Another Trainer   作:りんごうさぎ

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3.抑えても 抑えきれない 人の性

 簡単に連勝した俺はブルー達のことが気になったので休憩がてら1度フィールドを離れて様子を見に行った。

 

「それじゃあこれも私の総取りのようね。あなた達哀れね」

「イエーイ! ナツメちゃんわたしはアタリだからね!」

「わかってるわよ」

 

 何だこれ。ナツメがマスターの連中からお金を巻き上げているようにしか見えない。もしかしてナツメの奴俺が勝つか負けるかで賭けを始めていたのか。お前は自由かっ! ついてきたのは俺のバトルを見るためじゃなかったのか?! 勝手に人のバトルで儲けようとするな!!……3割よこせっ!

 

「あっ、シショーやっほー。勝ってくれてありがとねー」

「ナツメ、分け前を要求する」

「遅いわ。もう回収し終わった。あなたが簡単に勝ち過ぎてもう儲からないだろうし、これからは観戦に回ることにするわ。だからムダよ」

「てめぇ……」

 

 ふざけやがって。だいたいここにいた連中はなんでナツメ相手に賭けなんてしようと思ったんだ? こいつは予知が使えるのに勝てるわけないだろう?

 

「自分で選ばせたのよ。当たったら2倍。負けたら賭け金は没収。私は黙ってそれを受け入れるだけ。これなら私の力は関係ない。シンプルでしょう?」

 

 なるほど。あとは全員が俺じゃない方に賭けて自爆か。だがこれからは賭ける相手がバラけるから儲からないと。……こいつ頭いいな。

 

「ねーシショー、わたしもバトルしたいから100万円貸して? 今いっぱい儲けたんだしいいでしょ?」

「カモを取られるからヤダ」

「えー、お願い! ケチケチしないでよ、ね?」

 

 こいつに渡したらすぐに何倍にも増やしてくるだろうな。自分だけでは同じ相手から何度もカモれないわけだしブルーも利用するか。いまさら緊張して負けたりはしないだろう。

 

「今は高いぞ。絶好のチャンスだからな」

「高いって……ど、どれくらいなのよ」

「10分で利子1割の複利計算なら考えてもいいかなぁ」

「えっ!? たった1割でいいの!? やった、太っ腹! じゃ、これ借りていくわねー」

 

 ブルーは手拍子で快諾し100万円を抱えてすぐに別の場所へ対戦相手を探しに行った。あいつドのつくアホだ……。

 

「あなたの方がよっぽどアコギなことをしているわよね」

「さすがに今のは冗談のつもりだった。本気で言った条件じゃない。今回に限ってはブルーがアホ過ぎる」

 

 あいつ、将来お金関連で身を滅ぼしそうだな。

 

 ◆

 

 その後ブルーは調子よく連勝しているようでなかなか帰ってこず、自分の方も順調に勝利を重ねていた。

 

「どうしたどうした、もうおしまいか? ルーキーだなんだと見下しておいてこのザマじゃしまらねぇな」

「勝てねぇもんは勝てねぇ。もう勝負はしない。他の奴も一緒だ」

「がっかりだな。そこまで腑抜けだったとは……わかったよ。だったらお前らが満足するだけのハンデをつけてやる。どれだけハンデがあれば満足するんだ? そうだな……なら、お前らはこれから手持ちの数を倍にしなよ。つまりこれからは6vs3だ。賞金も俺だけ倍の200万払うことにしよう。お前らは100万のままでいい。これならどうだ?」

「お前正気か?! そんなことしたら……」

「これなら勝つ自信があるんだろ? なら勝負しなよ。いいだろ?」

「よし、なら俺が相手だ!」

「……そうこなくっちゃ」

 

 イナズマの“バトンタッチ”を解禁してさらに連勝を伸ばした。ここまでくるといかに相手にバトルさせるかという別の次元の勝負になる。勝てそうに思わせてギリギリで負けさせるのがコツだ。

 

「あーあ、さすがにもう誰も戦わないか。ポケモンが先に尽きたらしいな」

「店仕舞いかしら?」

 

 俺の独り言にナツメが言葉を返した。そういやナツメはずっといたのか。

 

「そういうことだな」

「私もまぁまぁ楽しめたわ。あなたのお得意の戦術も理解できたし、リーグ戦が楽しみね。それじゃ、私はお暇するわ。また明日ね」

「あんたが楽しんだのは賭け事の方だろ」

 

 ナツメを責めるように言うと全く関係ない話を返された。

 

「レインくん、あなたも私のことはナツメちゃんと呼びなさい」

「え……」

「いいでしょ?……イヤなの?」

 

 その動きは……ちょっと待って!

