クリスマス編は毎回OPに「this game」流しましょう、神曲です。
チップ等の客観的情報に関して文の途中で特殊な補足を挟んでいます、見易くする一環ですのでご理解をお願いします。
『ええー影が薄いと司会とはいえませんので増量して指揮官と』
『――――指揮官の奴隷のプリンツがお送りするわ』
『すげえ参加二秒で嘘付いた』
あらあら、とプリンツは提督を一瞥した後、相変わらず張り付いた笑顔のまま喋りかける。琥珀がまっすぐと見据えてくる様に、男は少したじろぐ。
――――どうせ影が薄いのは目に見えているが、彼は申し訳程度に増員をした。何せ自分は今回必要なさ気である、というのは彼が一番分かっていたのだから。
『昨晩はあんな事までしておいて――――――』
妙に艶めかしい舌回しで彼女は言ってみると――――彼が目を剥きながら身を乗り出す。
『これ駆逐艦見てるから!? 適当なこと言ってもいいから年齢層は考えて!?』
提督がまともな突っ込みと訂正を入れると、つれないとプリンツはそっぽを向く。
今回はソッチが悪い、こっちも警告タグつけてないんだから自重して。
――――さて、そんなメタな話はともかく。戦況の話としよう。
残ったのはエンタープライズ、ベルファスト、瑞鶴。
提督の適当な采配でエンタープライズがシード権を獲得した。ご都合主義とも世の中が言う其れが、彼の適当な采配だ。
――――それがよっぽど不満だったのか、瑞鶴が彼を問い詰めたのだが。
『あの娘を相手にしたいとか中々変わってんな』
ととぼけて、意見が変わる様子は無さそうだった。
「ベルファスト、かあ…………やりにくそう」
瑞鶴が顔を落としながら溜息をつく。
――――何処と無く、『アイツ』に似ているからだろうか。彼女はちらりと観客席の中、一人だけ何故か目を引いてしまう銀色のヤツを一瞥する。
部屋の空調が効きすぎているのか、少し億劫そうにジャケットを脱いで膝にかけていた。
「そうでしょうか? 私、賭け事そのものは素人でございます故。条件はフィフティーとお見受けしますが」
ベルファストの如何にも薄ら笑い混じりの返しに嘘をつけ、と瑞鶴は内心呟く。その眼はそんな初心者だとかいう目じゃなくて、獲物を狩る獅子の目つきだ。
――――さっきの高雄との勝負の最中にも彼女は推定
高雄は疑うことがなかったから露骨な手を打って勝ちに向かっていたが、瑞鶴相手ならそんな事はベルファストもしてこない。
(でもあんなんされるとなったら、何とかイカサマを抑えるのが最善よね…………)
数が数だ。下手に真っ向勝負なんかしても勝てるわけがない。瑞鶴の黄玉色の瞳が忙しなく揺れる。
――――いや、と瑞鶴は考え直した。そんな事をする必要はない。やっとその結論に行き着いたらしい。
なら、問題ない。彼女には関係なかった。
「それでは、じゃんけん――――――」
「ほい――――チョキ。勝ちね」
瑞鶴がにい、と悪ガキのように笑う。
これが彼女の最大にして最凶の強み。
――――何せ勝負に負けない。それこそイカサマでもしなければ勝負にならないほどに。
運を絡めた彼女に勝てる艦は恐らく居ない――――
「じゃあダウトにするわね」
瑞鶴は何でもない風にトランプをシャッフルする。その姿はまるで手慣れているかのようで勝負師に錯覚されそうになるが、彼女の其れはそういうものではない。
唯の余裕。賭け事だから、負けないのだ。
――――残念ながら、殆ど決着はついていたようなものなのだ。瑞鶴が運を絡めた時点で。
「よし、勝った!」
瑞鶴は小さくガッツポーズをすると、結ばれた髪がゆるりと小さく舞った。
「あらあら…………」
ベルファストも空いた口が塞がらなかった。奥の見通せない灰の瞳に驚愕の光が差し込む。
――――何の駆け引きも有ったこっちゃない。
何故って、『直感だけで見抜いてしまうから』。何となくで全て彼女は見抜けてしまう。
駆け引きに持ち込ませない強さ。これがエンタープライズがハロウィンの時に彼女に勝てなかった理由だった。
――――つまり彼女は、賭け事に関して言えば、エンタープライズ絶対殺すウーマンなのだ。
正確には、エンタープライズでやっと勝負という概念に立てる様な存在だった。
「また君か…………ファンか、そうなんだろ瑞鶴」
ジャケットを羽織り直して、エンタープライズが席に向かいながら溜息をつく。
