ご注文はうさぎですか? ~ココアと双子の弟~   作:燕尾

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ども、燕尾です。
36羽目です。






シャロと恐怖の現場 ~うさぎが家を借りています~

 

 

 

 

 

――ゴロゴロ、ゴロゴロ

 

「今日はお客さんが来ないですね」

 

週末のバータイム。シフトで入っていたが、今のところ誰も来ることはなかった。

 

ゴロゴロ、ゴロゴロ

 

「そういう日もあるさ。週末とはいえ家でゆっくりと過ごす人もいるからね」

 

ゴロゴロ、ゴロゴロ

 

「……マスター」

 

「親父……少しはじっとしてたらどうだ」

 

「こんな暇に時にじっとしておられるか――ゴロゴロ」

 

暇なのはわかるけど、落ち着きがなさすぎる。もう生前と今の兎生(とせい)含めて御年いくつだと思ってるんですか。

 

「ほら、こっちおいでマスター。毛づくろいしてあげますから」

 

「コウナ、お主わしを子ども扱いしておらんか?」

 

「子供というより、ペット扱いですね」

 

「なんじゃと!?」

 

だって今はティッピーじゃないですか。うさぎじゃないですか。

そんなモフモフの体で突撃してきたところで、俺には届かない。

 

「はっはっは、どうしました。全然パワーが足りませんよ」

 

「この小僧がーー!!」

 

そうやってじゃれていると、扉が開かれた。

 

「いらっしゃいませ」

 

「いらっしゃいませ。お好きな席に――」

 

一瞬で店員に戻ったはいいが、入ってきたお客さんに目を丸くさせる。

 

「――シャロ?」

 

「あ……コウナ……」

 

顔面蒼白のシャロが来店してきたのだ。

 

「今はバータイムの時間なんだけど、お酒飲みに来たわけじゃないよね?」

 

「あ、当たり前でしょ! 未成年なのよ!?」

 

常識は残っていたみたいでよかったが、それ以外道端に落としたような顔つきをしているシャロを見たら心配になった。

 

「タカヒロさん。俺のおごりでシャロにホットミルクティーをお願いします。ちょっと離席しても大丈夫ですか?」

 

「ああ。かまわないよ」

 

「そ、そんな悪いわよ……」

 

「そう言ってるけど、何かあってここを頼りにしてきたんでしょ? 無駄な意地張らない」

 

「うっ、それもそうね…ごめんなさい……」

 

「お待たせしました。ホットミルクティーです」

 

「ありがとうございます」

 

「それじゃあ、ココアたちのところに行こうか」

 

受け取った飲み物をもって、チノちゃんの部屋に向かう。

 

「ココア、チノちゃん、ちょっといいかい?」

 

「コウくん? どうぞー」

 

失礼するね、と扉を開けて入る。

 

「どうしたのコウくん――あれ、シャロちゃんまでこんな時間にどうしたの?」

 

突然の来訪者に首を傾げるココアとチノちゃん。

 

「ごめんなさい、こんな時間に。その、頼みがあって」

 

「なんでしょう?」

 

頼みごとを問いかけると、シャロは何かを思い出したようにガタガタと震えだした。

 

「物置でいいからかくまってくれないかしら……」

 

「夜逃げ!?」

 

「……どういうことか、話を聞かせてくれる?」

 

 

 

 

 

「シャロさんの家で怪奇現象?」

 

「そうなの…家中から変な物音するし、帰ったら部屋に葉っぱ盛られてるし…」

 

それは何か小動物が入り込んだとか強風に煽られた音、気温の変化による家鳴りのようなものだと思うけど。

 

「それはお化けか、ネズミの仕業だよ!」

 

ネズミはともかくお化けはないだろ。あの辺でそういう暗い話は聞いたことないし。

 

「うっ、うさぎがこっそり家を借りてるのかもしれません!」

 

「もっと地獄!!」

 

シャロの家に関するフォローを入れたつもりのチノちゃんだけど、うさぎ恐怖症のシャロからしたら言う通り地獄だろう。

 

「うさぎのお化けかも!」

 

「―――」

 

「魂が!?」

 