 

「いいいいいだだだだだイヤじゃないです!」

「なら問題ないわね」

「鬼畜……」

「ん? 何か言った?」

「何もないよナツメ……ちゃん」

「ならいいわ」

 

 危ない。呼び捨てにしようとしたらまた“ねんりき”をされかけた。ナツメ……ちゃんは上機嫌で帰っていった。あいつの中の友達って一体どんなイメージなんだ。発想が幼児レベルでストップしている気がする。

 

 ポケモンを休ませないといけないし、自分自身もやたらと気疲れしたのでポケセンに向かった。しかしマスターズリーグの回復設備はフル回転で満員状態だった。……こんな日もあるだろうな。やむを得ずヒリューに乗ってトキワまで戻ることになった。

 

 ポケモンを全て預け、回復を待つ間1人でくつろぎながら待っていると何となく聞き覚えのある声に呼ばれた。

 

「おっ! やっぱり間違いねぇな! 久しぶりだなレインッ!」

「ん? お前はたしか……」

「おうそうだ。さすがにまだ覚えてたか」

「……えーっと誰だっけ?」

「おい! 手紙の頼みもちゃんと守ってやったのにそりゃねぇだろ!」

「……あぁ、ゴウゾウか。そういやそんな顔だったな。今思い出した」

「お前、ホントは覚えてたんじゃないだろうな?」

「さぁな」

 

 昔懐かしのゴウゾウだ。俺が最初に戦った実力者。暴走族のリーダーで、こいつとはタマムシで色々あった。ブルーからも多少はどんな様子かは話を聞いていた。

 

「なんでここに?」

「お前がポケモンリーグを勝ち抜いたから見に来たに決まってるだろーがっ! 俺はリーグも見に行ってたんだぜ? もう興奮が収まらなくてよ、マスターまで来るつもりはなかったんだが居ても立っても居られなくてなぁ。ホントに優勝するんだからお前も大したもんだ」

 

 すごい熱狂っぷりだな。まず直前期にマスターズリーグの席を取れたのが驚きだがこいつは色んな伝手とかありそうだしな。

 

 ここにゴウゾウがいたのはサプライズだったが応援に来てくれたのは正直嬉しい。こうしたリーグ戦ともなれば、もうバトルの勝ち負けは自分1人の問題じゃないんだな。ファンの期待も一身に背負っている。

 

「ありがとさん。お前本当にバトルが好きなんだな」

「俺は昔っからリーグ中継を見るのが楽しみなんだよ。おーそうそう、お前の知り合いの3人組も後から見に来るぞ」

 

 クリムガン3人組か。そういえば結局名前は知らないままだったな。“かえんほうしゃ”は覚えられたのだろうか。……やっぱり覚えない気がするんだよなぁ。

 

「そうか。お前らとはまた会うとは思ってなかったから話すことなんて考えてないな。とりあえずよろしく言っといてくれ。元気でやってるってな」

「お前だから素直に再会を喜ぶとは思ってなかったが、相変わらずそっけねぇよなぁ。普通もっと久しぶりに会ったら何か込み上げてくるもんとかあるだろ? 俺にもなんか言うことないのか?」

「そうだなぁ……暴走族の恰好じゃなければ意外と普通のトレーナーって感じだな」

「そこじゃねぇだろ!?」

 

 ゴウゾウは髪形こそリーゼントのままだがその他は普通の私服だ。あの恰好では入れないだろうから当たり前ではあるが。

 

 ゴウゾウの予想通りのリアクションに満足したところでひとまず話を戻した。

 

