Another Trainer   作:りんごうさぎ

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4.見えない本心 いいたい言葉

 翌朝サインを持ってトキワに戻ると行儀の良い格好でゴウゾウが待っていた。犬かお前は。

 

「いやーありがてぇ! ほしかったんだよなぁーこれっ!」

「良かったな。お前そいつに憧れてポケモン始めたのか?」

「おーやっぱりわかるか? そうなんだよな。俺はポケモンリーグにいた頃から応援しててな、マスターズリーグに上がったときは感動したぜ。もう1人リーグに好きなトレーナーがいるんだが今年は1回戦で負けたからな。レインの弟子が相手だから仕方ねぇが残念だった」

 

 ブルーの1回戦は俺も見たはずだな。たしかブルーが油断して“こおりのつぶて”でフシギバナを倒された試合だったか。

 

「……あいつか。そういやパルシェンを使っていたな」

「でもこのサインがあれば帳消しだぜ!」

「どこがいいんだ? 別に普通のトレーナーにしか見えなかったが」

 

 思ったままのことを言うとゴウゾウが熱く語り始めた。こっちに体ごと寄ってきていて暑苦しい。

 

「わかってねぇなぁ。ゴッドバード使うときなんかスゲーんだぞ? 威力は半端ねぇし、よくわからん特殊な道具を使っていきなりドカーンとくるんだぜ? あれで電気ポケモンを倒した時は神がかってたな。ドードリオの“みだれづき”も最高だし、それに名前も俺に似てるだろ? そこも親近感が湧くというかさぁ、なっ? わかるだろ?」

「2文字だけだろ」

 

 その後もゴウゾウの話に付き合っているとどうやって嗅ぎつけたのかブルーも押しかけてきた。

 

「またここにいた! シショーってゴウゾウと仲いいのね。ねぇ、今日は一緒に行きましょうよ。なんだったらわたしとバトルしてもいいわよ?」

「ついてこんでいい。いまさら俺にくっついてきても仕方ないだろ」

「……なんでよっ! もう、たまにはわたしだって一緒でもいいでしょ!? やっぱりシショーって最近わたしにそっけないわよね? なんでなの!」

「別に。大げさ過ぎなんだよお前は」

 

 ブルーと問答しているとまた客が来た。俺のいるところにはよく人が集まるな。しかも今この状況で最も来てほしくなかった奴だ。

 

「こんなところで油を売っていたのね。それに朝から賑やかね」

「げっ! なんで人間マルマインがここに!? あんたはリーグ戦には出ないはずじゃ……」

 

 ナツメを見てゴウゾウが驚いた。いきなりで驚く気持ちはよくわかる。俺はもう慣れた。

 

「私が出たらいけない理由でもあるのかしら? 力ずくでわからせてあげましょうか」

「いえいえいえ文句ありません!」

 

 暴走族リーダーの肩書きが泣いてるぞ。やっぱりナツメは全国的に恐れられているようだな。普段からこの態度じゃ仕方ないか。本人はどこ吹く風だが……ん?

 

「ナツメ……お前……」

「何かしら?」

 

 自覚はないのか? いやでも間違いない。表情は変わらないがこいつのオーラはなんとなくわかる。本心では周りから恐れられていることを悲しんでいる。表情や態度とは全然違うが……これはどういうことだ?

 

 ブルーを見てもオーラは読めない。まだ俺が半端なせいかオーラがはっきり見えるのは力が強いエスパー限定みたいだな。

 

「アハハッ! ゴウゾウビビり過ぎよー! ナツメちゃんってけっこう良い人よ? 本気で人を傷つけようなんて思わないから安心して大丈夫」

「おいおい本当かよ? というかお前はずっとその呼び方なのか? ちゃんって……」

「ちゃんは友達の証だってさ。ねー」

 

 ゴウゾウはブルーの言葉に懐疑的だがきっとあれはブルーの本心だ。ブルーの奴いつの間にかナツメと仲良くなったな。ナツメはブルーの言葉にかなり喜んでいる。ブルーの言葉に偽りはないのだろう。……未来が変わるっていうのはこういうことか。

 

 ただ、友達の証を俺にまで強制してるのはどうかと思うけどな。約束と違う気がするがそこんところはどうなんだ、ナツメ?

