今年最大に指揮官がイチャつくので注意。
敢えて予約投稿で妙な時間をチョイスしました。
リアルタイムで進行していると思うと少し楽しい気分になれます。
――――窓際から外の雪を、彼は眺めていた。
ひらりひらりと舞っている雪は、しかし必ず溶けると思うと彼にはどうにも切なく見えて仕方ない。
美しいにしたって、儚すぎると彼は苦手なものに感じる。やっぱり美しさにもある程度連続性が欲しいと思えてしまうのは彼の悪い癖だった。
「しきか~ん、おきているか…………?」
彼女が耳を赤くしながら、呂律の回っていない口調で彼に手を降って尋ねかける。何処と無く気だるけな動作は、いつもからは全く想像がつかない。
彼はほんのりと顔を赤くしながらも、彼女の素っ頓狂な質問に平然と答える。
「はいはい、起きてますよ。全く、酒が絡むとお前はすぐこれだなあ――――――」
面倒だ、という様な口調ながら彼は満更でもない顔つきだった。いつもとは違う側面というのは、人間味を帯びていればいるほどに安心感が有るものだ。
特に彼女のように、一部では完璧超人の疑惑が有るような性格ならば尚更。
「っていうか、一杯飲んだら駄目なくせに普通四杯も煽るか? 実は抜けてるのか?」
彼のにへらとした緩み顔からの鋭い言葉に、彼女は手をひらひらと振りながら答える。
「だいじょうぶだ、ちょっと前が霞むだけだからな~」
「駄目じゃんか」
彼は大きく乾いた笑いを響かせた。
――――――隣でその様子を眺めていた瑞鶴はぼそりと
「グレイゴーストっていつもこんな感じなんですか?」
と隣り合って座っている赤城と加賀に尋ねる。
この五航戦と一航戦、意外と仲がいいらしい。
――――加賀が少し興味深そうに頬を緩めて、最初に答えた。
「そうだな、指揮官の前だと――――――だが」
二人が向かい合って飲みあっている様は、加賀も実は少し久しぶりに見た。その何とも言えない微笑ましさにはついつい口が軽くなってしまった。
口には出さないし過干渉もする気はないのだが、心配はしているのだ。
進展が遅い、と。
「うわ、惚れてる男には弱み見せるって。先輩より策士ですねアイツ」
瑞鶴は如何にも野次馬らしい感想を述べた。
らしいと言えばそうであるが、聞こえるか聞こえないかの距離で言うには少々下世話というか失礼な感じも有る。
――――赤城が机にへたり込みながらいつもより大きな声で嗚咽混じりに叫ぶ。
「あの女は反則です! いっつもああやっていいとこばっかりもらって、何だか私があの女に負けているみたいじゃない、バカァ!」
こっちはこっちで大変である。
「先輩、飲み過ぎですよ…………お水どうぞ」
瑞鶴の隣で見ていた翔鶴が、珍しく心配そうな顔つきで赤城に水を渡す。
普段ならばそれに乗じて煽るのだろうが、今日の赤城はあんまりにも酔いつぶれて乱暴なものだから翔鶴も毒気が抜けてしまっていた。
――――いつもの落ち着いた所作は何処へやら。水を大きく煽ってダン、と机に叩きつける。
「何か固い絆がお有りのようですけど!? 愛の深さは時間と比例いたしませんからね!?」
「はいはい、姉様。ちょっと落ち着いて下さいね…………」
赤城の背中を上の空ながら加賀が擦る。
「もう一杯! もう潰れるまで飲んでやりますから!」
「あぁ~、持ってこなくても良いよ綾波! この人持ってきただけ飲むやつだから!」
瑞鶴が慌てて新たな酒を持ってきた綾波を止める。綾波は不思議な顔をしながら其れに従って違う方へ歩いて行く。
「赤城先輩、男が絡むと駄目なタイプなんでしょうか…………」
「そうだな、絡まなければ悪い所ばかりではないから大目に見てくれ。翔鶴」
溜息混じりの翔鶴に、加賀は頼むように答えた。
「エンタープライズちゃん、楽しそうね――――」
ヨークタウンが微笑んで向かい合うホーネットに言うと、彼女は苦笑い混じりに
「まあ、酔ってる時だけは普通だよね~」
と陽気に答える。
――――何処と無く穏やかな雰囲気で話している二人のもとに、真っ黒い女性――――三笠が通りかかる。
「ふむ…………我も同席、構わないかな?」
もう終わり頃だというのに、と内心ホーネットは思ったが別に断る理由もないので
