高嶋琉璃は勇者である   作:夜明けの月

3 / 4
第3話 ともだち

バーテックスは未だふよふよと下部にある尻尾のような帯を揺らめかせながらゆっくりと進んでいる。

須美はその巨体向けて矢を放つ。

 

矢は先程のように遮られることなく青く透き通る体に突き刺さり、小さく円状の衝撃波でその体を削る。バーテックスはその衝撃により、須美達がいる方向へと向き直る。

 

「こっちに気づいたよ〜」

「じゃあ、手筈通りに……行くよ!」

 

琉璃の合図で四人は同時に走り出す。バーテックスはその接近を許すはずもなく、小さな泡で進行を妨害しようとする。

 

「園子!」

「合点承知だ〜」

 

四人は足を止めて園子の側に寄る。園子は槍を前に携え、槍の形状を変形する。

槍の穂先が紫の色を放ち、薄く広く展開され傘のような形状に変わる。

 

「この槍、盾になるんよ〜」

 

傘もとい盾に変わった槍はバーテックスから放たれた泡を全て防ぎきる。バーテックスもそれだけで終わるつもりはなかったのか、右側にある水の球体からレーザーを射出する。

それも盾で防ぐが、勢いが強く園子だけでは踏ん張りきれない。須美、銀、琉璃は槍の持ち手の余っている部分を持ち、園子とともに支える。

 

「ぐぅぅぅぅうううう!」

「勇者は、根性…!押し返せぇ!!」

 

銀の声で足に力を入れてゆっくりとだが押し返す。だが、それでも水圧の方に押されている。

 

「オーエス!オーエス!」

 

「「オーエス!オーエス!」」

「ほら、須美と琉璃も!」

「えぇっ?」

「……えぇ」

「オーエス!オーエス!」

 

「「「「オーエス!オーエス!」」」」

 

そうやって押しているうちに、レーザーの水圧が徐々に弱まり、最後にはなくなる。その瞬間を四人は逃さなかった。

 

「よし行くぞ!」

「突撃〜!」

 

銀、須美、園子は空中に飛び上がり、琉璃は体勢を低くして前へと走る。

銀は園子の槍に掴まり、須美はバーテックスの追撃に対応するため矢を構える。

 

「須美!頼んだぞ!」

「あぁ、もう狙いにくい……っ!」

「来たぞ!」

 

先ほどのような泡がもう一度迫ってくる。それにタイミングを合わせて須美が矢を放つ。複数撃った矢は全弾泡に突き刺さり破裂する。

 

「三ノ輪さん!」

「思いっきりいくよ?」

「構わない!園子やれ!」

「分かった〜。うんとこしょーー!!」

 

園子が槍を振り回し、銀を投げ飛ばす。そのままいけばバーテックスまで辿り着き、銀がとどめを刺す………はずだった。

 

バーテックスは左の水の球体からレーザーを射出する。それはまっすぐ空中を進む銀へと向かいーーーー

 

「やっぱ反撃するよな……琉璃!」

「あいあいさーっと!」

 

銀は下の方に手を伸ばし、いつの間にか下にいた琉璃の持つ薙刀の柄を掴む。

 

なぜ、琉璃が下にいるのか。

その理由となる園子の作戦はこうだった。

 

銀が接近できればあれば倒せる。けれど妨害にあってばかりで突破がままならない。ならば攻撃がやんだ瞬間に空中から仕掛ければいい、と言う強引な策だった。

だけど、もしその時に追撃がまた来たらどうしようもないから、その対策のために琉璃が下にスタンバイするということになっていたのだ。

 

この策での琉璃の役割はかなり重要なものだった。追撃を銀が必ずかわし、再度上空へと打ち上げなければならない。

かなりの手さばきと力のいる役割だった。

 

琉璃は銀がバーテックスの攻撃をかわしたことを確認すると、間髪入れずに銀を上空に打ち上げる。

 

「飛んでけ打ち上げ花火もとい銀!」

「いや、なんだその掛けgうぉあ!?」

 

