諸事情よりSSRに出番チェンジです、SSRばっかりのグッドキャスト構成キチでごめんなさい。
「光を翳して♪ 躊躇いを消した~っと」
早朝から提督は上機嫌である。誤解なきよう言っておくが、彼に良いことは特に無かった。いつも陽気なだけだ。
――――とはいえこの朝方の廊下で鼻歌を歌いながら歩く真っ白い男というのは、情景だけでちょっとサイコ気味な詩が読めそうな雰囲気すら有る。
(何か不当なディスりを受けている気がする)
何故勘付く。
しかし彼の表情はかなり明るい割には、だから張り付いたものだとか、どこか作り物じみたりしているわけではない。
純正の楽天家という訳でも無さそうであるが、その正体は結局のところ――――誰も掴めていない。
そういう意味では彼は物語の鍵である以前に、ブラックボックスとも考えることも出来る。しかし機能に支障はなくとも、概要は知ってみたくなるものではないだろうか。
――――そんな事を言う間にあっと言う間に彼は扉の前。
今日はこれから始まる。男が扉を開け、そしていつものごとく椅子に座り、そして『彼』であることからこの鎮守府の一日は本当の意味で始まる。
故に男は扉を開けた。今日の始まりである。
昨日と変わらず、朝陽は彼を祝福し、草木が彼を傍観し、海が彼を試す一日の始まりだ。
「お早う御座います、ご主人様」
エプロンの端をきゅっとつまみながらベルファストは澄んだ声を響かせた。彼女の礼は高雄の厳格のそれよりも柔らかく、丁寧さを念頭に置いている雰囲気がする。
――――部屋に入りながら提督は頭を振る。
「お、おはよう。ご、ご主人様はやめようぜ。ご主人様はさ…………」
ベルファストは内心またですか、と呟いた。
彼は基本的に鎮守府に居る艦にはほぼ自由に生活してもらうことにしている。
趣味嗜好に限らず、与えられた使途不明の資金は、何ならハロウィンなりクリスマスなりに使って良いという少し変わった制度さえある程だ。
――――彼はどうにも縛るということが嫌いらしい。押さえつけて艦を戦闘に従事させる人間も少数派とは言い難いのだが、彼にとってはそんなものは『効率悪い』の一言で却下だ。
士気ばかりは圧力ではどうにもならないし、それが一番こういう特殊な環境を上手く維持させるための鍵であることを彼は理解しているのだ。
という建前で与えられる限りの自由を与えるのが彼の考え方なのだが、ご主人様というと――――彼の心が穢れていると言うべきなのだろうか。どうしてもいいイメージが無いらしかった。
ボフンと席に飛び込んで椅子を回す提督に、ベルファストは改めて礼をして具申する。
「お言葉ですが、奉仕をする事こそが私の欲する『自由』でございますが故」
「うっ…………いや、そうは言うけども」
回転してるのも止めずに困ったままに眉をひそめる…………にしても彼は少し慣れない。
詭弁でもなんでもなく、彼女の言い分もそれは最もなのだが――――にしたって他人本意すぎると思ってしまうのだろう。
分からない話でもないのだが、実際に奉仕する事に生きがいを感じる人種は割といるので、そう無碍に出来る思想でもない。
「ご主人様がどうしても仰られるのでしたらこのベルファスト、逆らおう等とは思いませんが、それもまた一種の『抑圧』であると――――」
「あぁ悪かった! 好きに呼んでくれ、もう何ならマッサージでもしていけっての!?」
半ば自棄に言い捨てた。ベルファストは気持ち機嫌を良くしながら彼の椅子をすっと手で軽く止める。
「広いお心、感謝致します」
「ねえそれわざと言ってる?」
さあ? 彼女は悪戯っぽく微笑んで肩に手をかける。
「にしても完璧で瀟洒な従者って感じだよなあ…………」
その語感とイメージだけで言えば確かに彼女に近からず遠からずだ。
――――コトリ、とカップが机に置かれる。どうやらコーヒーのようだった、芳醇な香りがまばらに広がっていく。
「瀟洒という程ではございません」
「完璧は否定しないのかよ…………」
完璧なメイド、とはよく言われているので否定する必要は無いと言えば無い。
――――彼が素人なりに匂いなんて噛み締めながらコーヒーを啜る。匂いは良いとか悪い程度にしか分からない男では有ったが、味は良いと保証できるらしき顔つきだった。
というより、彼が気に入りそうなものと言うべきか。
「何で俺の好みがバレてるんだ………?」
「ご主人様のお口に合うものを出すこともメイドの勤めです」
何処情報だよ、内心提督は恐怖する。
――――他の艦のものならまだしも、ベルファストの握っている情報の出処は謎が多い。
おかしな情報を握られていないか、と提督がちらりとベルファストを見る。
「心配なさらずとも、これを仰っていたのはエンタープライズ様にございます」
彼の杞憂を読んでいるように微笑を崩さずにベルファストは答えた。
