今年も一年よろしゅうお願いします!
ではごちうさ第九羽です
「今日はいつも以上に疲れたわ……」
私はとぼとぼと帰り道を歩きながらつぶやく。
まさか、気分晴らしに行きつけのあのお店に行った早々、リゼ先輩やコウナに会うとは思わなかった。それに新しく出会ったココアやチノちゃんを含め、私がお嬢様だという余計なイメージが皆にこびりついてしまった。
それに関しては本当のことをいえなかった私が悪いのだが、本当のことを言ってみんなに失望の目で見られるかもしれないということを考えたら、怖くて切り出すことが出来なかった。
「はぁ――」
こんな自分が嫌になる。私が通っている学校でもそうだ。自分をひた隠し、見栄ばかり張って、都合のいいように周りに嘘を馴染ませる。どこにいっても私は本当の自分をさらけ出すことができないでいた。
いや、どこでもは間違い。ただ一人、こんな私を知っている人がいる。
「おかえりなさい――シャロちゃん」
そういうのは大和撫子という言葉がぴったりの私の幼馴染。どうやらあれこれ考えているうちに家についたようだった。
「――ただいま、千夜」
私は不承不承ながらも返事を返す。
実家が"甘兎庵"という和菓子喫茶を営んでいる看板娘の千夜。私の家の隣で箒を掃いているのは家の手伝いと私がそろそろ帰ってくるとわかった上での行動だろう。
「あら?」
そんな千夜がなにかに気づいて、不思議そうに首を傾けた。
「シャロちゃん少し元気ないみたいだけど、なにかあったの?」
千夜は私の様子をズバリと言い当ててきた。どういうわけか私の幼馴染は小さな変化も見逃さないほど、私のことをよくわかっている。私が千夜に隠し事がほとんどで来たことがないほどだ。
私はガックリと肩を落としながら正直に打ち明けた。
「……リゼ先輩やコウナたちに変な勘違いされた。あと頭に変な生き物が……」
「コウナくんやココアちゃんたちに会ったのね」
千夜が皆と知り合ったのは知っていた。今度何かあったらココアとチノちゃんを紹介すると言われてたけどその前に出会うだなんて思いもしなかった。
「絶対、誰にも言っちゃ駄目だからね」
「なにをかしら?」
わかっているくせに千夜は笑顔で聞いてきた。
私はビシッ、と甘兎庵――の隣にある小屋のような建物、私の家を指差して叫んだ。
「私がこんな家に住んでいるって言うことをよ――!!」
「慎ましやかでいい家だと思うけど?」
「ふんだ!」
馬鹿にしていないのはわかる。だけどどこか楽しんでいる千夜に睨みを利かせる。でも千夜がそれに怯むことはなく、それどころか優雅に微笑んでいる。
「でもシャロちゃん、それは出来ないみたい」
しかしその直後、千夜は笑みを消してそう言った。どういうことかと思って千夜の視線を追うとある人が立っていた。
「え、えーっと…なんかごめん……」
申し訳なさそうに言うのはリゼ先輩と一緒に私を助けてくれた男の子、コウナだった。私は絶望に体を震わせる。
「コウナくん、こんにちわ」
千夜が暢気に挨拶をする。だけど、私はそれすら出来なかった。
「こ、コウナ……い、いつから、居たの?」
「えーっと、ついさっき、かな」
申し訳ないような表情をするコウナ。
私の絶叫が、夕方の空に響くのだった。
シャロと出会ってから数日後のラビットハウスでのバイトの最中、唐突に勢いよく扉が開かれた。
「みんな! シャロちゃんが大変なの!!」
「何事!?」
ココアが驚いたように振り向く。入って来たのは千夜だった。
「どうしたのさ、千夜? そんなに慌てて?」
「シャロちゃんが、シャロちゃんが大変なの!!」
「シャロが大変なのはわかったから、とりあえず落ち着いて席に着け。ほら、コーヒー出すから」
リゼが促すとようやく落ち着いたのか、千夜は腰を落ち着かせた。
チノちゃんにコーヒーを頼み、千夜に出したところで話を聞く。
「へー、千夜ちゃんとシャロちゃんって幼馴染だったんだ」
「そうなの、だけどこんなチラシを持ってきて」
