ご注文はうさぎですか? ~ココアと双子の弟~   作:燕尾

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どうもー

めっちゃお久しぶりの燕尾です。
ごちうさも3期アニメがあったり、いつの間にか9巻が出たりと、
ロングコンテンツとなってうれしいです。






勉強会 ~テスト対策をしましょう~

 

「いらっしゃいませー」

 

甘味処『甘兎庵』の看板娘宇治松千夜。俺たちが通う学校のクラスメイト。

 

「今日はわざわざ来てくれてありがとう、二人とも」

 

「ううん、大丈夫だよ。私たち今日シフトはお休みだから」

 

「特に用事もなかったから、気にしなくて良いよ」

 

今日は甘兎庵新メニューの試作品の味見を千夜からお願いされていた。

本当はココアだけだったのだが、ココアに誘われて俺も付き合うことになった。

 

「それじゃあ早速お願いするわね――はい、これが新作『兵どもが夢の跡』です」

 

厨房に一回戻り、トレンチで持ってきたのはそれなりの大きさの器に盛られたフルーツあんみつだった。

相も変わらないネーミングだが、

 

「わぁ、今度の新作も凄いね! まるで本物の戦場だよ!」

 

いろんな角度から見てココアが感嘆の声を上げる。その感性は俺にはよく分からない。

 

「とりあえずいただきます」

 

「いただきまーす!」

 

俺たちは新作和菓子を口に運ぶ。

味わうように食べ、飲み込む俺たち。しかし、

 

「…んー、味はちょっと物足りない気がするかな?」

 

「ココアちゃんもそう思う? コウナくんはどうかしら?」

 

「物足りない、というより纏まりがないって気がする。フルーツと餡、白玉を別々に食べてるような、商品としての形ができてない」

 

「そう思うわよね――やっぱり、形から入らなきゃ駄目なようね」

 

「いや、その形から入っても……」

 

「おぉ~、かっこいい~!」

 

それで上手くいくのであればそれでいいんだけどね?

 

「あ、そういえば――明後日から、二人とも時間あるかしら?」

 

「うん。私は大丈夫だよ? コウくんは?」

 

「俺も大丈夫だけど、明後日からっていうと数日にかけて何かするのか?」

 

「ええ。私の家で勉強合宿をしないかしら? ほら、連休だけどテスト前だし」

 

「千夜ちゃんの家で勉強合宿! いいねっ、やろうよ!!」

 

「合宿…それって千夜の家に泊りがけってことだよね?」

 

「もちろん。勉強だけじゃなくて色々なことがしたいわ」

 

「まあ、俺は帰るけど勉強会までなら付き合うよ」

 

「「ええっ!?」」

 

いやいやいやいや、なぜ二人とも驚く。

 

「コウくんも合宿しようよ!」

 

「いや、俺が女の子の家に泊まるのは問題があるでしょ」

 

ココアがいるとはいえ、女友達の家に泊まるのはハードルやらなにやらいろいろと高すぎる。

 

「そう言うけれどコウナくんチノちゃんの家にホームステイしているじゃない」

 

それは保登家と香風家の繋がり的なものだったからで。それに義父さんや義母さんには半ば嵌められただけだからだ。

 

「それに、大丈夫って言ったのは昼間だけだと思ってたからだよ。泊りとなると元々参加は難しいって言ってたよ」

 

「あ、そっか…コウくん、バーのバイトもあるんだっけ?」

 

その理由をいち早く気付くココア。

 

「そそ。基本的に休みとかに入るようにしてるから。連休の夜はバーのバイトがあるんだよ」

 

「そう…残念ね……」

 

あからさまにしょんぼりする千夜に、なんか俺が悪いことをしているみたいだ。

 

「ねえ、コウくんも一緒に合宿しようよー」

 

それを見たココアが抱き着きながら強請(ねだ)ってくる。

 

「いや、だからバーのバイトがあるんだって。そんな明後日いきなり休みますなんて言えないだろ?」

 

「聞いてみないとわからないじゃん!」

 

「いや、聞かなくてもわかるでしょ! いろいろと問題があるって!」

 

