※この物語は同作者執筆作品『その想いは夜空に』のアフターストーリーとなっております
『再会した時の話』や『彼視点での心情や話』を見たい方はまずはそちらをご覧ください
早くゲームで会いたいんだよ、おうあくしろよ
「おかあさま、具合は大丈夫ですか?」
「ええ、お陰さまで大分良くなったわ。ありがとう、そしてごめんなさいねリーリエ……何から何まで迷惑を……」
「もー、おかあさまったらまた謝ってる。家族なんですから迷惑を掛け合うのは当然ですっ!」
私が再びアローラからカントーに戻って一週間。
流石に時差や気候差を考えて、それにおかあさまの事も考え少し急がず休息を取ってからもう一度アローラに行くと言う事になり、ようやく明日、アローラに戻る事となりました。
おかあさまは私への引け目さえ抜けばもう見違えるくらいに元通りの元気なおかあさまになり、もう何も心配する事も殆んど無くなり安心して向かう事が出来ます……その引け目を無くしてくだされば本当に心配事は無くなるのに……
「……そうね。本当に立派に育ったわ、リーリエは」
「そんな事はないです……そう、まだあの人の隣に立つには全然……」
私にはトレーナーとしての憧れの人であり、異性として恋い焦がれてる人がいます。
その人はとっても強くて、優しくて、かっこよくて、私がエーテル財団から逃げ回ってる最中ずっと側にいてくれて。
寂しくて眠れない夜は夜が明けるまでずっとお互いの話をしたり、一回私が迷子になった時、夜中になってもう怖くて怖くて泣いていた私を見つけてくれて。
あの時、何よりも最初に抱き締めてくれたのが私にとっては他のどの言葉よりも恐怖を安心感に変えてくれる魔法の様に思えて。
そしてそれから『迷子にならない様に』って手を繋ぎながらずっと旅をしてくださったのが、今でも鮮明に思い出せます。
……思い出すとちょっと恥ずかしいですけど。
「ね、あの子とはどこまでしたの?」
「……はい?」
「えー、いやねえ。貴女一回帰った時飛びきりの告白してもらったんでしょう? そしたらもう、どこまで進展してるか聞くのは親としての特権じゃない!」
「……な、なんでそんな恥ずかしい事聞いてくるんですか!?」
「そりゃあもう、カントーにいる間ふっと物思いに耽ってたりしてたじゃない? アローラから帰ってきたら憑き物が落ちた様な表情してたから大体は察したけど、まあだから余計気になるのよねえ」
そうやって想い出に耽っていると、唐突におかあさまがとんでも無い事を……
ど、どこまでしたと言われてもその、告白したその日から翌日の早朝までしか居られなかったのでそんなに進んでる訳でも無いですし……うー……でも言うのは恥ずかしいです……
「そ、その……」
「もう、勿体ぶらずに言いなさいな」
「うー……その…………ちゅ、ちゅー、まで…………です」
「……ああ、もう。すっかり大人になっちゃって……」
感慨深そうに目頭を手で押さえ、天を仰ぐ様な格好になるおかあさま。
……私はもう何年も前から小さい子どもじゃないって言ってるのに。
でもそこがちょっぴり嬉しいのは秘密です。
「大げさですー!」
「大袈裟なものですか! 娘の成長を噛み締めるのは親の特権ですっ!」
「親の特権乱用し過ぎです……」
因みにですが、これはおかあさまの素の姿。
決して酔っている、とかそう言う事ではないのです。
本来のおかあさまはただただ優しくて、優しすぎるくらいのちょっと困るところもありながらも自慢のおかあさまです。
「で、で? それよりどっちからしたのよ?」
「…………それ、言わないといけないですか?」
「言わないと一時間頬ずりの刑よ」
前言撤回します、ちょっとどころでは無かったです。
たまに手の付け様の無いくらい親バカになるところは、どうにかしてください……
むむぅ……しかし言わなければ一時間頬ずりの刑。
それは流石に私としても色々と疲れてしまいますが……それだけは言いたくないです。
「ひ、秘密ですっ」
何せ初めてのキスなんです、それは彼との、彼とだけの秘密にしたいから。
だから言ってしまう訳にはいかないんです、どうしても。
「ふふっ……言うと思ったわ」
「えっ……?」
「私もそうだったから。初めてのキスって大切にしておきたいものよね、する機会にしてもその想い出も、特に」
「……もうっ。いじわるです、おかあさま」
まるで私の答えを見越していたかの様にイタズラな笑みで『ちょっとどんな反応するか見たかったの、ごめんね』なんて続けられたら、私としてはもう怒る気にもなれません。
「頑張りなさいよ、リーリエ。貴方なら立派なお嫁さんになれるわ!」
「お、お嫁さん……あの人のお嫁さん……」
五年ぶりに会った最愛の人を思い浮かべる。
