Another Trainer   作:りんごうさぎ

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9.迷いを捨てて 信じる先に

「ついに出てきましたか……あの時のウインディ」

『レイン選手のポケモンはほのおタイプのウインディ! くさタイプには有利なポケモンだ!』

 

 エリカは苦々しげにグレンを見つめている。あいつにとっては顔も見たくないポケモンだろうな。だが俺にとっては希望そのもの。もう負ける気がしない。

 

「グレン、今回もちっとばかし数が多いが俺達にとってはいつものこと。お前なら余裕だな?」

「ガウ!」

 

 任せとけ……か。はりきってやがるな。

 

「そんなことを言って……まだ懲りないのですね。無茶をさせてもポケモンが傷つくだけだとなぜわからないのですか?」

「違うな。これは信頼だ。こいつならお前のポケモン全て倒すぐらいわけないという絶対の信頼。お互いにお互いを信頼してこそ実力をフルに発揮できる。負けると思ってれば勝てるもんも勝てないだろ?」

「よろしい……ならばわたくしが現実を見せてさしあげましょう」

「6!」

「ヘドロばくだん!」

 

 短い指示の応酬。エリカは“みがわり”を読んで即座に攻撃を仕掛けてきた。だがグレンは真っ赤な炎を纏い攻撃を避けながら凄まじい速度で敵に接近! 完全に予想外のことで相手の対応が大幅に遅れ、見事に攻撃が命中した。

 

「確定1発」

「ウツボット戦闘不能!」

『渾身の一撃が決まったぁぁ! 追い詰められた状況で流れを変える活躍! レイン選手ここにきてとんでもない隠し玉を用意していた! ウインディは大会初出場でいきなりその強さを存分に見せつけた!』

 

 ウインディ Lv57 むじゃき

 

 実 184-183-109-131-95-182

 

 ウツボット Lv56 ひかえめ 

 

 実 0/173-125-95-171-101-123

 

 グレンは失いつつあった流れを一気に引き戻してくれた。たった1ターンの攻防でここまでやるとは……まさに千両役者。グレンはやっぱりサイコーの相棒だな。

 

「今のはフレアドライブ!?」

「いいや違う。ウツボットのようなやわなポケモンに大技は必要ない。これはただの“かえんぐるま”だ」

「今の威力で……信じられませんわね」

「わかってないな。なにも天候を利用するのはお前だけの専売特許じゃない」

「……なるほど、そういうことでしたか。わたくしとしたことが迂闊でしたわ」

「強いひざしは元来ほのおタイプの味方でありくさタイプの敵だ。今のグレンは簡単には倒せない」

 

 さっきの“かえんぐるま”……一致抜群天候で4.5倍。威力にして270だ。やつの耐久値はずっとアナライズして見ていた。余裕の確定1発。計算に狂いはない。

 

「次は誰で来る?」

「決まってますわ! 行きなさい! のろい!」

「ユレイドルか。ならこっちも交代しようか」

 

 いくらグレンの調子が良くても無理な相手には突っ張れない。恐らくユレイドル自体グレン対策で用意したポケモンだろう。ここは一度引くしかない。ゆっくり相手の分析をして能力を上げた直後に交代。俺が繰り出したのはメタモンのみゅー。だが今回は今までとは一味違う。

 

「出た途端にへんしん!?」

「こいつの特性の効果だ。そしてこいつには恐ろしい道具を持たせてある。ストーンエッジ!」

「こちらもストーンエッジで応戦しなさい!」

 

 しかしこっちの攻撃が相手の放つものよりも先に決まり完全に押し切った。威力が同じでも勢いが違う。

 

 今の攻防、完全にみゅーの攻撃がワンテンポ速かった。……まるで先制技を使ったかのように。

 

『どうなっているんだ!? メタモンがいきなりへんしんした上に元のユレイドルよりも圧倒的に速いように見えるぞ!? 何が起こっているんだ?!』

 

 みゅーも“へんしん”戦術に磨きをかけている。夢特性を獲得させ持ち物に“せんせいのツメ”を用意した。

 

 特性“かわりもの”は場に出た瞬間“へんしん”する効果がある。これで最初のターンを浪費せずに済む。そして“せんせいのツメ”は一定の確率で技の優先度を1上げる。この効果で同速勝負に終止符を打つ。

 