休みをもらうのは何とかなりそうな気はするが、さっきも言ったように女友達の家に泊まるのは世間的にもよろしくない。タカヒロさんの許可も落ちないだろう。

うー、といがみ合う俺とココア。てかどうして、そこまでして俺を泊まらさせたがるんだ。

 

「じゃあ、帰ったらタカヒロさんに聞いてみるから!」

 

「ああ。聞いてみるといいよ! 俺と同じ答えが返ってくるだけだから!」

 

 

 

 

 

「おかしい。おかしいよタカヒロさん……なんで許可出すんだ……」

 

「で、なんでコウナはそんな絶望したように項垂れているんだよ」

 

「これが嘆かないでいられるなら、相当短絡的な思考をしているよ。まったくぶつぶつぶつ――」

 

「お、おう……」

 

ぶつぶつと呪詛のように呟く俺に、リゼは軽く引いていた。

 

「ふふーん、コウくんの読みが外れたね?」

 

「俺は正しいはず。正しいはずなのに……! くそぅ……!!」

 

どや顔のココアに対して俺は悔しがることしかできなかった。

 

 

――タカヒロさん! 明後日からの連休中、千夜ちゃんの家で勉強合宿したいんですけど、コウくん連れて行ってもいいですか!?

 

 

――ああ、構わないよ。しっかり勉強してきなさい。

 

これが昨日のココアとタカヒロさんのやり取りだ。

語るほどでもないものすごい軽いやり取りに、しばらく俺の開いた口が塞がらなかった。

 

「――と、いうわけで明日からコウくんと千夜ちゃんの家で勉強合宿するから、ティッピー貸して?」

 

「何を企んでいるんです?」

 

「私、寝る前にモフモフしないと寝れないから」

 

「安眠グッズじゃないんです!」

 

「じゃあ、夜を越すために今からモフモフ成分の蓄えを~」

 

「お前は冬眠するクマか!!」

 

そんなやり取りをしつつチノちゃんをモフモフしているココアの横で、俺は深い、とても深ーい溜息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――翌日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「らっしゃい!」

 

甘兎庵に明るい声が響く。

 

「本日のおすすめはみぞれ天龍降しだよ!!」

 

甘兎庵の店の和服を着たココアは元気に動き回る。

 

「へい! あがり二丁!! それと翡翠スノーマウンテンで!」

 

「あいよ! 今朝仕上がったばかりの氷、削り中よ!!」

 

よっしゃ、と入ってくる注文に気合いを入れる答える千夜。

 

「はいっ、翡翠スノーマウンテンお待ち! 新鮮な氷、削りたてだよ!!」

 

「わぁ、ぴちぴちですね~」

 

てか、あそこにいるの青山さんじゃん。最近毎日のようにあまうさやラビットハウスに来ているみたいだけど、本業(小説)のほうはいいのかな?

 

「すみませーん、お会計お願いしますー」

 

「はい、ただいま参ります」

 

会計をしている間も、ココアと千夜の元気な声が店内に響く。

 

「……はい。250円のお釣りです」

 

「元気な女の子たちね?」

 

ちょっと疲れた雰囲気が出ていたのか、微笑ましくも俺を労うとように言ってくる女性客。

 

「ええ。そこは魅力的ではあるんですけど、たまに疲れるというか…ノリについていけなくなる時があるというか……」

 

「ふふ。そこを受け止めてあげるのも甲斐性よ? 頑張れ、男の子」

 

俺の心中を分かってくれているのか微笑みながら応援してくれる女性。そんな女性を俺はありがとうございます、と困ったように笑いながら彼女の退店を見送る。

逆に俺の心中を知らないココアと千夜は――

 

 

「こんなに楽しいのは初めて♪ 就職しちゃう?」

 

「まだまだ私と踊って貰うよーっ!」

 

 

あはははは、うふふふふと笑いながら鎮座しているあんこの周りをぐるぐると回っている。

 

「変なことしてないで仕事して! 意外と混んでるんだから!!」

 

楽しそうで何よりだけどさ、そのフォローにまわっている俺のことも考えてほしいと切に願う。

 

