それはそうと、OPソングが決まったそうだ(気分的なものだが)。作品毎に決めているらしいのだが、2nd seasonは「MAD HEAD LOVE」らしい。これは名前を出して問題がないのか…………?
問題がないなら、前書きで曲の趣味を暴露してすっきりしたいそうだ。動機が不純すぎないか?
――――ああ、そうそう。彼の名前は『小野
先に行っておくが、
何時だって気を張っていられる艦は居ないからな。
「なあ、お二人さん」
腕を組んだ白い執務服の彼は、後光に照らされて仁王立ちをしていた。
――――まあ、見た感じの通り怒っている。理由についても早急に語るべきなのだろうが、それは彼の後ろで叩き割れまくっている窓からおおよそ察せるだろう。
夏の中頃らしい、清涼感の溢れる風が彼の耳元をくぐり抜ける。窓、開けてないのになぁ。
というか今までの流れ的に何故全部割れているのか――――――と思う貴方に言っておくと、瑞鶴の天山は「突っ込んでいる」。彼女はエンタープライズが絡むと阿呆なのだ。
「申し開きが出来るなら受け付けるが、如何に?」
立ちっぱなしのまま、彼女達を見つめた。彼の後ろの書類が、僅かに舞いそうな素振りを見せる。
――――――瑞鶴とエンタープライズは、執務室の中央でちょこんと正座させられていた。さながら叱られた姉妹のような、もしくは小学生のくだらない喧嘩で怒られているような。
叱られているはずなのに、二人共何処か反抗的な眼をしている。
「服を汚されるとあっては私も手段が選べなかったからな――――――」
当然が如く、エンタープライズが澄まし顔で言い訳を試みるが
「申し開きが”出来るなら受け付ける”、と言ったな俺」
即刻却下。言い訳になっていない、という事だろう。彼は笑いながら、静かに怒気を放った。
思わずエンタープライズさえ、ビクリと小さく肩を震わせる。
――――――彼は怒ると、結構怖い部類である。
まずそんなに怒らないからかもしれない。
「君らがね、うん。仲が良いのは結構だ、もっとじゃんじゃんやれ」
彼は笑ってうんうんと肯く。
「百合モノとか実は大好物だからもうイッチャイチャして構わんし、君ら二人は特にその手の才能に溢れていてだな――――」
「お主、こんな所で性癖暴露大会に入ってどうする気なのだ?」
後ろの三笠が彼の肩を叩いて諌める。彼はしまった、という顔色で二人を見る。
――――――しかし、二人はキョトンと顔を見合わせて
「百合とはなんだ、瑞鶴?」
「さあ? 花とかじゃないの? アレ綺麗で好きよ」
どうやら聞き慣れないらしかった。それで良い、それで良いのである。
「ああもうこの二人純粋すぎオジサン萌え死ぬよ?」
ううむ、最高に気持ち悪い。確かにエンタープライズにはもっと良い男が居るのかもしれない。
「っていうか三笠ちゃん分かるんだね…………?」
冗談だよ、と彼は冗談な感じはしないニヤケ面で彼女を見た。
「い、いや! そういう訳ではだな!?」
――――――三笠が慌てて話を逸らす。
「ほ、ほら、説教に戻るのだ! 何時迄も本筋から逸れていては反省も、ましてや相互理解さえも得られんぞ!?」
「おっと、そりゃそうだな。忠告ありがとう――――――うぉっほん!」
彼は素直に忠告を受け入れて、大きな咳払いをした。
――――――悪夢の再開か、と言わんばかりに二人の背筋がピンと張られる。
「―――――――――で、これ何?」
彼はガッシャンガッシャンに割られた執務室の窓を指差した。
――――――エンタープライズが静かに手を上げて
「着地に失敗して割ってしまった」
とだけ、いつも通りの透き通る声で答えた。
――――刹那、彼がオーバーモーションで感情を発散しながら声を大きくする。
「初めて聞いたよ!? 世界に鎮守府多しとは言うけどもお前みたいな前例はゼロだ! 分かるか、ゼロだぞ!?」
「何だよ着地に失敗って! まず着地を試みるなよ、何どういうこと!?」
至って普通のお叱りであるが、彼女はそれでも抵抗を試みる。
「殆ど完璧だったのだ、まさかあんな形で動きを乱されるとは私自身予想外で――――――」
「飲酒運転した時の言い訳みたいな言い草辞めようか!?」
実際「ちょっとなら大丈夫だろ」精神で発生した事件なので、言い訳の仕方としては合っている。
飲酒運転の動機も大体はそんな感じだろう。
