どうも燕尾です
29羽目です。
自分もパン作ってみようかな……?
「悪いなコウナ、手伝ってもらって」
「いいよ。この量をリゼ一人でやるのも大変でしょ?」
俺たちはチラシの束を抱えて公園へと向かっていた。抱えているチラシには"夏のパン祭り"と書いてある。
パン祭りは集客を上げるためにココアが考えたことだ。提案されたときは驚いたが悪くないと皆頷き、タカヒロさんにも許可をもらって開催することになった。
そして明日に差し迫ったパン祭りの宣伝として、チラシ配りをすることになったのだ。
「でもコウナはシフトじゃなかっただろ?」
「今日は読んでない小説を読もうと思ってただけで時間も持て余してたし、ならこうして手伝いしたほうがいいかなって。それに」
「それに?」
首をかしげるリゼに、俺はにやりと笑った。
「こうしてリゼと二人で一緒にいるのも悪くないなーって思ってね」
「なっ――!?」
すると、リゼは一瞬で真っ赤になる。
「なに言ってんだお前は!?」
「いつもはココアやチノちゃんとばかり仕事しているから、こうしてリゼと二人で一緒に仕事するのもいいなってことだけど」
「……っ!」
改めて説明すると、リゼはさらに顔を染めて俯く。
ニヤニヤを抑えずに覗き込もうとする俺から逃げるリゼ。どうやら変な勘違いをしたのだろう。
「ねえ、リゼはどういうことだと思ったの?」
「――」
「ねえねえ――」
「う、うるさいっ! お前と同じことだよっ!!」
「それなら何でこっち見ないのかなー?」
そっぽを向くリゼに追い討ちをかけると、限界が来たのかリゼはモデルガンを突きつけてきた。
「それ以上言うなら、容赦しないぞ……」
「あはは、やっぱりリゼはからかい甲斐があるなぁ」
ロゼの一件から、俺はたまにリゼをからかうことに目覚めてしまった。からかった後は大変なのだがこうして可愛い一面を見られるのだからついやってしまう。
「お前、最近私に遠慮しなくなったな」
「ん? だってリゼがそういうのを望んでたからでしょ?」
「私が求めてたのはそういうことじゃない!!」
「知ってるよ――まあいいじゃない。こういうやり取りができるのは友達ならではだよ」
「それは…そうかもしれないが……」
「ということで、今後ともよろしくね?」
「ああ――って、やっぱりおかしいだろ!?」
気づいたリゼがこめかみ辺りにモデルガンの銃口でぐりぐりと押し付けてくる。
「まったく…」
チラシ配りの前に疲れた様子を見せるリゼ。
「でもリゼとこうして二人で仕事したり、こんなやり取りができるのが嬉しいのは本当だよ?」
「コウナ……」
リゼは一瞬顔を綻ばせるも、すぐにキッと睨んできた。
「騙されないからな?」
決して嘘じゃないんだけど、からかいすぎたかな。
そんな話をしているうちに、俺たちは公園についた。
「さて、それじゃあチラシ配りを――」
始めようか、と言いたいところだったのだけれど、気になるものを発見した。それは、
「お願いしますっ、退いて下さい! お願いします、お願いしますっ、お願いしますっ――!!」
ベンチに居座るうさぎを崇め倒しているフルール姿のシャロの姿だった。
「……うさぎに向かって土下座してる」
「何しているんだか」
恐らくあのうさぎがシャロの物の上に居座るせいで取れなくなっているんだろうけど。
奇異の目で見られているシャロを放置できないので俺たちは彼女のほうに行く。
「ほら」
「り、リゼ先輩!? それにコウナも!!」
うさぎを除けるとようやく俺たちに気付いたシャロ。
「リゼ先輩、その格好で外にいるなんて珍しいですね」
「ココアが企画したパン祭りのチラシ配り担当に任命されたからな」
「そして俺はその手伝い」
「なのにコウナは制服じゃないのね」
「シフトじゃないからね。家にいても小説を読むだけだからこうしてでてきたってわけ。シャロはフルールのチラシ配りかい?」
「ええ。まだできて間もないからこういうことを小まめに、ね」
その考えはラビットハウスも見習うべきだな。
「ラビットハウスでやるのは初めてだが、この間シャロのバイト先で習った笑顔を参考にするぞ。こうやって配れば受け取ってくれるのか?」
そう言ってリゼは培った技術を駆使してチラシを配る。だが、
「フルール・ド・ラパンよろしくお願いしまーす♪」
「慣れすぎて無意識にウチの宣伝になってます!」
「ラビットハウスのチラシなのになぜフルールになるんだ!?」
俺たちは慌ててリゼを止めた。
「あら、コウナくんではないですか~」
リゼと分かれてチラシ配りを進めていくと、リゼからもらったであろうチラシを持った青山さんと会った。
「青山さん、こんにちは」
「はい~、こんにちは。コウナくんもチラシ配りをしているのですね。一枚もらえますか?」
「このチラシはたぶんそれと同じですよ?」
「そうなんですか~。コウナくん、
ん?