「あっ、そうだコウくん!」

 

するとなにか思い出したようにパタパタと俺のところに駆け寄ってくるココア。

 

「なに、どうしたの?」

 

「どうかな? 甘兎庵の制服――私、何だかんだで和服着るのなんて初めてだから」

 

くるりと回り、姿を改めて見せてくる。

どうやら、感想を求めているらしい。

 

「うん。ちゃんと似合ってるから大丈夫だよ」

 

「ほんと!? えへへ……」

 

「だから、早く持ち場に戻ろうね?」

 

「うん! よーし、頑張るぞ~!!」

 

こういうところで単純なのは良いことなのかどうなのか。

俺は苦笑いすることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――で、なんで私も呼ばれたの?」

 

「私たちの集中力が切れたら、そのハリセンで叩いてほしいの」

 

えぇ、と戸惑ったというか、引いたような顔したシャロは俺に視線を向ける。

 

「……コウナ?」

 

どういうこと? と言いたげに聞いてくるシャロに、俺はため息で返した。

 

「ぶっちゃけ、苦労人は一人でも多い方がいいからね。俺が呼ぼうって言った」

 

「本当にぶっちゃけたわね!? もう少し取り繕いなさいよ!」

 

普段の俺だったらそうしてるけど、もうそんなこと考えたくないほど疲れた。

 

「という訳でシャロ。道連れになってくれ」

 

「帰っていい?」

 

半目でそう言うものの、何だかんだで残ってくれるのだから、シャロは本当に優しい。

 

「じゃあ、テスト範囲の宿題を出してくれる?」

 

「はーい――って、あれ? 宿題のプリントがない…どこにやっちゃったのかしら?」

 

おーい、宿題やーい、と宿題の問題用紙を呼ぶ千夜だが――

 

「千夜、その紙」

 

「え……あらやだ。ハリセンにしてたわ」

 

俺の指摘に、ハリセンにしていたものがなんなのか気づいた千夜は恥ずかしそうに笑う。

 

「千夜ちゃんてば、お茶目さん」

 

あはは、うふふ、と笑い会うココアと千夜。そんな二人についにシャロが切れた。

 

「~~~~っ!! 帰っていいっ!?」

 

「気持ちは分かるけど落ち着いて! そして俺を一人にしないで!!」

 

俺だってバイトの時からのこの二人の処理にでいろいろと疲れてるんだから。

とにもかくにも自然にボケ続けるココアと千夜をなんとか勉強の席へと着かせる。

 

「コーヒーのおかわりをください……アイド、リケ、ソメ、モレ――coffee」

 

「リケじゃなくてlike(ライク)でしょ。ソメはsome(サム)でモレはmore(モア)

 

「中学校の英語だよ、それ……大丈夫?」

 

どうやら、中学の時に習った英語が忘却の彼方へと飛んでいっているようだ

 

「――coffee」

 

「なんでそこだけ発音良いのよ?」

 

「――greentea」

 

「……千夜?」

 

なんかココアに乗じて千夜も言い始める。

 

「I'd like some more coffee」

 

「i'd like some more green tea」

 

「もう帰るわ!!」

 

「俺も帰ろっかな……」

 

何を通じあったのかは分からないが、顔を合わせて親指を立てる二人に俺とシャロは辟易するのだった。

 

 

 

 

 

「ココア。ここの計算間違ってるわよ」

 

「えっ? どこどこ?」

 

「ほらここ――」

 

ようやく真面目に勉強を初めてから一時間。休憩を挟んで別の教科をやることにした。

ココアとシャロは物理、俺と千夜は数学の問題集を開く。

 

「さて、ココアはシャロに任せて…俺たちは数学やろうか」

 

「お願いします。コウナくん」

 

「千夜は数学や物理のどういうところが分からない?」

 

「えっと…その……」

 

「別に怒ったりはしないから、正直に言って?」

 

「その、分からないところが、分からないの」

 

「なるほどね」

 

「ごめんなさい…」

 

「ううん。ちゃんと言ってくれない方が困ってたから、謝らなくていいよ――ちょっとテスト見せて貰うね?」

 

