どうも、燕尾です。
第五羽目です。
原作が四コマ漫画だからサクサク話が進むと思っていたけど案外進まないものですね……
「それじゃあ、今日こそは! 行ってきます!」
「行ってきます、タカヒロさん」
「いってまいります」
「ああ、いってらっしゃい。気をつけて」
タカヒロさんに見送られて俺たちは学校へと向かう。だが――
「ねぇ、ココア? いつまでこれをするの?」
俺は学校が始まる前から疲れていた。というのも、ココアが俺に抱きついているのだ。
これがココアのもふもふの刑だ。昨日の喫茶店の営業が終わってからずっと俺の身体を抱きしめてもふもふしていた。風呂に入るときも、寝るときも、ずっとココアは俺をもふもふしていた。おかげで俺はぜんぜん気を休めることができなかった。
だが、ココアはそんなことお構い無しに俺に笑顔を向けた。
「ココアお姉ちゃん、でしょ? コウくん? 何か文句でもあるのかな、コウくん?」
「いえ、何でもありませんココアお姉ちゃん、サー!!」
リゼさんじゃないのに、サーをつけてしまう俺。いまの俺はココアお姉ちゃんの忠実な弟。ココアお姉ちゃんに逆らうことは万死に値する。顔は笑顔だけど昨日のことを引きずってまだ怒っているのだ。
「コウナさん…」
ああ…チノちゃんが失望したような目を向けてきている…。
「チノちゃん、何も言わないでくれ」
ただのちょっとした冗談や教訓にして欲しかっただけだった。なのにココアがここまで怒るとは思わなかった。
「俺が悪いのはわかってるんだ。これも俺がココアにいたずらっひゃあ!?」
思い切りわき腹を掴まれた俺はおかしな声を上げてしまった。
「コウくんってば昔から物覚え悪かったよね~? コ・コ・ア・お・姉・ちゃ・ん――だよ?」
「……チノちゃん、覚えておいて欲しい。割と本気で怒っているココアお姉ちゃんに俺は勝てない、ということを」
「……コウナさんも大変なんですね」
失望から同情に変わったチノちゃんの目に、俺はちょっとした救いを感じたのだった。
入学式も滞りなく終わり、ホームルームという名の自己紹介タイムの時間俺は唖然とした。いや、その前から唖然としていた。というのも、
ジ~~~~~~~~~……
俺を見る視線は全部女子のものだからだ。なんでも、俺とココアが入学したこの学校、以前までは女子高だったのが、二年前ぐらいから共学の学校になったのだという。
共学を始めた一昨年や去年はクラスに三人ほど男子生徒がいるぐらいの人数が入学していたのだが、今年はクラスに一人いるかどうかの人数らしい。
そんな両手で数えられるほどの男子をまとめて一つのクラスに入れるわけもなく、散り散りにされた結果、今の状況なのだ。
「コウくん、頑張れー!」
一人、騒いで手を振っているココアはともかく、すごいアウェイのこの状況。もう逃げ出したかった。だけど、俺が自己紹介をしない限りこの後は進まない。
「――保登香菜です。苗字を聞いてわかると思いますがさっき紹介していた保登心愛の双子の弟です。男子が一人だけなので違和感があるかもしれませんが、ぜひ仲良くしてください。これから一年間、よろしくお願いします」
一礼すると、今までの中で一番大きな拍手が起きた。
「えっ…えっ……?」
予想外の反応に戸惑うココア。
「保登さんの弟くんだって!」
「キャー! やっと男の子がいるのね!」
「なかなか可愛い顔しているじゃない…」
「このクラスは当たりだったわ! 他のクラスよりも圧倒的に!」
なにやら不吉な話が聞こえてくる。受け入れてもらったのは嬉しいが、今後俺の身が持つのだろうか?