銀は変な声を上げながら体を襲う浮遊感に耐える。

あんにゃろう……やってくれたなぁ……、と琉璃を恨めしく思いながら。

 

「それは後でいいとして……先にお前だ。覚悟しろよバーテックス!」

 

銀は斧を構えて落下する。銀の体はそのまま右の球体に激突し、球体がその形を崩す。

球体を崩して樹の根に落ちるが、着地し、すぐさま飛び上がる。

今度は下からバーテックスを刻んでいく。

輪郭が赤く輝き、斧から炎と花弁が吹き荒れる。斧はバーテックスを蹂躙する。

球体も、下部でゆらゆらと動いていた帯も、風鈴のような本体も、全てを切り刻んでいく。

 

そして勢いに任せてガラス体の中にあった核のようなものを銀が斬りつける。だが、斬れることはなく、逆に銀が樹の根まで弾き飛ばされた。

 

「どうだァ!!」

 

バーテックスを睨みつけながら拳を突き上げる。

バーテックスは先程のように破損を修復することはなく、空中に静かに佇む。

 

すると、上空から花弁がはらはらと降ってくる。

 

「始まった〜……」

「これが…鎮花の儀……」

 

壁の外から内側へとやってきたバーテックスを壁の外へと還す儀式。ある程度バーテックスにダメージを与える事で行うことが出来る儀式、それが鎮花の儀だ。

 

要は、この過程を終えることでバーテックスの襲来を防ぎ、撃退に成功したと言えるのである。

 

「……一見すると綺麗だけど」

 

正直言って……なんか不気味。

そう思いながら、琉璃は鎮花の儀が終わるまで花弁が降り注ぐ空を見続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バーテックスとの戦いが終わった翌日、私たち四人を待ち受けていたのはいつもとなんら変わらぬ日常だった。

 

何かあったかと問われれば、先生から他のクラスメイトのみんなに「四人はお役目があるから」と言うことが説明されたぐらいとしか答えようがないほど平凡なものだった。

 

ただ、いつも以上に銀は囲まれてしまっているけれど。

 

「銀ちゃん、お役目ってなんなの?」

「ねぇねぇ教えて〜」

「それが、これ言っちゃダメって言われてんだよねぇ」

「え〜」

 

……流石人気者。須美と園子なんて見て見なさい。片方寝てるし、須美にいたってはなんか思いつめた表情してて人すら近寄ってないよ。

 

え、私?近く人なんて全くいないけど。だって親友なんていないし。

 

……さて、帰ろうか。別に友達と呼べる人がいないから寂しくて帰るってわけじゃないよ?そりゃ家の方が居心地がいいけど、そんなことは…………思ってない、はず………だからね。

 

帰り支度は既に済ませていたので、そのまま帰ろうとすると、さっきまで黙りこくっていた須美がガタッと勢いよく立ち上がる。

 

「あ、あのっ!三ノ輪さん、乃木さん、それと高嶋さん……良かったらその……昨日の、祝勝会なんて…どうかしら?」

 

おっと、これは予想外。というかまさか須美からお誘い頂けるとは……どういう心境の変化なんだろう。

 

帰ろうと思っていたが、予定変更だ。あの須美が多分勇気を出して私たちを誘ってきたのだ。だったらここでその誘いに乗らないなんてことはない。……もし乗らないと言うなら、そいつは鬼か悪魔だろうねきっと。

 

「おお、いいねぇ!」

「やろうやろう!」

 

最初に参加を名乗り出ようとしたら、二人も乗り気なのか、満面の笑みでその提案を呑む。

これ、私が参加する気がなくとも押し切られてたんじゃ………最初から参加する気満々だったけど。

 

でも、ここで普通に賛成するのは面白くない……なので、ちょっとやってみることにした。

 

「私も混ぜて〜☆」

「うわっ……」

「そこ、あからさまに引いた声を出さない」

 