「とどめを刺すな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――さて、シャロ曰く家で怪奇現象が起きているってことだけど」

 

休みが明け、学校の授業が終わった放課後。

 

「この街は木組みの家が多いから、家鳴りとかもあると思うんだけど? そのほか諸々の要因だってあるし、そこのところ確認はしなかったの?」

 

「怖くてそこまで確認できなかったの! そもそも、それができてたらチノちゃんの家で厄介になってないわよ!」

 

「ごもっともだな。それでリゼにも協力を仰いだのか」

 

シャロの隣にいるリゼに視線を向ける。

 

「ああ。困ってるようだし、やはりこういうのは解明しないとな。得体のしれないのがいるのも嫌だろう」

 

「ありがとうございます、先輩。コウナも無理言って悪いわね」

 

「万が一だとしても何かあってシャロが怪我したら大変だからね。こういうことは遠慮せず頼ってよ」  

 

「……ありがとう」

 

 

 

 

 

「シャロちゃんの乙女センサーが反応したわ」

 

 

 

 

 

「「「うわぁ!?」」」

 

ぬるっと現れた千夜に、俺たちは声を上げた。

 

「びっくりしたよ…千夜、いつの間に……」

 

「そろそろシャロちゃんが二人を連れて帰ってくると思ってたから、スタンバイしていたの」

 

「ちゃんと店の手伝いしてなさいよ!」

 

「そんなことよりシャロちゃん! ココアちゃんから聞いたけど、どうして私を頼らなかったの!?」

 

「頼ろうとしたわよ! あんた自分の着信履歴見てないでしょ!」

 

あら、と千夜は携帯を見て呟く。おそらくラビットハウスに来る前に千夜に鬼電してたんだろう。

 

「そうだ。千夜も協力してくれないか?」

 

「そうね…自分の喫茶店()の隣が幽霊屋敷なんて嫌でしょ?」

 

「甘兎庵の隣がお化け屋敷……おっけーよ♪」

 

「よくない!!」

 

「楽しそう♪」

 

「楽しくなーい!!」

 

流石に本物の幽霊屋敷となったらお客さんは寄り付かないだろうし、洒落にならないことが起きそうだ。お化け屋敷は人が作ったものに限る。

 

「とりあえず中に入ろう。大丈夫シャロ?」

 

「ええ」

 

家のカギを開けてもらい、お邪魔しまーす、と俺たちは中に入る。

 

入って早々目の前に見えたのは見開きで逆さまになっている本。

ただそれは何かに覆いかぶさっているように少し膨らんでいた。

 

「今お茶入れますね。どのカップがいいですか?」

 

リゼが来ていることでもてなそうとしているシャロ。ここに来た理由を速攻で忘れているようだった。

 

「それよりも――」

 

「シャロ、そこ」

 

千夜も気づいていたようで、二人で指摘すると本がガタガタと震え始めた。

 

「「ポルターガイスト!?」」

 

「いやどう考えても――」

 

「この程度で潜入したつもりか!? 笑わせる!」

 

「キャー!!」

 

「おっと――ポルターガイストって言ってたのに潜入とは?」

 

「……むぅ」

 

勢いで本を取り上げるリゼにシャロは奇声を上げ、俺に抱き着いてくる。

 

まあ当然お化けの類ではなく、そこにいたのは――

 

「ふっ、不良野良うさぎ!?」

 

「君かー」

 

「コウナ、知ってるのか?」

 

「街中で結構見てるよ。特徴的な見た目だからね。最近あまり見てないなーって思ってたけどシャロの家にいたみたい」

 

「屋根裏かどこかに住み着いていたのね」

 

すると不良野良うさぎは口にくわえていたものをそっとシャロの目の前に差し出した。

 

「もしかして家賃替わり?」

 

「義理堅い不良だ!?」

 

うーん、義理堅いというかなんというか、その草はそこらの雑草じゃなくて――

 

「うう……」

 

顔を覆うシャロに俺は得心がいった。

 

「シャロ、まさか?」

 

「私が庭で育てたハーブ……」

 

「それはつらい!」

 

とりあえず、うさぎを抱きかかえて家の外に出る。

 