――――――瑞鶴がへらへら笑いをしながら、躊躇いがちに手を上げる。
「あの、私もちょいやり過ぎたかな――――――なんて」
窓を割った時点でやり過ぎもやり過ぎではないだろうか。
「ちょいじゃないから、棟内で艦載機発艦とか下手したらお前――――――いや、それは良い」
恐らく退任だろう。
言い渋ったのは退任、なんて身勝手な処分に対する憤りか。
軍規違反だろうが何だろうが、今の彼女達には鎮守府しか無い。其処から突然に放り出すのは、幾ら何でもやり過ぎで、彼としては人間の勝手さ極まれり――――――とつくづく感じるタイミングだった。
「どうなるの?」
心配そうに琥珀色の瞳を揺らす瑞鶴に
「――――――まあ、謹慎処分だろうな」
嘘をついた。まあ、悪い嘘でもあるまいに、彼は苦い顔色になった。
――――――要らないことばかり想起されて、歯噛みが酷くなる。思わず顔を逸らした。
「指揮官、どうしたんだ?」
伏せる顔を彼女が立ち上がって無理に覗き込む。黒いコートと銀髪が彼の眼の前を漂白しながら近寄ってきた。
――――――一瞬だけ、許しそうになる。
だが、ダメだ。今はそういう時じゃない、と彼は言い聞かせる。
「座りなさい――――――まだ説教は終わってないぞ」
逃げる。湧き上がる感情に向き合うことは、あれからも未だに少し苦手だった。
何時もより何処か弱々しい手つきで彼女の華奢な肩を押し下げて、座らせる。
「――――――――それでだな、俺が基本的には怒らないのは何でか分かるか?」
出来るだけいつも通り、いつも通りと心で呟きながら彼は尋ねた。
――――彼女が中途半端に開けてしまった扉のせいで、残念ながら彼は尚更苦しむこととなった。
それは人が向き合うべき現実ではあったかもしれないが、彼の場合は頭ごなしにぶつけてやるものではなかったというのに。
――――――ま、それについては今触れても仕方ない。ゆっくり、ゆっくりと二人で融かすべき問題だろう。
我々の過干渉、過感傷なんて意味の無いことだ。
それは貴方自身が分かっている筈だろう、我々の感情などこの世界に意味はないのだから。我々が
「え――――そりゃ自分が仕事サボるからでしょ?」
瑞鶴が空気を読まずに尋ねた。
「ああうん、それは有るよ――――――って何言わせてんだ」
思わず彼が認めてしまう。
それに対して「事実だからな」、と蚊帳の外だった三笠が部屋の端にもたれかかりながら高笑いをする。
「こら水を差さない、これだから三笠ちゃんは全く」
「誰が三笠ちゃんだ!」
ぷんぷん、と言わんばかりに手を振っている三笠のお怒りを彼はスルーしていく。
――――――話逸らしてくるなよ、と口の中でもごもごと彼が呟く。
「でだな――――――だから、怒る意味がないんだよ」
「誰だって羽目は外れるし、悪いことの一つや二つやっちまう。大小あれど、必要な反省なり何なりが有るなら、怒るなんて俺のエネルギーの無駄だからな」
エネルギーの無駄だからな、というのは実に彼らしい物言いであった。
――――――――うん、と彼は頷く。
エンタープライズはその様に、これは不味いと直感して背中が怖気立つ。
「次はするなよとしか、基本的に言う気はないんだけども――――――――――」
「でもこの鎮守府の予算が残り82円なのわかってる!?」
追加申請が可能になるまで、残り三日である。
まあこうなった理由は彼のおかしな開発が原因なのだが――――――それでも、後の予算を彼が自腹を切るというのはとんでもないことだ。
そりゃあ花火の経費だって抑えたくなる。
質が悪いのは自腹は今回に限った話ではなくて、割りと起きてる事案であることだ。
「駄目なことは有るんだぜ? 取り返しつかねえことって有るんだぜ? お金って、羽が生えてるんだぜ?」
つい最近、花火なんて馬鹿なことをやって身をもって体験済みである。
「優しさとか甘さとかで世の中はお金を出してはくれません! 世の中はある意味シビアで、当たり前のように金欠だと時には餓死しかけます!」
しかしだからといって突然そんな世知辛い話をしなくても、と思わなくもない。
「分かるか!? これから俺の家で食うものなんてもやし以外許されないんだぞ!?」
彼のオーバーモーションがピークに達した。
――――と言っても夕食も此処で食べてちょろまかしている彼には実際あんまり関係ないと思うのだが――――――というのを、エンタープライズは黙っておいてやる。
