お久しぶりです……
失踪は、一応していませんよ……?
今日はねん挫でバイトを休んでいたリゼのお見舞いに、ココアとチノちゃんとの三人で彼女の家まで来た。
本当はココアとチノちゃんが行く予定で俺はラビットハウスのシフトだったが、タカヒロさんからリゼの親父さんに渡してほしいものがあると頼まれて、俺も同行することになったのだ。
目の前に見えるリゼの家に俺たちは、はぁ、と息を漏らした。
「流石軍人として功績を上げてきた天々座家。家のスケールもでかいな」
「メイドさんとかいたりして」
「入り口でお迎えされたらどうしましょう?」
お嬢様の家としてメイドさんがいる想像を膨らませてドキドキする二人。
だけど俺は知っていた。もちろんメイドさんもいるけれど、それ以上にいるのは――
「おい、そっちに異常はないか?」
「異常なし」
「「「……」」」
黒服の男性たちが外玄関と中庭を巡回しているのを見たココアとチノちゃんとティッピーは身体を硬直させる。
そう、リゼの家にはメイド以上に黒服を身にまとった男性の使用人たちがいるのだ。
「……コウくん、このパンをお願い」
「ん、いいけど――どうしたのココア?」
「私が囮になるからお見舞いのメロンパン、絶対にリゼちゃんに渡してねっ!」
「ココアさんっ!? 命よりも大事なんですかっ!?」
「うおおおおおお――!!」
「待って待って! チノちゃんもそうだけど勘違いしてるからっ!!」
止めるよりも早く走り出したココアを追いかける。見た目こそマフィアのような装いだけど実際はそうじゃない。
「お嬢のお友達ですかい」
「ですかいですかい」
当たり前だがマフィアの構成員とかではなく、ちゃんと使用人としての職務を全うしている人たちなのだ。
「すみません、うちの姉がいきなり失礼なことを」
「おおコウナさんっ、いらっしゃいませ! いつもうちのお嬢と旦那がお世話になってます」
「こちらのお嬢さんはコウナさんの姉御さんでしたか、ようこそいらっしゃいました」
「今日はねん挫したリゼさんのお見舞いと親父さんへのお届け物で伺いました」
「承知しました。お先にお嬢の方を案内します。旦那はいま席を外しているので戻り次第お声がけをさせていただきます」
「ありがとうございます」
「ではこちらからどうぞ――お足もとにお気をつけて」
門を開けて通してくれた使用人たちに一礼をして屋敷に入る。
「……すごく紳士的な対応でした」
「使用人だからね」
「うぅ…人を見かけだけで判断してしまった――使用人失格だよ~!」
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛と廊下で頭を抱えてしゃがみ込むココア。
「コウナさんはあの方たちとお知り合いだったんですか?」
「バータイムでリゼの親父さんが来るからその迎えとかでよく会うんだよ」
「なんで教えてくれなかったの、コウくんっ!」
「見かけで判断して俺が教えようとする前に突撃かましたのはココアだよ」
「お姉ちゃんが抜けてるよっ!」
「その落ち着きのなさがなくなったらそう呼んであげるよ、ココア」
「うわあああん!!」
涙目でぽかぽかと俺の肩をたたくココア。
すると目の前のドアが急に開いた。
「……人んちの廊下で何を騒いでいるんだ、お前たちは」
中から出てきたのはリゼ。偶然にも彼女の部屋の目の前にいたようだ。
とりあえず中に入れと促され、俺はココアの腕を引いてリゼの部屋に入る。
「で、どうしたんだ? 来るって聞いてなかったけど」
「ねん挫したって聞いたからそのお見舞い。それとついでにタカヒロさんからリゼの親父さんに届け物をね」
「そうだったのか…ねん挫といっても軽いものだから心配しなくてよかったのに」
「リゼちゃんちにも来てみたかったから」
「そんな寂しいこと言わないでよ。軽くたって心配はするんだから」
「そうか…ありがとう……」
照れるように呟くリゼ。
どうやら彼女は素直な言葉に弱いようだ。これはいいことを知れた。
そんなことを考えていると、コンコン、とドアがノックされた。
「お茶をお持ちしました」
トレンチに片手に入ってきたのはシャロと千夜だった。
