でも後悔はしてない。
光が収まり、目を開くとそこは別世界だった。
市街地は見る影もなく、私達がいたはずの学校も跡形もなくなっている。
「これが、樹海化……」
「初めて見たぁ〜……」
樹海化。
神樹様が『向こう』から、外からくる敵を迎え撃つために作り上げた結界『樹海』を作り出す事だ。
話は聞いていたのだけど、ここまで見事なものだとは……流石に予想外だった。
「お、そうだ。写真撮っとこ写真♪」
「三ノ輪さん、遊びじゃないのよ」
「分かってるってー」
「全然分かってるようには思えない……」
「諦めて鷲尾さん。銀はこういう時、とことん人の話を聞かないから」
「……琉璃、お前こういう時グサグサくるのな」
「どうしたの三ノ輪さん、何か間違ったこと言ったかしら?」
「鷲尾さんの真似してる風に聞こえるんだけどさ、本気でやめてくれ。なんかこう、背筋がゾワっときた」
……それはどういう意味なのよ。
ジト目で銀を睨むがまだ悪寒とやらで背中がむず痒いのか、私のことを見る余裕もないらしい。そんなに似てないか、あれ。
いや、そういう問題ではないとは思うけど。
「あっ!あそこ見て見て〜。なんかいるよ?」
その場にいた女の子、乃木園子がマイペースなような、それも気の抜けるような声音で指を指す。
そこにあったのは、樹海化した瀬戸大橋だった。
海の上に木の根のようなものが組み合わさって一本の大きな橋になっている。
そしてそこを通るこの世ではあり得ないような異形の種。浮きながらゆっくりと移動し、橋を渡っていく。
あれが……バーテックス。神樹を狙い、この世界を壊そうとする私達の敵。
「そんじゃ、パパッと終わらせよう」
銀は携帯を取り出して勇者のアプリを起動する。
私達がお役目を果たす『勇者』となるためには、端末にある勇者アプリを起動して祝詞を唱えなければならない。
しかし、その祝詞を唱えるだけであのバーテックスに立ち向かえるのだ。それなら安いものだと思う。
「アメツチニ キユラカスハ サユラカス」
「カミワガモ カミコソハ キネキコユ キユラカス」
「ミタマガリ タマガリマシシカミハ イマゾキマセル」
「ミタマミニ イマシシカミハ イマゾキマセル」
そう告げ、スマホの真ん中に表示されてる花のマークをタップする。
祝詞を告げ、そこをタップするだけでバーテックスに対抗するための勇者になるのだ。
そんなことを思いつつも変身が進み、橙色の縦線があしらわれたインナーが体を包み込み、その上から袴のような服装を着込み変身が終わる。
橙色の袴という、なんとも自分にしては明るい色なのだが、これが私にとって最適なのだという。
……そこはもう仕方ないかと割り切ったけど。
「おぉ、実践だ!」
「合同訓練なかったもんね〜」
他の子達も変身が終わったらしく、樹海を見渡しながら話をしている。
流石に緊張感がなさすぎじゃないかな?このお役目には世界の命運がかかってるのに。
「敵がお告げより早く出現したから、する暇がなかったものね」
「と、なるとアレが大橋か」
「そうみたいね。あそこを抜けられると……」
「撃退できなくなっちゃうもんね」
「そうと決まれば、早速突撃!」
話してる途中でいきなり飛び出して行く銀。それに「私も〜」とついて行く乃木さん。
……チームワーク的にこれは全く大丈夫じゃないよね。
その二人を見つつ、呆然と立っている鷲尾さんが目に入ったのでその肩を叩く。
「今は気にしちゃダメだから、とりあえずお役目に集中しよう鷲尾さん。怒るなら終わってから怒ればいい」
「……っ、そうね。そうしましょう」
「とりあえずあの二人を追いますか」
私と鷲尾さんはワンテンポ遅れて先に進む二人を追いかけた。
* * * * *
「でっかぁ……」
「本当だねぇ……」
先行した二人に追いつき、大橋までたどり着く。そこには私たちが勇者となり戦うべき相手、
「こいつが壁の向こうから来た存在、バーテックス」
鷲尾さんのいう通り、目の前にいるのが倒さなければならない存在のバーテックスだった。
真ん中に風鈴のような形で青く透き通っており、両サイドを水のような球体に挟まれている。
下の方についている帯のようなものをゆらゆらと揺らしながらゆっくりと前に進んでいる。
そしてなにより、大きい。私たち全員分の身長を足しても比べ物にならない。
大型トラックよりも大きいのじゃないだろうか。
そんなことを考えていると、バーテックスがこちらに気づいたのか、バーテックスの真下の樹海の木が赤黒く変色し始めた。
これが侵食……。進めば進むほど現実世界に悪影響を及ぼすと呼ばれるもの。
ということは、もう悪影響が始まりつつあるってことか!