 

「レインもブルーも交友関係が凄まじいな。暴走族の俺が言うことじゃねぇだろうが」

「ホントにお前が言うことじゃねぇな。それでナツメ」

「ちゃんをつけなさいデコ助野郎」

 

 デコ助って……いきなりなんなんだ? なんか俺には怒ってる? やっぱりこいつ全部読心してるんじゃ……。

 

「ナツメちゃん、お前は何の用だ? 邪魔になるからついてこないでほしいんだけど」

「あら、せっかく大事なことを教えてあげようと思って来たのにひどい言い草ね。じゃあ帰ろうかしら」

「はぁ……悪かった。教えてくれ」

 

 手土産を用意していたのか。エスパー相手に問答しようというのが間違いだったな。

 

「じゃあ今日は一緒にいてもらおうかしら」

「くぅぅぅ……お前実は頭いいだろ。もう好きにしろっ」

「じゃあ教えてあげるわ。今日急遽予定が変更されたわ。今年は選手の集まりが早かった上にマスターランクのトレーナーは全員が参加するそうよ。私ですら参加しているわけだから今年は何かあるのかもね。シードが確定している四天王以外の全員がすでに集まったから今日トーナメントの組み合わせが発表されるわ。見に行くでしょ?」

 

 四天王は来ないのか。高みの見物ってやつか? 今は姿すら見えなくてもいずれ勝ち進めば戦うことにはなる。その時までのお楽しみだな。

 

「なんでお前は現時点で知っている?」

「私はエスパー少女よ? 愚問ね。あと“ナツメちゃん”と言いなさい。でないと……」

「わかりましたナツメちゃん」

 

 エスパーで全て片づけてしまっていいのか。それに心なしかナツメ……ちゃんにはバカにされてることが多い気がする。

 

 そういえば今全員と言ったよな? まさかあいつも……。

 

「それじゃさっさと見に行っとくか。早く見ておくに越したことはない」

「待って! シショー1つ答えて!」

「……後にしろ」

 

 ブルーは並々ならぬ思いを秘めた表情をしている。言って聞くような感じではないな。

 

「今答えて。シショーはわたしのこと避けてるの?」

「つまらんことを一々聞くな」

「答えられないの?」

「……なるほど、私がいるから下手なことが言えないのね」

 

 沈黙が続く。ブルーは答えるまで納得しないだろう。仕方ない。満足のいく答えを用意してやろうか。

 

「お前のことは避けていない。今後敵になるから近づかないだけ。ここまで弟子として面倒見てきたのに、なんでいまさらそんなことしなきゃいけないんだ?」

「……ナツメちゃんっ」

「ウソ……には見えない。少なくともオーラを見た限りは」

「えっ、本当に?……なーんだ、良かった。じゃあラーちゃんの言う通りだったのか。シショーもそれならそうと言ってくれればいいのに。このこのーっ」

「人を試すようなやり方が気に入らなかっただけ。さっさとトーナメント表を見に行こう」

「うん、そうね。早くいきましょう。駆け足駆け足!」

「走っていくわけないだろ」

 

 ひとまずブルーの機嫌は直ったらしい。試合が始まれば余計なことは考えられないだろうし、今だけの辛抱か。話もまとまり、俺はゴウゾウと別れてナツメとブルーをつれてセキエイの本部へ向かうことにした。

 

「ナツメ」

「本部にテレポートはできない」

「なら」

「ポケモンには乗らない」

「俺は」

「女の子を置いていく気?」

「……」

 

 ナツメの移動手段が無い上に本人がポケモンに乗りたくないと言い出し、置いていくこともできず本当に駆け足になった。しかもナツメにまで足で遅れを取ってしまった。聞けばどうもエスパーで体を浮かせていたらしい。ずるい。

 

「やっとついた。なぁ、ナツメちゃんは毎回ここまで歩きか? 今朝もトキワまで来るのに歩きだったなら疲れないか?」

「数回のテレポートで着く」

「は? じゃあなんでさっき移動できないって……」

「直接1回では行けないと言っただけ」

「……なんか倍疲れた」

 

 本部の受付に向かうとその近くの掲示板にデカデカとトーナメント表が張り出されていた。歩きで時間がかなり経っていたのですでに大勢のトレーナーが集まっている。結局ナツメはあまり役に立ってないな。とりあえず自分の名前を探した。

 