どうして二人がここにいるのかも気になるがそれ以上に、二人の格好に目がいった。
「リゼさんのおうちにはいないのかと思っていましたが、やっぱりいましたメイドさん」
「ここでもバイトしてたんだー」
「シャロの金欠はそこまで酷いだなんて……何かあったらいいなよ! トイチでいいから!!」
「来てたの三人とも――というかコウナ、あんた一ミリたりとも貸す気ないでしょっ! いや絶対借りたりしないけど!!」
「シャロちゃん、ついに天職を見つけたみたいなの」
「おバカ千夜!! これは罪滅ぼし――ああもうッ、ボケが渋滞してる!!」
これ以上はシャロのツッコミのキャパもオーバーしちゃうみたいだ。
「ごめんごめん、それで罪滅ぼしってどういうこと?」
シャロが言うには数日前。学校帰りに二人で限定アイスを食べに行くことを約束していたのだが、その時に足を挫いていたらしく、シャロの制止を振り切って店まで歩いたらしい。
「私があの時無理やりにでも止めておけば…!」
悔やんでいるシャロだけど完全にリゼの自業自得だ。店に行くにもいろんな方法あったろうに。
それこそリゼの家ならちょっと車出してもらうことだってできたはずだ。
リゼもそれを自覚してるからこそ足元で懺悔しているシャロをなだめているし。
「で、メイドでご奉仕と」
「だから罪滅ぼしだって!」
「まあどっちだっていいよ。それより――せっかく来たんだし、あ、遊んでいかないか?」
すぐ近くからトランプやカードをリゼは取り出してそう提案する。しかし、
「ううん。怪我に響くと良くないし、そろそろ帰るよ」
「えっ?」
「私たちも仕事があるので」
「えっ!?」
別に体を動かす遊びじゃなければ響くことなんてないからいいかな、と思っていた俺とは違いココアたちは立ち上がった。
「ま、まって……うっ!」
「おっと!」
慌てて立ち上がろうと痛めている足に力を込めたのか、顔を歪ませて前につんのめりそうになったリゼを反射的に支えた。
そんな俺の行動に対して仇で返すように、リゼは俺のこめかみに何かを突き付けてきた。
「……動くな!」
「…ちょっとリゼ? 俺を殺す気?」
何をされているのかすぐに分かった俺は抗議の声を上げる。
「リ、リゼさん…!?」
「あわわわわ、落ち着いてっ……!」
「あっ、ココア後ろ…」
状況にびっくりしたココアが後ずさるも、その後ろにはお高そうな天体望遠鏡があった。
ココアの体とぶつかった望遠鏡は横に倒れ、三脚から正規じゃない外れ方をした。
「あらら…」
「ご、ごめん! 喫茶店を担保に弁償を……!」
「うちを巻き込まないでくださいっ!」
「じゃ、じゃあコウくんの命で!」
「へぇ…ココアったら俺はその望遠鏡以下だって言うんだ。へぇ、そう」
「ひぃっ!? コウくん怖い!! こうなったらチノちゃん!」
「え、あ、ちょっとココアさん!?」
ひどすぎる交渉カードに青筋を立てた俺を見たココアはチノちゃんの手を引っ張りリゼの部屋から勢いよく飛び出した。
それに気づいていないリゼは俺の首をロックしたまま何かの準備をし始める。
「いや、安物だから気にしないでいい。それよりゲームか何かやらない――」
「リゼ。ココアたちもういないよ」
「あれっ!? そんなに私と遊ぶのが嫌だったのか……?」
「いやそうじゃないでしょ。皆早とちりしすぎ」
ぐちゃぐちゃな状況に溜息を吐く。
数分後飛び出したココアたちが姿を変えて戻ってきた。
「体でお返しするから……」
「喫茶店の担保だけは勘弁を……」
先ほどのシャロと千夜と同じメイド服を身にまとったココアたちは顔を青ざめさせながら懇願する。
「……リゼ、俺が付き合うよ。落ち着いたらみんなで遊ぼうか」
「ああ…もうそれでいいや……」
もはや収拾させることを諦めた俺たちは苦笑いするのだった。
「そういえば、リゼの家的にココアたちを自由にさせてよかったの? 手伝うと言っても本職の人からしたら迷惑なんじゃない?」
「ああ。家の皆には何か問題が起きそうになったらフォローするように言ってるし、さすがにココアたちも迷惑かけるようなことまではしないだろ」
ピコピコとコントローラーを操作しながら言葉を交わす。
