Another Trainer   作:りんごうさぎ

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5.約束の時 静かな幕開け

 組み合わせが発表されてからは練習スタイルを変えてギアナ中心でレベルを上げた。手持ちが6体だけなので少しでも周りに見せないようにするためだ。気休め程度ではあるが。

 

 想定すべき対戦相手のタイプはエスパー、いわ、どく、でんき、くさ、ゴーストとなる。だがエスパーとくさはあまり心配していない。ノーキンと頭エリカなら苦戦はしないだろう。問題は天敵の岩使いタケシとすり抜けゴースト使いのキクコ。できれば対戦したくなかった。……いずれもアカサビがキーマンになりそうだ。

 

 特にゴーストタイプはカントーではあくタイプがいないので厄介だ。ミラーマッチは同じ条件の戦いになることを踏まえると実質弱点なし。どくタイプの弱点であるエスパーなら抜群を取れるがエスパーはゴーストが弱点。結局完全に有利に戦えるポケモンはいない。俺としてはみゅーやユーレイでミラーマッチに勝つしかないだろう。

 

 ブルーは俺がいなくなってレッド達が来たのでそっちと一緒にバトルして鍛えているようだ。ナツメはギアナに行くことで捲いた。もうこいつらとも敵同士だから仕方ない。勝負になれば情けは無用だ。

 

 ◆

 

 練習期間は終わって本戦開始。開会式のようなものがあり、それが終わった後にブルーを久しぶりに見かけた。ついでなので声をかけた。

 

「いよいよだな。ブルー、調子はどう?」

「あー! 今頃出てきてっ! んもぉー!」

「そう言うなよ。ちゃんとこうやって顔見せはしてるだろ? で、調子は?」

 

 文句を垂れてはいるが本気で怒ってはいない。表情は明るい。

 

「絶好調よ。自信満々だからあんまり緊張もしないわ。今ならシショーにも負ける気がしない。あの話本当だったのね」

「悪いけど俺にも師匠としてのプライドがある。お前にだけは絶対負けないからな。……ブルー、絶好調は結構なことだが油断はするなよ? 調子に乗りやすいからな、お前は」

「シショーこそ初戦敗退とかしてガッカリさせないでね? ナツメちゃんが相手だともしかしたら簡単に負けちゃうかもしれないし」

 

 言ってくれる。俺の心配をする余裕があるとはな。

 

「俺が負けるわけないだろ。ナツメごときには負けてやれねぇな」

「それは聞き捨てならないわね」

 

 なぜいつも俺の死角から現れる。自分から見えない位置なのですごく居心地が悪い。

 

「その声は……誰かと思えば泣き虫ナツメちゃんじゃないか。今日は負けても泣くなよ?」

「今ここで試合に出られない体にしてあげましょうか?」

 

 現状ナツメは死角にいるのでオーラは見えない。……この冷たい声色に淡々とした口調だと本気にしか聞こえないが、たぶん冗談のつもりなんだろうな。本心がわからない状態だと本当に怖い。

 

「……冗談だ。ナツメちゃん、出場するのは久しぶりなんだろ? 見てる奴にちゃんと強くなったところを見せろよ。俺も全力で戦うから」

「当たり前よ。レインくん、私のこと楽しませてちょうだいね。待っているから」

 

 自信はありそうだな。なんとなくキクコとの対戦が近いのは偶然ではない気がしている。ナツメはキクコにも勝ってリベンジする気に違いない。

 

 普通負けた相手とは対戦したくないと思うが、前回俺に負けたことも引きずる様子がないし、ナツメにも策があるということか。あまり油断しないように気をつけよう。

 

 ◆

 

『さぁ次の試合に参りましょう! 今年4人目のルーキー、リーグ優勝者のレインと、それに対するは5年ぶりとなるリーグ出場で注目を集めているエスパー少女ナツメだ! これは1回戦から見ごたえのあるマッチアップとなった!!』

 

 ナツメは無言でこっちを睨んでいる。いや、あれは集中しているだけか。無表情だから睨まれているような気になるだけ。……なんかだんだんナツメのことがわかってきたな。別に嬉しくもないことだが。