「速い! へんしんしたなら能力は完全に同じはずなのにどうして……」

「それがそうとは限らないんだよな。もう一度!」

「仕方ありません……交代、ねむりごな!」

 

 先程エリカは“ストーンエッジ”で“どくどく”を相殺してみせたがさすがに岩では“ねむりごな”は防げない。そのまま相手に攻撃を飛ばすが出てきたラフレシアはこっちの攻撃を躱しながら見事に催眠を決めた。みゅーは眠ってしまったか。

 

「せいちょう!」

「戻れメタモン!」

 

 その技が使えるのは視えている。相手の分析に集中しているから技はだいたいわかってきた。

 

 眠ったままではマズイので当然すぐに交代だ。能力アップは痛いが考えようによってはユレイドルに交代されにくくなる分ラッキーともいえる。眠ったみゅーはもう戦力にはならないだろうしユレイドルもグレンで突破するしかない。

 

 状況はまだ厳しいがここを上手く起点にできれば活路が見えてくる。逆に言えばこの能力が上がったラフレシア相手に起点にできるほどの圧勝が求められる。倒すだけではダメだ。……無茶でもやるしかない。

 

「今このラフレシアは全ての能力が飛躍的に向上しています。いかにウインディ相手といえど負けはしません。ねむりごな!」

「そういいつつ最初は催眠か。ずいぶん慎重だな。グレン、かえんほうしゃを周りに展開しろ! ほのおの壁を作れ」

 

 グレンは見事なコントロールで炎を操って見せた。グレンの体より一回り大きい炎が前方に半円状で展開される。“ねむりごな”は全て焼かれてグレンにまで届くことはない。

 

 エリカ、お前が“あくび”対策をしていたようにこっちも催眠対策ぐらいあるんだよ。といってもこんな曲芸みたいなこと俺のパーティーじゃグレンにしかできないが……。やはりグレンが頼りだ。

 

「なら丁度いいですわ。攻撃する気がないなら……ラフレシア、さらにせいちょうして能力を高めなさい」

「グレン」

「ガウッ」

 

 催眠が通じないと見るやすぐに方針転換。さっそく能力を上げてきたか。さすがジムリーダー様、油断も隙もありゃしねぇ。ムダがない。

 

 そう、たしかに悪くない。実際炎越しに攻撃を決めるのはラフレシアでは難しいだろう。距離もそこそこ開いている。ここは“せいちょう”を使うのが無難。だがそれが正解だとは限らない。

 

 ……グレンはわかっている。俺の意図を汲んでくれた。

 

 エリカが慎重に立ち回るのはけっこうだ。けどな、今あんたは圧倒的な優位にいる。だからこっちはもっと大胆に攻められる方が怖いんだ。その辺をまだわかってないな。ここが絶好の起点!

 

「ラフッ!」

「2回のせいちょうが完了……お天気も踏まえればもう十分ですね」

 

 “せいちょう”は晴れだと2段階アップだったか。すでに攻撃特攻共に3倍……相手も仕掛ける頃か。

 

 炎の壁がゆっくりと消えていき敵の姿が肉眼で見えた。エリカは2体を隔てる障害が消えて笑みを浮かべている。

 

「これ以上は能力を上げてもムダでしょうね。そろそろ最後の仕上げといきましょうか。ラフレシア、ソーラービーム!」

「グレン暴れるぞ! 一気に詰めろ!」

「!」

 

 グレンは小さく頷いた。“ソーラービーム”を避けつつ勢いよく飛び出し一気にラフレシアに向かって駆け出した。猛然とダッシュしてみるみる距離を詰める。

 

「4!」

「向かってくるなら好都合。ねむりごな!」

 

 思わずニヤリと口角が釣りあがる。かかったな。

 

 いかにもこれから攻撃するぞという姿勢はブラフ。4は“こうそくいどう”の指示だ。グレンはまっすぐラフレシアに向かって走っていきその目の前で“こうそくいどう”をした。“ねむりごな”が舞う中、グレンはその場でグルグルと回り続ける。

 

「どういうこと?! 眠らない?! しかも攻撃もしない?! 何がどうなって……まさかまたっ!?」

「さすがに前回で懲りたか。今回は気づくのが早いな?」

「わたくしの状態異常を全て無効にしてしまうこの技、間違いない……みがわりぃぃ!」

「そう……みがわりだ!」

 