「お前、結局なんでここにいたんだ? 観戦にはまだ時期が早過ぎるだろ?」

「お前わかってねぇな。こういうのは早めに見に行って試合前の期間の様子とか見るのがいいんだよ。この辺ならたまに選手がいたりするし運良くサインとか貰えたりもするしな。お前を見つけたのは偶然だったが結果的に良かっただろ? 滅多に会わねぇんだし今日は付き合えよ」

 

 積もる話……というほどのものはないが、それでも色々しゃべっていると時間はすぐに過ぎた。

 

「……だから、な? 頼むぜレイン? どうしても欲しいんだって! 俺じゃ本部の中まではいけねぇからホントにマジで頼む! 一生の頼みだ!」

「お前……たしか一生の頼みってのは前にも言ってなかったか? お前は一度死んだのか?」

 

 本部でタイゾウというエリートに会ったと話をすると猛烈な勢いでサインをくれと拝み倒された。ゴウゾウは熱烈なファンだったらしい。ファンとかそういうのって贔屓の話になると目の色変わるのはどの世界でも同じなんだな。

 

「なんで人の顔を忘れておいてそんなことはしっかり覚えてんだ?!」

「あー、その態度だといらないんだな」

「違う違う! だったら後生の頼みだ! な? 俺とお前の仲じゃねぇか!」

「何の仲だ。俺だって簡単じゃないんで気は進まないんだがなぁ。さっきかっぱいでやったばかりだし」

「かっぱぐ?」

 

 あんまり突っ込まれると面倒だし、サインぐらい引き受けてやるか。

 

「……仕方ないな。貸しだぞ」

「レインッ! やっぱりさすがだぜ! 恩に着る!」

 

 面倒な頼みを押し付けられ、日が傾く頃になってブルーがやってきた。

 

「あーっ! いたー! もうっ、探したわよ? ねぇ見てシショー、わたしいっぱい稼いじゃった!……あっ!! ゴウゾウじゃないのっ!? 元気してた?」

 

 何気に呼び捨てなところにしっかり格付けが終わっていることを感じた。ブルーとゴウゾウは親し気に会話を交わし始める。しばらくしてふと俺に話を振られた。

 

「あ、そうそう借りたお金返しておくわね。えっと1割だから……」

「おっと、10分につき1割と言っただろう? しかも複利だ」

「あー、そういえばそんなこといってたっけ。複利ってなんなの?」

「いっ!? 10分1割だと!? お前らまさか2人がかりで俺をからかってんじゃないよなぁ?!」

 

 ゴウゾウは真っ青だがそれも当然。これはとんでもない暴利だ。

 

「簡単に言えば10分おきに1.1倍になる。お前がいない間に計算しておいた。これが利息表。俺を探すのに時間がかかったみたいだから多少まけてやるとしても3時間は経過しているはずだ。1.1の18乗……約5.56。つまりだいたい556万だな」

「ぶーーっ!! 100万も借りてたのか!? 100万をトイチ!? しかも分で!? おいブルー、お前何やってんだ!? レイン、これはむちゃくちゃだろ!?」

「はぁぁぁ!? わたしの稼ぎ44万しか残らないじゃない!!」

「ぶふっ、残るのかよ!? お前ら今日何をしてた!?」

 

 俺達を恐ろしい犯罪者でも見るかのような目つきだ。俺がロケット団にケンカ売ってたのをゴウゾウは知っているから今回もヤバイことだとでも思ってそうだ。

 

「なんでもいいだろ。ブルーにはちょいと大金過ぎるから俺が回収しておかないとな。とはいえ全部持っていくのはかわいそうか。オマケで100万は残しといてやるよ。それ以外はもらっておこう」

「レイン容赦ねぇな」

「ものすごい温情だと思うけど? そもそもこれだけ稼げたのは俺のおかげなんだから感謝してもらわないと」

「悪徳シショー……」

「きこえねぇな」

 

 ◆

 

 翌日以降もバトルは続けた。さすがに賞金アリでは相手が見つからないのでこっちが負けた時に限って賞金を払うという条件にした。つまり相手はノーリスク。すると負けた分を取り返そうとして何度も戦ってくれた。ギャンブルは負けが込んでいるとなかなか止められない。リスクがないならなおさらだ。