 

 おそらくテレパシーを使うだろうから一言もしゃべる気はないだろう。ナツメ以外の相手は偵察に行って自分の目で見れば技構成の傾向などをある程度調べられるが、初戦の相手だけはどうしても全くわからない。また以前のように“サイコキネシス”の一本調子なら助かるが……。

 

『フィールドはレイン選手が“はがねタイプ”、ナツメ選手が“エスパータイプ”だ。この2つのタイプのポケモンにも注目だ!』

 

 俺が選んだのは結局はがねタイプのフィールド。理由はこのタイプがカントーにレアコイルしかいないからだ。できるだけ相手を助けずにこちらの重要な技の威力を上げるとなれば全抜きに関わる“バレットパンチ”を強化するのが1番いい。少なくともジムリーダーと四天王が使うフィールドは避けるべきだ。

 

 フィールドの効果は事前に把握している。計算するとだいたい1.5倍というところ。補正としてはやはり大きい。なお有利タイプを半減などの効果はない。同タイプに1.5倍だけだ。

 

 敢えて付け足すならみずタイプのフィールドには特別に水場がついている。水中のポケモンを使うならみずのフィールドを使いたいところ。実際ブルーはくさタイプではなくみずタイプを選んだようだ。特にあいつはラプラスが“ちょすい”持ちである上にみずタイプに有利なポケモンが多いから妥当なところだろう。

 

「では両者ボールを構えて」

 

 さて、いよいよだな。入念に準備をしてきてし、想定される状況はある程度シュミレーションしている。不意を突かれるようなポカはしない。

 

「よーい……はじめっ!」

 

 始まった。審判の掛け声で同時にボールを投げる。出てきたのはヒリューとフーディン。俺はパチンと指を鳴らして素早くフーディンを調べた。

 

 フーディン Lv58 ひかえめ

 

 実 140-61-63-237-169-162

 

 いきなりかまして来やがった。初手に切り札投入かよ。たしかにそれも悪くはないが大勝負でずいぶん思い切ったことをする……出会い頭で倒されたりとかは怖くないのか?

 

「……」

「ゴウ!」

『両者無言の牽制か? 互いに攻撃せず静かな立ち上がりとなった!』

 

 こちらは“ステルスロック”を使うが相手はじっとしたまま動かない。なんだ? いきなり“サイコキネシス”で倒しに来ると思ったが違うのか? 不気味だな。

 

「攻撃」

「……」

 

 単に攻撃と指示する時は必ず“ストーンエッジ”と決めてある。エスパー相手にはこれ以外の攻撃技を使う状況は考えにくいからだ。遠距離技で威力が最も高いこの技が1番有効になる。

 

 まずはこっちの攻撃が先に決まる。ヒリューが石の礫を創り出し一直線にフーディンめがけて解き放った。こっちが技を出し切った後で相手の目が光り攻撃が飛んでくる。……このタイミングなら不可視の攻撃といえども十分躱せる!

 

「右へそれて」

「ゴゴゥ!?」

 

 しかし見えない攻撃がヒリューに直撃したようだ。そのままバランスを崩して地面に墜落……気絶している。

 

「プテラ戦闘不能!」

『先に1本取ったのはナツメ選手だ! やはりその実力は本物っ! ブランクを感じさせない素早い攻撃! その強さは微塵も衰えてはいないようだ!』

 

 避け損ねたのか? しかも一撃。思ったより威力が高い。プテラは配分を変えてHS振りにしてある。いくら特攻が高くてフィールドの補正があるとはいえクリーンヒットではない以上等倍技で倒れるはずはないんだが……。

 

 そもそも今の攻撃、確実にフーディンの視線の先からは外れていた。にも関わらず被弾している。以前のバトルではこの方法なら確実に回避できたのだが……何かあるな。

 

「アカサビ」

「サム!」

『あれはハッサムだ! はがねタイプのポケモンです! レイン選手、早くも切り札投入か?!』

 

 アカサビ Lv54 @しあわせタマゴ

 

 実 156-215-126-69-103-122

 

