LuckyEは落とされない   作:杜甫kuresu

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今回はちょっと毛色が違いますが提督に踏み込む感じです。
勿論三笠ちゃんもしっかり絡むのでご安心を。


お姉ちゃん大先輩と彼

「大方終わりっと――――!」

 

 提督は気持ちよさそうに手を降って椅子を回す。

 

――――三笠の方は書類と未だにらめっこである。整理が覚束ないらしい。

 

「むう。言った手前、こちらが遅れてしまうとは…………」

 

 悔しそうに呻く。別に彼女が遅いのではなく、提督が真面目にやれば速いだけである。

 

「無理に整理とかしなくていいよ、そういうの三笠ちゃん苦手だろ?」

 

「そんな事はないぞ――――――いや、そうだな」

 

 素直でよろしい、と提督はひょいと三笠が持っていた書類を机に置く。

 

「別に出来ることをやってくれれば良いよ、得意不得意を無視して仕事割り当ててもお互い不利益だからさ」

 

「そうは言うが…………」

 

 先刻も話した提督の基本方針、「得意なことで戦え」である。

 

 別に挑戦するなということではない。

 苦手なもので土俵に立つ必要はないという考えだ。苦手なものはそれはそれとして、得意なものを存分に活かすほうが利益そのものは大きい、という妙に合理的な発想が根底にある。

 

「それで、お土産って?」

 

「あ、それは――――――」

 

 三笠が目線を泳がせる。

 

――――提督はじっとりした目つきで詰め寄って、間隙を与えず追撃する。

 

「もしかして、嘘?」

 

 夾叉。次で直撃である。

――――直撃。三笠、撃沈。

 

「だ、だって! そうでも言わないとやらないでしょ!?」

 

 珍しく三笠が涙目で弁明をするが、嘘は嘘である。そこの事実に違いはない。

 

「――――まあそんなこったろうと思ってたし、別にいいんだけどさ」

 

 けろっとした様子で提督が扉を開く。

 

「――――え?」

 

 三笠は拍子抜けする声を出してぽかんとする。

 

「とりあえず食堂で何か食べようかな」

 

 提督は目を丸くする三笠をよそにさっさと行ってしまった。

 

 

◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆

 

 

「にしても日本人っていうのは真面目なもんだ。やってみてどうしても苦手な事で役に立つ必要無くないか?」

 

 いや俺も日本人なんだがな、と提督は食べ終えた食器を片付けながら三笠に尋ねる。

 彼はいつもこういう言い方をする。どうにも日本人の考え方が合わないらしく、えらく他人行儀に日本の考えに接する癖があった。

 

「そう言われると返答に困るのだが――――割り当てられた仕事を放棄は出来まい」

 

「あ、成る程。そういう解釈してたのね」

 

 提督は突然納得の行ったように手をぽんと叩く。

 

「どういうことだ?」

 

 いやな、と提督は前置きをして話し始める。

 

「秘書艦って「出来ることを助けてくれる」ぐらいのイメージだからさ、別に最低限の義務とか無いのよ。でも日本の艦は秘書艦っぽいことをやろうと必死だったわけだ、成る程…………」

 

「お主の思考回路も中々特異だからな。そういう意図だとは思わなかったぞ」

 

 実際そんな発想に至るのはそう多くないだろう。

 

――――ただ提督のスタンスそのものはその秘書艦の扱いと同じであり、ある意味一貫性は有るとも言える。だが、やはり一般人がすぐに分かるものではないだろう。

 

「最悪飲み物淹れてくれればオッケーなんだよな」

 

「それは最早秘書艦ではなかろう…………」

 

 困ったような顔をしながら三笠も食器を片付ける。

 提督はそれに不思議そうな表情で返事をする。

 

「そうなのかな? エンタープライズとか最初そんな感じだったし、俺もそれで納得してた気がする」

 

 其れを聞いた三笠が興味深げに顎に手を当てる。

 

「おお、お主とエンタープライズの馴れ初めか。興味があるな」

 

「ああ――――しないからね?」

 

