ご注文はうさぎですか? ~ココアと双子の弟~   作:燕尾

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お久しぶりあけましたおめでとうございますです。燕尾です。
38羽目です。





うさぎの城落とし ~人間になって出直してきなさい~

 

 

 

 

 

ある日の昼下がり。午前中のバイトがなかった俺とチノちゃんは甘兎庵に来ていた。

 

「お待たせしました。エメラルドの涙です」

 

「「いただきます」」

 

目の前に置かれた湯飲みに口をつける。

 

「――美味しいです」

 

「コウナくんはどうかしら?」

 

「うん、美味しい。華やかな香りと柔らかい青さを感じるお茶だね」

 

感想を口にすると千夜は安心したように微笑んだ。

 

「好評みたいでよかったわ。実はおばあちゃんも気に入ってくれたの。この分なら新しい緑茶としてお店のメニューに載せられそうね」

 

「本当? 結構俺好みの味だったから、来る理由がまた一つ増えるね」

 

「ふふ、コウナくんもすっかり常連さんね。将来甘兎に就職しちゃう?」

 

「それも一つの選択肢として考えておくよ」

 

「将来……あの、千夜さん」

 

何の気なしに会話していたところで頭にあんこを乗せたチノちゃんが千夜に問いかけた。

 

「何かしら?」

 

「私たち、将来はそれぞれの喫茶店の跡継ぎになるんですよね?」

 

「そうね」

 

ラビットハウスと甘兎庵。それぞれ自分の実家の喫茶店を継ぐことを心に決めている二人。

二人の年齢ではまだいろんな選択肢があっていろんな選択ができるにもかかわらず、進路を確固とした意志で定めているチノちゃんと千夜を少しうらやましく思う中、チノちゃんは予想外のことを口にした。

 

「私たちのお店はライバルで深い因縁があったみたいですが……」

 

「え?」

 

頭に疑問符を浮かべる千夜に気付くことなく、前のめりになったチノちゃんは続ける。

 

「私たちの代ではもう関係ないですよね? お互いに頑張りましょう」

 

俺も初耳だった。ラビットハウスと甘兎庵に因縁があったなんて聞いたことない。たぶん俺が小さいころにお世話になる前の話のことなのだろう。

そしてそれは千夜も同じだったようで――

 

「深い、いんねん……?」

 

「あれ!?」

 

なにやら面白そうな匂いがする話のようだな、これは。

 

 

 

 

 

ところ変わってラビットハウス――

甘兎庵の帰りはもちろん、ラビットハウスに帰ってきてからもずっと落ち込んでいたチノちゃんは机に突っ伏していた。

 

その様子に心配したココアとリゼがすぐさま俺に事情を聴いてきたのでことのあらましは伝えると、納得しつつもチノちゃんに声をかけることはできず、遠巻きに眺めた。

 

「凹んでるね、チノちゃん…」

 

「甘兎庵と張り合いたかったのか?」

 

「言っちゃえばお互い知り合うまでお互いの店を知らなかったようだし、はっきりそれはそれで今更だと思うんだけどねぇ」

 

「でもコウくん、改めて突きつけられる事実にショックを受けるのはよくあるんじゃないかな?」

 

「どんなドラマだよ、それ」

 

特に重要な問題でもないので各々好き勝手言っているとチノちゃんが顔を上げる。その目は遠いどこかを眺めるかのようだった。

 

「因縁を持ってると思ったのはきっと……おじいちゃんだけです」

 

「なぬぅ!?」

 

チノちゃんの言葉にショックを受けるティッピー(マスター)

 

「ほんとかどうかはわからないけど、向こうはガン無視だったってことか」

 

「一方的な敵愾心を出してたけど、それは先代マスターの独り相撲…」

 

「おじいちゃん……」

 

ココアが目じりに涙を浮かべる。

 

「「「かわいそう…」」」

 

マスターを憐れむココアとチノちゃんとリゼ。

何とも言えない空気の中、俺は笑いをこらえるのが大変だった。

 

チノちゃんはどちらかというとマスターを想って気落ちしていたようだ。

 

「憐れむな!! コウナ。おぬし分かってて言っておるな!?」

 

もちろん、分かりましたもの。

 

「ねね、コウくん。私たちで調べてみない? この真相を!」

 

先ほどの涙はどこへやら。今度は興味津々といったようにわくわくした様子を見せるココア。

 