そして、なにより――
「……」
――ココアの目の瞳孔が開いていたのが、何よりも怖かった。
入学式の日は授業もなく、ホームルームが終われば学校の一日は終わり。
早めの放課後となった今、帰ってラビットハウスのお仕事をしないといけないのだけど、
「コウナくんって、休日は何しているの?」
「趣味はなにっ?」
「どんな子が好みなの!?」
「えーっと、休日はバイトしたり、後は本を読んだり出かけたりしてるかな。趣味は料理。好みは――内緒だ」
イライライライラ……
「えぇ~! 教えてくれたっていいじゃん!」
「料理かぁ、私もしてみようかな?」
「バイトってどこでやっているの? わたし行ってみたい!」
「バイト先も内緒。喫茶店とだけ言っておくよ」
イライライライラ――!
「ココアちゃん、そろそろ帰りま――ひっ……」
「コウくん、まだかな? バイト、遅れちゃうのにな~?」
「こ、ココアちゃん!?」
戸惑った声で叫んだのは昨日出会った千夜ちゃん。教室に入ってきた千夜ちゃんを見て始めて知ったけど、千夜ちゃんも一緒のクラスだった。そんな千夜ちゃんは何故か私を見て怯えていた。私はにこやかに返事をする。
「あ、千夜ちゃん! どうしたの? なんか青ざめた顔をしているけど?」
「自覚がないのね、ココアちゃん」
自覚? 何のことだろう――?
「一緒に帰りましょうって誘おうと思ったけど、日を改めたほうがいいかしら?」
「大丈夫だよ! でも、コウくんも一緒でいいかな? このあとバイトだから」
「ええ。でも――」
千夜ちゃんがコウくんの方をちらりと見る。相変わらず、私の弟はクラスの女の子たちに囲まれていた。
「弟くん、すごい人気ね。しばらくはあのままじゃないかしら」
「うん、そうみたい――」
周りが女の子しかいないから寂しい思いをしているかと思っていたけど、そんなことはなかったみたい。お姉ちゃんとしてコウくんが馴染めていて嬉しい限りだよ、本当に。
「――ねえねえ、コウナくん! ちょっとお嬢様って呼んでみて!」
「――っ!?」
だけど聞き捨てならない言葉が聞こえた。
お、お嬢様……コウくんが、そ、そんな…お嬢様なんて…
「あ、私も呼んで欲しいな!」
「ちょっとそれは恥ずかしいかな。それに、今日はこれからバイトがあるからそろそろ帰らせくれると有り難いんだけど……」
「最後にお願い! これ言ってくれたら解散するから!」
「そうそう! それだけ言ってくれればいいから」
「う~ん」
困ったような笑みを浮かべるコウくん。
だめ、だめだよ。そんなの受けちゃ――
「……わかったよ、その代わり一回だけだから」
私の想いとは裏腹に、少し悩んだコウくんは、渋々そう答えた。
そのことに皆が盛り上がる。私は外でそれをただ見ることしかできなかった。
「――」
「こ、ココアちゃん! なんか魂が抜けた顔しているけど大丈夫なの!?」
なんか誰かに揺さぶられたような感じがするけどよくわからない。
「それじゃあ、言うよ?」
そう言ってコウくんは息を一つ吸って、
「では、今日はこれで失礼します。また明日会いましょう――お嬢様方」
満面の笑顔で姿勢正しく一礼するコウくん。
一瞬の静寂が訪れ、そして――
『ありがとうございますっ!!』
クラスの皆は鼻血を出して倒れた。
「すごいわね、弟くん。私も思わずキュンとしちゃった――ってココアちゃん、大丈夫っ? しっかりして!」
「お、おじょ…お嬢……おおおおじょう……お嬢、さま……がくっ」
私は壊れたロボットのように倒れた。
学校からの帰り、俺はココアを背負っていた。
「う、う~ん……お、お嬢……お嬢様……」
ココアは俺の背中の上でずっとお嬢様、とうなされていた。
「ごめんな宇治松さん、わざわざバッグを持ってもらって」
俺は隣を歩く黒髪の女の子に謝る。
「ううん、気にしないで。弟くんのほうがココアちゃんを背負って大変でしょう?」
「ココアは軽いから問題ないよ。それより、できればコウナって名前で呼んでほしい。弟くんって言われるのはあまりなれないから」
「そう、なら私のことも千夜でいいわ、コウナくん。宇治松なんて、他人行儀だもの」
「わかったよ、千夜。それにしても、いつまで寝ているつもりなんだココアは」
「ふふ。ココアちゃんに聞いていた通り、なかなかの人ね――まさか自分が原因とは気づいていないなんて……」
途中から声が小さくなってなにを言っているのかわからない。だがそれより、一体なにを言ったんだココアの奴は?