「何故だ」

 

 提督が聞き飽きた質問に返事をするように、億劫そうな表情になる。

 

「嫌いなんだよ、昔語り」

 

「いつもそう言うな、お主は」

 

 実際彼は相当嫌いだ。

 

「昔のことばっかり喋ってたらその内現在(いま)が霞む気がする」

 

 別に過去を否定したいというわけではなく、そういう理由だった。

 

――――過去を知ることに間違いなど無いにしても、過去にしがみついては過去はただの虚像に成り果てる。そうなってしまう瞬間が提督にとっては何よりも恐ろしかった。

 

 それが当然になった瞬間、それは彼にとって世界の色が一つ消えるようなものなのだ。

 

「文字でっていうなら書くさ、何せ文字は客観的になるために一番手軽な手段だからな」

 

 書き、確認し、改める。この作業の間には少なからず客観性が生まれるだろう。

 

 彼は書類作業の数が多いのは嫌いだが、書類にするという方法自体は非常に好きだった。軍として、あれ程客観的な物質は存在しない。

 

「お主の主観が入ってこそ昔語りは映えるのだ、意味がない」

 

「だろ? じゃあこの話は終わりだよ、俺は過去は語らないんだ。何せ面白くする自信がないわけだ」

 

 納得できんぞ、と難解な顔をして三笠は小さく呻いた。

 

「俺は人が喋ったり、楽しそうにしてるのを見る方が好きだな」

 

 

◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆

 

 

「テレビというのは凄いのだな! 遠く離れた景色を写真以外で見せることが出来るとは――――!」

 

「ここ以外を見てきて、得るものが有ったらしくて安心したよ」

 

 無邪気に目を輝かせて喋り続ける三笠を見た後、提督は満足げに頷いた。

 

――――柄にもなく喋り過ぎていたことに気づいたのか、三笠はぱっと顔を伏せる。

 

「しゃ、喋り過ぎたな…………」

 

「楽しそうで何より、別に話が終わるまで聞いてるよ」

 

 そう言われて自分の姿が想像できてしまったのか、少し恥ずかしげに小さくなってしまう。

 

「た、楽しかったなど」

 

「いやいや、世の中は楽しいものだらけだ。だから楽しいって思ったなら、ちゃんと外の世界を見てこれたって事だよ」

 

 書類を眺めて、あからさまに嫌そうな顔をする。

 

――――どうやら苦手な会計報告関連の書類らしい。処理するの自体が苦手というより、彼個人として無駄に感じるのでやりたくないという意味で苦手なのだ。

 

「例えばな? 今俺ってこの書類眺めて『やりたくねえな~、嫌だな~』って思ってるだろ?」

 

「嫌でもやるのだぞ」

 

 さっきの流れを急に思い出したのか、三笠は忠告する。

 提督は呆れ混じりに手を降って職務放棄の嫌疑を否定する。

 

「へいへいって」

 

「でもこれって今嫌なものが見えてるだけで、本当は他に面白いことって一杯あるはずなんだ」

 

「そういうのが戦争とかやってると見えないんだ、戦うことが嫌なことじゃない――――そう思うしかなくなってくる」

 

 ふむ、と三笠はそれなりの納得を得たような表情で彼の話を聞く。

 

――――何か思うところがあるのだろう。彼女が生きていたのは、戦争の汚点まで美化され始めていた時代だ。

 

「だから、『世の中って他にも面白いこと有るんだ』って気づいて欲しいんだけど――――まあ、難しいよなぁ…………」

 

 提督が手詰まりといった風に困った表情で書類の幾つかを机に投げ捨てる。

――――その様子を見て、三笠が引き締まった表情で答える。

 

「だが我は見つけた。ならば後輩にも出来ないことはない」

 

「そうだな、そうだと良いんだが――――」

 

 そう呟いて提督は書類仕事に戻る。

 

――――――三笠は提督の肩を叩く。

 

「お主は変な所で真面目すぎる。もっと気楽にやると良かろう」

 

