ご注文はうさぎですか? ~ココアと双子の弟~   作:燕尾

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どうも、燕尾です。
第六羽、パン作り~。





実家の思い出パン作り ~看板メニューを作ろう~

 

 

学校が始まった週の初めての休日。俺、ココア、チノちゃん、リゼさん、千夜はラビットハウスの厨房に集まっていた。

 

「同じクラスの千夜ちゃんだよー」

 

「今日はよろしくね」

 

千夜がぺこり、とお辞儀をする。

 

「こっちはリゼちゃんとチノちゃん」

 

「よろしくです」

 

「よろしく」

 

初めて対面するチノちゃんとリゼさんは同じようにお辞儀する。

 

「あら、そちらのわんちゃん……」

 

千夜はチノちゃんの頭に乗っているティッピーに注目する。

 

「わんちゃんじゃないです」

 

「この子はただの毛玉じゃないんだよ」

 

毛玉扱いされて、若干イライラしているティッピー。

 

「まあ、毛玉ちゃん?」

 

「もふもふぐあいが格別なの!」

 

そういいながらティッピーの頭を撫でるココア、女の子に撫でられて悪い気はしないのか、気持ちよさそうにティッピーは目を細めていた。

 

「癒しのアイドルもふもふちゃんね」

 

「ティッピーです」

 

皆はティッピーの話をしているのだが、

 

「だれか、アンゴラうさぎって品種だって説明してやれよ」

 

「リゼさん、ココアたちの中でアンゴラうさぎのティッピーはもうティッピーという品種なんですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、ココアがパン作れるって意外だったな」

 

「えへへ……」

 

リゼさんに言われて照れているが褒められてはいないと思うぞ、ココア…

 

「コウナさんは作れるんですか?」

 

「ああ。とはいっても俺よりもココアのほうが上手だよ。俺はココアにパン作りを教わってきたんだ」

 

「なんかもっと意外だ!!」

 

「ココアお姉ちゃんだよっ、コウくん!!」

 

「はいはい、そうだっだね。ココアお姉ちゃん」

 

俺はよしよし、とココアの頭を撫でてあげる。

 

「――でも、褒めてくれたから今回は特別に許してあげるよ、えへへ……」

 

気持ちよさそうに目を細めるココア。

 

「ココアさん、ちょろいです」

 

思っていたとしてもそういうことを言ったら駄目だよ、チノちゃん。

 

「とりあえず、始めようか」

 

「みんな! パン作りをなめちゃいけないよ! 少しのミスが完成度を左右する戦いなんだよ!」

 

俺の合図にココアがシャキッ、とする。昔からそうだったけど、パン作りにおいて、ココアは妥協を許さない。いまのココアはまるで教官のスイッチが入ったリゼさんのようだった。

そんなココアを見たリゼさんは、何を思ったのかいきなり敬礼をし始める。

 

「今日の教官はお前に任せた! よろしく頼む!」

 

「任された!」

 

「わ、わたしも仲間に……!」

 

任命されたココア、仲間に入りたい千夜が同じように敬礼する。

 

「暑苦しいです」

 

「まあ、いいじゃないかチノちゃん。やる気があるだけ」

 

気づけばいつの間にか、俺、チノちゃんとココア、千夜、リゼさんの間になんともいえない温度差が生まれていた。

 

「それじゃあ各自、パンに入れたい材料を提出ー!」

 

ココアの号令に俺たちは作業台に材料を置いていく。なのだが、

 

「私は新規開拓に焼きそばパンならぬ、焼きうどんパンを作るよ!」

 

「私は自家製あずきと梅干と海苔を持ってきたわ」

 

「冷蔵庫にいくらと鮭と納豆、ゴマ昆布がありました」

 

「私はイチゴジャムと、マーマレードを……なあ、コウナ。これってパン作りだよな?」

 

「ええ、一応は……」

 

それぞれ独創的な材料しか持ってきていないことに不安を感じる俺とリゼさん。

 

「ちなみにコウナは何を持ってきたんだ?」

 

「俺はベーコン、玉ねぎ、ソーセージ、チーズです。惣菜パンを作ってみようかと」

 