「お見舞いに来たのに気を使わせて悪いね」
「気にしないでいいよ。こうして来てくれたし、今までこういうことはなかったから嬉しいよ」
「でも、いま少し寂しいって思ってるでしょ。置いていかれたような感じがして、疎外感みたいな」
「そ、そんなこと――あ」
動揺したリゼが置き場所をミスったのを見逃さない。
「ほい、トドメ」
「あ、ちょ――まだいける!」
「はい、追加連鎖」
「なんでそんなに組むのが速いんだよ――また負けた!」
勝敗結果が出てコントローラーを投げ出したリゼはベッドに寝そべった。
「リゼってわかりやすいね」
微笑みかけながら言うと、リゼは恥ずかしさが入り混じったようなむくれた表情を見せた。
「……お前がおかしいんだよ。いろいろと」
「幼いころから仕込まれてたからかな」
「反応に困る答えだな」
「怖がらなくていいんじゃない? もっと自分を出したって皆受け入れてくれるよ――ねぇ、ティッピー?」
「……この部屋にはお前らしい物が足りんのぉ」
リゼの頭の上に乗っかっている
「ティッピーもそう思った? リゼの好きなものがないよね」
「一人二役するなよ……」
リゼは息を吐きながら思案する。
「……楽しんでくれるかな?」
「きっと」
そう言いながら不安そうに上目で見てくるリゼに手を差し出す。
「それなら、見せてみるか」
俺の手を取って立ち上がるリゼ。そして携帯でココアたちを呼びだした。
シャロと千夜は紅茶の準備をしてからくるということで、そんなに経たないうちにココアとチノちゃんが顔を出す。
ココアたちが来た後リゼが案内してくれたのは、彼女の私室の隣部屋。
「これはっ…!?」
「へぇ…すごいね」
部屋の中を見た俺たちはは感嘆の声を漏らした。
「私のコレクションルームだ」
ずらりと壁に飾られているのは様々な種類の銃だった。
「比較的新しいモデルからだいぶん前の古いモデルまで…よく集めたね」
「コウナさんって銃の知識があるんですか?」
「まあね。さすがに実物は扱ったことないけど」
「扱ってたら大問題だろ…私のこれらだって偽物だ。もし気になるんだったら手に取ってもいいぞ」
「敵の敵襲!? 好きな武器を手に取れってやつだね!!」
「いやいや違うでしょ。そもそもその界隈で天々座家に手を出そうとするところなんてそうそうないよ」
「なんでお前はそういう事情を知っているんだよ」
「コウナさんって本当に不思議ですね……」
リゼとチノちゃんからの不審な目から顔を背けていると、扉がノックされた。
「先輩、お茶を淹れなおしてきま――」
「シャロちゃん、敵襲だよ!!」
紅茶を持ってきたシャロにいきなり銃を突きつけるココア。話の流れも知らないシャロにいきなりそんなことしたら、
「イヤ―――ッ!!?」
突然のことにシャロは思い切り声を上げた。それと同時に腕が自然と上がり、トレンチと共に紅茶が放り投げられた。
「あっ……」
――バシャ
そしてその紅茶は見事にリゼの頭に降りかかった。
「す、すすすすみません先輩っ! 今すぐ拭きますから!!」
「シャロさん、それティッピーです!」
「落ち着こう。タオルと着替えを持ってきたらいいだけだから」
慌て過ぎてティッピーでリゼの顔を拭こうとするシャロを止める。
「着替えを持ってきたよ!」
「さあ、リゼちゃん! これに着替えて!!」
ココアと千夜が持ってきた服――それは皆が着ているのと同じメイド服だった。
――さて、何か起こる前に退散しておきましょうか
ここ最近理不尽に怒られてばかりだからか、先回りの技術を身に着けた俺はコレクションルームから出てリゼの部屋で彼女が着替えるのを待つ。
「こうくーん、もう大丈夫だよ~」
ココアに呼ばれて戻れば、目の前には五人目のメイドさんがいた。
「ふむ。よく似合っているね、リゼ」
「おかしくないか、この格好?」
「本心を言ってるよ。それにリゼ的にはそれがよかったんじゃないの?」
「……違う」
そう答えているも顔を背けながら言っている時点でお察しである。
ココアも千夜も気づいているようで微笑ましいようにリゼを見るのだった。
いかがでしたでしょうか?
また気の向くまま更新するかと思います。