 

 最初にがめつく賞金を回収したのはこのためでもある。あとは放っておいても相手の方から勝負を挑んでくる。しかも勝つためにベストに近い編成で戦ってくれるから経験値も多くなる。

 

 今日もバトルは絶好調。レベルが上がるのはもちろんだが、自分自身もマスターズリーグの戦い方を少しずつ学び、段々とここでのやり方にも慣れてきた。より自分が磨かれる感覚。まだまだ上を目指せる。

 

 ここではトレーナーのレベルがリーグと比べてやはり高い。感心したのはフィールドを選択できることを最大限に活かしたパーティー構成。例えば水使いが水に弱い岩タイプのイワークなどを使うことはほぼない。だが氷や地面はしっかり混ぜて弱点は補っている。

 

 最も驚いたのはトレーナーの判断の早さ。今までは度々助けられたが、相手の行動に驚いて1ターンムダにするようなポカはほとんどなかった。そして普段の思考時間もより短い。さらに厄介なのは交代の速さ。

 

 ひこうタイプ使いのエリートだけずば抜けているのかと思いきやここでは全員速い。戦闘不能の判断、次の一手の思考時間、そして交代する動作、全てが極限まで高められている。

 

 そしてその指示は全て理にかなっている。技を受けるときタイプ相性を踏まえた交換を一瞬で行う。不利な状況では交換を積極的に行う。ある程度相手の交換を予測する。頭を動かしながら手を動かす。慣れないとすぐにはできない。

 

 そのおかげでここではほぼゲーム通りのバトルが繰り広げられていた。つまり……自分が最も慣れ親しんだバトルだ。

 

「グレン、4」

「チッ、交代だ!」

 

 この勝負、すでに相手は4体のポケモンを失い終盤戦に差し掛かっている。相手はこちらが攻撃を繰り出す前に別のポケモンを出す。ナッシーからギャラドスに交代した。相手の特性“いかく”が発動する。しかしグレンの繰り出した攻撃は“かみなりのキバ”……4倍弱点だ。

 

「ガブゥゥ!」

「ヤァァラッッ!?」

「読まれた!? くっ、ナッシーでなんとか……」

 

 相手は最後のポケモン、ナッシーをくり出して“サイコキネシス”を選択するが、グレンは余裕を持ってこれを躱してから“オーバーヒート”を正確に決めた。

 

 上手くいったな。丁度ドンピシャで“かみなりのキバ”が交代先に当たった。ここでは技の練度やトレーナーのスキルが洗練されていてほぼターン制に近い進行になる。つまり相手の行動中にこっちだけ二度行動というのは難しくなっている。

 

 交代の間に技の指示を変更するのは困難で、死に出しの間に行動することも厳しい。下手なことをすると単に行動が筒抜けになるだけで余計に不利になる感じだ。最初は試合のスピード感についていけず戸惑う部分もあり技術の高さに感服していた。だが一度慣れてしまうと大したことはない。今ではこのスピードが当たり前だ。

 

「どう? どんな技が来るかわからないのはスリルがあるだろ?」

「……技名を言わないのはわざとか」

 

 今回あっさり交換読みを決めたがこれにはカラクリがある。一言でいえば相手の読みのレベルが低いのだ。

 

 理由は普段読み合いをしたことがないから。技名を聞いてから交換するのだから、当然そこに読み合いは生じない。つまり交換は必ず半減以下で受けられる。普段しないことを一瞬の判断の中でこなせというのは酷な話だ。

 

 これがマスターズリーグのトレーナーにとって大きな影響を与えていることがこれまでのバトルで強く感じられた。

 

 まずは今言った読み合いの放棄による力押しのプレイスタイル。読み合いのようなトレーナーのスキルよりもポケモンが強くなることが重視される。なのでマスターには戦い上手より育て上手が多い。戦い上手であるジムリーダーは少数派。レベル至上主義にも繋がっていそうだ。

 