千夜は懐からチラシを一枚取り出す。そのチラシを俺たちは囲んで見た。
「なになに…心も体も癒します、フルール・ド・ラパン、オープン」
ウサ耳をつけた恐らくメイドに近い衣装を身にまとった女の子のシルエットとその周囲に散らされているバラの花。
「きっといかがわしいお店で働いているのよ!!」
「なんと!」
「いや、そうとは決まったわけじゃないだろ。シャロに仕事内容聞いたのか?」
「怖くて本人に聞けない!」
いや、そこは聞こうよ、シャロのためにも。
でも確か、フルール・ド・ラパンって――
「なあ、フルールって広告で釣ってるけど、ただの喫茶店じゃなかったか?」
同じことを思っていたリゼが、俺に耳打ちしてくる。
そう、フルールはハーブを主に取り扱って紅茶を出すような店だったはずだ。決していかがわしい店ではない。
「どうやってシャロちゃんを止めたらいいの…」
「仕事が終わったら皆で行ってみない?」
「潜入ですね」
あ、チノちゃん。そんなこと言ったら……
「潜入!」
言葉に反応したリゼが銃を構える。
「おまえらぁ、ゴーストになる覚悟はあるのか!?」
「ちょっとあるよ」
ココアが敬礼をする。ちょっとだけなんだな。まあ、本当にゴーストになられても困るけど。
「潜入を甘く見るなぁ!」
リゼの怒号が響く。こうなったリゼはもう手をつけられない。やりたいようにやらせるしかないのだ。
「よし、私について来い!!」
「「イエッサー!!」」
ココアと千夜は張り切って前を行くリゼの後についていく。俺はその姿を見送って――
「――って、まてまてまて! まだ仕事は終わっていないぞ、三人とも!?」
「コウナさんの言う通りです、戻ってきてください!」
俺とチノちゃんは慌てて三人を止めるのだった。
ちゃんと最後まで喫茶店の仕事をして、バーの準備をするタカヒロさんと交代した俺たちは件のフルールへと来ていた――制服姿のまま。
「いいか、慎重に覗くんだぞ」
ココアたちは窓の下に隠れている。ちなみに俺はここからでも見えるので建物の影から様子をうかがう。
「いらっしゃいませー!」
メイド服とうさ耳を身に付けたシャロが満面の笑みでお客を出迎えていた。
眺めている俺たちの視線を感じたのか、シャロはこちらを向く。それに対してみんな隠れるのかと思いきや、そのまま、シャロに姿を晒す。
「なんでいるの―――!!」
もう姿を隠す必要がなくなった俺たちは店のなかに入る。
「…いらっしゃいませ」
それでもちゃんとお客として扱っているあたり、しっかりしている。
「ごめんなシャロ、確認したいことがあって。フルールってなにを扱ってるんだ?」
「ここはハーブティがメインの喫茶店よ。ハーブは体に良い色んな効能があるの。大体――こんなチラシで勘違いしたのは誰?」
「私たちシャロちゃんに会いに来ただけだよ?」
「いかがわしいって、どういう意味です?」
「こんなことだろうと思った」
シャロの問いかけにココアたちはバラバラに言う。
そして俺たちの視線は一人の少女に向いた。
「……」
ここまで来ることになった発端の千夜はシャロの手をぎゅっ、と固く握る。
「その制服すてき!」
シャロも気づいただろう。この事態の根元が一体誰なのか。その証拠にシャロは眉間にしわを寄せていた。
「たしかにシャロちゃんかわいー! ウサミミ似あーう!」
「店長の趣味よ。じろじろ見ないで」
別に恥ずかしがるほどじゃないと思うけど。うさぎの耳もいわゆるロップイヤーの形でよくシャロに似合っている。
「――っ、コウナも! じろじろ見ないでっ!!」
「そこまで見てないんだけど……」
「嘘、嘗め回すように見ていたでしょ!」
「そんな誤解を得るような言い方するな!」
なんてことを言うのか、このなんちゃってお嬢様は!!
「コウナ……」
「コウナさん、こういうのが趣味だったんですね」
あああああ、ほら、リゼやチノちゃんに変な誤解を与えているだろ!