 技 1バレットパンチ

   2でんこうせっか

   3むしくい

   4つるぎのまい

   5まもる

   6みがわり

   7とんぼがえり

   8つばめがえし

   9バトンタッチ

  10かわらわり

  11ちょうはつ

 

「……」

「1」

『両者無言、技の指示が先程から全くありません。これは実に奇妙な戦いとなった! いったいこの両選手は何を考えながら戦っているのか、私には想像もつきません!』

 

 ここは考える必要もない。フーディンには“ストーンエッジ”がしっかり当たっている。残り体力は少ない。余裕で圏内だ。相手が行動する前に先制技の“バレットパンチ”が決まった。

 

「フーディン戦闘不能!」

『出たぞバレットパンチ! ルーキーのレイン、あの技でいったい何体のポケモンを倒してきたのでしょうかっ!』

 

 アカサビが相手を倒す間、自分に時間的余裕ができたので能力変化を確認した。そこでようやくナツメの行動に気づいた。

 

「めいそうを使わせていたのか。お前がこんな技を使うとは」

「……」

 

 ナツメは黙ったままだがオーラは少し喜んでいる。成長したところを見せられて嬉しいらしい。微笑ましいというか、わかりやすい性格をしているな。

 

 実際これは大きな進歩だろう。能力を上げる行動というのは何も考えずにできることではない。その間に倒されては元も子もないからだ。間違いなくナツメは最初の“ステルスロック”を読んでいた。俺の戦術はさすがにバレバレ過ぎたようだ。ナツメに簡単に読まれるようではダメだな。

 

『今度はレイン選手が倒した! 互いに譲らない展開となりました。ナツメ選手は黙って次のポケモンを投じた! 次はいったい誰だ?』

「バリバリッ!」

 

 ナツメの次のポケモンはバリヤード。あいつにしては珍しくおしゃべりなポケモンだ。ナツメはハッサムにバリヤードをぶつけてきたわけだが……何を考えているのやら。

 

『あーっと! 周りを浮遊する岩がバリヤードに直撃! 先ほどプテラが使った技の効果のようだ!』

 

 バリヤードは特防が高い反面、防御はかなり低い。物理主体のアカサビには恰好のカモ。そのまま押せそうなので再び“バレットパンチ”を選択。一致テクニフィールドで威力135の先制技……乱数1発ぐらいだろう。これで吹っ飛ばしてやれば万一耐えても追撃して仕留められる。

 

 しかし攻撃が決まる直前何かがアカサビを遮った。バリヤード特有のパントマイムの動き……。

 

「壁か……」

「……」

 

 今のも判断ミスだったか。おそらく使ったのは“リフレクター”だろう。5ターンの間こちらの物理攻撃の威力を半減する。フィールドにかけるタイプの技だ。物理防御の低いエスパーにはおあつらえ向きの技ではある。だがナツメがここまで補助技を使いこなすとは思わなかった。バリヤード投入は最初からこれが狙いか。

 

 俺はバリヤードが攻撃してくれば先にアカサビの攻撃が決まって倒しきれる計算だった。だが補助技なら話は別。こちらの攻撃より先に決まり、吹っ飛ばすどころか完全に受け切られた。しかも先制技の技後硬直でアカサビはすぐには動けない。至近距離で“サイコキネシス”を受けた。

 

「7」

「ンバリー!」

「バリヤード戦闘不能!」

 

 “とんぼがえり”で相手を倒しながら交代。“リフレクター”が残っている間は特殊技で攻めるしかない。みゅーは試合後の回復要因なので実質使うことはできないしユーレイは“みちづれ”用に残したい。となればここはイナズマ一択。

 

「ダースッ!」

「……」

「ボンキアーッ」

『おおっ!? おおおっっ!! 両者可愛らしい鳴き声のポケモンだっ!! 戦いですさんだ心が癒されるようです!!』

 

「面白いな。同族対決ね。予知でもしたか? 1」

「……」

 

 相手のポケモンはエーフィ。図らずもブイズ対決。とりあえずは無難に“バトンタッチ”を目指すか。

 

「近づいて3」

「……」

 