確かに辛いだろうな、とは思ったのだろう。もやしが彼は大嫌いなのを彼女は知っていた。
「例えば俺がFG○で馬鹿みたいに8万もガチャでメルトリ○スに命懸けたとかなら分かるんだよ!? 仕方ないよなそれはよぉ!」
「いやに具体的だな。お主、誰の話をしているのだ?」
誰と言われると、
彼は三笠の苦言をまるで何とも無いように聞き流して続ける。
「素手でバトるだけなら良いよ――――って俺言ったよ!? 凄く寛容だぜ? 君らの徒手空拳って骨折不可避だしさぁ!」
運動神経、治癒能力、思考演算能力が人間であると認めるには些か高すぎる所がある。
しかし硬度。これを上げても結局砲弾とか魚雷には耐えられないし、そもそも運動機能に支障が出るから、肉体の硬度は常人並に設定されている(誰によって設定されているかは、想像にお任せしよう)。
だから腕なんて簡単に折れるし――――――――エンタープライズがその気になれば、四肢を切断することも不可能ではない(そんな機会は無いはずだが)。
まあ色々言ったが、彼女達の体は筋肉内包済みの便利なマシュマロだということだ。夢は捨てなくて構わない、きっと柔らかいぞ。それだけの話だ。
本題に戻ろう。
「なのに、何で艦載機使っちゃうんだ!? 艦載機ってお高いのよ!? それ自腹とか俺の財布が唯の飾りになっちゃうでしょうがこのポンコツ幸運艦コンビ共ぉ!」
「コイツと一括りにしないでよ、指揮官!」
其処だけは看過できなかったのか、瑞鶴が突如目つきを鋭くして指摘する。小動物から一点、その透き通った瞳が狩りに慣れた鷲に似たものとなる。
彼はそれに全く物ともせずに言い返す。ある意味豪胆というか、やはり逸般人だ。
「黙らっしゃいポンコツその一ぃ! 君のお小遣いは差し引き確定だから、そこら辺をよぉ~く噛み締めて反省するように!」
え、それは冗談ではなくマジなんですか。みたいな顔で落胆した後、瑞鶴の口元が悔しそうに噛み締められる。
此処でのお小遣いというのは間違いなく現金通貨――――――なのだが、使い道は少々特殊だ。
有り体に言うと、艦同士の取引に使われがちである、此処の鎮守府の金銭事情は真っ黒であった。
ちなみに一番の資産家は赤城&加賀だったりする。らしいと言えばらしい。ちなみにお財布は共有している――――――意外と仲が良い。
――――さて、金の話だ。
秘蔵の写真コレクション。食堂のデザート。情報の横流し――――――用途は数多有り、どれも正直碌でもない。
チープでまだ微笑ましいレベルで済んでいるからか、彼も黙認状態である。
どぉうっでもいい話だが、エンタープライズの写真は裏界隈で異常な人気がある。その手のカルト宗教を疑えるぐらいである。
指揮官もコレなので、
(コレとはなんじゃいコレとは)
干渉してくるんじゃない。
――――――ええっと、だからショットによっては普通のイケメンっぽい彼女に――――――いや見えないのだが。
敢えて言うならそう見えなくもない彼女に行ってしまうのも、まあまあ大目に見れば有り得る事態である。
ちなみに瑞鶴も数枚持っている。ツンデレめ。
「ふむ、次は動揺しない手段を用意しなくてはならないか…………」
神妙な面持ちで顎を触って考え込むエンタープライズに彼は激しくツッコミを入れる。
「もうするなよ!? 次したら30分ぐらい弄り倒すよ!?」
「どうせ出来ないのだから言わない方が良いぞ、指揮官」
顔色一つ変えずにエンタープライズが答えた。
実際出来ないから、次に彼女はニヤリとからかうような表情になる。
「で、ででで出来るしぃ!? 超イヤらしいよ俺ぇ!?」
張り合うところじゃない。大体お前にそんな気概はない、諦めろ。
誰しもあるべき立ち位置に、あるべくして立っているのが一番である。それは彼が一番分かっているだろうに。
―――――其れを聞いた途端、彼女が思い出し笑いでもするように小さく吹き出す。
「何が面白かったのだ、エンタープライズ?」
すかさず三笠が沈黙を破って尋ねる。
「――――――いや、前より少し正直になったかと思ってな」
まあ、以前よりはマシか。コミュ装甲だらけで、虚構だらけの態度にも――――――僅かながら本音は見え始めたかもしれない。
瑞鶴がその表情に少しだけ見惚れて、顔を振り払う。
(バッカ! カ、カッコイイ訳無いでしょ! コイツが、こんな奴が!)