「お前はまともで助かったよ」

 

そういう安心のされ方は初めてだ。無理もないとは思うけど。

 

「それじゃあまずは、強力粉と少しの薄力粉、塩をちょっとにドライイーストを混ぜます」

 

ココアの指示に従って皆は作業を進める。

 

「ドライイーストってパンをふっくらさせるんですよね?」

 

「そうそう、よく知ってるね」

 

えらいえらい、とチノちゃんの頭を撫でるココア。

 

「ドライイーストは乾燥した酵母菌なんだよ」

 

「攻歩、菌……!?」

 

酵母菌と聞いたチノちゃんは何故か急に顔を青くした。

 

「そんな危険なものを入れるくらいなら、パサパサパンで我慢します!」

 

「何を想像したんだ、チノちゃん?」

 

「はい、ドライイースト」

 

「ああっ…!」

 

ココアがさじ一杯のドライイーストを入れると絶望したような表情をするチノちゃん。

 

「大丈夫だよチノちゃん。発酵の母って書いて酵母菌っていうんだよ。しょうゆや味噌にも入ってるものだから普段から口にしているよ」

 

「私たちは、普段からそんな危険なものを口に……!?」

 

――駄目だこりゃ。

チノちゃんの勘違いはしばらくの間続いた。

 

「次は、水を混ぜながら一つの塊にして、こねます」

 

ココアが捏ね方の手本を見せてすばやく作り上げていく。

 

「……パンをこねるのって、すごく体力がいるんですね」

 

こね始めて十分くらい、チノちゃんが少し辛そうにしていた。

 

「腕が…もう動かない……」

 

その隣の千夜はもっと辛そう、というより限界に近い感じだった。それに比べて、

 

「リゼさんは平気ですよね?」

 

「チノ、なぜ決め付けた?」

 

リゼさんは体力もあるし力もあるから、この程度の作業なら余裕だろう。そして、ココアはというと、見えそうなくらいのオーラを発して、一心不乱にパンをこねていた。

 

「このときのパンがもちもちしてて、すっごく可愛いんだよ!!」

 

「すごい愛だ!?」

 

リゼさんはココアのパン愛に驚いている。まあ、それは置いておいて、俺は息絶えそうな千夜に目を向ける。

 

「千夜、大丈夫? 手伝おうか?」

 

「いいえ、大丈夫よ!」

 

手伝いを申し出たけど、千夜は首を横に振った。

 

「健気って奴だね」

 

「頑張るなあ」

 

そのことにココアとリゼさんは感心しているが、このあとの作業がまだあるのだ。

 

「ここで折れたら武士の恥ぜよ! 息絶えるわけにはいかんきん!!」

 

「健気なんですか、あれは…」

 

腕をまくって気合を入れる千夜。だけど、明らかに無理をしている様子。ここはアドバイスだけでもしたほうがよさそうだ。

 

「千夜。手だけを使おうとしないで、体の体重をかけてこねてみて」

 

「えっ? こ、こうかしら?」

 

「違うかな、もう少しこんな風に上から下に押さえつけるように…」

 

「こんな感じ……?」

 

俺も手本を見せるのだけれど、なかなか上手くいかない千夜。

しょうがない、少し手伝おう。

俺は千夜の所まで移動して、後ろから千夜の手をとる。

 

「っ!? コウナくん!?」

 

「――――っ!!!!」

 

「いい、千夜? 無理に力を入れるから疲れてくるんだ。パンを丸めて…こねるときは台に垂直になるような体勢を整えて、上から体重をかけるんだ――そうそう、良い感じ。そうすると手の力はあまり使わないし、慣れてない人だとやりやすくなるはずだから」

 

体を重ねて千夜の手を動かしながら、説明していく。

 

「で、こねるときに使うのは手の中心じゃなくて手の根でね。そっちのほうが少ない力でよりこねやすくなるから」

 

「こっ、こうかしら?」

 

もともと要領や飲み込みが早いのか、千夜の手つきは目に見えて変わっていた。

 

「うん、さっきより良くなった。こまめに位置を変えながらこねていけば大丈夫。素早くやろうとしないで良いからムラがないようにね」

 

