは強がりだとすぐ分かる。
「あっ…えっと、えーっと……ほら! チノちゃんって口元とか毛並みとかがウサギに似てるから、きっとうさぎさんたちも同族嫌悪しているんだよ」
「慰めにもフォローにもなってない! というか毛並みってなんの!?」
「それに同族嫌悪って、意味わかって言ってますか? それ」
うん、絶対に意味はわかっていないまま言ってるよ。
「じゃあ、寂しくないように私がチノちゃんをモフモフすれば解決!」
「なにも解決してませんが?」
「ただ抱きつきたいだけだよね」
抱きついてチノちゃんの頭を撫でるココア。その満足そうな笑顔とは反対に撫でられているチノちゃんは遠い目をしていた。
「あっ、うさぎさん! まてまて~♪」
しかしそれも束の間。そばにいたうさぎが走り出し、それを追ってココアもどこかに行ってしまう。そんなココアの姿をチノちゃんは少し不服そうに眺めていた。
「もしかしてチノちゃん、うさぎにココアを取られて寂しいのかな?」
「っ!? そんなことありません!!」
「強く否定しているところがまた怪しいね~」
「違いますっ! それはコウナさんの妄想です!!」
「だったらポカポカと叩かなくてもいいんじゃない?」
肩あたりを叩いてくるチノちゃんだけどあまり痛くなかった。
「あーっ、チノじゃん!」
「それにコウお兄ちゃんもいるー」
「マヤさん、メグさん?」
「おー、二人とも。一緒にお出かけ?」
「そうだよっ! そういうコウ兄こそチノと一緒にいるなんてびっくりだよ」
「知り合いだったの?」
「ああ。姉と一緒に下宿させてもらっているところの娘さんだからね」
「コウナさん、お二人と知り合いだったんですか?」
「うん、この前散歩しているところでちょっとね。チノちゃんの友達だったんだ」
「はい。学校で同じクラスなんです」
なるほど。偶然って重なるもんだな。
「コウ兄とチノはなにしてんの?」
「俺たちは姉と三人で街を散策していたんだ。みんな喫茶店の仕事がちょうどお休みだったし、天気もよかったからね。二人は?」
「私たちは映画に行ってたんだ! チノが仕事休みなの知ってたら誘ってたのに」
「二人はどんな映画を見に行ったんですか?」
「私はアクション映画が良いって言ったんだけどな、メグの奴がさー」
「今流行ってる映画でね。凄く泣けるんだー。パンフレットも買っちゃった」
そう言ってメグは買ったパンフレットを見せてきた。そのタイトルは――
「うさぎになったバリスタ……?」
「「
チノちゃんだけじゃなく、うさぎになったバリスタことマスターも驚きの声を上げた。
「今度はチノちゃんも一緒に行こうね」
「え、ええ……」
朗らかに笑うメグに対して頷いているチノちゃんだけど、その顔はどこか引きつっていた。
それから少し俺たちは談笑してからマヤとメグと別れる。
「そういえばココアさんはどこに行ったのでしょうか?」
「あっ……」
うさぎを追いかけたままどこかへと行ってしまったココア。恐らくは公園内にはいるのだろうが、今いるこの公園は何気に広い。
これは探すのに一苦労しそうだ――そう思っていたのだが、なんてことはなくココアから戻ってきてくれた。
「公園は人が集まるから、色んな人とお話しちゃった」
「うさぎを追いかけたにしては随分と遅いと思ったら誰かと話してたのか。迷惑はかけなかった?」
「もうっ、私そんな子供じゃないよ!」
「ココアさんは知らない人と気軽に話せるんですね」
「ココアの人見知りのない性格は長所の一つだね」
「うん! お話しするの楽しいし、それとコウくん――」
「ああ、はいはい。ココアお姉ちゃん」
適当に流すとココアはぷすーっとむくれる。それも一瞬のことでココアはチノちゃんに問いかける。
「それでもチノちゃんも喫茶店のお客さんと話せてるよ?」
「いきなり世間話はしませんし、話すのは得意じゃないです」
「でもさっきの友達とは楽しそうに話していたよ?」
「…あの二人が積極的に話しかけてくれなかったら友達になってません」
んー、チノちゃんは確かに自分から入っていくというタイプではないように思う。チノちゃんもそれは自覚しているのか、どこか救われたような表情をしていた。
「そんなことないよっ!」
しかしココアはそれを否定する。
「ティッピーの腹話術があれば私だったら世界を狙ってるよ!!」
「頑張ってください」
「俺は手伝えないからやるなら一人でね、それ」
公園を後にして、街の散策に再び繰り出した俺たち。目的もなく次の場所を探していたところで正面からリゼが歩いてきているのに気付くが――ただ、先ほどまでとは姿が違った。
ツインテールを解いて髪を下ろし、ウェーブをかけている。それに服装もショートパンツにシャツとスマートなものから、ツーピースのような服に変わっている。
普段のリゼの格好じゃないせいかココアとチノちゃんは気づいた様子はない。リゼの方は俺たちに気付いたようで、自分だとバレないように平静を装いながら無言でやり過ごそうとする。
別に似合っているし、笑ったりしないのだから普通に声を掛けてくれればいいのにと思うが、ここはリゼに合わせて俺も気付かないフリをしておく。
「…リゼさん?」
「はい!?」
すれ違う直前に、チノちゃんが気付いたのかリゼに声をかける。残念、バレてしまった――
「――と、思ったら違ったみたいです。失礼しました…」
と、思ったらチノちゃんは顔を赤くして謝った。
えっ…ちょっと待って。まさか別人だと思ってるの!?