「あれ、俺のサボり癖がええと――――何でしたっけ?」

 

 にやついてからかう提督を見て、三笠は静かに目を瞑って訂正する。

 

「間違えたか。仕事にだらしない癖に、向き合うことに真面目すぎる」

 

 この人厳しいなあ、と笑いながら三笠の手を優しく握ってどける。

 

「俺みたいなうつけ者は他人がやらないことで真価を発揮するんだから、これでオッケーなんだよ」

 

 何が面白いのか提督は大笑いをする。

 

「全く――――仕事が残っているぞ、早く済ませてしまうと良い」

 

 三笠も釣られたように笑った。

 

 

◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆

 

 

「終わった…………今度こそマジで終わった…………」

 

 提督はまた机に突っ伏した。

 

――――外は帳も降りて、いよいよ夜という風体だった。今日は星空が見えないのが彼の気分を更に落ち込ませる。

 彼はなぜか星が大好きなのだ。

 

「そんな大袈裟な――――――はい、お疲れ様」

 

 三笠が緑茶をコトリと机に置いた。

――――提督が少しだけ驚いたように目を丸くする。

 

「あれ、いつもの大先輩口調は?」

 

 提督は彼女のあの海軍大将のような喋り方を大先輩口調と呼んでいる。人が大先輩と呼ぶ三笠の姿は、この言葉遣いに詰まっていると彼は思っているらしい。

 

――――彼女はいつもより少し気を抜いたように口元に緩く弧を描く。

 

「こんな夜中に執務室を通る娘なんて居ないでしょ?」

 

「それは言えてるね」

 

 提督も釣られたように笑う。

 

――――緑茶をずいっと喉に流し込むように飲む。

 

「今の喋り方のほうが三笠ちゃんっぽくて俺は良いと思うんだけど――――やっぱり後輩が頼りないか?」

 

 提督の問いに三笠は考え込むような仕草をする。

 

――――少し後に答えが出切らなかったのか、困ったように力ない笑顔で答える。

 

「うーん、まあそうかもしれない――――過保護、かな?」

 

 提督は珍しく真剣な顔つきで、スラスラとこんな返答をした。

 

「結果を見ないと善し悪しなんて分からないもんだし、とりあえず結果が出るまで続けても良いんじゃない?」

 

「俺には三笠ちゃんがそうする理由はわからないけど、分からないから意味がない――――って言うんじゃちょっと寂しいからな」

 

 言った後に、提督は小難しそうな顔をして考え込み始めた。

 

――――やってみたこともないことを断言するというのは気が引けるタイプだった。彼自身が一見無益な挑戦をし、それを他人に否定されてきた男だったからだ。

 

 ともすれば何時だって理解されず、それを良しとし、理解されないことを責めないのが彼の生き方の根本だったかもしれない。

 

 まあ何にせよ、理解されないことに思うこと無く、理解されないのもまた色だと考えるのが最も理解され難い感性だったのは間違いない。

 

「そうか、お主がそう言うのなら――――試してみる価値は、有るのかもしれん」

 

 三笠は星でも見つめるように、彼を見据えながら穏やかに呟いた。

 

 

 

 

 

 

 




三笠ちゃんチョロカワイイヤッター。
前回も言ったような言ってないような気がしますがこの二人の関係性は姉と弟に近いものになってます。だから二人きりだとすぐ口調が外れますが、まあ恋愛感情とは完璧に別物ですね、はい。
見直せばわかりますが、私に書いたにしてはさっぱり赤面描写も不自然な動作も少ないはずです。全く気がない、どころかそんな意識がないからそうしました。

この提督は後々掘り下げる予定ですが、確かに三笠ちゃんの「織田信長」という例えがぴったしくる経歴持ちなので、まあ本筋とは逸れる話ですがそちらもお楽しみ下さい。

という感じで外伝おしまい。戦闘で三笠ちゃんは輝くイメージですが、そういうのは書かないと決めてるので無しです。


次回から機会があれば話をいじって三笠ちゃんも絡めていけたら良いな…………
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