「……ありがとう、コウナくん」

 

「一人でやりたい気持ちもわかるけど、無理をしすぎたら楽しくないからね。これくらいは頼ってよ」

 

「え、ええ……わかったわ…」

 

素直に頷いてくれる千夜。だけどその顔は少し赤みがかっていた。

 

「千夜? 顔が赤いけど大丈夫? 熱でもあるんじゃ…」

 

「大丈夫! 熱じゃないから大丈夫よ!!」

 

手を伸ばしたところで、千夜はあわてた様子で俺から離れていく。

 

「コウくん、なにをしているのかな?」

 

「なにって、千夜のパン作りを手伝っていただけなんだけど――ひっ!?」

 

俺の隣にやってきたココアの口調が普段どおりだったから普通に答えたけど、顔を見た瞬間、寒気を覚えた。

 

「んん? コウくん、どうして怯えてるの?」

 

まったく変わらないいつものココアの笑顔。だけど、今はそれがとてつもなく怖く感じた。笑顔なのに、怖い。

気づけば、チノちゃんもリゼさんもココアに怯えていた。千夜はただ一人、苦笑いというか、申し訳ないような笑顔を俺に向けていた。

 

「ねえ、コウくん」

 

「……なにかな、ココアお姉ちゃん?」

 

自然と出てくるお姉ちゃん呼び。いまココアを呼び捨てしようものなら、形容しがたい何かをされてしまうと俺の直感が言っていた。

 

「今日の夜、私の部屋に来てくれるかな? ちょっと話したいことがあるんだ」

 

俺は頷く以外の答えを持ち合わせていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後もココアと俺の指導の下、パン作りは進んでいった。

 

「それじゃあ、この醗酵したパン生地を好きな形にしていくよー!」

 

それぞれ好きな形、具材にあった形にしていく。

 

「チノちゃんはどんな形にするのかしら?」

 

「おじいちゃんです。小さい頃からおじいちゃんに遊んでもらっていたので…」

 

「おじいちゃん子だったのね」

 

「コーヒーを入れる姿はとても尊敬していました」

 

そういいながら、チノちゃんは模っていく。そんな孫の姿に、ティッピーは照れたように微笑んでいた。

チノちゃんは自分の作ったパンをクッキングシートに並べていき、トレーを暖めたオーブンに入れる。そして――

 

「――ではこれから、おじいちゃんを焼きます」

 

「のわああああっ!?」

 

慈悲もないチノちゃんの言葉にティッピーが慌てだす。

なんというか、チノちゃんって無意識に怖いことを言うよね…

それからのチノちゃんはそのままパンの焼ける行く末を見ていた。

 

「チノちゃん、さっきからオーブンに張り付きっぱなしだねー」

 

「チノ、パン見ててそんなに楽しいか?」

 

「はい、どんどん大きくなっていきます」

 

初めてのことだから、わからなくもない。ゆっくり流れるように変わっていくものはどういうわけか注目されやすい。

 

「あっ、おじいちゃんがココアさんと千夜さんに抜かされました!」

 

「おじいちゃんもガンバレ~」

 

チノちゃんがパンの焼き具合に興奮して、千夜がパンを応援している。こういうところも一つの楽しみ方だ。

 

「コウナさんとリゼさんは出遅れているみたいです。もっと頑張ってください」

 

「私に言うなよ」

 

「それは俺たちにはどうしようもないかな……」

 

まさかとばっちりを受けるとは思わなかった。

そうやってパンの様子を見ているうちに、あることに気づく。

 

「あれ、そういえばココアお姉ちゃんは?」

 

いつの間にかココアが厨房からいなくなっていたのだ。

 

「千夜ちゃん千夜ちゃん、ちょっとこっちに来て!」

 

するとココアは喫茶店のカウンターから一つのカップを持ってきて千夜を呼ぶ。その中を見た俺はなるほど、と納得した。

 

「なに、ココアちゃん?」

 

「はい、これ! 千夜ちゃんにおもてなしのラテアート!!」

 

差し出したのはうさぎの絵が描かれたラテアート。

 