 ん? どうした? イナズマが……ではない。ナツメが変だ。なぜか急に攻撃をやめた。その上この感じ……笑っている? そんな感情が伝わってくる。

 

「イナズマ、中断して離れろ!」

 

 イヤな感じがしたので即座に離れさせた。また“めいそう”を使っているようで動きはない。その間に敵を観察して驚くべき事実に辿り着いた。

 

 エーフィ Lv58 マジックミラー @たつじんのおび

 

 実 150-73-75-231-169-148 C1↑ D1↑

 

 夢特性か! ブルーのレアコイル以来じゃないか? たまに夢特性持ちがいるのはわかっていたがエーフィの夢特性は特に厄介だ。

 

 “マジックミラー”は変化技を跳ね返す効果がある。複数体に効果が及ぶ技なら有効だったりと抜け道は割とあるが、とはいえ変化技が効かないのは恐るべき強さだ。

 

 しかもナツメがその効果を熟知しているのは間違いない。こっちが近づいて“あくび”を使おうとしたのを分かった上であえてそれを受けようとしていた。隙を見てきっちり能力も上げてくるし厄介だ。

 

 さっきからうまく勝ちパターンにもっていけない。毎度毎度こちらの動きを殺すような立ち回り。偶然とは思えないな。考えてみれば前回ナツメと戦った際にも俺は“バトンタッチ”で勝ったし、ここに来てからも何度も見せてしまっている。当然意識はするか。……わかっていても対策できないと思っていたのにうまく対応されてしまった。

 

 “マジックミラー”なんて完全に“あくび”対策で用意したのだろうな。だから“ステルスロック”の時は敢えてエーフィには交代せずに温存したのだろう。それだけイナズマが警戒されているということか。

 

「1」

「……」

 

 仕方ない。やりたくないが正攻法で攻めるしかないな。

 

「ダァァァッ!?」

「フィィィッ!?」

 

 互いに攻撃を受けて五分の勝負。……いや、“めいそう”された分こっちが劣勢か。速さでは圧倒的な差をつけているがイマイチ相手の攻撃を躱しきれない。しかも掠っただけでも大ダメージ。どうにかあの攻撃を躱したいが……もしや視線の先だけでなく曲げることもできるのか? 

 

 あ、そういえば……。たしかジム戦の後あれこれ教えさせられて、その時に攻撃の仕方を工夫しろとか助言をしたような気もする。言った俺自身あまり覚えてないのにナツメはちゃんと聞いていたのか。

 

 こうなると避けるのは諦めて1体ずつ差し違えるつもりで倒していくしかないな。

 

「まっすぐ1」

「……」

 

 まっすぐ繰り出した“10まんボルト”は突然相手の分身が現れて回避された。紙一重、絶妙なタイミング。分身はイナズマを中心にしてその周りを円を描くようにして回っている。……サーチ!

 

「右に…」

 

 右に1、と言い切れなかった。すぐにサーチで本体を探して指示を出すが俺が言い終わる前にイナズマが攻撃を受けて倒れてしまった。どうしても指示を出すまでにラグができる。普通のトレーナーが相手なら誤差のようなものだがナツメ相手だと致命的だ。

 

 ……正直厳しい。規格外の指示伝達速度もさることながら、こっちの行動を読まれているのも厄介だ。予知はできないと言っていたし、おそらく直感的なものなのだろう。だがナツメはそれがズバ抜けている。そしてその強みを最大限に活かしている。

 

 ナツメはとうとう自分の資質に目覚めたらしい。

 




相手の手持ちはゲーム内で使ったポケモンなどを調べて参考にしています
具体的にはHGSSの再戦パーティーやPWTなどです

鉢巻バレパンはフーディン、バリヤード程度なら満タンでも1発みたいです
サイキネ半減で先制技確1は天敵過ぎますね

レインのアナライズに使用制限が加わった関係上本編中の能力表示機会は減ると思います
一応ちゃんと番号は考えながらしてますし計算もざっくりはしてますので……
決して面倒くさいわけでは……

イナズマは今までと同じ番号です 
10まん めざパ あくび バトン ですね
プテラは何気に今まで一度も技が出ていないですね
もう少し先で出ます
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