LuckyEは落とされない   作:杜甫kuresu

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タイトルだけが全てが伝わっている可能性がある。あの人です。


狂愛極まり児童も愛す

「ああ、玉結びか。最初は余りの糸を長めに――――」

 

 エンタープライズが綾波の前で玉結びを作る様子を見せる。目線を合わせて笑っている様はさながら小学校のお兄さんと言った風情だ。

 

 彼女は提督が言った通り、裁縫を教えることにしたのは良かったのだが――――如何せん志願者の数が多かった。

 うまい具合の案も思いつかず、取り敢えずは全員を集めて昼休みに彼女が纏めて教える形となっているのが現状だ。

 

 こういう機会には余り恵まれていなかった彼女だが、面倒見の良さが幸いして実にほのぼのとした風景が寮で見れるようになったと一部空母からは評判だ。

 提督としてもこの結果には大満足で、また見に行きたいとまで言われるほどだ。

 

「ほら。慣れてきたら余らないように結べるようにしていけばいい」

 

 やってみるんだ、と微笑んだまま綾波に語りかける。

 

――――最初は糸が通らないことに綾波は目を細めていたが、少し結べた瞬間に目を丸くしてするすると糸を引っ張っていく。

 

「そうそう。どうしても無理なら糸通しも有る、嫌にならない程度にやってみると良い」

 

 立ち上がって綾波の頭をポンポンと撫でた後、別の艦の机に向かう。

 

――――其処にふと、真っ黒な何かが通り過ぎようとする。

 

「――――? エンタープライズ…………」

 

 少し苦々しそうにその名前を呟くと、其れの真紅の瞳が複雑に揺れた。

 彼女を見ていると、()()()()()()()()()()()()()()()()を否応なく認識するからだろう。

 

 全ては最終目的のため。そう言い聞かせてはいるが、彼女にとってはあまり気乗りするような事ではないらしい。

 

――――少し見てやろう、と彼女はその部屋に入っていく。

 

「――――あなたか、珍しいな」

 

 その足音に気づいたエンタープライズが、真っ直ぐと彼女を視る。

 

――――漆黒としか形容し得ない黒い長髪に、黒々しさを助長する黒い羽織に添えられた赤いライン。

 彼女が見間違えるはずはない。

 

「てっきり私は嫌われているとばかり思っていたよ――――赤城」

 

 決して彼女は命がけの麻雀をしたことはない。正規空母の赤城である。

 

「あら? 何のことでしょうか~?」

 

 とぼけて薄く笑う赤城だが、本当に眼が笑っているのかは怪しい。エンタープライズは少し面倒だ、正直そう思ってしまう。赤城はエンタープライズにあまり良い印象がないのだ。

 

 エンタープライズ当人はともかく、赤城としては彼女に苦い思い出しか無いのだから、致し方ない所だが。エンタープライズ自身、其れに何も言おうという気はない。

 

「いえ、何をしているのか少し見に来ただけですよ?」

 

 相変わらず目が笑っていない。エンタープライズ以外の艦はポカーンと赤城を眺めている。

 

 改めて、この空気はどうしようかと彼女は思案する。彼女が来ただけだというのに、時間が傾いだような奇妙な雰囲気になってしまった。

 

「ああ、裁縫だ。指揮官が是非とも教えてやってほしいと提案してくれてな、教えているんだ」

 

 特に包み隠すこと無くそのままの経緯を話す。変に誤魔化しても赤城にはすぐに看破されるのもそうであるが、エンタープライズとしては(恐らく)仲間である赤城に何か特殊な配慮は要らないと判断したのだ。

 

「へえ…………あら?」

 

 赤城は辺りを見回した後、一人凍った空気の中でもマイペースに玉結びを続けているエルドリッジに目線を向ける。

 他の艦がアイツ何やってるんだというアイコンタクトを送るが、時既に遅し。

 

 少し不気味なほどに丁寧な所作で彼女に歩み寄ると、ゆっくりとしゃがみ込む。

 

「通らない…………」

 

 殆ど視界に入る距離にいるはずの赤城に見向きもすること無く、エルドリッジはやや苛つき気味に玉結びを続けている。

 マイペースにも程がある。

 

――――その内、赤城がゆっくりとエルドリッジに手を伸ばして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「焦ってはいけませんよ、何事も初めは丁寧に」