瑞鶴の耳は真っ赤である。体は正直だな、へへへ。
――――――そんな彼女達の様子には何故か大して動じない彼が、放置して話を続ける。
「――――――まあ、だな。俺だって金、金、金、金と言いたいわけじゃないんだ」
だがな? と彼は続けざまに問題提起。
「金は天下の回り物。お前らが外でも普通に生きていける様になった時に『当たり前の観念』が薄いと後続に色眼鏡がつきまとうし、何よりお前らが苦労するんだ」
「だから、煩いと思っても頭の何処かに其れを留めてもらってだな――――――――エンタープライズ、お前も減給されてくれ」
「指揮官、最後で台無しになってしまったぞ」
だってマジで今は金ないんだもん、と彼は嘆息混じりに呟いた。
――――――金があるなら払ってやるという裏返しであった。
「グレイゴースト、聞いていい?」
「どうした?」
みっちりと長ったらしい説教を受けて、しかも減給された帰り道。瑞鶴が歩きながらの沈黙を蹴破って尋ねた。
――――――答えたエンタープライズは、わずかに足元をぐらつかせる。正座慣れしていないものだから、相当堪えたに違いない。
「結局、指揮官はなんて答えたの?」
「――――――――――何の、話だ?」
僅かにその鈍色の瞳が細く、鋭く変化する。さながら獲物を見定める大鷹。
――――意外とそれを物ともしなさ気に瑞鶴は、またまたとぼけちゃってぇ、なんて如何にも下世話そうな笑顔を混じらせて手をハタハタと振っている。
「アンタが相当あれな告白したって話――――――もう鎮守府中に広まってるわよ?」
「――――――――――――――――何だと?」
ぐにゃり。彼女の周りが歪んだようだった。少女を見ているはずなのに、血まみれで、正体不明で、相互理解など不可能――――――そんな化物でも見ているような本能的恐怖が湧き始める。
殺意が籠もった視線だった、行き場のない衝動を振り回す『英雄』の姿にさしもの瑞鶴も後ずさる。
だが煽るのは辞めない。打倒グレイゴースト委員会の意地というやつか。
「い、いやあ。流石と言うか、大胆よねアンタ」
「ほう? かなり詳細まで知っていると見るが」
赤く揺らめいた瞳のままに瑞鶴に詰め寄る。瑞鶴は其れにどうすることも出来ないまま、壁に当たるまで下がり続けて――――――壁にたどり着く。
まるで飽きた作業を見直すような無機質な表情になるのに、益々恐怖が引き立つ。
それは壊し慣れた者が、何かを壊す時の無感動の其れによく似ていたからだろう。
エンタープライズがグシャリ、とあからさまに壁を砕いたような音を立てながら、瑞鶴の右耳近くに左手を打ち付ける。
壁ドン、本来の用途である。
「誰だ」
「え、ええ?」
「誰から聞いたと尋ねた。早く答えないと何をするか分からない」
狂気混じりに空間を傾がせたように錯覚をさせてくる彼女に、瑞鶴は本能的に命の危険を察知する。
その口調は普段のものとは比較にならないほどの敵意、殺意が渦巻いている。
聞くだけで耳が灼かれ、脳が擦り切れ、それに釣られて体が崩壊してしまいそうな圧力に瑞鶴が固まる。
――――必死に逃げようとするが、口元は上手く動いてくれない。
「え、誰って、誰って、えっとその――――――――」
しどろもどろ。答えた方が性格的に、彼女が機嫌を損ねないのは瑞鶴も勿論分かっている。
そういう問題ではない。
「早く、答えろ」
その耳にかかる深い吐息に瑞鶴は動機を激しくしていく。見たこともない異形に喰い殺される直前のようなビジョンに、目を白黒させる。
――――――不味い不味い不味い不味い。そればかりが頭の中で煩くなっていく。
その異常に近い唇の距離も、妖しくも美しく尾を引く紅い瞳も、瑞鶴にかかってくる天の川のような銀髪も彼女は意識できない。