「決して、私個人の情報網には引っかかっておりません――――今は」
「今は」
今はらしい、逃げ切れ提督。
――――とはいえ好み程度のものは普通知れ渡っていると思われるかもしれないが、彼は基本的に艦が出してくれたものには文句を言わないのだ。
だから好みが流出することがない、簡単だ――――彼は「美味しい」と以外答えたことがないのだから。
好みが分かるとするなら、付き合いの長い彼女くらいのものだ。
「――――ところでさ」
「はい、何でしょうか?」
「この書類整理したのって、ベルファストじゃないよね」
彼は未だ殆どが手付かずの書類を指差した。
――――それはかなり丁寧に整えられていた。ここの書類は量も多く、分類も難しい。整理が大嫌いな彼が寝る直前に整理をするなんていう事は有り得ない。
ならば整理した候補は順当に行けば彼より朝早くに居たベルファストだが――――しかし彼女が完璧なメイドと言われる所以はやはりこういうところだろうか。
彼女の整理は人がやるそれでは想像がつかない精緻さを誇る。束ごとの距離もミリ単位で統一されているそれは、まさしく真の意味で【摩天楼】と呼べるに違いあるまい。
「やはり、お気づきになられていましたか」
ベルファストも言外に肯定する。
――――しかし目の前の其れはそこまで正確なものではない。勿論綺麗にはしてあるが、あくまで「常識的な範囲」での綺麗さだ。
その手作業の名残のようなものは彼女は残さないのだから、それでは彼女がやった可能性は極めて低い。
「私が此処に来る頃にはこうなっていましたので――――恐らく昨晩に整理されたものとお見受けいたします」
「となると――――あの娘しかいないよなあ…………」
別に彼女には限らないとベルファストはすぐに言いそうになったが、口を抑える。要らないことは言わないのも出来るメイドという事らしい。
「わざわざ俺が帰ってから整理してるって、別に其処までしなくても良いのに」
「お言葉ですが、ご主人様の机は誰もが目を奪われてしまうものですので致し方無いかと」
つまり汚いのだ。
――――以前も言ったがそれは観光名所候補となる程だ。【書類の摩天楼】という酷い異名は伊達ではなく、どうやったらバランスを保てるのか分からない歪な構造をしているのが此処の書類の束の常だった。
「大体この前なんて」
【甘やかしたら甘やかした分だけ甘える人だからな、程々に自分でやることだ】
「とか言って全然整理手伝ってくれなかったのによぉ~?」
彼は整えられた書類をパラパラと音を立てながらかなり悪意のあるモノマネをした、文字媒体なのが惜しまれる。
「それも愛、という事でしょうか…………」
「へ? 何か言った?」
「いえ、やはりエンタープライズ様はご主人様をよく理解していらっしゃられると思いまして」
適当にベルファストが誤魔化す。
「こういうの崩すのは俺苦手でさ、中々作業に入れないんだよなぁ」
「それとこれとは話が違うかと」
提督が何で、とカエルのような声を上げる。それが真実かどうかとか関係なくサボる理由にはなるまい。
「さあ、速く済ませれば多く休憩がとれます。さっさと済ませてしまいましょう」
「へい…………」
「休憩、休憩っと…………」
いつの間にか再び机に置かれていたコーヒーをゆっくりと飲みながら提督は一息ついた。
――――彼がまともに此処まで仕事をするのは1週間に一回もあるまい。
大体は細かく区切りを入れてしまう。クールダウンはこまめに、が彼の合言葉だそうだ。実際彼はすぐ疲れる。
「やっぱ美味しいな――――」
「お褒め頂き、メイドとして至上の喜びでございます」
ベルファストが小さく礼をする。その笑顔は普段の何処か妖しいものではなく、本当に喜んでいるように彼には見えた。
――――少し柔らかくなった雰囲気の刹那、扉がバタンと開く。
「やあ指揮官、今日こそはちゃんと仕事をしているか――――?」
威勢よく敷居を跨ごうとしていたのはクリーブランドだった。
――――提督は勿論こりゃ不味いという顔をした。誰かが入ってきた瞬間に都合よく休憩に入ってるとか、普通は思わない。そんなことが起きるのはラノベの中だけなのだ。
ここは少なくとも
「あちゃー、またサボってるのか…………エンタープライズが泣いちゃうぞ」
クリーブランドが頭を抱えながら首を振ると、その様子に反応したようにはためいていたマントが急激に勢いを失ってしまう。
「いやサボってないから。というか何であの娘が泣くんだ?」
「指揮官、状況証拠が出揃ってるのに見苦しい…………」
「だから何故俺がサボっているの前提なんだ!? 辞めて、そんな哀れなものを見る目で見ないで! 興奮する!」
それは信用がないからだ。普段もう少し真面目にやっていればこうは思われまい――――――は? 待てよ、興奮するだと?