「そうだね。マスターにだって慰めも時には必要だし、本当にアウトオブ眼中だったらそれはそれで面白いし」

 

「お前は悪魔かっ!」

 

悪魔って失礼なこと言うもんじゃないよ、リゼ。

マスターのことなんだからそこまで同情的にならなくてもいいんだよ。

 

「チノちゃん。お店任せるね! 私たち調べてくる!!」

 

「あ、おいっ! 私も行くのか!?」

 

勢いそのままにココアは俺とリゼの手を引っ張ってラビットハウスを飛び出していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、本当に因縁があったのか調べたいと思います!」

 

「なんでうちに……」

 

お客としてやってきたわけではないと理解したシャロはげんなりとした様子で呟いた。

敵を知るためには敵地に飛び込むのが一番――というわけではないが、当事者以外の身近に甘兎庵のことをよく知っている人(シャロ)いるので俺たちはまず彼女のところへと足を運んだのだ。

 

――あれ、フルールにお客としてくるよりもこういう時に来ることの方が多くないか?

 

そんな考えが頭の中をよぎり、申し訳なさが出てくる。シャロがげんなりするのも間違いじゃない。

 

「千夜の幼馴染として、なにか知らないか?」

 

「このままじゃおじいちゃんが成仏できないよ!」

 

とりあえず今度お客としてこのお店に貢献させていただくのは決まりとして、今は目的を果たすためにシャロに聞いてみることにした。

 

「そう言われても…」

 

シャロとしては当然小さい頃の話だろうし、あまり覚えていないのも無理はない。

だがそれでは困る。何とかして思い出してもらわねば。

 

「誤魔化そうとしているね、シャロちゃん」

 

「どうしてリゼを連れてきたかわかるかい、シャロ?」

 

「保登姉弟が悪い顔をしている!?」

 

俺とココアは悪い笑みをシャロに向け続ける。

 

「リゼちゃんは尋問が上手そうだから連れてきたんだよ!」

 

「尋問させる気かっ!?」

 

「っ!?」

 

戸惑うリゼをよそに、シャロの顔色が変わった。そんなシャロに俺は追い打ちをかけるように耳打ちをする。

 

「ほら、想像してごらん? タイトスカートの軍服姿のリゼが鞭をもって…シャロは椅子に体と手を縛られて身動きが取れない」

 

「それ、は。ハァ…ハァ……」

 

「そしてシャロの耳元で『ほら、情報を吐くんだ。そうしたらこのおいしそうなメロンパンを私が食べさせてやろう』と動けないシャロにメロンパンを押し付けながら誘惑――ギャン!!」

 

「お前は何を言ってるんだ!!」

 

「ひどいよリゼ。思い切り叩かなくたっていいじゃないか」

 

「コウナが血迷ったこと言ってるからだろ!?」

 

「ちょっとしたお茶目なジョークってやつだよ」

 

「ジョークにしては具体的だったよね。コウくん、そういうのが好きなの…?」

 

趣味ではないからそんな目で見ないでよ、ココアお姉ちゃん。

 

「でもほら、シャロも満更でもないみたい」

 

「か、覚悟はできてます!!」

 

「どんと来いだった!?」

 

基本リゼ大好きだからね、シャロは。リゼ絡みだと常識もぶっ飛ぶんだよ。

 

「じゃあ、何か心当たりはないか? ラビットハウスと甘兎庵で揉めたとか」

 

「そんな記憶があるようなないような…本当に小さい頃でしたから……」

 

「そっか…残念だな」

 

「っ! こうなったら頭を打ってでも思い出します!!」

 

リゼの残念そうな顔を見て何を思い詰めたのか、シャロは持っていたステンレスのトレンチを思い切り頭に打ち付け始めた。

 

「あの~?」

 

「あ、青山さん。いつの間に?」

 

俺たちの間に現れたのは青山さん。さっきから声をかけていたみたいだが、話に夢中になっていて気付かなかったみたいだ。

 

「昔のマスターを知っている私に話を聞いていただければ、わかるかもしれません」

 

「確かに!」

 

「シャロの努力が無駄に!」

 

頭を打ち付けすぎたのか、気を失いかけているシャロをさすがに放置もできず俺は彼女を横にさせて頭を膝の上に乗せ、ぶつけていたところを優しく撫でる。

 