唯その目前に迫った『死』に必死になる。
しゃらん、とその銀髪が瑞鶴の胸元に寄りかかってくる。
「こ、此処って監視カメラが一杯あるの知ってるでしょ!?」
「ああ、そうだな。それで?」
無機質な返答に心臓を爆発寸前まで駆動させながら瑞鶴が口を必死で動かす。
――――酷な話、艦が反乱を起こすのを上層部は恐れている。彼は取り外せと口やかましく言っているのだが、さすがにこればかりはてこでも動いてくれない。
大体、彼自身が反乱分子になりかねない事に違いないのだから。
「えっと、えっとねだから――――――――――ごめんなさい!」
珍しく素直に頭を下げた。
「許可貰って、結構な数の艦が見てました☆」
てへぺろじゃねえよ。狂ったか瑞鶴。
「…………………それは、本当なのか?」
エンタープライズの眼からフッと、色が消えた。真っ白になる。ヒトの形に戻っていく様に瑞鶴はある意味安心感のような、芸術への嘆息じみた感傷を募らせる。
――――――突然にその距離を意識してどぎまぎするのを何とか無視して返事する。
認めるのが癪なのか、それともその感情に関して本気で自覚が薄いのか。真相は闇の中だ。
「う、うん。一航戦の先輩二人とか、後――――――――」
まるで普通の少女のような口調で瑞鶴が返事をすると
「もういい、ストップだ瑞鶴」
エンタープライズがぺたん、とへたり込む。膝を合わせて倒れ込んでいくのを見た時に、そう言えば彼女は女性だったなと突然に瑞鶴は意識し始める。
――――――彼女は顔を覆って、ボソボソと何か言う。
「――――――――い」
恐る恐る、と言った身振り手振りで瑞鶴は聞き直す。
「ど、どしたのよ?」
わさわさ。
「――――――さ、流石に恥ずかしい…………ッ!」
「グハァ!?」
耳を真っ赤にして彼女がボソボソと呟く。まるで普通の少女のようだ。
思わず瑞鶴が鼻血を吹いて横に倒れる。
――――――止まらない出血でダイイングメッセージを描きながら瑞鶴が尋ねる。
「ア、アンタそんなキャラでしたっけ…………?」
ごはぁ、と瑞鶴は血を吐くわけでもなく吐き出すように咳をする。
「いやだって、だって!? そ、それは無理だ。さすがに無理だろう!!??」
潤んだ瞳を覗かせて必死に喋る彼女を見て、瑞鶴がAEDでも食らったように痙攣する。
彼と二人きりだから何とか言えただけで、彼女も所詮チキン奥手派恋愛ポンコツイケメン空母だ。
もしかしたら違うと思っていた人もいるかもしれないが、第三者の前であんな言葉は吐けない。根が普通の少女であるからだろう。
――――――幾ら何でも、大衆監視環境下での公開処刑告白にまで耐えられるようなタイプではない。
「辞めろグレイゴースト、私を殺す気か…………?」
とうとう血でもせり上がってくる錯覚に陥る瑞鶴が、必死で指を床に滑らせながら息絶え絶えに呟く。
「知るか! あぁ、どうすればいいんだそんなの―――――!?」
明らかに言葉に明瞭さを欠いてしまったエンタープライズを他所に、瑞鶴は遠のく意識に身を任せた。
(あぁ―――――――私は多分、コイツ好きなんだわ…………)
今更過ぎる、どうでも良い自覚を最後に途切れる。
「どうするどうする!? 噂はあっという間に広がっていくしそれに赤城達の口を閉じるなんて芸当は私には出来ないし駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ何処から手を付けたら良いんだ――――――――!」
エンタープライズは何かがショートしてしまったように何かを呟き続けている。
――――ダイイングメッセージには
【たちどまるんじゃないわよ】
とだけ書かれていた。瑞鶴はどこか満ち足りた表情であったが、ダイイングメッセージとしてはまるで機能していない感じがするのだが、どうだろう。