慌てる俺の肩にぽんと柔らかい手が置かれる。
「コウくん……」
「こ、ココア…お姉ちゃん……」
「コウくんこれ以上は駄目かな――コウくんのためにも」
震える俺にココアは満面の笑みで言う。
「……はい」
「うん、よろしい」
俺にはわかる。この笑顔の裏ではろくでもない意味を含んでいることに。そしてそれは絶対に触れてはいけない裏のココア――ブラックココアとでも名づけよう。
「ほ、ほら、せっかく来たんだから少しお茶でもして行こう! じゃないとただの迷惑な人になるからっ、いいよなシャロ!?」
「しょうがないわね……それじゃあ、こっちに来なさい」
俺たちはシャロに案内されて席に着く。
渡されたメニューを見ると色々な種類のハーブティーがずらりと並んでいた。
「やっぱダンディ・ライオンだよね!」
メニューを見ながらそんなことを言うココア。
「飲んだことあるんですか?」
「ライオンみたいに強くなれるんだよ」
俺は肩を落とす。無知にもほどがあるよ、ココア…
「たんぽぽって意味分かってないな」
そう、ダンディ・ライオンはたんぽぽを意味していて、そのハーブティは確か貧血解消や毒素の排出を促してくれるものだったはずだ。
「うーん、ハーブティはよく分からないな」
「まあ、しょうがないよ。趣味じゃなければ普段飲む機会なんてないんだから――シャロ、みんなにあったハーブティを選んであげて」
「別にいいけどアンタはどうするのよ、コウナ」
「俺はリンデンフラワーで、なんか疲れたから」
「コウナは分かるのか!?」
「まあ、一通りは。本で読んだことあるからね」
「本当にコウナさんは多彩ですね」
「当然だよ! なんたって私の弟だからね!!」
「何でココアが得意げなのよ」
それが俺の姉だからね。次第に分かってくるよ、シャロ。
「まあいいわ。それじゃあハーブティーだけど、ココアもリンデンフラワーにしなさい。リラックス効果があるから、ちょっとは落ち着くこと」
「わーい、コウくんと一緒♪」
「千夜はローズマリーね。肩こりに効くのよ」
「助かるー」
「チノちゃんは甘くて飲みやすいカモミールなんてどうかしら?」
「子供じゃないです」
「リゼ先輩は最近眠れないって言ってましたからラベンダーがお勧めです」
「へー」
それぞれにあったハーブティーを選んでいくシャロ。今日が始めてのバイトのはずなのに、よく分かっているようだ。
「あっ、シャロさん。ティッピーには難聴と老眼防止の効能があるものをお願いします」
チノちゃんがティッピーの分も注文する。それはいいのだけど、
「ティッピーってそんな老けてんの?」
リゼの言う通り、まるで老人のような効能の選び方だった。ティッピー=チノちゃんの祖父だから別に間違っちゃいないけど、油断しているとばれるよ、チノちゃん。
注文してから数分後、シャロがハーブティーのセットを持ってきた。
ハーブの入ったティーポットにお湯を注ぐ。すると、熱の変化によって液の色が赤色に染まった。
「お湯を入れたら赤く染まった! きれーい!」
「こっちはレモンを入れたら青からピンク色になりました」
「おもしろいわねー」
初めて見る変化にココアたちがはしゃぐ。
「それじゃあ、頂こうか」
俺たちはそれぞれハーブティーに口をつける。
「いい香りです」
「なんかスーってするね」
それはハーブを使っているからね。うん、香りも味もいい。
みんながハーブティーを楽しんでいる中、シャロがトレンチにあるものを乗せてきた。
「あの、ハーブを使ったクッキーはいかがでしょう? 私が焼いたんですが…」
「シャロが作ったのか。どれ…」
シャロが作ったハーブクッキーをリゼが一つつまむ。
「シャロ、俺も貰っていいかな?」
「ええ、どうぞ」
断りを入れて俺も一つ口の中に入れる。
「うん、おいしい! な、コウナ?」
「ああ、風味と甘みのバランスが丁度よくておいしいよ、シャロ」
「よかった~」
口を揃えてほめる俺たちに緊張していたシャロが顔を綻ばせた。
「(シャロちゃんの顔が真っ赤に!)」
「(こっちの方が見てて面白い!)」
そんな様子を見たココアと千夜が何か含みのある顔をしているが、きっとシャロに奔らないほうがいいことなのだろう。なにも言わないでおく。
「私たちもいただきまーす!」
俺たちに続き、ココア、千夜、チノちゃんがクッキーを食べる。
「おいしい!」
「これ、すごくおいしいです」
千夜とチノちゃんはクッキーに舌鼓を打っているが、ココアだけ、少し微妙な顔をした。
「……このクッキー、甘くない……」
「え? そんなことないわよ?」
そういえばココアの手元にあるおかわりしたハーブティーって確か…
「ふふふ、ギムネマ・シルベスターを飲んだわね」
「名前がかっこよかったから…」
なるほど、やっぱりか。