 苦々しげに技の名を吐き捨てるエリカを見て笑みを深める。一矢報いたな。

 

「常に細心の注意を払っていたのにどうしてっ!? わたくしは一度も目を離しては……あっ!」

「気づいたか。たった一度だけお前はグレンを見ていなかった。いや、見れなかったというべきか」

「“かえんほうしゃ”の壁! あのときからすでに……!」

 

 タネは簡単。壁で死角を作った間にグレンは“みがわり”を使って待機。そして“ねむりごな”をもらうためにわざと敵に突っ込ませその目の前で堂々と能力を上げたわけだ。

 

 お互いに無条件に信じあえるからこその連携。俺とグレンだからこそできるエスパー顔負けのコンビネーション!

 

「ですがそれではおかしいはず……“みがわり”にはある程度時間がかかることは知っています。なのに技が完了するまで炎が消えないなんて……」

「普通ならな。だが燃料があれば話は別。皮肉にもそれはあんたのくれたものだぜ?」

「……!! 最初からわたくしのねむりごなを利用する気でっ!」

 

 そう、全て“ねむりごな”を徹底的に利用することを前提としている。ぶっつけ本番の連携だったが失敗する気はしなかった。

 

 エリカは慎重になればなるほど眠らせてから確実に仕留めようとする。その傾向はこのバトルの中ではっきりと感じていた。そしてエリカは俺に対して何度も眠らせることに成功している。だからこそ頼り続ける。ましてや相手の方から接近してくればもう選択の余地はなかったはずだ。そこを狙い撃ち。

 

「ラフゥ……」

 

 ラフレシアは攻撃しないグレンを不気味に感じたのか後ろへジャンプして距離を取った。エリカもイヤな空気を感じているのか表情は険しい。さっきまでは読まれっぱなしだったがここから場を支配するのは俺の方だ。

 

「ガウッ」

「よし……さぁ、今度こそ本当の仕上げだ。この距離ならグレンは絶対に外さない。……覚悟はいいな?」

 

 グレンから能力を上げ終わった合図。素早さはこれで2倍だ。これでもうするべきことは全て終わったがエリカの方にも探りを入れておこうか。これに対してどう反応するかであいつの考えが透けて見える。

 

「……! いいえ、素早さならラフレシアの方が上! 先にラフレシアの攻撃が決まるはずです! くさタイプの攻撃だけだと思ったら大間違いですよ! ドレインパンチ」

 

 お前は“こうそくいどう”には気づいてないようだな。やっぱり案外わからないものらしい。もう勝敗は決した。

 

 “せいちょう”で大幅に攻撃力を高められた“ドレインパンチ”が“ようりょくそ”による圧倒的な素早さから繰り出される。当たれば即ひんしの高速の拳。当然グレンが倒れたらそこで敗北は決定的。しかし俺には何の気負いも不安もなく悠然と構えたまま一言だけ口にした。

 

「十分に引き付けて躱せ」

「過信しましたわね。これで終わりです!」

 

 ラフレシアは体の内側から巻き込むようにして拳を突き出した。しかしそれは空を切る。

 

「ラフッ!?」

「この間合いでこの速さの攻撃を避けきりなお余裕があるのですか!? まさかそこまでの素早さをっ!?」

 

 俺はたとえ味方でも決して過信することはない。数字は淡々と事実のみを伝える。そこに主観が入り込む余地はない。

 

 グレンは今素早さ上昇は2倍で“ようりょくそ”とイーブン。そして種族値は95と50。相手も最速だったとしても格が違う。

 

 ラフレシア Lv60 おくびょう @くろおび

 

 実 177-103-121-184-127-133

 

 ギリギリで躱したので攻撃直後で動けない相手がグレンのすぐそばにいる。グレンは俺の指示を待ちながらもすでに大きく息を吸っていた。

 

「無防備な背中が丸見えだな。かえんほうしゃ!」

「ヴォウッ」

 

 ステロ込み確定1発。背後からの攻撃にはいかに素早かろうと成す術もない。

 