――――こほん。ベルファストはやり取りをクリーブランドの死角で眺めているだけ、どうやら助ける気は皆無らしい。
彼に
『困っているお顔を見るのを少々楽しみにさせていただいております。何卒ご容赦くださいませ』
と言い切っただけのことはある。しかし赤城に絡まれている彼に助け舟を出さなかったのは些か鬼畜に類する気がしてならない。
「エンタープライズも見る目が無いというか、前途多難なだけかなこの場合…………」
「いや、何でそんなにあの娘について気にかけるんだ。というか何が前途多難なん――――」
「うん、大変そうだ」
クリーブランドは改めて提督を眺めた後、何かに苛まされたように加えて溜息を付いた。
――――彼女としては応援する方向性は固まっているが手段はさっぱり、という感じなのかもしれない。実際手の施し方がまるで分からない。
「というか、ベルファストも誤解解くの手伝ってくれよ」
ベルファストは困りましたね、と意地悪そうな笑みを浮かべて一歩前に踏み出す。
――――クリーブランドは全く気づいていなかったらしい。びくんと反応して飛び退く。
「うわっ、居たのか」
「嗚呼、ご主人様。私に嘘を言えとおっしゃるのですか――――?」
およよ、という音でも鳴りそうな仕草でひらひらと倒れ込んで涙くんだ瞳を逸らす。提督がマジかよコイツ、と口の中でもごもごと呟く。
「何でこんな四方八方が敵だらけなんだ俺!?」
敢えて言うならお前だからである。
「ベルファストに嘘をつかせようなんて見損なったぞ指揮官」
「君もこの胡散臭い演技を信用しちゃうんだそうなんだ」
殆ど全部彼の信用の薄さが原因、そうなのだ。
――――仕事に関して以外はむしろ信用に溢れているのだが、仕事は全くもって信用がない。
「しかし指揮官、何でそんなにサボるんだ?」
「勿論、(サボりの)プロですから――――ってちゃうわ。普通に短期集中型って奴なんだよ」
それは嘘ではない。彼が作業に入ると地震も気づかなかったことが有るぐらいだ。
――――クリーブランドもそれは知っていたというか、それにしても多いという話をしていたから、諦めたような顔つきで肩を竦める。
「もう――――何だ? 頭でも撫でてやればやる気出せるか?」
提督は真面目な顔で、今までで最速の返答をした。
「今すぐお願いします、出来れば慈母の笑みを浮かべて」
「いや、冗談だぞ」
少し引き気味にクリーブランドが応える。
現実は非情である。彼は咽び泣いた。勿論、珍しくやっていた仕事も完璧に停滞したのであった。
「――――ところで、指揮官様? この『大規模作戦』というものについてですが――――以前から耳に挟んでおりますので、丁度良い機会です。全容を教えていただけますか?」
クリーブランドとの歓談(ではない)が終わった矢先、ベルファストは爆薬の輸入申請書を眺めて尋ねた。
その申請書に書いてある其れは、彼女がまるで聞いたこともない爆薬の種類のようだ。
――――いや、正確には爆薬とは呼称しないものだろうか。提督はその掴み所のない雰囲気に身構えていたのか、拍子抜けしたようにあっけらかんと答える。
「ああ、これか」
「いやあ、結構苦労したんだぜ? 何でも今じゃこういうのやってる所少ないらしくて――――」
最近パロディ多ない? 後オチつけてくれ頼むから(自分の作品である)。
諸事情(書けなかった)よりベルファスト姉貴にチェンジと相成りました、期待した人には言葉もない。
私って人気のある物全てが基本的に苦手で、ちょっと正直避けてたんですよね。書いてみたら意外と良い感じで書いてる内に好きになりました。こういうことも有るんですね。
最初はレナウンだったのにフッドに書き直して、読みなおしたら「ベルファストだわこのキャラ」と思って殆どそっくり名前だけ書き換えたパートが一部有ったりします。いい加減キャラを安定させるんだ私。
何か最近提督が主役っぽくない…………なくない? エンタープライズが主人公として作ったっちゃそうなんですが何かおかしいような…………。
こんな所で何なんですがもう性能厨でも良いので(問題発言)エンタープライズへのご投票お願いします。
ベルファストネキ強すぎて「ぐぬぬ」状態です。というか本戦出場してるやつ全員好きなんだけどどうしてくれる。