 そして威力重視の技の選択。弱点を突くために覚えさせる技のバリエーション自体は豊富だが実践では火力重視で同じ技を選びやすい。理由は交換を意識するからだ。交換されそうなら1番威力が高く自信のある攻撃を選ぶ。結局半減になるなら威力が高い方がいい。

 

 そしてもうひとつ、育て方が攻撃偏重気味であること。理由は相手の攻撃を必ず半減で受けられるからだ。

 

 本来バトルにおいて耐久力が低く攻撃力が高いポケモンというのは扱い辛い。なぜなら場に出すには一度相手の攻撃を受ける必要があるからだ。なので交換を軸にしたサイクル戦を意識するなら必然的に耐久に努力値を割く必要がある。

 

 耐久調整という言葉がある。それは最低限の行動回数を確保するために想定される攻撃を1回あるいはそれ以上の回数確実に耐えることを目的としている。それだけ攻撃を耐えることは重要だ。

 

 だが必ず攻撃を半減にできるなら話は変わる。その耐久に回す分の努力値を全て攻撃に注げる。結果マスターズリーグには攻撃偏重でタイプが偏ったとんでもないパーティーが完成する。

 

 ポケモンのタイプは1つの弱点につき1体ぐらいは補完要員がいるケースが多いが逆に言えば1体しかいない。ある程度同じタイプで固めるから仕方のないことだ。

 

 結論を言えば……あまりに脆い。脆過ぎる。下手をうてば一度読み外すだけで簡単にパーティーは崩壊する。これはとんでもないことだ。

 

「ポケモン回復させたらまた来なよ。何回でも相手になるから」

「……覚えとけよ。次はこうはいかないからな」

 

 賞金はなし。だから相手はすぐに帰っていく。しかし確実に成果は上がっている。主力の3体にしあわせタマゴを持たせ何度も戦った。今はお金より経験値の方が貴重だ。順調そのものだな。だいぶ上がってきたしそろそろ戦うメンバーを変えてもいいか。

 

「さて、次は誰が相手をしてくれるんだ?」

「次はこのボク。前回の借りを返させてもらう」

 

 出てきたのは最初に戦ったエリートのタイゾウ。そういえば……どう見てもとりつかいのクセに恰好はエリートだな。まさか草トレーナーは進化したらみんなこうなるのか?

 

「あんたか。もうバトルしないものだと思っていたよ。これまで何をしてた? 俺を倒すために何かしていたのか?」

「……勝負を受けるか受けないか、どっちかはっきりさせてもらおうか」

「もちろん受けて立つ。ただし条件付きだ。基本的に全てさっきまでと同じだが、俺が勝ったら1つ頼まれごとをしてもらう。イヤなら勝負しないだけ。どうする?」

「……いいだろう。勝てばいい話だ」

「そうでないとな」

 

 頼みというのはなんのことはない、ゴウゾウに頼まれたサインだ。

 

 しかし……よく考えると俺もマスターランクなんだよな。目の前にマスターランカーの俺がいるにも関わらず、その俺を別のトレーナーのサインを貰うための使いっ走りにするのはどうなんだ? 今となってはもう引き受けてしまったし、ブルーの件で世話になったのも事実。あんまり考えないようにしよう。

 

「なら勝負開始といこうか」

「そう慌てなさんな。その前に道具の入れ替えをさせてもらう」

 

 目の前でグレンとイナズマを出してグレンにもくたん、イナズマにグレンが持っていたしあわせタマゴを持たせた。ついでに番号を確認しておいた。

 

 イナズマ Lv52 @しあわせタマゴ

 

 技 110まんボルト

   2めざめるパワー

   3あくび

   4バトンタッチ

   5まもる 

   6みがわり

   7こうそくいどう

   8チャージビーム

   9かみなり

  10あまごい 

 

「それはサンダースを使うという宣言かい?」

「バレていようが関係ないからな。とりポケモンなんて電撃でイチコロさ。先鋒はこいつでいい」

 

 グレンだけをボールに戻した俺を見て相手は少なからず怒りを見せた。

 

「ひこうタイプをなめるなよ! 世間じゃ電撃でイチコロだと言われているが、俺はでんきタイプだけには負けない! いけっ、ドードリオ!」

「そいつ……」

「気づいたか。こいつは前のとは違う。レベルは格段に上だ」

 