「……ラフレシア戦闘不能!」

「ラフレシアまで!?」

『ウインディ、勢いが止まらない! 完全に攻撃を見切って貫禄の勝利だ!』

「エリカ……お前はまだポケモンの全てを知っているわけじゃない。能力を上げるのだってお前だけの専売特許じゃないはずだろ?」

「まさか素早さを上げていたのですか!? そんなタイミングは……ええい、そんなことを考えても仕方ない! いきなさい! ストーンエッジ!」

 

 出てきて早々に攻撃か。さすがに能力を上げられたと知って焦ってきたな。今度は攻め急いでいる。さっきまでの慎重さが消えた。

 

「走って振り切れ!」

 

 まずはあの邪魔な岩をなんとかしないとな。グレンは右に左に走り続けるが“ストーンエッジ”はずっとその後ろをぴったりくっついてくる。まるで“でんげきは”のようだな。幸いなのは“でんげきは”と違いオート追尾ではなさそうなことか。集中するユレイドルが別の技を使ってくる気配はない。

 

「ずっとおいかけっこを続けるつもりですか? いつまで持ちこたえられるのでしょうね」

「なら本体を狙うまで。グレン、いけ! 1!」

「……まさかそのまま突っ込んでくる気!? くっ、構いません! ユレイドル、敵への攻撃を優先しなさい!」

 

 ドゴォォォン!!

 

 グレンが“フレアドライブ”で突っ込み、そこに“ストーンエッジ”も加わった。炎と岩の衝撃で砂塵が辺り一面に広がる。目視では何も見えないが俺には特別な目がある。

 

「8」

「みがわりで凌ぎましたか……ユレイドル、全方位にげんしのちから!」

 

 ムダだ。今立っているのは1体だけ。凄まじい威力の“フレアドライブ”をまともに食らった上に“ストーンエッジ”も半分は自分に当たっている。“ステルスロック”のダメージも重なりユレイドルにもう体力は残っていない。耐久に振っていないせいで思ったよりかなり脆いな。

 

「んんっ!! ユレイドル、戦闘不能!」

「ユレイドルだけ!? くぅ……」

『ユレイドルも戦闘不能だ! しかしこれはウインディにとっても大きなダメージになってしまったか?』

 

 それはどうかなぁ。今は砂塵に隠れているがそれが晴れれば……。

 

「ヴォオオーーウ!」

 

 砂塵の中から現れたグレンは強い日差しを浴びながら大きく吠えた。傷は癒えてみるみる体力を回復する。それを見てようやくエリカも事の次第を理解する。

 

「さきほどの指示は攻撃ではなく回復の指示! それもつよいひざしを受けてのあさのひざしっ!」

「おかげさまでゆっくり日光浴ができたよ。体力満タン絶好調だ。感謝するぜ?」

「“ねをはる”と同じようにやり返したというわけですか……」

 

 “あさのひざし”は天候が味方すれば体力を2/3回復できる。“みがわり”と“フレアドライブ”の反動の分はきっちり回復できた。

 

 今エリカが数の優位を活かしてとにかく相打ち覚悟の攻めをしているのは明白。だからこそ回復だ。もうこうなったらグレンは止まらない。

 

「いきなさい、ナッシー!」

「高らかに宣言ねぇ……3」

「ねむりごな!」

 

 くだらねぇなぁ。お前の考えはもう全部見切った。“ねむりごな”で眠らせることしか頭にないのはバレバレだ。いよいよ追い詰めたな。

 

「今の番号がみがわりなのですね。やはり全て変わっている……」

「よくわかったな。わかったところで意味はないが……2!」

 

 グレンから最大火力の“オーバーヒート”が放たれた。ナッシーはやや耐久力が高めなので念のためだ。能力を見る暇がなかったからな。これを食らえばひとたまりもないはず。

 

「ナッシー戦闘不能!」

「わたくしの裏をかいて……やはりその子をこれまで使ってこなかったのは番号でひっかけるためですか」

「そうだ。そもそもお前は俺の行動を読んでいたわけではない。俺の指示する番号を聞いてから行動していただけ。こんなこともあろうかと切り札のグレンだけは番号を変えていたわけだ」

 

 相手が番号を分析してこっちの行動を読んでくる可能性は当然考えていた。これまで全く並びに細工をしてこなかったからな。ならば逆にそれを利用する。

 

 そしてこうした裏をかく行動を見せれば今後の勝負においても少なからず影響を及ぼす。これまで信用してきたデータも軒並み保証を失うわけだ。

 