「ココアお姉ちゃん、そのハーブティーに使われているハーブは甘みを一時的に感じなくさせる成分が入っているんだ」
「そんな恐ろしい効能が……!?」
「その通り! ギムネマとは砂糖を壊すものの意味!」
なんでシャロはこんなに自慢げなのだろうか。よく愛飲していたのだろうか? とすれば……
「シャロちゃんはダイエットでよく飲んでいたのよね」
「言うなばか――!!」
まあ、女の子がこれを飲む理由はそれしかないよね。俺はじゃれあっている千夜とシャロを苦笑いしながら見つめるのだった。
「たくさん飲んだわね」
「おなかの中で花が咲きそうだよ~」
「ご馳走様でした、シャロさん。なにか手伝えることがあったら言ってください」
「こらこらチノちゃん。一応俺たちはお客さんなんだから、そういう区分はしっかりしておかないとここの人たちの面目が立たなくなるよ」
気持ちは立派なのだけれど、行き過ぎた行動はかえって店のためにならない。
「す、すみません…そうですよね、出過ぎたまねを……」
「気にしないで、その気持ちだけでもありがたいわ。チノちゃんは年下なのにしっかりしているのね。妹に欲しいくらいだわ」
そう言って慰めるようにチノちゃんの頭を撫でるシャロ。ココアのときとは違いチノちゃんは抵抗することなくシャロを受け入れていた。そんな二人を見たココアが目に涙をためながら勢いよく立ち上がった。
「チノちゃんは私の妹だよ!!」
「何言ってるの?」
「気にしないでシャロ、ココアの病気が出ただけだから」
「コウくん酷い! それとココアお姉ちゃん!! 何でさっきまで言えてたのに急にやめちゃうの!?」
それは語り手をしていると――ゲフンゲフン。
「それなら、もう少し姉としての立ち振る舞いをしっかりして欲しいな。そろそろ本当に姉と弟を変えて兄と妹にしようか? ん?」
「なんて恐ろしいことを!! コウくんの鬼! 悪魔! 弟!!」
「店内で大きな声を出さないでよ、ココア」
うわーん! と机に伏せるココアを放っておいて、シャロは片付け始める。
「二人はリラックスできました?」
「んー、確かに肩が軽くなったような」
「少し元気が出た気がします」
さすがに飲んですぐにそんな効果は出ないと思うけどな。
「確かにリラックスしたけど、さすがにプラシーボ効果だろー」
「でも――ココアさんには抜群だったみたいです」
チノちゃんがココアを指差す。ココアはぐっすりと眠っていた。
「ハーブティ効きすぎ!!」
「本当に仕方がないな、ココアは」
「な――コウナ、お前っ!?」
「まぁ♪」
「はうぁ――……」
「コウナさん、大胆です」
俺はひょいとココアを抱えると皆がそれぞれの反応をした。
「ん? どうしたみんな?」
不思議に思って俺は問いかけるがみんななんでもないと、首を横に振る。
お会計を済ませて店を出るも、ココアが目を覚ますことはなかった。
「コウナさん、重たくないですか?」
帰り道、チノちゃんが心配そうにしてくる。
「大丈夫だよチノちゃん、ココアは女の子だし軽いよ」
「それでも人は軽いとはいえないだろう、せめて背負ったほうがいいんじゃないか?」
リゼが提案してくる。俺はいま、ココアを正面に抱えている。いわゆるお姫様抱っこ状態だ。だけど、それにはちゃんとした理由がある。
「いや、背負うのはちょっと……」
「ん? どうしてだ?」
なにもわからずに聞いてくるリゼに俺は言葉を濁す。
「あんまりこういうことをいいたくはないんだけど、ほら――ココアももう高校生だろ?」
「ああ、そうだな」
ただ頷くリゼ。俺はそのまま顔を逸らす。
「後は察してくれ……」
「どう察せと!?」
そこはわかってよ! これ俺が言うとすごい変態みたいになるんだから!!
「結局なんなんだ?」
ああもうっ、仕方ないな!!
「ココアだって成長しないわけじゃない。そうなると必然的に男女の差というのが出来るだろ?」
「つまり、ココアちゃんを背負ったら胸が当たっちゃうってことかしら?」
「どうしてぼかしつづけたことをストレートにバラすんだ千夜!?」
急に喋りだしたと思ったらとんでもないことを言ったなこの和菓子少女は!
「そういうことか――変態め」
「コウナさん、不潔です」
「酷い! だから言いたくなかったんだ!」
俺をいじって面白いのか、笑い声が上がる。
一頻り笑ったリゼは目じりにたまった涙を拭う。
「でも、そこは姉弟だろ? 恥ずかしがる必要があるのか?」
「ん、ああ――言ってなかったっけ? 俺とココアは義理の姉弟だよ」
「……は?」
唖然としている皆に俺はあっけからんとして言った。
「俺は保登家の養子なんだ」
「「「えぇ――――!?」」」
みんなの叫びが夕方の空に轟くのだった。
いかがでしたでしょうか?
卒論が来月提出なので、そのあとぐらいに投稿できたらいいなと思います。