これですよね、と青山さんが見せてきたのは間違いなくココアが作ったチラシだった。だが致命的なところが間違っていた。
「ラビットホース、夏のパン祭り……って、スペルが間違っている!? 気付かなかった!!」
「あ、やっぱり違うんですね」
「ええ! 正確にはラビットハウスですっ、ちょっともう一人に知らせないといけないんで失礼します! 時間があればぜひお越しください!!」
「はい、コウナくんも頑張ってください」
青山さんの声援を背に俺は猛ダッシュでリゼのところに向かう。
そしてリゼのところにいけば、そこにはチノちゃんとココアの姿があった。
「コウナ! 今まで気づかなかったがこのチラシ――」
「うん、俺も教えてもらって気付いた。まさかスペルが間違っているとは思いもしなかったよ――ねぇ、ココアお姉ちゃん?」
「う…ごめんなさい……」
うん、帰ったら勉強しようね。さすがに高校生になって中学生一年生レベルのスペルミスはまずいよ。
「とりあえず、残りは修正して――」
リゼがココアからペンを受け取ろうとした瞬間、強い風が俺たちを襲う。
片腕だけでしか持たれていなかったチラシは俺の目の前で宙に舞った。
「わー! 私の恥が公園中にー!?」
「コウナ、チラシ配りはいったん中止だ。急いで拾ってくれ!!」
慌ててチラシを追うリゼたち。
「本当に馬になるなんて……」
「ココアさん、動かないでください。それともっと高くしてください」
チノちゃんとココアは木の枝に引っかかってるチラシに手を伸ばす。
「あっ、おっきい虫が落ちました」
「ギャー! なんてことを――!?」
しかし、その枝にとどまっていた大きい虫がちょうど下のチラシを回収していたリゼの頭に乗っかった。
「意外な一面ですね、リゼ先輩」
おびえるリゼの頭から何のためらいもなく虫を掃うシャロ。
「お前も、意外とたくましいな……」
「家の隙間からよく入ってくるんで慣…んでもないです」
ボロ出さないようにするのも大変だな。
「あっ、シャロ……」
「ん? 何かしらコウナ?」
「その、足元にうさぎが」
「うさぎが足をぺろぺろしてます」
「ピャア――――!!」
「虫は良くてもうさぎは駄目なんだな」
俺はシャロの足元に擦り寄っているうさぎを抱える。
「うさぎ、怖い?」
「怖いから近づけないでっ!」
そう言われたらもうどうしようもないので、うさぎを降ろしてさよならする。
「じゃあ、このちっちゃい子はどうかな?」
代替案としてココアが手のひらに収まるぐらいの小さなうさぎをシャロに見せてきた。
「か、噛まないなら……」
先ほどのうさぎよりすごく小さくおとなしいからか、恐怖感は残りながらも拒絶はしなかった。
だが、ココアから受け取った子うさぎをどうして良いのか分からないシャロは途方にくれる。
「きゅ、キュアー…」
「ぶっ――!」
するとシャロは突然変な鳴き声をあげ、俺は唐突のことに息を噴き出してしまった。
「えっ! うさぎってそんな風に鳴くの!?」
うさぎの鳴き声を聞いたことないココアは驚きの様子を見せる。
「いえ、うさぎははっきりと鳴きませんよ?」
ココアとチノちゃんのやりとりを聞いたシャロはどんどん顔を紅くして唸っていた。恐らく千夜に言われた過去の事を思い出しているのだろう。
「うさぎは確か"ぶー"って鳴いたと思うよ」
「そうなの、コウくん?」
「私も初めて知りました」