「まあ、それは置いておいて、そろそろ起こすか」
「えっ、起こせるの?」
「ああ。あることを言えばうるさい目覚まし時計よりすぐに起きる。ただ――」
ただ? と聞き返してくる千夜に俺は顔を赤くしていった。
「これを言うのはすごい恥ずかしいから、絶対内緒にしてくれ。それができないなら耳を塞いでくれ」
「わかったわ、誰にも言わないって約束するわ」
千夜との約束を取り付けた俺はココアを降ろして壁にもたれさせる。
「それじゃあ、いくぞ?」
そして、千夜が見守る中、ココアの耳元まで顔を寄せて、
「大好きだよ、ココアお姉ちゃん」
「私もだよコウくん――!!」
がばっ、と見事に起き上がるココア。
「あれ? ここは…何で私、床に座ってるの? コウくん、今なんて言ったの?」
ココアは周りをきょろきょろ見回している。
「な、言ったとおりだろ?」
「コウナくん…その台詞よく言うのかしら……?」
「なかなか起きないときだけだよ…それ以上は察してくれ……」
頬を染める程度に言う千夜に、俺はそれ以上に顔を真っ赤にして目を逸らすのだった。
「で、結局こうなるのか……」
「……」
「ふふっ、ココアちゃんってば可愛い」
朝と同じように俺に抱きつくココア。そしてそれを微笑ましく見ている千夜。
「なあ、千夜もいるんだし。離れてくれないか。ココア、お姉ちゃん」
「いま、お姉ちゃん忘れかけてたからまだ刑を続行しますっ」
大丈夫だと思っていたのに、一つのミスでこんなことになるとは。
「私のことは気にしなくて大丈夫よコウナくん。こうして見ているだけでも十分面白いから!」
「なにをいっているんだ千夜は――って、あれ?」
ぐったりしているところで俺は気づいた。どこからか懐かしい香りが漂っていることに。
「なあ二人とも、なんかいい匂いがしないか?」
「そんなこといって、お姉ちゃんは騙されないよ!」
「そんなつもりじゃない、なんか俺たちにとっては懐かしい香りがしないか?」
「言われてみれば……確かにそうだね」
「ココアちゃんとコウナ君が言っている懐かしい香りっていうのはあのパン屋からかしら?」
千夜が指した先には営業しているパン屋があった。
「……かわいい、ね、コウくん?」
「うん? ああ、まぁ……」
「パンが?」
小ケースに張り付いて感想を言うココアに千夜が首を曲げる。
「実家がベーカリーでよく作ってたんだ!」
そう。俺たちの実家はパン屋を営んでいる。その影響からかココアは昔からパンに対する愛が半端ない。もちろん俺にはわからない感性だが。
「また作りたいなぁ」
「お手製なの? すごいわ」
「パンを見ると私の中のパン魂が高ぶってくるんだよ!」
「わかるわ、私も和菓子を見てるとアイディアが浮かんでくるもの!」
まあ、そこは作り手ならではなのだろう。俺も手伝っていたときはついつい頑張ってしまうことも多いし。
「でも、なにより一番好きなのは、できた和菓子に名前をつけること!」
「かっこいい!」
どこが?
しかも、名前をつけることって、普通の名前じゃないのか? イチゴ大福とか、三色団子とか。
でも手作りか…久しぶりに手作りのパンも食べたいな。
「帰ったらオーブンあるかチノちゃんに聞いてみようか」
「もしあったらパン作りたいね!」
「そうだな」
実家にいた頃のような時間を過ごすのもたまには悪くないだろう。
俺たちは話に花を咲かせながら帰るのだった。
だが、家に着く頃――
「コウくん、今日はわざと私の名前を呼ばないように話していたよね?」
「え゛っ……そ、そんなことはないよ?」
どうしてか、変なところで鋭いココアはこの後も離れてくれなかった。
いかがでしたでしょうか!
ではでは~また次回に~