大きく振って広げられたジャケットを着る彼女の姿は、まるで大きな鷹が羽根を納めるかのようで、何処か大仰だ。
「誰がアンタの追っかけなんてするもんですか」
「私は女性は無理なのだが…………」
「だから違うってば!」
苛々と踵で地面を打ちながら、瑞鶴は不満げに腕を組み直した。長い袖がまるで鶴が降り立つようにはたはたと遅れて落ちていく。
――――決勝戦に相応しい対戦となることは間違いなかった。
力で潰す瑞鶴と、技で覆すエンタープライズ。いつもとは何処と無くあべこべの色を持った二人の戦いは、生で見ている全員が少し瞬きを惜しむほどだ。
――――銀灰の大妖精と、純白の鶴。誰かが呟いた。
「もう君が形式を決めてくれ、瑞鶴」
エンタープライズは目を閉じながら投げやりに答える、じゃんけんなんてどうしようもないと最早諦めてしまっているらしい。
目元まで落ちそうになっていた髪を何処と無く艶っぽい仕草で彼女は耳にかける。ほっそりとした指を見て、瑞鶴はやはり現実味がない女だ、とばかり思う。
「まあ、そうなるわよね」
瑞鶴もそれには同意だった。話にならないと思っている。
――――だから、と瑞鶴が口を開こうとした刹那
『おいおい、一応でもルールには則れよ。エンタープライズ、諦めるこたぁ無いぞ』
彼は珍しく落ち着いた様子で、エンタープライズを諌めた。
――――ルールは絶対遵守だ。それは基本であり、そうでなければ世の中は無秩序に戻る。
だから彼は、それに関しては許容しない。例え遊びであってもだ。
それと、個人的に諦めるのが彼は嫌いだった。
「だ、そうだ。一応やろうか」
瑞鶴は少し不満そうだったが、しかし別に減るものではないと了承する。
「それじゃあ、じゃんけん――――――」
「――――負けた?」
エンタープライズの緩い握り拳に対し、瑞鶴の其れはチョキだった。
負けた。この鎮守府で最も運が良いとさえ見えていた彼女の絶対神話は、たった今崩れ去った。それも――――引き弱疑惑濃厚だったエンタープライズの手によって。
「え、私が勝ったのか」
彼女は鈍色の瞳を見開くが――――同時に、ならば。と思考を巡らせ始める。
なら、戦いは成り立つかもしれない。瞳の奥が炎に揺れ始める。
『勝ったほうが驚くとは――――まあいいや。だって番狂わせ、テレビの前の皆も好きだろ☆』
大好きです。
――――今までと比べてやたら低いテンションの提督を他所に、エンタープライズは思案する。
まず選ぶ気がなかったから、形式に考えが及んでいなかった。
(運の絡まないトランプなんて有るわけがない――――――いや、有るがそれは禁じ手だ)
つまりスピード。あれは単純な手の動きだけで、つまりエンタープライズが必ず勝つ。
――――だが瑞鶴はいざ知らず、彼女は自分の完全なマウントの戦いは嫌いだった。あくまに公平、良くてこちらに不利であるのが彼女の勝負の決まり事だ。
今までもじゃんけんには負けるから、という理由があったとはいえ。常にアドバンテージは相手に在った。
だが提督は譲ろうとしても聞きはしないだろうから、此処は一番無難で、何故か出ていなかった――――。
「ポーカーで行こう。形式はセブンカード・スタッドで、ベットは一回につき5枚まででルールには則れているだろう」
セブンカード・スタッドは、裏向きに二枚、表向きのカード一枚と僅かな掛け金から始まるポーカーだ。
それから1枚ずつ引いてお互いに公開し、ベッティング・インターバル(要はベットをかけるタイミングだ)を行う。
最終的に全てのカード七枚から一番いい役を出して勝負するというものだ。
――――しかしこれは運が絡む。彼女は正直、決定した本人ながら不利だ。
勿論それを何より理解している瑞鶴は、隠しきれず口角を僅かばかりに釣り上げる。
「この勝負だけは
『ああ、簡易ルールとして言っただけだし』
提督は何で聞くのか分からない、という風に肩を竦めながら答えた。
「良いのか? グレイゴースト、私に運を絡ませた勝負なんて申し込んで?」
瑞鶴はとうとう隠しもせずに、端正な顔を勝利の予感に歪めた。とっくに勝ったつもりで居るようだった。
実際、負けたことはなかった。
「構わない。正直に言うと、勝った所で――――私の願いなんて些細なものだからな」
