どうも、燕尾です。
ごちうさ28話です。
「どうかしら、コウナくん…」
緊張した面持ちで千夜が問いかけてくる。
もっ、もっ、と咀嚼する俺はじっくり吟味していた。
「うん、美味しいよ」
美味しい、と言う言葉に一安心したように息を吐く千夜。だが、それだけでは終わらない。むしろここからが本番だ。
「ただ、砂糖をちょっと入れすぎかな? あんこの味が潰れかかってる。逆に抹茶ホイップはもう少し抹茶パウダーを入れたほうがいい。これじゃあ普通のホイップと変わりないと思うよ」
俺のコメントを千夜はスラスラとメモに書いていく。
「後は白玉だけど、白玉粉だけじゃなくて上新粉も混ぜると歯ごたえが出るよ。コンセプトが定まっていないならこのパフェに合うような白玉を研究するのもいいかもね」
「そこは盲点だったわ」
このくらいかな、と伝えると千夜もペンを置いて微笑んだ。
「ありがとうコウナくん。試食に付き合ってもらうだけじゃなくてアドバイスまでくれて」
「このくらいならいつでも手伝うよ」
バイトが休みだった俺は以前千夜から頼まれていた新作メニューの試食をしていた。
「まあ、ほとんどが主観的な感想になってるから鵜呑みにはしないほうがいいとは思うけど」
「ううん。コウナくんがそう言うなら間違ってないわ」
「その信頼は嬉しいけど、しっかりお婆さんと相談してね」
「そういえば、ココアちゃんとはまだケンカ中なのかしら?」
話題転換にしては痛いところを突いてくる千夜。
「恥ずかしながら、ね。あんなに怒らせたのは久しぶりだよ…」
「そのとき私はいなかったから何があったか分からないけれど、ココアちゃんとコウナくんなら仲直りできるわ」
「ありがと、頑張るよ」
俺は抹茶のお代を置いて、甘兎庵を後にした。
「ふう、試食とはいえ食べ過ぎた」
俺は腹を擦りながら街を歩く。石畳と木組みの家が連なる街並みは、実家とはまた違う趣があって飽きない。
それでも長くいれば日常の風景になる。あそこ前にも見たな、なんて思うのは俺がこの街に馴染んできたということだろう。
「……」
休憩でやってきた公園のベンチに座り、寄ってきたうさぎを抱えながら俺は空を仰ぐ。
流れ行く雲を眺めながら俺はあることを考えていた。
――そう遠くないうちに姉を見つけたい
皆がラビットハウスに泊まったときにした過去の話で言ったこと。
今姉さんはどこにいるのだろうか。無事でいるのだろうか。一人でいるとふとそんなことを考える。
生き別れてから約十年。アイナさんに拾われ、保登家に迎え入れられ、こうして楽しく前を向いて生きていられる全ての大元は、姉さんが自分の人生を捨ててまで俺を守ってくれたからだ。だが姉さんの行方は依然と知れないまま。
保登家にいる間も姉さんを連れて行った会社や本当の実家のことを調べていたのだが、会社は潰れていて、実家も企業として続いてはいるものの、姉さんは依然として行方知れずのままらしい。
「地道に調べていくしかないんだよな、やっぱり」
どんなに掛かっても必ず見つけ出す。そう改めて決意していると、一人の女性がやってきた。
「こんにちは。隣、いいですか?」
「あ、はい。どうぞ」
いきなり話しかけてきたプラチナブロンドの女性に戸惑いながらも、俺は場所を開ける。
「散歩ですか?」
隣に座ってきた女性にどぎまぎしながら俺はそう問いかける。
「はい、閃きを求めて彷徨っているの」
「閃き…もの書きか何かされているんですか?」
「ええ。小説家なんです」
「ペンネームは、なんていうんですか?」
「青山ブルーマウンテン…といいます」
青山ブルーマウンテン…なんかどっかで聞いたことある名前。それにこの人もどこかで見たことが……
そこまでいったところで俺は思い出した。
「ああ、思い出した! それに青山ブルーマウンテンっていま流行の小説家だ!! それにあなた、俺が甘兎庵でバイトしてたときに来た人ですよね!?」
「バレちゃいましたか。覚えていてくれてたんですね」
青山さんはいたずらっ子のように笑う。
「いま思い出しました。まさか今売れっ子の小説家さんだとは知らなかったですけど」
「売れっ子だなんて、そんなことないですよ」
謙遜も謙遜だ。この人が出した"うさぎになったバリスタ"は全国でヒットし、その話題が広がって発売からそんなに経っていないのに映画化され、現在大ヒット上映中なのだ。
まさか原作者がこの街住まいだとは思いもしなかった。
「えっと、あなたのお名前は…」
「あ、名乗らずにすみません。保登香菜です。菜の花が香るでコウナです」
「保登……? ココアさんのご親族ですか?」
「ココアは姉ですけど…出会っていたんですね」
「はい。コウナくんと同じように散歩していた時に偶然」
そんな話、ココアから聞いたことなかったから知らなかった。
それから俺と青山さんはいくつか話をしてから別れた。
「そういえばコウナくん。誰かに似ていたけれど、誰だったかしら……?」
「……ただいまー」
青山さんと別れてからまた色々と歩いて夕方になった頃、ラビットハウスへ帰った俺は気付かれないように静かに入る。