滅多に発しないけど、そんな鳴き声だったはずだ。あの見た目にして濁音で鳴くのを知った当時はビックリした。
「でも、シャロの鳴き声も可愛かったよ」
「笑いながら言うなっ!」
「勘違いは誰でもあるから」
「――っ、コウナのバカー!!」
そう言いながらシャロはチラシを持って離れていく。
「お前、本当にたまにいい性格になるよな」
「それほどでもないよ」
「コウくん、リゼちゃんは褒めたんじゃないよ」
ココアが呆れ半分で苦笑いするのだった。
翌日――
「今日はお客さんたくさん来てくれたね!」
ココアはやりきった達成感に浸っていた。チノちゃんやリゼも同じようで今日の盛況ぶりを思い出しては嬉しそうにしていた。
ココア企画の夏のパン祭りは今日の売り上げや集客などを見てタカヒロさんも今後の不定期開催を考えるほど、いい結果が得られた。
今は皆でバイトでこれなかったシャロのためにお裾分けをもって彼女の家に向かっている。ただ……
「シャロちゃんの家ってどんな感じなんだろうね?」
「私もシャロの家は行ったことないから分からないな」
「でもきっと大きな家を探せば見つかると思います」
俺は微妙な顔で三人の話を聞き流していた。ココアたちはシャロの家を知っておらず勝手な想像を膨らませている。
俺もシャロの家は知らないフリをしないといけないので、とりあえずは千夜に預けて渡してもらおうという案しか出せなかった。
まあシャロもこの時間に外には出てこないだろうし、大丈夫か。
「千夜ちゃん、今日はパン祭り来てくれてありがとね」
「無事に成功してよかったわね」
ココアと千夜は仲良く手を合わせる。そんなココアはシャロがこの隣の家にいることを知らない。
「それで千夜、シャロの家知らないか?」
「来れなかったらお裾分けしたくって。きっと赤い屋根の大きなお家に住んでると思うんだー」
……ココアのイメージはよく分からないな。どうしてそうなったのだろう。
「まあ、こんなに? あ、でもシャロちゃんの家は……」
頑張れ千夜、幼馴染として何とかしてシャロを守ってあげて。
心の中でそう祈っていたときだった。隣の家からシャロが出てきたのだ。
「あっ…」
「………………え?」
「「「……」」」
「あらあら」
千夜の暢気な声が俺たちの間に通る。
「千夜ちゃん家の物置からシャロちゃんが出てきた」
「いや、さすがに気付こうよ!!」
あくまで自分の想像を通そうとするココアにさすがに言ってしまう。
「もしかして私たちは…」
「大きな勘違いをしていた……?」
チノちゃんとリゼは悟ったようで、そして自分たちがいかにハズレた考えをシャロに押し付けていたのか理解したようだ。
「い、今まで勝手に妄想の押し付けを…おっ、お嬢様とか関係なく私の憧れなのでっ!」
「気遣わせちゃってる…」
「まあ、すぐに誤解を解かないで見栄張ったシャロも悪いよねぇ」
「うっ…それはそうだけど、今は正論を言わないでよ」
失礼。ついつい口が滑ってしまったもので。
「うちの学校に特待生がいるのは知ってたけど、シャロだったんだな」
「すみません、言うに言えなくて……」
自分とシャロが通う学校の特待生が、大体どういう人か理解しているリゼは妙に納得した表情をしていた。だが、
「えっと、それでシャロちゃんの家はどこかな?」
「この物置よー!!」
「えぇ――!?」
直接言われるまで終始気付かないココアに俺は呆れるしかなかった。
いかがでしたでしょうか?
ではまた次回に