小さく笑ってエンタープライズが応える。忘れていると思うが、勝者は指揮官に何か一つしてもらえるのだ。
――――目標を見据えて取捨選択をしている様が大人らしく振る舞っているようで苛立ったのか、瑞鶴は不機嫌さを増していく。
自分の事を見てから勝負事に入れ、そうとだけ思いながら。
「良い度胸ね――――負けてから言い訳は聞かないぞ?」
「ああ、別に言い訳なんてしないさ…………勝負なんて、最後は時の運だからな」
しかし瑞鶴は体を少し震わせる。
――――エンタープライズの瞳は。既に彼女を見透かしたように妖しく光っていた。
【二回戦 敗北】
【チップ:瑞鶴 130枚 Enterprise 70枚】
――――それは錯覚だったのだろうか。
「よし、スリーカード。私の勝ちよ」
二回目。つまらなそうに瑞鶴は三枚のエースを机に投げた。現在奪取チップ、30枚。彼女は机の中央に有ったチップを全てかき集める。
エンタープライズ、全くの無役。その表情、死人が如し。
「降りるって…………まだ七枚しか賭けてないじゃない」
呆れたように瑞鶴が呟く。眉をひそめてエンタープライズの表情を読もうとするが、やはり死んだようにピクリとも動かない。
【三回戦 敗北】
【チップ:瑞鶴 137枚 Enterprise 63枚】
――――瑞鶴は順当に勝っていた。何の変哲もない運と直感で彼女を圧倒した。
しかし彼女も相手が相手であるから逃げ腰に賭けていたから、勝ったというのに
致死量である50枚以下には持ち込めていない。
だがそれだけのこと。流れは瑞鶴に流れていて、この流れのままに彼女の敗北は確定しかねなかった。
最初に言った通り、49枚以下で最終局面を迎えた時点で、それは負けだった。
「グレイゴースト、アンタわざわざこっちの土俵に立つような奴だっけ?」
まばらになったカードを集めて瑞鶴は細い目つきでエンタープライズを睨む。
――――微動だにしない。彼女の眼には負けの予兆も、勝ちの確証も全く読み取れなくて、段々と瑞鶴は苛立ってきた。
勝てる勝てないでなく、向き合わない姿勢に久方ぶりに本当にイラッと来た。
「もう良いわ――――――じゃあ、ノーリミットゲーム。決着をつけてあげる」
足を組み直して、不快極まると言わんばかりの顔のままに瑞鶴が言った刹那――――急激な悪寒が彼女に襲いかかった。
――――蟻地獄に嵌まる蟻、食虫植物に絡め取られた虫。そういう、終わりを感じる平坦な時間の流れが始まったように思った。
「そうか――――――なら私も宣言しよう」
予想に違わず、エンタープライズは帽子を深く被り直して、いつもよりも何処か大きく口を歪めた。それが不味い事態に嵌っていた自分に対するものだと瑞鶴もすぐに気づく。
――――その眼はいつか見た『英雄としての』彼女と同じく、赤色の光を棚引かせていた。
それは銀灰の大妖精など、良いものではない。
「次、私は必ず勝つ。瑞鶴――――――」
「――――――――勝負は常に、始まる前に決まっているんだ」
何かを掴み終えた。そんな風に彼女の体が生気を取り戻す。
鋼鉄の瞳が彼女を強く見つめ、その固まった指先は溶けてきたように緩やかに動き始め、消えていた筈の表情をもが色付き始めた。
エンタープライズは唯これを狙い続けていた。瑞鶴が勝利に焦って、その宣言をするその瞬間を。
――――瑞鶴が元々短気なのは知っていた。
ましてや敢えて全て低い役で大きめの賭けをしていたと知れば、必ず勝負を四回目につけに来ると分かっていたのだ。
瑞鶴のことだからそのタイミングでルール的な勝利、では満足しない。必ず自分の持ち金をゼロにしに来る、
それを確信して、それだけを待ち続けていた。
これは相手がノーリミットゲームを宣言し、自分が63枚以上のベットであるときだけ成立する――――つまり、ルールを正しく理解していれば起き得ない現象だ。
瑞鶴はこの類の賭け事で負けを知らなかった、
彼女はてっきり、エンタープライズが最後の一回で何らかの一計を投じ、勝負に出るものだと思いこんでいたのだ。だがそれは掴み取れる、勝ちの味ばかりを知っている側の『落ちたから脱出する思考』に過ぎない。
『下から這い上がる思考』であるエンタープライズは、まず相手を動揺させることから始めた。そして堅実であることにした、それが負ける側の発想であると自覚したままに。