 そういうことじゃないんだがな。

 

 アナライズを使ってはいるが、ここでのバトルでは相手の能力をしっかり見る時間はない。理由は自分のポケモンの技の番号確認を優先しているからだ。

 

 ここの試合スピードではどちらも見ながらは厳しいし、番号確認を疎かにすれば間違うこともあるので見ながら指示を出す方が好ましい。実際見ないで試すと多少間違えることがあった。だから相手の能力はハナから見るのを諦めている。

 

 今思ったことは試合に全く関係ない。こいつのポケモンがゴウゾウの使用ポケモンと同じドードリオだと気づいただけ。ファンというのは本当らしい。最速の“みだれづき”というのも同じセリフを聞いたな。

 

「先攻は譲ってやるよ」

「なら遠慮なくいかせてもらう! トライアタック!」

「なるほど、ノーマルなら等倍ってわけね。躱して1」

 

 イナズマは130族。レベル50の時点で素早さは実数値で200になる。ドードリオごときでは話にならない。軽く躱して素早い一撃を繰り出した。

 

「ギェェェ!」

 

 “10まんボルト”がしっかりヒットしたな。しかしあのポケモンとんでもない鳴き声だな。ゴウゾウのドードリオはこんな感じではなかったと思うが個体差というのはあるものなのか。

 

「速い……! なら最速の“みだれづき”!」

「迎え撃て。1」

 

 わざわざこっちに向かって的が走ってくるのだから当てるのはより簡単だ。耐える算段だったのかもしれないが一致抜群を2回も受けて耐えるわけがない。

 

 特に、まともなトレーニングをしているおかげか、こいつらはある程度努力値が攻撃面に偏る傾向にある。耐久値は極めて低い。

 

 ……もっとも、攻撃面というのは特攻にも振り分けられているのでムダは多いが。

 

「戦闘不能でいいな?」

「くっ……素早さ勝負なら……クロバット!」

「ほう、いいポケモン持ってるじゃん」

 

 ちょくちょくカントー以外のポケモンも見かける。基本的に進化前が近くにいるものに限られるが予想外のポケモンが来る可能性があるのはそれなりに厄介だ。

 

「ヘドロばくだん!」

「……躱して」

「エアスラッシュ!」

「これも躱せ」

 

 まさかの特殊技で少し悩んだがまともに受けるのは自重した。追加効果が厄介だからだ。クロバットなら補助技がないはずはない。もう少し焦らせば相手が痺れを切らすはず。

 

「くそっ、こいつよりも早いのか……」

「6」

「クロバット、あやしいひかりで動きを止めろ」

 

 かかった! 最高のタイミングだ。一瞬“みがわり”が早く決まった。混乱したと思って大胆に攻撃してくるはず。

 

「どくどくのキバ!」

「1」

 

 相手が攻撃し始めるよりも早くこっちが動く。その上“どくどくのキバ”は直接攻撃。距離があるこの状況で使えばこちらの攻撃の餌食だ。“10まんボルト”がクロバットへまともに直撃した。相手の攻撃はリーチが足りず届いていない。

 

「クロバッ!?」

「動きに淀みがない……? 一旦体勢を立て直せ!」

「ひこうタイプだけじゃ交換したくても交換できないだろ? 遠慮なく攻めさせてもらうぜ。2」

「本当にそう思ってるのかい? だったら交代だ! 驚け!」

「ガーギー」

 

 出てきたのはひこうタイプを持たないニドキング。やっぱり持ってんじゃん、じめんタイプ。なんで今まで出してこなかったのかねぇ。

 

「わざと言ったに決まってるだろ?」

「これは……電撃じゃない。めざめるパワーか!……効果抜群?!」

 

 別に交換されなくても弱ったクロバットを倒すには十分だったが本当にじめんタイプが出てくるとはな。さっきまではひこうタイプを使ってでんきタイプを倒すことに意地になっていたのかもしれない。今の行動も挑発に乗ったわけだし。エリートトレーナーになっても根っこの性分は変えられないようだ。

 