分からないことそのものが分からない。よくあることだ。

千夜の小テストの結果を見ると、点数が取れてるのは最初に出題される単純計算の問題だ。これは公式とか暗記して、問題のパターンに当て嵌めてるからだろう。

 

千夜は典型的な単純計算だけできる人間のようだ。

 

だけど、そこに文章が加わると途端に分からなくなっている。それは問題の考え方をきちんと理解していないからに他ならない。理論をよく分かっていないのだ。

その傾向さえ分かれば教えようはいくらでもある。大丈夫だろう。

 

俺は頭の中で、千夜に教えていくことを組み立てていく。

 

「うん、オッケー。それじゃあやっていこうか?」

 

「お願いします」

 

 

 

 

 

勉強が一段落して、休憩を挟む俺たち。お菓子を摘まみながら色々話していると、ココアがあるものを見つける。

 

「あっ、アルバム発見!」

 

「あまり人の家のもの漁っちゃ駄目だよ」

 

「気にしないで、見られて嫌なものは入ってないもの」

 

千夜の許可を貰ったココアは遠慮なくアルバムを開いた。

千夜とシャロの小さい頃から高校入学前までの写真がたくさん納められていた。

 

「千夜とシャロは本当にずっと一緒だったんだね」

 

「ええ。ずっと仲良しなのよ?」

 

「まあ、腐れ縁とも言うわね」

 

「素直じゃないなぁ…」

 

苦笑いしながらページを進めていくと、ふとある写真が目についた。

 

「あれ? この写真、千夜ちゃん浮かない顔してる」

 

「あ、ココアも気づいた?」

 

それぞれの高校の制服を着て並んで撮った"高校入学前"と記されている一枚の写真。

シャロは普通の顔をしていたけど、千夜はどこか不安が混じった顔をしていた。

 

「ああ、それね。ほら、私たちって中学まで一緒の学校だったのよ」

 

千夜が言う前に、シャロが口を開いた。

 

「だから高校が別になってちゃんと友達ができるか心配だったのよ」

 

「っ!」

 

シャロの言葉に千夜は恥ずかしそうに頬を赤く染める。

 

「まったく、心配性なん――むぐっ!?」

 

「シャロちゃん、もう良いんじゃないかしら?」

 

その恥ずかしさが頂点に達した千夜は慌てたようにシャロの口を塞ぐ。

 

「へえ~、なんか意外」

 

「まあ、その気持ちは分かるから別に恥ずかしがらなくても良いと思うよ?」

 

「そ、そうだみんな。もう夕方だし、そろそろ勉強おしまいにして、晩御飯の準備しましょう?」

 

あからさまに話を打ち切る千夜に、苦笑いしながらも俺たちは頷いて勉強道具をしまった。

 

 

 

 

 

「で、実際のところは?」

 

「……やっぱり、コウナくんは気づいたのね」

 

トントントン、と包丁のリズムを刻みながら問いかけると、千夜は困ったように笑った。

 

「まあ、あの表情を見たら自分だけの心配じゃないって分かるよ」

 

「それが分かるのはコウナくんだからだと思うわ。ココアちゃんも、ずっと一緒にいたシャロちゃんも気づいていないもの」

 

「ココアはともかく、本人はあまり気づかないものだよ。まさかシャロだって友達ができるか心配されてたなんて思わないよ」

 

「それもそうね」

 

「良い関係だね。千夜とシャロが羨ましいよ」

 

「あら。ココアちゃんとコウナくんの関係だって良いと思うわよ?」

 

「そう?」

 

「ええ。異性の同い年で親しい子がいなかったから、そういうの憧れがあるの」

 

「逆に俺は同性で親しい同い年がいなかったから、そっちに憧れがあるよ」

 

「ふふ。無いものねだりしてるわね、私たち」

 

「まあ、ねだるだけなら良いでしょ」

 

「確かにそうね」

 

お互い他愛の無い話に笑いながらも、俺たちは手を進めるのだった。

 

 

 

 







いかがでしたでしょうか?

ではまた次回の話を描いていきたいと思います。

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