負ける側というのは、時に挑戦する他選択肢がないのを知ったままに。
敢えて勝てないのにベッドを釣り上げてみたり。唐突に降りてみたり、ただひたすら瑞鶴に自分の目的を掴ませなかった。
『お、エンタープライズが敢えて下手な博打打ってたのはそういうことね――――最初からこうやって嵌める気だった訳か』
提督は気づいたように感嘆の声を上げる。
プリンツ。ベルファスト。加賀。彼女達は勘付いたらしく、ピクリと眉をひそめる。
「指揮官。誤解が多分に含まれた言い草だな――――――誘っていた、と言ってくれるか?」
そう言いながら、彼女の口は未だに嗤ったままだ。普段の何処か色男の気の有った、可愛げの有る其れではない。
――――難しい話ではない。冷静に考えれば分かる。
63枚、これをノーリミットゲームで全て賭けて勝ったとしよう。勝った側126枚、もう片方は74枚だ。
――――
だが瑞鶴は「自分から」ノーリミットゲームを宣言してしまった。
だからもう、崖っぷちだった。
――――引っかかってしまう理由は簡単だ。
冷静に勝負出来ていた誰もが、こんな単純な手は真っ先に考慮した。当たり前のことだから意図的に自分から不利になる方向性に行くことは避けていた。
本当に、ただ当たり前のことだ。
――――だが瑞鶴は強すぎた。強すぎる故に、深く考えることを怠った。賭け金という概念の精査を怠った。
誰も明言しない、するまでもないはずの単純明快なこのルールのトラップ――――『相手に先に宣言させると有利である』という其れを――――よりによって一番許されないタイミングで、足元を見ないが故に引っかかった。
先に使わせてしまえば賭け金の調整は大まかにとはいえ、こちらに分があるわけだ。
幾らなんでも賭け金そのものの調整の隙が有るのは大きいアドバンテージだ。
――――三回戦なら、そうやって笑う程度で済ませられた。
「瑞鶴、これは持論なんだが――――――私は実は、賭けに弱いんじゃ無い気がしていてな」
エンタープライズは不敵に笑ったまま、何処か身構えている瑞鶴に語りかける。
――――まるで亡霊のように。瑞鶴の視界に映るその少女は揺らめいた。蜃気楼のように、虚像であるように。
「こういう風に
笑いながら語るが、それは変な話ではない。
彼女は史実でもとてつもない窮地でこそ、豪運を見せてきた。
――――ある時は放たれた魚雷が不発し。
――――ある時は落とされた250キロ爆弾が不発し。
――――そしてその戦いの最後には、
全部、逆境だった。どれもが彼女の終わりを間近に見る瞬間だった。しかしそれを、彼女は乗り越えられた。
だからこの逆境でも、恐らくその豪運は発揮されるのだ。
――――故にその異名は『LuckyE』なのだから。
つまり、
「
「追い込まれた時の運は、君の比ではないぞ?」
かつて鋼鉄の瞳と呼ばれた英雄の其れが、計り知れない熱量に揺れた。
――――その姿は、まさしく『灰色の亡霊』であった。
続くよ。
さて、めっちゃノゲノラリスペクトのラストになりましたがどうですかね。こういうの需要なかったりするですか、不安が募ります…………。
後二話出しますから! それでクリスマス分は勘弁してください!
――――ところでさ。このエンタープライズ、カッコよくない?
ってか何か赤バー小説になってました。今こんなあっけらかんと書いてるけど活動報告見ればわかりますが泣いてます。いやマジ泣くことはないだろ俺。まだユニコーンリアルで流して感動に浸ってます。キモいなさすがに。
一瞬でも夢に届きました。三年越しでしたのでだいぶ感動してます。
でも次は日刊に載ってエンタープライズを知らしめることにありますから、これからもどうぞご贔屓に。
そして評価してくださった方に敬礼。私は評価透明なやつは評価できない臆病者なので、評価を押してくれた貴方の勇気を讃えさせてもらいたいと思います。
あ、要するに「三日天下でも三日も天下取ってりゃ価値がある」って考え方の人って話です。
(無言でエンタープライズに抱きつきに走って避けられる)
-追記-
待って、何で私日刊入ってるのもう野望達成なんだけどどうする(12/20時点)。
もうね、皆ありがとう。愛してる、でもエンタープライズを皆愛してあげて。可愛いから、マジで保証するから。