もうあんな声絶対出さない。

そう誓いつつ、私達は近場で祝勝会なるものができそうな場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祝勝会の場所は、安定と信頼のイネスでした。

………まぁ、私ら小学生だもんね。

 

現在、須美が手紙のようなものを読み上げている最中である。形から入るというのはこういうことを言うのだろうけど、同級生に対しては少し堅すぎる気がする。

 

「ほらほら、そんな堅いことは抜きにしてもっと楽に行こうよ〜。かんぱ〜い」

 

堅い文言に耐えきれなくなったのか、銀が勝手に乾杯の音頭をとる。その瞬間、須美がなんか悲しげな表情してた気がする。……そんなにお堅い文言(それ)言いたかったの?

 

「そういえば、鷲尾さんから誘ってくるなんて初めてじゃない!?」

「実はそうなんだよ〜」

「合同練習も、襲来の方が早すぎてなかったもんね」

「私も興奮してガンガン語りたかったんだよ〜」

 

どうやら盛り上ってるのは誘った方の須美だけではないらしく、銀も園子もだそうだ。かくいう私も割と気持ち的には盛り上がっている、方だと思う、多分……。

 

「私も、その……話をしたくて、三人を誘ったの」

「……その話って?」

「うん……。私ね、三人の事、そんなに信用してなかったと思うの。それは三人の事が嫌いとか、そういうわけじゃないの。………私が、人を頼る事が苦手で」

 

俯きながら不安そうに話す須美。私達はそれに耳を傾けた。私は特に。

 

だって、私も人を頼ろうとしてこなかったから。一人でなんとかできる、なんて思い込んでたから。

人を頼る事ができるなら、多分勇者になんてなってなかったと思うし。

 

「でも、それじゃダメなんだよね……。一人じゃ、私一人じゃ何もできなかった……。三人がいたから……だから、その……」

 

話していくうちに徐々に視線をな斜めにずらす。心なしか、須美の頬がほんのりと赤く染まっているような……。

え、なんか重大発表でもあるの……?

 

 

「これから私と……仲良くしてくれますか!?」

 

 

………そんな重大なことでもなかったね。

 

私が須美の隣で安堵していると、向かいにいる銀がニカッと笑う。

 

「もう十分仲良しだろ」

「えっ……」

「嬉しい〜!私もすみすけと仲良くしたかったんだ〜。ほら、私って友達作るの苦手だったから〜」

「乃木さん……」

「というか、私にいたってはもう名前呼びしてもいいかなぁ、くらいの仲だとは思ってるよ」

「高嶋さんも……」

「すみすけも同じ気持ちだったんだぁ〜。嬉しいなぁ、すみすけ〜」

 

園子の言葉に、嬉しそうでどこか釈然としない表情の須美は園子に笑顔を向ける。

 

「あの、乃木さん……そのすみすけっていうのは、何?」

「あー、いつの間にかあだ名で呼んじゃってた〜」

「「無自覚だったのか……」」

 

おっと銀とハモった。

 

「嬉しいけど……それあんまり好きじゃないかなぁ……」

「じゃあわっしーなは!?」

「もっと嫌よ」

 

先ほどよりも強い拒絶、まぁそりゃそんな一昔前のアイドルみたいなあだ名は嫌だわな……。私もるーりんとか名付けられたら拒否するし。

 

「あっ閃いた!じゃあ、わっしーとかどうかな?」

「えー…………うーん………………………まぁそれならいいかな」

「わぁ!よろしくね、わっしー!」

「よし、じゃあ私のことは銀って呼んでね。鷲尾さんはよそよそしいなぁ」

「私は「るーりん!」琉璃でってちょっと待って、乃木さんそれで呼ぶのはやめて」

 

その後、私達は銀がオススメするジェラートを食べながら親睦を深めた。

 

余談だけど、私のあだ名で一悶着あったけど、園子のるーりん呼びが変わることはなかったのは別の話。

 

 





変になってないかかなり不安ですが……。
誤字脱字、指摘、感想評価などございましたら気軽にどうぞ。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。