足音を立てないように抜き足差し足忍び足で歩いていると後から声を掛けられた。
「お帰り、コウナ君」
「っ! た、ただいまです、タカヒロさん」
「その様子だと、ココア君とはまだ仲直りできてないようだね」
微笑ましいものだ、と言わんばかりに微笑むタカヒロさん。
そう、マヤとメグがラビットハウスで働いた時に起こったアレ以降、この数日ココアは夜は必ず無言で俺をモフモフし続けるのだ。そして、
今までのモフモフの刑は甘えるようなものなのだが、今はただ無言で、無表情でモフモフし続けるのだ。
何かあるわけでもないのだが、ただただ怖い。何を考えているのか分からないというのがこんなにも怖いことなのだと久々に感じている。
これはココアにとってのマジ切れに近いことを俺は悟っていた。なぜならココアが本気で怒ったときはこれより酷く、顔すら合わせないのだから。まるで存在がないように、ただいつも通りの日常をココアは過ごすのだ。あれほど辛いものはない。
だが、まだモフモフという形で接しているのだから本気の手前なのだろう。楽観視はできないが。
「どうしたらいいんですかね……」
「それは君が考えることだ。年頃の女の子は難しいけど、コウナくんなら気付けるはずだよ」
それだけを言ってタカヒロさんはバーの準備に入る。
「気付くって、なにに気付けばいいんですか……」
俺の呟きに返してくれる人は誰もいなかった。
「コウナさん、いい加減ココアさんと仲直りしてください」
夜ご飯を食べ終わり、皿洗いしていると隣で一緒に作業していたチノちゃんが直球に言う。ちなみにココアは今お風呂に入っていてこの場にはいない。
「いやそうしたいのは山々なんだけどね…」
そう言われていても原因がわからないのに謝っても意味がない気がしている。
「チノちゃんはココアがどうして怒ったかわかる?」
「本気でそう言っているのなら呆れたものです」
本当に呆れた目を向けられる。おかしいことを言ったつもりないのだが、一体どういうことだろうか。
首をかしげている俺に対してチノちゃんはため息を吐きながら言った。
「コウナさんは勢いで言っていたかもしれないですけど、ココアさんは本気で気にしているんですよ」
「それって、姉よりも妹のほうがいいって話か?」
そう問いかけるとチノちゃんは頷いた。
「ココアさんはコウナさんに蔑ろにされると思ったんじゃないですか?」
「あれは言葉の綾だし、ココアだって妹がほしいって言っているもんだからそんな真に受けてここまで引き摺るとは思ってなかったんだけど」
「妹がほしいって言うのと、姉より妹のほうがいいというのは違うじゃないですか」
そこまで言われてようやく気付いた。
「嫉妬したんですよ。メグさんやマヤさんばかり構って、自分にはしてくれないことに」
「…チノちゃんはよく気付けたね」
「……恥ずかしながら、似たようなことありましたから」
チノちゃんもメグやマヤが来るようになってから、一時期元気がなかったことがあった。その時のことを言っているのだろう。
「ありがとう、チノちゃん。おかげで何とかなりそうだよ」
俺はチノちゃんの頭をなでてあげる。
「もう空気がギスギスしているのは嫌ですから。それにコウナさんには気付いてもらった借りがあるので、仕方なくです」
早口で捲し立てるチノちゃんに俺はくすりと笑うのだった。
風呂上がってから部屋に戻ると、相も変わらず無表情のココアがベッドで待っていた。
「……」
ポンポン、と隣に座れと促してくるココアに従ってベッドに腰掛けると、ココアは俺の太ももを跨ぎ、正面から抱きついてきた。
「……」
未だに無言のココア。今までだったらなにもしないでこのままココアにされるがままだった。だが、今日は俺からもココアの背中に手を回した。
「ココア、ごめん」
「……」
ココアはなにも言わなかったけど、俺の言葉にピクリと反応したのを感じた俺は言葉を続ける。
「勢いとはいえ、姉より妹のほうを可愛がったほうがいい――なんて無神経だった」
「……」
「だから、ごめん」
俺はギュッとココアを抱きしめる力を強める。俺の気持ちが伝わるように。
「私も、ごめんね…」
すると、ココアの口からそんな言葉が漏れた。
「私、お姉ちゃんなのに、メグちゃんやマヤちゃん、チノちゃんに構うコウくんに嫉妬しちゃってた」
「うん」
「だから、私もごめんなさい」
ココアもギュッと抱きしめる力を強めた。
交わした言葉は少ないけれど、それでよかった。
こうしてお互いの体温を感じるだけで、それだけで俺たちは通じ合えるのだから。
「コウくん、お願いがあるの」
「ん、なに?」
「今日、一緒に寝たいな?」
「ここ数日、一緒に寝てた気がするけど?」
「もう、コウくんの意地悪……」
「冗談、いいよ。今日は一緒に寝よっか」
そういう俺にココアはむくれた顔から一転、花が咲いたように笑ってくれるのだった。
いかがでしたでしょうか?
ココアがヤンデレに向かってる気がしてならない今日この頃です。
ではまた次回に。