 

 そう言って、やけっぱち気味だったエルドリッジの手を抑える。

 

 周りの空気が一段と増して凍る。エンタープライズまでもが目を丸くした。

 

「…………?」

 

 要領を得ない様子で赤城を見つめるエルドリッジから、彼女はゆっくりと糸を取る。

 

「まずは人差し指に巻いて円を作って――――捻る。糸をよく見て、ちゃんと引けば玉が出来るかを確かめること」

 

 そう言いながら赤城は手慣れた――――其れ以上に、鮮やかに玉結びを作ってみせる。

 まるで手品師のような手つきに、エルドリッジの瞳が僅かながら輝いた。

 

「分かりましたか?」

 

 赤城がいつも通り――――というにはあまりに柔らかい笑顔で尋ねかけると、エルドリッジは無表情のまま首を傾げる。

 

「すごく速い…………ゆっくり、もう一回」

 

 おいおい死んだわアイツ、みたいな空気が部屋に蔓延する。実際エンタープライズなら死んでいるだろう。

 

――――しかし予想は大外れと言わんばかりに、赤城は困ったように笑う。尻尾が機嫌が良さそうに横に振られているのを見て、エンタープライズは触りたくなる欲を抑える。

 

「仕方がありませんね、今度はよく見ておいてくださいね?」

 

「うん…………」

 

 そう言って、もう一度ゆっくりと玉結びを始める。

 

――――其れを呆けて見ていた一同が、ざわつきながら作業に戻る。エンタープライズが赤城に歩み寄って尋ねる。

 

「もしかして、子供――――好き、なのか?」

 

「はい? 赤城はいつも通りのつもりですが?」

 

 エンタープライズと気づいた瞬間に、赤城はつっけんどんに返答する。

 

――――どうやら自覚はないらしい。エンタープライズは変に触れたほうが不味い、という直感に従う。

 

「分かってないなら構わないんだ――――――世の中にも救いは案外有るらしい」

 

 エンタープライズは希望の体現者でも見るような目で赤城を見つめる。見られている本人は虫酸が走ると言わんばかりの表情を抑えているが。

 

 

◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆

 

 

 それからしばらく赤城も裁縫を教えながら、昼休みはゆっくりと過ぎていった。

 

「ふう…………もうそろそろ時間だな」

 

 呼吸を整えながら、エンタープライズが時計を見る。もうすぐ訓練も再開される頃合いだった。

 

「あら? こんなに時間が早く感じたのは指揮官様と一緒にいる時以外では初めてですね」

 

 赤城は不思議そうに耳をピコピコと動かす。エンタープライズは異様に触りたい衝動に駆られたが、触ったら多分殺し合いになるので気合で耐える。

 

 提督と言い、どうにもあの耳は触りたくなる魔性を秘めているらしい。

 

「意外と教師が向いていたりしてな――――うん、赤城によく似合っていると思うぞ」

 

 言っては見たが、今に至るまでエンタープライズはそんなことは微塵も思ったことはなかった。

 

――――此処に居たほぼ全ての艦の赤城へのイメージは変貌したのには間違いない。

 

「と言っても、子育てが絡むと教師は厳しいと思いますが」

 

 何で結婚する前提なのか。エンタープライズは一瞬だけ首を傾げてしまう。

 

「よし、もうそろそろ訓練だからキリをつけるように!」

 

 部屋の隅々からばらばらに「はーい」、という声が響く。

 

――――そそくさと裁縫セットを仕舞う音があちこちに反響していく。

 

「けれど――――教師、ですか。案としては考えておきましょうか」

 

「そうしてくれ。適材適所、だからな」

 

 赤城は他の艦を眺めながら、ぼんやりと物思いに耽る。

 

――――その間に部屋の扉がまたバタン、と勢い良く開く。

 

「あ、もう終わっちゃったか~。エンタープラ――――」

 

「指揮官様~!」

 

 おわっ、と言いながら飛びかかってくる赤城を提督は綺麗に避けた。

 

「あら? 疲れているのでしょうか、指揮官様が私から離れていったような幻覚が…………」

 

「いや、それ現実ですよ」

 

 すげなくあしらう提督にも赤城はめげずにくっつこうと小走りで近寄っていく。

 