「まあ! すてき!」

 

千夜もココアが作ったラテアートに感嘆の声を出す。

 

「今日のは会心の出来なんだ」

 

たしかに、このラテアートはココアが今までで作った中で一番上手じゃないかって言うぐらい綺麗に描かれていた。

 

「味わっていただくわね」

 

そして、千夜が口をつけようとした瞬間、

 

「あっ!」

 

ココアが声を上げる。それに反応して千夜がカップを離すがココアは笑顔で見守っている。そしてもう一度――

 

「ああ…」

 

またしても千夜が口から離す。ココアは笑顔だけど、どこか哀愁を漂わせていた。

 

「ココアお姉ちゃん、そんなことしてたら千夜だって飲みにくいでしょうが」

 

「だ、だってぇ…傑作が……」

 

しょんぼりするココアに俺は一つだけため息を吐いた。

 

「ごめん千夜。少し飲むのを待って」

 

「え、ええ。でも何するのかしら?」

 

俺は携帯を取り出して付属のカメラで写真を撮る。

 

「こういう風に写真に残して置けば問題ないだろう?」

 

「そっか、コウくん頭良い!」

 

「これだけでそんなこと言われてもな……」

 

「それじゃあ、いただくわね」

 

そして、千夜が思い切って一口飲む。

 

「ああ…傑作が」

 

って、結局かい!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「焼けたよー! さっそく食べよー!」

 

すべてのパンが焼け、ココアがオーブンから最後のトレーを取り出す。

飲み物を用意して、みんなそれぞれ自分の作ったパンを一つ手に取る。

 

「「「「いただきまーす」」」」

 

一斉にパンにかぶりつく。

 

「おいしい!」

 

「ふかふかです」

 

「さすが焼きたてだな」

 

みんなの反応は上々のものだった。うん、久々の割には上出来だ。それでもココアや一番上の姉、母さんには敵わないけど。

 

「これなら看板メニューにできるよ!」

 

たしかに、新しいメニューとしていろいろと手作りパンを置いても良いと思う。だけど――

 

「この焼きうどんパン!」

 

「この梅干パン」

 

「このいくらパン」

 

「「どれも食欲をそそらない」」

 

ココアたちが入れたパンの中身は却下する。三人は少し不満そうにしていたけど当然だ。

 

「それなら、これはどう――」

 

するとココアが奥のほうから一つのバスケットを持ってくる。その中身は、

 

「じゃーん、ティッピーパンだよ! 私とコウくんで作ってみたんだー!」

 

ティッピーの形をした丸いパン。ココアと俺が密かに作っていたパンだ。

 

「まあ、かわいい!」

 

「おお…」

 

みんなの反応はなかなかのものだった。

 

「看板メニューはこれで決定だな」

 

見た目も良いし、リゼさんもチノちゃんも納得してくれたみたいだ。

 

「早速食べてみましょう」

 

「もちもちしてる…」

 

「えへへー美味しく出来てると良いんだけど」

 

俺たちはティッピーパンを食べる。

 

「うん、ふわふわして美味しいな。これなら大丈夫そうだ。だけど…」

 

俺はちょっと顔をしかめる。味もいいし、形もいい。しかし、

 

「中身は真っ赤なイチゴジャムね!」

 

「なんか、エグいな」

 

リゼさんの言う通り、食べた拍子にティッピーの口や目の部分から出てくるイチゴジャムは、なんと言うか、やっぱり見た目がアレだった。

ココアがイチゴジャムを手に取ったときそれが目に見えていた俺はちゃんと中身を替えていた。

 

「とりあえず、俺がカスタードクリームやマーマレード。イチゴホイップを作ったんで」

 

「さすがだな、コウナ…」

 

「イチゴジャムのティッピーパンを出すかは任せます。あれはあれで美味しいので」

 

「却下だな。コウナのパンで行こう」

 

「なんで!?」

 

こうして、看板メニューはティッピーパン(ただしイチゴジャムはなし)を出すことに決定した。

 

 

 

 






いかがでしたでしょうか?
次回にお会いしましょう。
ではでは~


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