――――――この惨状の第一発見者のクリーブランドは
『最初は、イラッと来たエンタープライズがとうとう瑞鶴を殺っちゃったのかと思ったな…………』
『泣いてるエンタープライズを見てさ、『まあな、ああ絡まれるとついつい手が出ちゃうよな――――――』って、ちょっとは思っちゃったしな』
と彼に報告したという。
次の日の瑞鶴は、やや貧血気味であったらしい。
『分かったか!? 全く、あなたはいつも自分の価値に鈍い――――――ッ!』
舌打ちでもしそうな勢いで彼女が彼を詰り終えた。長々つらつら延々と続いたそれに、彼は萎縮するどころか腰を折り曲げて沈んだ面持ちになっていた。
――――――しかし言いたいことは、多分伝わっているのだろうか。
彼女の言葉の一区切りと見たのか、彼は項垂れたまま力なく呟く。
『何かごめん…………』
其れはどうやら叱っている内容に、というよりは叱っている彼女自身に対してのものらしい。
『全くだ! 私が聞いたのは『あなたがどうしたいか』であって、『どうするべき』だとかそういう事では無いぞ!』
全くその通りでございます、と彼は結構本気で申し訳なさそうに返事をする。
――――つい先日に
【あなたはあなたに誠実であるべきだ】
と窘められた所だったのに、言った端から事情ばかりが先行した答えを出したからだろう。
だが癖付いている以上は中々どうにもならないのは仕方ない。癖は良い癖でも悪癖でも、結論から言うと無意識になるとひょっこり出てきがちだ。
『だからもう一度聞くぞ――――――――『あなたはどう思っている』。これを聞かせてくれ』
yesもnoも強要はしない、と彼女は再びしゃがみ込んで彼に問いかける。
――――――彼は顔を上げて彼女の顔を見つめる。
宝石よりも澄んだ輝きを持つ紫青の瞳も、
好きである。
愛とか恋とかに準ずるものかは知らない。ただその見目を、性格を嫌いだと彼は絶対に言えない。それは唯の嘘だ。
だからこそ迷った。
その姿にただ引きずられているのではないのか。
『あの人』を重ねただけではないのか。
彼女を何処かで『架空である』と蔑んでいるのではないか。
誰かに好かれている状況に、逆上せて、自惚れて、溺れているだけではないのか。
そんな欠点だらけの自分が誰かをまた愛そうともがくのは、やはり傲慢なのではないか。
自分の真実を隠したままなんて、そんな都合の良い話が許されないのではないか。
だから、もう一度
【それでもやっぱりNoだろうな】
と答えるのは簡単だった。理由は幾らでも思いつくのだから。
――――――だが、彼はしなかった。
『――――――――今、現在の俺の感情を率直に述べると』
『嫌いな訳がない。大歓迎だ、愛してる』
『今の気分なら一生側にいてやる自信が有る、絶対に居なくなったりなんてしてやらない確証が有る』
最初からそう言えばいいのに、これだけの前口上でやっと彼はそう答えた。
彼女と瞳を見合わせて、逃げ腰を辞めて、装飾を付けず。
――――――黒鉄色の瞳が、確かな指向性の在る感情に揺れる。
『手に取る以上は粗末になんてしないし、言葉が必要ならば幾らだって俺の心を言葉にしてやる』
言ってみた後で――――――――からんからん。あの風鈴が鳴り響いた。
ふと彼の脳裏にあの言葉がよぎる。
【後は大事な女の子を、出来るだけ大事にできる子に育ってくれれば――――って言ったら、我儘かしら?】
――――――我儘? そんな訳ない。貴方の数少なかった望みの一つが其れであるなら、俺はそう在ってみせようとも。
もう返すことも出来ない言葉を心の中だけで紡ぎ出す。
あの時に答えてやれなかったことだけが心残りだったが、せめて約束は守ろうと男は決めていた。