「そんな事仰らずに、痛くしませんから~♪」

 

「いや待って、痛くするパターンが存在するんだ!?」

 

 冗談ですよ、と弾んだ声を出しながら提督の腕に絡みつく。

 

「え、ちょ…………流石に其れは――――」

 

「えぇ~、どうしてですか?」

 

 どうしてじゃねえよ。彼は赤城の表情を見て、確信犯なのを直感する。

 提督はできるだけ感触については意識しないようにしながら、赤城を指差してエンタープライズに助けを求める。

 

「助けてくれ、やっぱり赤城さんは上手くいなせない」

 

「さん、だなんて。呼び捨てでも構いませんのに~♪」

 

 朗らかに笑う赤城を見ている内に、提督自身も抵抗する気が弱まってしまう。

 彼女が屈託なく笑うのは、提督の前ではこういう風なスキンシップを取っている時だけなのだ。

 

――――助けを求める提督にフン、とエンタープライズは鼻を鳴らす。

 

「そんな事を言う割には満更でも無さそうだな? 別に良いじゃないか、くっついたままで?」

 

 彼女の物言いは怒っているというだけでなく、少し面白そうな色合いを含んでいた。

 

――――まあ彼が肝心な所ではっきりと拒否できない性格であることにはさすがに慣れたらしく、思う所はあれど少し寛容に見ているのかもしれない。

 

「いやそれは勘弁してくれ、マジで」

 

 提督が少し顔色を悪くして即刻拒否をする。

 

――――敢えて胸を押し付ける形で強く絡みつく。赤城はエンタープライズの少し浮かない表情を見た後、酷く機嫌が良さそうに笑う。

 

「あら? あらあら? もしかして――――――――嫉妬、ですかぁ?」

 

「なっ――――――それは違う、断じてな」

 

 エンタープライズは声こそ荒らげないものの、怒ったように言い捨てて歩いていってしまう。

 

――――思わぬ発言に面食らった提督は

 

「――――何だあれは」

 

 とだけ呟く。

 

「流石に悪戯が過ぎたでしょうか…………まあ、指揮官様はやはり素直な赤城一筋ですから――――ねっ?」

 

「ねっ、じゃねえっすよ。取り敢えず、ちゃんと謝らないと加賀さん呼びますよ」

 

 つれない人、と言いながら赤城は頬を膨らませる。

 

「でもそんな指揮官様も――――――♡」

 

「控えめに言ってポジティブ極めすぎ」

 

――――ちなみに加賀がコレを見た場合、推定1時間は説教をされる。赤城も幾らなんでも其れは面倒だ。

 

「…………ですが、仕方ありませんね。後で(形は)謝っておきます♪」

 

「よろしい、そして離れなさい。俺も男なんですから」

 

 だからですよ♪ そう呟いてにこにことする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――それで、私達のヒミツ。何時公言してもよろしいのでしょうか?」

 

「ちゃんとやることやってからにしましょう、バレると面倒ですから」

 

 提督は帽子をかぶり直して、呟いた。




はい、赤城さんでした。本編のままだとちょっと流血沙汰なのでエンタープライズさんとの関係はちょっと改善した扱いにしてます。その内補完する話も出したい。

かなりマイルドにしたので「こんなん俺を愛してくれている赤城様ではないぞ! 死にたいのか!?」って人も居るかもしれない。謝っておきます、すいません。
でもあのままの彼女を書くのは動かすならまだしも制御ができないです。殆ど提督精神崩壊メリーエンドに行きそう(小並感)。


でも赤城さんって何となく子供好きそうじゃないですか?(但し提督狙いでない場合に限る)
後、出てくるだけで場面が凍りつくイメージ有る。明らかな偏見ですね。






あ、ちょっと事務報告です。
今回まではざっくり4~5日基準で投稿するようにしてたんですが、今日からは1週間ぐらいを目安に投稿します(というかきっちり1週間毎の予定です)。
理由は単純、もうすぐ受験です(お前何でまだ書いてんの)。書くペース的に多分1月中旬、よければ終わりとかぐらいまでは保つストックが出来るはずなので、まあその後は――――その時話します。多分それで一クール的な区切りが付けれる――――ように作ってるつもりです。
以上、事務報告でした。
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