「どうぞどうぞ~」
と快く答える。
「いや…………あの二人、こういう時だけは「良い雰囲気」という奴なのだな」
三笠が腰掛けながら二人に尋ねかける。
――――ヨークタウンが、成る程。と微笑みながら返答する。
「二人のことを聞きに来た、という訳ですか」
ヨークタウンの柔らかくも的確な一言に三笠は目を丸くした後、口元を抑えて笑う。
「バレておったか。まあそういうことだ、エンタープライズについては少し興味が有ってな」
それがどういう意味か、というのは誰も追求しなかった。
ただホーネットは
「凄い人みたいに振る舞ってるけど、本当は普通の女の子なんだよね。姉さんは」
とだけ困り笑いを添えて教えておく。
「それは言えておるな」
三笠が少し大きく笑った。
「お~い、エンタープライズさ~ん? 起きれますか~?」
彼が尋ねかけても、机にへたり込みっぱなしのエンタープライズからは
「むり~」
という気の抜けた返答しか返ってこなかった。
――――おいおい、と彼は口にだすこともなく困惑した。
しかし彼女がえへへ、と言ってにまにましている様子を見ると嘘でもなければ、どうしようもないのだろうなと言うことは察せてしまったようだった。
「名案プリーズ」
策が思いつくことも無さそうだったからか、隣の机に座りっぱなしだった加賀に助言を彼は求める。
「背負え」
「最悪の手段を最初に提示する兵法家の鑑の如き発言有難う」
加賀は其れ以上の名案なぞ無い、とつんとした表情で表明した。これは何らかの意図で意地悪をされているな、と彼は誤解する。
――――そうした方がいい、というのは本当なのだが。其れが分からないのがこの男が「鈍感アジアチャンプ候補」なんて呼ばれる所以だ。
まあ実際、これが職場の女性であれば彼の判断は正しいのかもしれないし、彼から見ればエンタープライズは一応「職場の女性」だった。
「良いじゃない、なんならお姫様抱っこでもすれば? アンタなら出来るでしょ?」
後ろから肩を叩いてきたプリンツが、薄ら笑いのままそんな魅力の欠片もない提案をする。
彼はまた変なのに絡まれたな、とでも言わんばかりに溜息をつく。
「あのさあ、君ら真面目に考えてくれよ?」
『大真面目だ』
二人が声を揃えて即答する。
嘘だろ、と目を細めながら考え込み始める。だが全く毛色の違う二人が言うのだから、それにはそれなりの理由が在るのだというのは馬鹿ではないのだから分かった。
――――だが肝心のその理由とやらが見当もつかない。
まあ、これまでを見れば分かる通り、こういう男なので仕方在るまい。
「そっか、大真面目か」
ちらりとエンタープライズを見ると、相変わらず緩んだ口のまま
「ふぅ…………」
と気持ち良さそうに寝込んでしまっている。本人から動くというのは、彼にはとても想像もつかなかった。実際、彼も此処まで酔い潰れたらてこでも自分からは動かないだろう。
確かに運ぶのは唯一にして最善策だった。
「誰か背負っていってやろうっていう親切なやつ居る?」
【お前が背負え馬鹿野郎】
赤城以外の全員が口を揃えて言った。酷いものである、これでも男は察せない。実に察しの悪い男だ。
ちなみに赤城は加賀に、口と体を抑えつけられている。要らないものはしまっちゃおう精神の極みである。
「マジかよ薄情者共め!」
「あのさあ、指揮官。むしろこっちは最高に気を遣ってるよ今?」
糾弾した刹那、座ったままの瑞鶴に彼はぴしゃりと言い放たれる。
「マジで?」
「うん、連れてってあげなよ。さすがに可哀想だって」
カワイソウ? と彼はまるで聞き慣れない外国語を聞いたかのような復唱をしながら首を傾げる。
――――だが、この様子で誰も手伝ってくれそうにないのは確かだった。
仕方ない、と彼は彼女の横にしゃがみ込む。
「もしも~し、エンタープライズさん? 背負っていってやるから、ちょっとこっち来てくれます~?」
彼が耳元に呼びかけると、エンタープライズはピクリと体を動かす。
彼を見ながらゆらりと立ち上がろうとする。
「あぁ、すまないな~…………おっと」
しかし、少し立とうとするだけでふらつく。
――――――――どうにかこうにか、と言った様子で彼女は彼の背中にやってくる。