「それで青山さん。昔ラビットハウスはどうだったんです?」

 

「はい。マスターはお髭が素敵で、淹れてくれたコーヒーは創作意欲を搔き立てました」

 

青山さん、万年筆の件で何となくわかっていたがかなりマスターを慕っているようだ。

だけど今その話はあまり関係がない。

 

「中でもコーヒーあんみつはとても独創的な味でした」

 

そう思っていたところに気になる言葉が出てきた。

 

「コーヒーあんみつ?」

 

「そんなのがあったの!? 食べてみたかったなー」

 

「幻のメニューだな」

 

今のラビットハウスにはそんなメニューにはない。ということは期間限定のメニューでしかもあんみつということは――なるほど?

 

「――っ! あの子が変なメニューを作るようなきっかけになったのは、私だった!?」

 

なんとなく合点がいったところでようやくシャロが目を覚ました。

 

「何か思い出したみたいだけど、頭は大丈夫?」

 

「それはどっちの意味で言ってるのかしら――というか何してるのよ!?」

 

「流石に頭を打ち付けて気を失いかけた女の子を放置はできないでしょ。痛みはないの?」

 

「……ええ、大丈夫」

 

「そう。ならよかった」

 

「――もう大丈夫だからっ!!」

 

そういってシャロは勢いよく起き上がった。

 

「あまり無茶なことはしないでよ?」

 

「焚きつけたあんたが何言ってるのよ!?」

 

「別に頭打ってまで思い出してなんて言ってないよ」

 

「うっ…それは、この……っ!」

 

「はっはっは。まだまだだね、シャロ」

 

改めてシャロの頭をぽむぽむする。

 

「ぽむぽむすなー!!」

 

猫のようにシャーっと怒るシャロ。反応が良くて俺はついついシャロ揶揄ってしまう――後ろから魔の手が伸びているのも気づかずに。

 

「――コウくん?」

 

「っ!?」

 

がっしりと捕まれる肩。誰の手なのか振り返らずともわかった俺は汗を流す。

 

「お姉ちゃん前に言ったよね? 女の子とべたべたしすぎじゃないかって」

 

「別にべたべたしてるつもりは――さすがに床に寝転がすのはよくないし」

 

振り返らずに抵抗を試みるもこうなったココアには関係ない。

 

「ふぅん…慈しむようにシャロちゃんの頭を撫でていたのに? そういう言い訳しちゃうんだ? そんなにシャロちゃんとべたべたイチャイチャしたいんだ?」

 

あかん。これは何言っても聞き入れてくれないパターンだ。しかもイチャイチャも追加されてるし。

 

「コウくん?」

 

「えっと、その……ココア?」

 

「違うよね?」

 

「ココアお姉ちゃん……」

 

「ちょっと、あっち行こうか」

 

「はい――」

 

「あらあら…」

 

手を取られ、ココアに連れていかれる俺を見た青山さんは微笑ましいというかのように小さく笑った。

 

 

 

 

 

しっかりココア流のお仕置きをされ、聞いた話以上のことはわからなかったので、俺たちはラビットハウスへの帰路へとついた。

 

「コーヒーあんみつはおいしそうだったけど結局わからなかったね。コウくんは何か分かった?」

 

「予想は考えられたってところかな? コーヒーあんみつを出してたって聞いて何となく。でも確証がないからね」

 

「因縁か…そういえばうちの親父もよく戦友の話をしてたな」

 

「戦友?」

 

「ライバル関係から任務を経て無二の友になったらしい。今は引退してバーテンダーやっているらしいけど」

 

それってタカヒロさんのことか。そういえばリゼのことを相談しに何度かバーの時間帯に来てたな。

娘と一緒に働いている男ということで最初は警戒されたけど、タカヒロさんを介して今は打ち解けていろいろと小手先の技術を教えてくれている――役に立つかは置いておいて。

 

「最初は仲が悪い方が後々上手くいくんだろうな」

 

「私も最初リゼちゃんに銃を向けられたなー」

 

「俺はその銃を額目掛けて思い切り投げつけられたなー」

 

「ちょっ、それは――」

 

「殺したいほど憎かったなんてこれからもっと仲良くなれそう。ね、コウくん♪」

 

「だねー。ココアお姉ちゃん♪」

 

「殺す気はなかったぞ!!」

 