――――――彼女が制帽を深く被り直して顔を逸らす。
『――――――だ、誰が其処まで情熱的に答えろと言ったんだ…………っ』
普段の雪のような白い頬は、まるで絵の具でも垂らしてみたように真っ赤になる。
『聞いたのはお前だぞ?』
意地が悪そうでもなければ、何処か軽薄な其れでもなく――――――――単純に、普通の人間のように彼は緩く微笑んだ。
鳴りを潜めていたのだが――――いざという時の彼の破壊力というのは、他の想像に付さないとんでもないレベルにまで引き上げられることが有る。
腐っても
『でもやっぱりお前の負担になるぐらいなら、この感情は蓋してしまうべきだ』
彼は伏目がちに続ける。
『だから――――――――1回、試そう』
『は?』
彼女が素っ頓狂な声を出す。
『え?』
彼も釣られる。
――――――彼女が未だに真っ赤な耳に手を当てて、怪訝な表情のまま尋ね返す。
『ああ――――すまない。もう一度言ってくれるか? 私の聴覚が異常を来しているのかもしれない』
大丈夫かよ、と彼は普通に心配しながら
『だから、
と答えた。
――――――彼女はその後、同じ事を、同じ言葉で五回と聞き直した。
勿論彼の返答は、一緒であったのであった。
はははは、此処は飽きぬなぁ!――――――――うむ、三笠であるぞ!
――――――影が薄い? 一迅○のアンソロジーの宣伝も任されたのだぞ? むしろ大人気に決まっておる!
今回はエンタープライズに任せる筈だったのだが、件のCMで彼奴が撃沈した故な。
――――――ああ、そうだぞ? 重桜は「じゅうおう」なのだ。もやもやが一つ解消されたならば何よりである。
それで、このセカンドシーズン? から一番を気をつけたいのは「登場人物の数」だという。
「天体観測」までの話が安定していたのは、「少ないから書けていた」という事だ。今回は其処の改善を第一優先にしたとカンペには書いておる。
つまり、苦手な事に取り組む「実験」ということである。
クオリティのブレが発生しても「ご容赦下さい」というやつだな。しかし、これを
我が言っても詮方無い事であるが。
他のキャラも登場できるように、と来るならば彼女の出番は――――――等ということは、
これまでの登場回数が少なかったからな。名前は毎度出ていた故、気づかなかった者も居るかもしれんが。
2nd seasonに入るまでで登場しなかったのは四話。殆ど喋らなかった物を含めると六話。聖夜特番?とやらを除けば十四話中、六話は殆ど登場しておらぬ事になる。約半分は居なかったということだ。
まあそれは良いか。このような統計、所詮は過去の遺物だ。
――――――それではお茶を濁すようだが。
エンタープライズが言う予定だった言葉、我が届けよう。
これも反則じみた言葉である。
ならば何故言うのか――――
お主も努々忘れぬことだ。「自身に誠実であること」というのは、誰もが「自分」であるためのの大前提に他ならないのだから。
――――いや、
では、言うぞ?
――――絶えぬ応援、感謝する。我々はお主に語りかけないし、出来ないし、きっと顔を知ることもないだろう。それでも礼を言わせて欲しい。
この世界はお主の何気ないクリックと、彼奴のちっぽけな情熱だけで成り立っておる。
そう考えるならば――――――偶には世界が愛に満ちている、などという言葉を信じられない事も無いだろう。
それでは次も文字の上か、お主の鎮守府で会おう。
See you.――――きっとエンタープライズなら、こう締めくくったのだろう。
此処ばかりは横文字も読めねばな。我は空気は読めるのだ。
???「フィーゼちゃん今更ツボった」
――――――ねえ、君はこの世界の神なんでしょ?
何で私が空気を読めて、君が読めないの…………?