彼女が首に手を回すと、彼は彼女の足を持ってふん、と小さく力む声を上げながら立ち上がる。
「ほんとうにだいじょうぶか? 無理ならひとりでも…………」
エンタープライズの吐息に彼は耳を真っ赤にしながらも、どうにか平静を保ってそれに返事をする。
此処まで来れば男の意地が発動している。それは許されない提案である。
「大丈夫だって。女子一人背負えない男は居ねえよ、多分」
「そうか、そうなのか~…………ははは」
よく分からない笑い声を上げるエンタープライズをあやすように相手をしながら、彼は扉に向かって歩き出した。
【アイツらマジで速くくっつけよ…………】
ほとんど総勢が、にったかよったかな事を考えながら扉を開く彼を見つめた。
(にしたって、酔い潰れるなんて久しぶりだな…………)
夜の月に照らされながら積もっていく雪を、窓越しに眺める。また何とも手放しで美しいとは思えない感傷に浸る。
やはり儚いものが苦手らしい。
それに釣られたように彼は背中の彼女について考えた。
――――ああ。まあ何となく察している人も居ると思うが、背負っていることを意識しないために違うことを考えているだけなので、この男の心臓はバックバクである。
足の触り心地だとか、背中に当たっている双丘だとか、耳元にかかる息だとか全力で現実逃避して誤魔化しているだけの話である。
彼は女性と喋ること自体には職場柄慣れたものの、触れることは全くと言っていいほど無かった。
「雪がきれいだな、しきかん」
彼の心中を察しているかのような溶ける音程の言葉の羅列に、彼は歩幅を短くしながら答える。
「ですな」
「こんな日ぐらいはいきをぬくのだぞ、あなたはすぐに――――――なんだっけ?」
ぽやぽやとしているからだろう、其処から先の言葉を彼女は見失ってしまった。
――――しかし言いたいこと自体は伝わっていて、彼は見えない表情を緩ませながら、ぽつりぽつりと語り始める。
「今日は楽しかったぞ」
「ほんとか?」
「ホントさ、年甲斐もなく騒いじまったしな」
ははは、とあっけらかんとした笑いを廊下に響かせながら、彼は心底楽しそうに思い起こしていく。
――――長らく「自分自身のためだけに」騒いだり、楽しもうとすることが無くなっていた。
好きに食って、好きに飲む。それは本当に久方振りの体験で、彼が良い気分になったというのは本当だった。
「それはよかったな」
彼女が嬉しそうに呟く。
「何で他人事?」
「だって、たのしかったのはあなただろう?」
不思議そうに答える彼女の声に、そうかい。と彼は心の底から溢れたように、少年じみた笑いを見せる。
――――たのしかったのはあなた。
彼は心の中でその言葉を復唱してみたが、やっぱりどうにも実感が湧いてこなかった。
「でも、お前が招待してくれたんだろ?」
彼の呆れ笑いの混じった問いかけに
「私じゃなくて、「さんたくろーす」がだな…………」
彼女はこんな状態でもまだシラを切り通す。
「そうだったそうだった。間違えたよ」
彼は適当に合わせてやった。
――――――しばらくとぼとぼと歩いていると、唐突に
「――――――――なあ、指揮官」
突然、はっきりとした口調で彼女が耳元で囁きかけてくる。
――――内心、彼はどきりとした。しかし悟られても癪というか、恥ずかしかったからか
「どうした?」
と相も変わらず平然を装いながら言う。
彼女はまた酔いの回っているとは思えない口調で答える。
「あなたの背中は、やはり大きいな」
冗談じゃない、と内心呟きながら笑う。
「おいおい、カップルじゃねえんだから恥ずかしいこと言うなって」
声が上ずるのを誤魔化しながら、頬を少しだけ掻いて答える。
――――――背中から伝わってくる鼓動が、今までより何処か大きくなったように彼は錯覚する。
「来年も、こうやって一緒に騒ごう」
彼女の言葉に、彼はニッと笑って返す。
「当たり前だろ。俺だって味を占めちまった、もうどんちゃん騒ぎは辞めらんねえよ」
彼はいつも通りの、何処かから回った大笑いをした。
大抵、本心から逃げる時の笑い方だ。
「――――――私は、その為になら幾らだって戦える」