「2」

「だいちのちから!」

 

 お互いに攻撃が当たり差し違える形になった。だがさっき相手は“どくどくのキバ”を当てられず“みがわり”は残ったまま。相手のニドキングのみが倒れた。

 

 クロバットが“10まんボルト”を耐えていたことを踏まえるとこっちの方がレベルは低めだったのかもな。一致“10まんボルト”の方がめざパ2発より威力は上だ。ニドキングはひこうタイプではないし育てる優先度が低かったのだろう。

 

「じめんタイプならジョウトのハガネールとかイノムーにした方がいいよ。でんき、いわ、こおりの全部に有利なポケモンだから」

「余計なお世話だっ! クロバット!」

「1」

「かげぶんしん!」

 

 小細工か。けどそいつは俺には通用しない。……サーチ!

 

「真後ろ、1」

「!……ヘドロばくだんっ」

 

 “10まんボルト”と“ヘドロばくだん”の威力はほぼ同じ。だが特攻はイナズマが上。敵の攻撃もろともクロバットを倒してしまった。あと3体。

 

「げんしのちから」

「来るか。1、本体へ」

 

 技名と共に出てきたのは予想通りプテラ。ひこうタイプでこの技を使えるのはプテラぐらいだ。“げんしのちから”は特殊技で大した痛手ではないので下手に能力を上げられる前に速攻をしかけた。こいつも耐久力はないようで一撃で倒れた。

 

「ドリルライナー!」

「ユーレイ!」

 

 一瞬まさかのドリュウズかと思ったが何のことはない、オニドリルだ。

 

 交換は上手くいった。自分のボール捌きもずいぶん上手くなったと思う。修練のおかげもあるが、何より動体視力が良かったおかげで簡単に技術を盗めたのが大きいだろうな。俺も同じ土俵で戦える。

 

「チィ……つばめがえし!」

「受けて4」

 

 相手の攻撃を受けるが“さいみんじゅつ”が決まった。後はお決まりだ。“いたみわけ”でダメージを回復してから“10まんボルト”でサクッと倒した。

 

「ブラストバーン!」

「お前が使うの? 5」

 

 ヤケになったのか大技をいきなり使ってきた。当然出てきたのはリザードンだ。問題なく“まもる”で流し、反動の間に“さいみんじゅつ”を楽に決めてこれも倒した。しかも“みがわり”つきだ。相手はもう負の連鎖に嵌り始めている。やることが全て裏目だ。

 

「つばめがえし」

「2……相変わらずポケモン出すのだけは早いな」

 

 出てきたのはストライク。よくこれだけひこうタイプばかり集めたな。まだピジョットとかバタフリーとかもいるからひこうタイプってのは本当に多い。

 

 最後は関係ないことを考えていたが“みがわり”を盾にしながら至近距離で簡単に“10まんボルト”を当てて勝負がついた。相手の6匹全てひんし状態だ。

 

「このメンバーで1体も倒せないとは……大言には根拠があったというわけか」

「そういうこと。じゃ、約束通り1つ……いいな?」

「ハンデまでもらって負けたんだ。仕方ない……あまり無茶は言うなよ?」

「大したことじゃない……お前のサインをくれ」

 

 …………

 

「まさかボクのファンだったのか? 案外かわいいところもあるね」

「違う!」

 

 誤解されかけたがとりあえずサインはもらえた。本格的なサインだった。普段から書き慣れているようだ。俺も練習した方が……いや、バカバカしいな。

 




ゴウゾウ再登場
誰か忘れたら1章を見てください

レインはゲームコーナーに始まりギャンブルばっかに見えますが別に好きなわけではありません
ただ確実に勝てるからするだけです

トイチは年利365%のアレです
複利だともっと酷いですね
レインは無茶を言った後分け前を半々で折半しようと言うつもりでした
もうけをウソでちょろまかすのはできないからこその提案ですね

特定の友達に会うと無性にボケてみたくなることってありますよね
ツッコミがいいと延々ボケ続ける
レインはそれです

サインは案がないわけではないんですよね
カントーで使う気はないですがこの世界にはアンノーン文字というのがありまして……

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