「さて、レインレインっと……げっ!」

「シショーどうしたの? どれどれ……あっ」

 

 ブルーは察したようだ。そう、俺の1回戦の相手は今隣でほくそ笑んでいる奴だ。

 

「レインくん、私とバトルする時は遅れてきたら許さないわよ? マスターの会場は4つあってリーグよりも多いから注意することね」

「くだらんことはよく覚えてるな」

「なんですって?」

「ご忠告どうも」

 

 いきなりナツメか。ノーキンとわかっていてもやはり怖さはある。最初ぐらい楽な相手が良かったが経験値が多いし悪くはないか。

 

 にしてもなんで会場がいくつもあるんだ? 1つにまとめた方がお客さんも全部見れるし選手も迷わないしどっちにもいいと思うが。

 

「バカね、日程を考えなさい。3月中には終われるように組んでいるのよ? 新年度にチャンピオンが未定では締まらないでしょう? それに4つなのは試合を同時に行うためでもあるのよ。時間差があると不平等になるから」

「どういうことだ?」

 

 ナチュラルに思考を読まれたがいまさら気にしたりしない。先を促した。

 

「バトルは毎日連戦になるわ。だからあなたみたいなバカでなければパーティーメンバーは普通ローテーションを組む。どの選手が勝ち抜けるか先にわかるとそれを見てから編成を変える輩が出てくるでしょう? だから選手が絞られる最後の方は同時に試合をするのよ」

「そこまでする程のことか?」

「実際にそういうことがあったんじゃないの? 詳しくは知らないわよ。私には関係ないし」

 

 そういえば自分に関係ないことには無頓着なクセにマスターズリーグのことは意外と色々知ってるよな。割と親切に教えてくれるし。……なんでだ?

 

「……」

「……」

 

 これは読心しないのか。あるいはわかっていて無視しているのかも。……なんでナツメが1回戦の相手なのだろうか? どうせなら決勝とかまでとっておけばいいのに。

 

「当然でしょ? 私とバトルする前に負けられると困る。だからわざわざ1回戦にしてあげたの。感謝しなさい」

 

 ……黒だったな。

 

「なんでお前に感謝しなきゃならんのか。お前が操作して決めたわけでもあるまいし……だよな?」

 

 冗談で言いかけてから十分その可能性があることに気づいた。恐る恐るナツメの答えを待った。

 

「レインくんはどっちだと思う?」

「それはやった奴の発言だ! ナツメッ! これは不正だろっ! つか、なんか俺の当たりそうなメンツにやたらジムリーダーとか実力者が密集してるのも俺への嫌がらせか?!」

「さぁ。私は1回戦しか興味ないわ。無理やりねじ込んだから多少バランスが崩れたのかもね。あとちゃんをつけなさい」

「やっぱお前か……どうやったんだ? 関係者丸ごと洗脳とかか?」

 

 ナツメならやりかねないと思ったが違ったようだ。

 

「そんなことするわけないでしょ? この組み合わせはビンゴマシーンみたいな機械で決まるの。ルーキー同士や四天王同士はすぐに鉢合わないように必ず4ブロックに振り分けるというようないくつかの制限はあるけど、それ以外は自由な可能性がある。私はその自由な可能性の中から自分の望む1つの未来だけを選び取った。それだけよ」

 

 一見何を言っているのかわからないような内容だが、殊更ポケモンというゲームをしていた身としては妙に心当たりのある発言だった。

 

「乱調したのか……!」

「らん……? シショーそれ何?」

「お前は気にするな」

 

 こいつ、エスパー使えば何でもアリか。まさかこんな直接的な手段を取るとは思わなかった。まだこいつのこと舐めていたらしい。ここまでやるか。

 

 乱調……つまり乱数調整とは、ポケモンに限らず本来確率的に極めて起こりにくい事象を必然的に人の手で引き起こす技術のこと。改造やバグとは違うので合法と言えなくもないが、やってることは積み込みのようなものだから人によっては許せない人もいるだろう。

 

 乱数とはゲームの偶然性を決定する要素。それを調整して自分の望む結果を得ることを乱数調整という。ナツメの言うことはかなりこれに近そうだ。

 

 トーナメントを改めて見た。さっきナツメは4つに振り分けると言っていた。たしかに確認すると準決勝まで当たらないように振り分けられている。

 

 俺がいるそのブロックには本当に猛者揃いだ。ナツメを筆頭にジムリーダーが5人、四天王が1人。罰ゲームか?