「さっき見かけた時と服装と髪形が違うもんね~」
お姉ちゃん…君もか……
「ん? でもリゼちゃんって呼んだら振り向いたよ?」
「あっ、それはその…」
ココアの指摘に慌てるリゼ。どう切り抜けるのだろうかと思っていると、
「ちっ、違います…私はロゼなんです。聞き間違えただけでした」
よりにもよって安直過ぎる回答が得られた。しかもバッグで顔を隠そうとしているが、そのバックに勲章のバッチや戦車のストラップがついてるから誤魔化す気がないように見える。しかし、
「そっか、ロゼちゃんか~」
「ビックリです。ロゼさんによく似た人がうちの喫茶店にいるんです。ラビットハウスっていうんですけど、ぜひ来てみてください」
oh…マジか二人とも……まったく気付く気配すらないとは。
「ほ、本当? ぜひ行ってみたいわ」
「……」
「な、なんでしょうか…?」
ジト目で見る俺に緊張した面持ちで問いかけてくるリゼ。そんなリゼに俺は少し意地悪をしたくなった。
「いえ、俺たちの知り合いの人はそんな格好しない人ですから、違う人ですよね。ええ、男勝りな一面もありますし、そういう格好はしませんから、違う人です」
ワザと区切るような話し方をしてリゼの様子を窺う。
「……」
あ、リゼの空気が凍った音がした。
だが俺は人違いという体で話をしている。リゼがここで怒ることはできない。
「ですけど、ロゼさん"には"よく似合っていますよ。ええ」
には、という言葉を強調する俺。そんな俺にリゼは顔を紅くして睨もうとする。あはは、楽しい。やめられないな~♪
「知り合いにも勧めたいほどです。きっと似合うと思いますし。ね、二人とも?」
「そうだね。リゼちゃんもそういう格好したらいいのにね」
「はい。とってもいいと思います」
俺のフリに頷く二人。そんな俺たちに目の前のリゼはプルプルと震えていて、もうマジで爆発する五秒前だ。
「おっと、身内の話ばかりで失礼しました。俺たちはこれで失礼しようか」
ここが引き際だと感じ取った俺は二人に提案する。
「そうだね。じゃあまたね、ロゼちゃん!」
「引き止めてしまってすみません。ではラビットハウスでお待ちしてますね」
「え、ええ…また……」
ふよふよと俺たちに手を振り、リゼは歩き出した。そんなリゼを見送りながら俺は笑いだしそうなのを必死に抑える。
「私、人見知りするんですがさっきの人はなぜかいきなり会話できました…」
「やったね、チノちゃん!」
笑いそうになっている俺にも、ロゼの正体にも気付くことなく、自身の変化を実感するチノちゃんとそれを喜ぶココア。
「もしかしてこれは…ココアさんの影響……!?」
ハッとするチノちゃんに、彼女の頭の上にいる
まあ大方、カットモデルを頼まれて引き受けたところまではいいけど、買った服をその場で着たくなったなんて言えない――そんなところだろう。ティッピーも同じような見解のようだ。
すると、ポケットの中で携帯が振動する。開いて見てみると一件のメールが送られていた。
『次に会うとき、覚えてろよ……』
はて、何のことやらまったくわからないな。どうしてリゼは怒った様子なのだろうか。
とにかく返信しておかないとダメっぽいなぁ~?
『急にどうしたのっ! 俺、リゼになにもしてないはずだよ!?』
俺は小さく笑い、そう返信を打つのだった。
だが、俺は忘れていたことがあった。それはその日の夜に起きた。
「……」
「えへへ~♪ モフモフ、モフモフギュー♪」
部屋に入ってきたココアがいきなり背中に抱き付いてからかれこれ一時間以上。俺は色々と感じるものに疲弊していた。
「チノちゃん…助けてくれないか?」
ココアと一緒に部屋に来たチノちゃんは隣で映画を見ながらこちらを見ないまま言い放つ。
「自業自得ですよ。ココアさんが満足するまで我慢するしかないです」
「ココアお姉ちゃん? いつになったら満足してくれますか?」
「コウくんが反省するまで、だよ!」
俺の正面に回ってそう言いながらまた抱きついてくる。反省ならもうしているのだがココアはまったく許してくれていないようだ。俺はなるべくココアの柔らかい身体や甘い香りを意識しないように、頭の中で般若心経を唱える。
「
結局、解放されたのはココアの力が緩んだ次の日の朝あたりで、夜通しお経を唱えていた俺は寝不足になるのだった――
――それから、ラビットハウスのバイトにて。
「よう…コウナ……」
「ふぁ~……おはよう、リゼ。どうしたの? なんか怖いよ……?」
眠いながらもリゼの顔を見てニヤニヤとする俺にリゼは噛み付いてきた。
「お前っ! わかって言ってるだろう!!」
あ、やっぱり気付いたんだな。俺が気付いていたってことに。
「そこに直れ! その腐った性根を叩きなおしてやる!!」
「謹んでお断りします。バイト中だし」
「コウナー!!」
リゼの声が響く。案外リゼがからかいやすい人間だと発見できた数日でもあった。
あ、バイト終わった後、しっかりお仕置きされましたよ?
いかがでしたでしょうか?
次は時系列がすこし戻った話になります。多分…