「「ほんとかなー?」」

 

「この姉弟、こういう時の息がぴったりすぎる!?」

 

 

 

 

 

「「「ただいま」」」

 

「おかえりなさい」

 

ラビットハウスに帰ってくると、店内にお客さんはおらずチノちゃん一人で掃除をしていた。

 

「あの、ティッピーを見ませんでしたか? どこかに行ってしまいまして」

 

「えっ?」

 

「まさか、おじいさんの因縁を晴らそうと一匹特攻を……?」

 

「そうかも――って、いやいやありえません。うさぎですから」

 

一瞬納得しかけるチノちゃんだが、慌てて否定する。

本当にあり得ないと言いたいところなのだが、うさぎ(マスター本人)だから十分にあり得る。

 

変な方向に暴走しなければいいんだけど。

そんな心配をよそにカウンターから白い毛玉が飛び出してきた――ハチマキを締め、旗を掲げた状態で。

 

「戦が始まる――いざ!!」

 

「「やろうとしてた!」」

 

「ティッピー…本気だね!」

 

「心なしか毛が逆立って見える!」

 

正直今更何をそこまで駆り立てるのかよくわからないけれど、ティッピー(マスター)本気(マジ)のようだった。

 

「よーし。その覚悟に敬意を払って私も手伝うね!」

 

「やめてください仕事してください」

 

「リゼちゃん、特攻の基本を教えて!」

 

至極まっとうなチノちゃんのツッコミもスルーして、ハチマキを巻いたココアは特攻についてリゼに問う。

 

「戦死前提だから、おすすめはできないんだが」

 

特攻というよりやろうとしていることはカチコミなんだけどね。

 

てかマスター、どこで『乱火兎這巣』のハチマキと『珈琲旋風』の旗を用意したんだ。

 

「でやああああああ!!!!」

 

雄たけびを上げて走り出すティッピー。

 

「ティッピー! コウナさん、ティッピーを止めて下さい!」

 

「んー…面白そうだから様子見で」

 

「コウナさん!?」

 

「大丈夫だよ。本当に問題になるほど暴走したら止めるから」

 

時間も閉店時間過ぎてバータイムの準備時間だし、タカヒロさんも止めてないってことはあまり気にしてないってことだろうし。

 

俺たちはティッピーの後を追い、甘兎庵へと向かう。

ティッピーは体を器用に使い、甘兎庵の扉を勢いよく開いた。

 

「ババアを出せ! ババア!! いざ尋常に勝負しろ!!」

 

もはや中身がばれても仕方がないほど暴走しているティッピー(マスター)は大声を上げて店内に踏み込む。

 

「よくわからないけど、相手になるわ!」

 

すると店の奥から突撃してきたティッピーを迎え撃つべく千夜が木刀を構えて現れた。

 

「本当に止める人がいないっ!」

 

チノちゃんのツッコミもむなしく、両者にらみ合う。

心なしか二人からオーラが立ち込めているように見えた。

 

「どりゃあああああ―――んぐっ!?」

 

「そこまで。これ以上はダメだよ、ティッピー」

 

千夜に向かって飛び掛かったティッピーを顔から掴む。

 

ふぁふぁふぁんふぁ!(離さんか!) ふぉふぉう!!(小僧!!)

 

「ほい、チノちゃんパス」

 

「最初から止めてくださいよコウナさん。すみません千夜さん…お仕事の邪魔を……」

 

受け止めたティッピーを暴れないように抱きしめて、チノちゃんは千夜に頭を下げた。

 

「あら、もうおしまい?」

 

本来だったら迷惑でしかないはずなのに、千夜はノリノリで楽しそうに笑っていた。

 

「駄目だよティッピー、仲良くしなきゃ」

 

「ココアもティッピーに便乗していたのに」

 

「コウくん、何か言ったかな? それとお姉ちゃんが抜けてるよ?」

 

Yes your sister!(はい、お姉様っ!)