それと同時にふとキスをした事を思い出し、顔から火が出るくらいに熱くなってしまいます。
それでも冷静さを保ち、五年間憧れ続けていた事を口にされ、それをしっかりと現実に、手が届く位置にある事を認識する様に呟く。
……夢じゃない。これは夢で終わらなくて、私はあの人の隣に立って、永遠に添い遂げられる。
「そう、今のあなたは私と同じくらいポケモンが強くて、それでいて『女』としても本当に自慢に思えるくらいに成長したわ。だから自信を持ちなさい」
「……はい!」
……このままだと、あの人に笑われてしまいますね。
それじゃあ隣に立つ事は出来ない。
だからもっと変わらなくちゃ、今まで一緒にカントーを旅したポケモンや行く先々で会った人達にもちゃんと顔向け出来る様に。
ギュッと首から提げていた紅いペンダントを握る。
これは彼から貰った最初のプレゼント、私の何より一番大切な宝物なんです。
「それじゃあ私はご飯作るから、まあ彼との想い出にじっくり浸ってても良いわよ」
「お、おかあさま!?」
ペンダントを握っていたのを見られていたのか、何か生暖かい様な目でからかわれてしまいました……
でも、このペンダントの本当の意味をおかあさまは多分知らない。
これはあの人と私の秘密、二人だけの大切な大切な秘密なんです。
私はもう一度ペンダントを触り、隣にある私の部屋――そこにある彼と島巡り達成の記念に撮った写真に近付く。
こうして見ていると、このペンダントを貰った時の事が鮮明に浮かびます。
キッカケはふとした事で、何となくショーウィンドウから見える紅い宝石が気に入って。
何度か見に行って、でもお金は無いからと見るだけに留めておこうとメレメレ島から暫く離れる事になった日に、船を待つ間にせめて一目と見に行ったんです。
☆
「……あっ、売れちゃったんですね、あのペンダント」
最後に見ようと行った時には既に飾られていなくて。
きっとあんなにも魅力的だったから買われていったのかなと、残念に思いながらも納得して帰ろうとしていたんです。
「…………あれ、リーリエ?」
「へっ……? なんであなたがここに?」
そしたら彼がいきなりお店から出てきて。
全く予想外な事に動揺してしまって、私は少し混乱していたと思います。
「……あー、その」
「はい……?」
「い、いつも俺……のポケモンとか、リーリエにお世話になってるからな。その、日々のお礼? にプレゼントでも……とね」
小包みを私に向けて渡してくれる彼に、いきなり過ぎて驚いたのと、まだその時は少し距離感みたいなものを覚えていて。
どう返して良いか分からず取り敢えず受け取りました。
「え、えっと……中身は何が……?」
「い、今それ言ったら楽しみが無くなるだろ」
「あ、そ、それもそうですねっ!」
ぎこちないやり取りの後に、丁寧に丁寧に包みを広げていく中で、彼が緊張しているのが伝わってきててて、私まで少し緊張してしまったのを良く覚えています。
彼の緊張している姿に少し可愛いなあ、と思いながら慎重に開けていくと、白くて細長い箱が。
「……あ、開けますね」
「おう……」
何故か異様にドキドキしながら包装を捲っていくと、見えてきたのは小さい、でも人を惹き付ける綺麗な紅い宝石。
……まさか、いやでも一介の人間が買えるくらい安くもない値段はしていたはず。
疑心暗鬼になりながらも震える手で細長い箱を開ける。
「……こ、これ」
「…………俺さ、リーリエの好みとかまだ全く分かんねえけどよ。まあ、何て言うか……それ、見てたの偶然……ね」
その時の私は、もうそれは言葉にならないくらい嬉しくて。嬉しくて堪らなくて、頭が真っ白になっていたと思います。
見られていたと言う恥ずかしさもありましたが、それより、何よりもちょっと距離感があるのかなって心配していた彼との距離がグッと近くなった様な気がして。
「あ、ありがとうございますっ! とっても嬉しいです!」
「お、おう。……喜んでくれて良かった」
距離が近くなったと思うと、そう言って微笑んだ彼の笑顔に不意を突かれたみたいにドキッと胸が跳ねて。
……多分、これが初恋のキッカケだったのかな、なんて今になって思っていたり。
☆
「早く、また会いたいです」
強くて、憧れで、かっこ良くて、優しくて、いつでも側にいてくれて、でも寂しがり屋で実はちょっと泣き虫なところも、全部全部大好きな彼。
「リーリエー、ご飯出来たわよー」
「あ、はーい今行きます」
……今度は手を引っ張ってもらうのではなく、きっと隣で。
ずっと、隣で。
私は歩いていく。
‐fin‐
皆様のお陰で『その想いは夜空に』執筆から約11ヶ月経ちましたがギリギリ短編累計にいます、本当にありがとうございます
やっぱりリーリエの可愛さは万国共通やったんやなって
追記
おかげさまで短編日間六位取りました