 

 ナツメを睨んでやってもこっちの視線に全く気づいた素振りも見せない。……ただ、オーラは乱れておどおどした気配を感じた。俺が怒ったから悪いことをしたとは思ってるようだ。本当は謝りたいのかもしれない。意外と繊細なんだな。

 

 さらにナツメは居たたまれなくなったのか俺の傍からは離れていった。心が読めなければ我関せずで勝手にどこかに行ったようにしか思えなかっただろう。最初に会った時からずっと俺はナツメのことを勘違いしていたのかもしれない。エスパーってのは損な人種だな。

 

 運が悪ければ……いや、運が良ければか? このままだと準決勝に行く前に最大4回ヤバイのと戦う可能性がある。いくつかは俺と当たる前に必ず潰し合うからな。俺と当たる可能性のある四天王はキクコ。おそらくナツメを唯一倒したトレーナーだ。正直1番面倒そうな相手だ。ジムリーダーはナツメ、タケシ、キョウ、マチス、そして……エリカ。

 

「ごきげんよう。会うのはずいぶん久しぶりですわね」

「……噂をすれば、か。丁度今お前の名前を見つけたところだ……エリカ」

 

 振り返って確認するまでもない。忘れるはずもない声。まさかそっちから話しかけてくるとは思わなかった。今年はここには来ないと思っていた。だがナツメから全員来ていると聞き、もしやとは思っていたがこんなに早く出てくるとは。……今、ブルーは自分の対戦相手を確認しており近くにはいない。

 

「あなたにはいいたい言葉があります」

「フン、少しはバトルの腕を上げたのか? ここはお前のような三流が来る場所ではなかったはずだ」

「口の悪さは相変わらずですね。以前のように勝てると考えるのはよして頂きましょうか。わたくしはあなたに勝つためにあらゆる努力をしてきました。あなたがわたくしに勝つことはありません」

「その前に4回戦まで勝ち抜く心配をした方がいいと思うけどなぁ。途中お前はジムリーダーと当たるようだし。まっ、わざわざ俺に負けるためにここまで来た根性は買ってやるよ。二度と俺に勝てるなんて夢は見れないように全国の人々の前で無様でみっともない負け方をさせてやるよ。これでお前はトレーナー失格だってことが全国に知れ渡るわけだ。楽しみだよな?」

「つまらないことを言うのですね。あなたこそ自分の心配をした方がよろしいですわ。小細工だけで勝ち抜けるほどここは甘い場所ではないのですよ」

 

 へぇ。少し揺らしてみたが逆にこっちを煽り返すぐらいの余裕はあるのか。本当に何かしてきたらしいな。自信が戻っている。それにこいつ小細工といったが……まさか“みがわり”に気づいたのか? そういえば映像があったか。売り出してなくても自分達は必ず持っているはずだからな。……簡単に倒せるわけじゃないのは本当のようだ。

 

「シショー、見終わったでしょ? そろそろバトルしに……げぇっ!?」

「タマムシのジムリーダーがどうかしたの?」

 

 ナツメとブルーか。ナツメは本当に友達がいないんだな。エリカ相手ですらよそよそしい。

 

「ブルーさんにナツメさんですか。今、師匠とおっしゃったのですか? まさかこのレインが?」

「どうだっていいだろう。お前を見ていると気分が悪い。ブルー、今日は帰らせてもらうからな。気が乗らん」

「えぇー!? あーあ、やっぱりこうなっちゃった……」

 

 口で言ったことは建前だ。いくらなんでも気分で行動を変えたりしない。

 

 目下この場所にはジムリーダーなどが集結している。さすがにこいつらにまで自分の戦い方を教えるわけにはいかない。今日は技の練習と道具の買い出しに時間を充てよう。

 

 マスターランクに上がったことで利用できる設備は増えた。バトルフィールド以外にもマスターランクのバトルビデオや道具屋も開放される。少しは見ておきたい。

 




役者が揃ってきました
いよいよトーナメント開始です
もうちょっと前夜イベントをあれこれしてもいいですが、すでに4話使ってますからね
描写する試合数も多くなりそうなのでサクサクっと進みたいですね
Aボタン連打!


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