 

「コウナ、お前……」

 

分かってるから。分かってるから何も言わないでよリゼ。視線でもう伝わってるから。

 

「じゃあ、せっかく千夜が来てくれたんだから答え合わせしようか」

 

「答え合わせ、ですか?」

 

「コウナはわかったのか? ラビットハウスと甘兎庵の因縁って話を」

 

「予想を立てたから答え合わせだよ。千夜――コーヒーあんみつって聞き覚えある?」

 

「コーヒーあんみつ?」

 

メニューの名前に首をかしげるチノちゃん。そんなチノちゃんをココアは意外そうに問いかけた。

 

「あれ、チノちゃん知らなかったの? ラビットハウスで出してたって私たち青山さんから聞いたんだけど?」

 

「青山さんは学生時代からラビットハウスの常連だからそのメニューがあったのは間違いないと思う。ただ、あんみつは和菓子でコーヒーを扱う喫茶店には普通は見かけないもの――ラビットハウス近辺で先代マスターの時代から和菓子を商いにしていたのは?」

 

「甘兎庵――そうか、コラボメニューとして出してたんだな?」

 

リゼの答えを肯定するように千夜が頷いた。

 

「ええ。聞いた話だけれど、宣伝のためにお互いのお店で出してたの。お客様にも大好評だったそうよ――特製あんこが美味しいって評判にもなって」

 

最後の一言にチノちゃんが気づく。

 

「あ…おじいちゃん、それが気に入らなかったのかも」

 

「まさか、コーヒーが注目されなくて拗ねたのか?」

 

「自分のコーヒーにこだわりを持ってましたから」

 

つらかったんですね、と同情するようにティッピーを見つめるチノちゃん。だが、リゼの目は雄弁に語っていた。"大人げない"と。

 

「で、ここからは本当に想像でしかないんだけど。千夜、ラビットハウスと甘兎庵でもう一つほどコラボメニューをお互いの店で出してない?」

 

そう問いかけると、その想像が事実だということを千夜は告げてくれた。

 

「ええ。コーヒーあんみつを出してから少ししてからコーヒー羊羹を出したの。その時はコーヒーが美味しいって注目されて、今度はおばあちゃんが拗ねたみたい」

 

「どっちもどっち!」

 

「そんなことだろうと思ったよ。年代もほぼ一緒だろうし、ジャンルは違えど喫茶店ってこともあってお互いにライバル心を持ってたんだろうね」

 

だから、千夜もチノちゃんも出会うまでお互いの店についてはほとんど何も知らなかったんだろう。

マスターも千夜のおばあさんも意地張って話題にも出さなかっただろうから。

 

「私からは楽しそうに見えたわ」

 

「深刻な因縁じゃなかったんですね」

 

事実を知ってチノちゃんは胸を撫でおろす。

 

「でも、ココアちゃんに感謝ね」

 

「ふえっ、なんで?」

 

「だって私達が出会わなかったら、コウナくんともラビットハウスさんともこうしてお友達になれなかったもの」

 

そう言って千夜はチノちゃんに小指を差し出した。

 

「チノちゃん――約束。私達立派な看板娘になりましょうね♪」

 

「は、はいっ!」

 

答えるようにチノちゃんも千夜の小指に自分の小指を絡める。

俺たちはこれから続いていくであろう二人の約束を笑顔で見届けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因縁話が解決し、ラビットハウスに戻る俺たち。

 

「そういえば千夜って甘兎庵を大きくするのが夢だったよな」

 

「みたいだね。どこまで目指しているのかはわからないけど、夢があるっていうのはうらやましいな」

 

「女社長ってかっこいいな――大人のできる女って感じだよね」

 

ココアの言葉を聞いたチノちゃんがハッとした表情をする。

 

「私…街中の喫茶店をフランチャイズ化します!!」

 

そして急に今のラビットハウスの状況からは別ベクトルのことを叫び始めた。

千夜に影響されたのかそれはそれでいいかもしれないけれど、また突拍子もないことだ。

 

「頑張れチノちゃん! じゃあまずは――メニュー名を改めるところから始めようね!」

 

「はい!」

 

「「「は??」」」

 

ココアの後押しと提案によりチノちゃんはラビットハウスのメニューとペンを取り出す。

 

「漆黒の…」

 

「…ダークネス」

 

「暗黒郷黒檀の如き――」

 

「一番暗きとき、ダーケストアワー」

 

「「やめろ!!」」

 

千夜の真似しなくていいところを真似し始めた二人にリゼとティッピーの叫び声が響く。

チノちゃんって、意外とそっちの才能もあるのかもしれない――新しい彼女の一面に俺は苦笑いするのだった。

 

 

 

 






いかがでしたでしょうか?
ではまた。


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