「ごめんな。葉っぱは受け取れないから、住む場所は他を探してくれ」

 

リゼが野良うさぎに言い聞かせると、ぴょこぴょことシャロの家から離れていく。

 

「やっと静かになる」

 

「背中に哀愁を感じるわ…」

 

「こんなものまで用意して、こんな狭い家のどこがいいのよ……」

 

ハーブを見つめてため息を吐くシャロ。

するとその所作が受け取ってもらえたのかと感じたうさぎは振り向いてこちらへと戻ってきた。

 

「受け取ったつもりじゃないんだから!」

 

「んーもしかして、この子シャロのこと少なからず気に入ったんじゃない? 確か俺とリゼと路地で出会った時も、この子に絡まれてたよね?」

 

「あぁ、言われてみれば確かにそうだな……この際仲良くしてみたらどうだ?」

 

「へっ?」

 

リゼの当然の提案に、シャロは硬直する。

 

「うさぎへのトラウマを克服するちゃんかも!」

 

二人に背中を押され、うさぎの前に立たされるシャロ。

 

「無理はするなよー」

 

「シャロちゃん、ふぁいとー」

 

「何でこんなことにっ……!」

 

いきなりトラウマ克服しろって言われたって困惑してしまうのも無理はない。

 

「なんだか、子供を見守る親みたいね」

 

「私たちが両親?」

 

「な゛ぁ!?」

 

「どっちが母親かしら?」

 

「それは千夜っぽい」

 

まあ性格的にはそれっぽいけど、それをシャロの前で言ったら――

 

「ぐぅ…」

 

「泣くほど怖かった!?」

 

「やきもちかしら?」

 

「まぁ、やきもちだろうねぇ……」

 

千夜は野良うさぎを抱えてシャロに向ける。

 

「名前を付けたら愛着がわくんじゃない?」

 

「そうかしら……エリザベス、ベアトリクス、ヴィクトリア……」

 

シャロの趣味がわかりそうなネーミングセンスに苦笑いする。

 

「"ワイルドギース"はどうだ? 潜入技術は未熟だけど立派な兵士になるぞ」

 

「それってリゼが自分のぬいぐるみにつけてる名前じゃ…?」

 

「何でそれを知ってるんだ、コウナ!?」

 

ふふふ。コウナさんは何でもお見通しなのだ。冗談だけど。

 

「灰色だから"ゴマぼたもち"は?」

 

「それは喫茶店のメニューにつけろ」

 

「こういう時は普通のネーミングセンスなんだね、千夜……」

 

「ワイルドギース……」

 

シャロがその名を呟くと、ピクリと反応するうさぎ。

 

「き、気に入ったの、この名前?」

 

問いかけるとうさぎはまたピクリと反応する。

 

「ふふ、そうね。先輩が付けてくれた名前だし、似合ってるかも…」

 

「しゃ、シャロちゃんがうさぎに微笑んで……っ!」

 

感激して涙ぐむ千夜に、照れ隠しするように、見間違いよ、とそっぽを向くシャロ。

それでも一緒に過ごすと決めることができたのはシャロにとって大きな一歩になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――後日

 

 

 

 

 

「シャロちゃーん、私もワイルドギース見に来たよー!」

 

あの日に何があったかを教えたココアとチノちゃんがワイルドギースに会いたいということで、二人を連れてシャロのところを訪れた。

すると玄関横で何やら作業をしているシャロの姿に、その傍らには段ボールで作った家があった。

 

「あれっ、うさぎ小屋作ったの?」

 

「あれほど嫌がっていたのに、ツンデレね」

 

「ち、違うわよ! これはもしかまれたときに逃げ込む、わ…私の家だから!!」

 

入られるスペースないだろうに…それにその家段ボールで作ってるけど、雨降ったらどうするのだろうか。

 

「シャロちゃんの家がより慎ましやかに!?」

 

「慎ましやかっていうなー!」

 

「ふふ…立派な家よね」

 

「千夜……このおバカー!!」

 

シャロの怒声が響くも、気にする様子も見せずに段ボールハウスで寛ぐワイルドギースに俺は苦笑いするのだった。

 

 

 

 







いかがでしたでしょうか?
ではまた次回に


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