「平和の為に、ってか?」
彼女は答えなかった。
――――だから彼は一瞬だけ、違う有り得ない答えを思い浮かべた後に、顔を赤くして無言の彼女を運び続けた。
『来年も、あなたと一緒に騒ぐ為になら』
なんて想像するのは、いよいよ少女漫画の読み過ぎか。彼は頭を振った。
「鍵は開いているのか?」
「ああ、誰も勝手に入ったりしないからな」
がちゃり。確かにドアノブは何の引っかかり無く回されて、扉は開かれたようだ。
――――相も変わらず殺風景というか、スッキリとした生活感のない部屋に彼は僅かに眉を顰める。
背中の彼女に尋ねる。
「ってか、もう歩けるだろ」
「歩けないよ」
はっきりとした返答だった。
「そうかい」
意味のない問答をしながら、ベッドの前まで歩いた。
――――ベッドの前で、ゆっくりとしゃがみ込む。出来るだけ体を打ちつけないようにゆっくりと、彼女をベッドに下ろしてやった。
「全く、後は俺以外にも頼ってくれりゃ言うこと無しなんだがねえ」
問いかけても、返事は帰ってこなかった。
――――――――月明かりに照らされた顔を見つめてみるが、目は閉じられていて、寝息を立てている。
まるで眠ってしまっているようだった。演技という感じでもない。
(今の短時間で寝たのか、変なことも在るもんだなあ)
まあいいや、と彼は立ち上がろうとして――――体がふと、止まる。
――――――投げ出された白い硝子細工のような四肢に、少しだけはだけた胸元。
いつもキリリと引き締められている顔つきは年頃の少女らしく柔らかくなっていて、いつもよりその唇は何処か扇情的に錯覚される。
月光に照らされてしまえば、まるで白雪姫の生き写しのようだ。
――――どっくんと心臓が跳ねる。よろしくない衝動が、彼の頭をぼんやりと侵食し始める。
(待て、俺。それは違うぞ)
言い聞かせるが、衝動も心臓も煩くやかましく、全く彼を落ち着けてくれそうにない。
――――――ゆっくりと、顔を近づけてその顔立ちを観察する。
意識はしないようにしてきていたのだが、やはりどのパーツを取っても――――彼の理想にピッタリと嵌ってしまっている。
心臓がまた煩さを増す。耳に心臓がひっついているようだ。
(待て、待て、待て――――――)
ゆっくりとその唇に――――――
(アカンやろマジで!?)
懲戒免職食らうぞこのアホ、と彼は自分を怒鳴りつけて、辞めた。
――――肩入れは良くない。妙な倫理観にも彼は引き止められて、そのまま逃げるように部屋を後にした。
「おはよう、指揮官」
彼女がいつも通り、朝の挨拶をかわそうとする。
「あ、ああ。おはようさん…………」
しかし彼は妙に躊躇ったように顔を逸らしてしまう。
「どうした?」
「何もないよ」
「嘘は良くないぞ」
彼女が顔を覗き込むと、彼は昨日のことを思い出して顔が熱くなる。
「何もないから! マジで無いよ、うん!」
――――――翌日にはケロリとしていたものの、それを目撃した艦を発信源に
(遂にやったかあのチキン上司)
という噂が、一日限りでまことしやかに流れたという。
オチつけた。蛇足だけど悪くないね、うん。
終わったと思ったでしょ。俺も終わらせたつもりだったのにキーボードが勝手に動き出したんだよ。
という訳で爆弾はまだ残していた、というか一日で作った爆弾です。ワン(デイ)ライト。アズレン版深夜の物書き一本勝負的蛇足です。ぶっちゃけ数時間で書いた。
珍しく提督が男の子。不評連載中の「唐突シリアス英語シリーズ」を読み終えるとまた感慨深いのよ、これがね…………。
っていうかやっぱり指揮官がヒロインっぽいな(ウッソだろお前)。エンタープライズかっこよすぎなのが悪いんだずい…………。
まあそれはともかく、今度こそクリスマス編は終わり。年末に一旦完結モドキになる予定です。
――――それでは私に代わってエンタープライズ君に別れの挨拶を。
「急なフリだな、終わらせ方に困っただけで此処まで呼ばないで欲しいものだが」
「――――まあ仕方ない。今回ばかりは、格好を付けさせてもらおう」
「それでは指揮官、良い聖夜を。我々一同、あなたに一欠片でも温もりを与えられたことを心より祈っているよ」