「気づかれたなら……先に倒す!!」
「ちょ、三ノ輪さん!?」
「いっくよー!」
「乃木さんまで!?」
「チームワークのチの字もないね、このグループ……」
だが、相手には気づかれている。侵食も始まっている。退くことは許されないし、それをよしとしない自分がいる。
なら答えは一つ。
「鷲尾さん、銀と乃木さんに続くよ!」
「えっ、でも……」
「こういう場合止まってたらやられる。気づかれてるんだから、計画も立てる暇ないし」
「…そうね、わかった」
突撃した銀と乃木さんに続こうとする。
だけど、その足は一瞬にして止められた。
「な、なんだこれ!?ちょ、まっ!?」
「ミノさん!え、うわぁ!?」
銀はバーテックスから出された泡に飛んだ勢いを殺され、空中から樹の根に落ちる。
銀に続こうとしていた園子には、右側の水の球体から高水圧なレーザーを射出する。それをかわすのにしくじり、足場から落ちてしまう。
「二人とも!」
「鷲尾さんは矢で攻撃して。私が回り込む!」
私はバーテックスの後ろを取ろうと回り込もうとする。が、二人がいきなり攻撃を食らってしまったことにより、焦って行動を間違えた。
バーテックスは左の球体から高水圧レーザーを撃ち出す。
足元の樹の根を思いっきり蹴り、なんとかそれをかわすが勢い余って体勢を崩す。
ここで失敗るかな、普通……。
「高嶋さんまで……。なら、私が……!」
大丈夫です。私はただ単にドジ踏んだだけですので…………めっちゃ恥ずかしい。
そんなことはつゆ知らず、須美は弓の弦を限界まで引き、力を溜める。矢の先に花のような模様が現れ、徐々に花弁の色を増していく。
それが青く色がつくと、その花の輝きが増す。須美は即座に手を離し、矢を放つ。
だがその矢はバーテックスの出した泡に絡め取られ、届くことなく墜落する。
「そんな……!?」
その泡は矢を絡め取るだけではなく、多くの泡が須美を襲う。
須美は泡の勢いに耐えきれず、立っていた足場から下の樹の根に落ちてしまう。
始まったばかりだが、満身創痍ではない。だが、これでは勝ち目がなさすぎる。というか連携が取れなさすぎて攻めようがない……。
「……どうしよう、八方塞がりだこれ」
私はただ立ち尽くし、神樹の元へと進むバーテックスをみているしかなかった。
* * * * *
鷲尾須美 side
私達の初撃は全て不発に終わった。しかも、敵が強すぎて対策も思いつかない……。
どうしよう……これ以上進んだら神樹様が……!
考えなくちゃ……私が考えなくちゃ……!
でも、三ノ輪さんは強力だけど近づけない。高嶋さんは機転がきくけど、それを活かしきれる気がしない。乃木さんは……どう扱っていいかわからない。
どうしよう………どうしたら……!!
「「危ない!!」」
「え、きゃっ!?」
考えに耽っていると、三ノ輪さんと高嶋さんに押し倒される。
何をするのかと抗議しようとしたが、その二人の頭上をバーテックスの泡が通り過ぎていくのが見える。
助けてくれたんだ………。
「ぼうっとしてると危ないぞ」
「そうそう、ここは戦場なゴボッ!?」
「た、高嶋さん!?」
頭を上げた高嶋さんに泡が当たる。その泡は高嶋さんの頭をすっぽりと包み込んでしまう。
「ちょ、おい琉璃!?」
「が、ゴボッ、ガボッ!?」
「この……泡の弾力が……!」
すぐさま顔に張り付いている泡を破ろうと押したり引っ張ったりするが、弾力が強すぎて全く破れる気配がしない。
「わっ、大丈夫るーりん?」
そこに乃木さんが来るが、事態は変わりそうにない。
私と三ノ輪さんが弾力の強い泡と悪戦苦闘を強いられていると、
「ーーーーッ!」
高嶋さんの目がカッと開き、一心不乱に泡の内部の水を飲み始めた。
……バーテックスって体内に取り入れても大丈夫だったっけ?
その姿に呆然としていると、全て飲み終わった高嶋さんは深く息を吐く。
「……ふふ、こんなもの勇者となった私にはどうってこと…………気持ち悪っ」
「おぉぉぉ、凄いるーりん!お味は?」
「最初はサイダーで次にウーロン茶。最後にはおしるこの味がした……吐きそう」
「うぇぇ、気持ち悪そう……」
「……そりゃ災難だったな琉璃」
「……………はっ!そんなことよりバーテックス!」
「私が未知のものを摂取したことをそんなこと呼ばわりって……泣きそう」
「わわっ!?ごめんな「嘘だけど」さい……えっ嘘!?」
「まぁそんなことよりバーテックスだよね」
「〜〜〜〜っ!高嶋さん、あとで覚えておいてください!」
「まぁまぁそこまで怒らなくても」
こんな時までからかうなんて……信じられない!私がしっかりしないとダメのようね。
「さてと、緊張もほぐれたところであれの処遇よね」
「あぁ、あいつはヤバイ。近づこうにも近づけないし」
「だったら私が……!」
「待て待て落ち着けって!」
「でも、このままじゃ!」
私達が言い争ってる中、乃木さんは一人考え込み、あっと声を漏らす。
「ピッカーンと閃いた!」
………何を閃いたんだろう、と三人で首を傾げながら乃木さんに閃いた案を聞く。
連携してバーテックスを倒すための案を。誰も犠牲を出さず、あの化け物を倒せる術を。
「……一か八かの勝負だが、やってみる価値はありそうだな」
「ま、やらないよりやった方がいいよね」
「乃木さんが言うのなら……」
「よし、決まりだね〜」
そして、やられっぱなしだった私達は反撃の狼煙を上げた。