「それでも今あなたが使ったのは紛れもなくオーバーヒート。見間違えるはずもありません。なら能力が下がっている今がチャンス!」

『エリカ選手次のポケモンはモジャンボ! モンジャラの進化系だ!』

 

 ほう、今モジャンボを出したということは少なからず防御と特防の違いには気づいたのか。特にモンジャラは直々に教えてやったしなぁ。

 

 モジャンボは無振りで比べれば防御に関してはスイクン以上。だが特防はフーディン以下。極端な差がある。だから特攻が下がったところを狙うのはいい判断ではある。

 

 ……能力が下がったままならば、の話だが。

 

「グレン」

「ガブッ」

 

 グレンは“しろいハーブ”を使ってステータスを戻した。

 

「かえんほうしゃ!」

「げんしのちから!」

 

 技がぶつかり合うが威力が桁違いだ。グレンの攻撃は相性を跳ねのけて相手の攻撃を打ち消し、それでもなおモジャンボに大ダメージを与えるほどの威力を兼ね備えていた。半分以上持って行ったな。

 

「威力が衰えていない!? ならじしん!」

「チッ、ヒリューは使えないか……かえんほうしゃ!」

「モジャモジャ……」

「モジャンボ戦闘不能!」

 

 モジャンボも戦闘不能。相殺しにくい“じしん”を使って確実に“みがわり”を壊しにきたか。確実に消耗させられはしたが相手も数を減らしている。その上エリカはグレンに対しては有利なポケモンから順に出していたはず。ならエリカはグレンに最も相性が悪いのであろう最後のポケモンを残すのみ。

 

「5」

「あと少しです! 頑張って! フラフラダンス!」

「くっ、ここで混乱か」

『追い込まれたエリカ選手、最後のポケモンはキレイハナだ! ウインディを倒し、なんとか望みを繋げることはできるか?!』

 

 草単一か。やはり相性は圧倒的にこちらが有利。だが問題は苦し紛れの“フラフラダンス”、これが面倒だな。

 

 ずっと“ねむりごな”系列を警戒しグレンには相手から距離を置かせていた。攻撃も遠距離中心だ。だから状態異常にかけられることはないと思っていたがここにきて視覚で訴えかけるタイプの技が来た。これでは距離は関係ない。

 

 エリカめ……“みがわり”で散々苦渋を舐めたくせによく平然とこんな指示を出せたな。大した度胸だ。

 

「グレン、踊りにつられるな! まっすぐ敵へ攻撃しろ!」

「ガウ……!」

 

 グレンは混乱を振り切りしっかりと攻撃モーションに入った。よし、いける!

 

「終わったな」

「それはどうでしょうね」

 

 グレンはしっかり狙いを定めて俺の指示通りまっすぐ“かえんほうしゃ”を放った。しかしダメージがない。……攻撃が外れた!? ちゃんとまっすぐ攻撃は決まっていた。どういうことだ?

 

「これは……ひかりのこな!!」

「ソーラービーム」

 

 こいつ最後の最後にめちゃくちゃなポケモン使いやがって! あの踊りの動きと合わせて幻惑されて当てづらくなっているのか。こんにゃろっ……こんな無法がまかり通るのか!?

 

「グレン、あさのひざし!」

「ガウ~~?」

『あーーっとわけもわからずじぶんをこうげきした! 畳み掛けるようにソーラービームも直撃! レイン選手思うように攻撃ができていない! 万事休すか!?』

 

 マズイな……。半減でも威力は一致半減フィールドで135になる。体力の約半分を持っていかれた。次自滅したら負け。かといって交代して混乱を外しても再びグレンを出すタイミングで“せいちょう”を使われたら“あさのひざし”でも受け切れなくなる。ここまできて負けるのか。

 

「ガウン!」

「……!」

 

 名前を呼ばれてグレンに目をやった。よく見ると混乱が治っている?! 自力で解いたか! 痛みで正気に戻ったのかもしれない。

 

 グレンが俺を見つめている。グレンの目……まるで自分を信じろと俺に訴えかけているようだ。そういえば試合前にも同じことを……。

 

 あぁそうだった。一度グレンに任せると決めたんだよな。なのに中途半端な“かえんほうしゃ”で一度様子を見たり、慌てて“あさのひざし”で回復しようとしたり、俺は一体何をしていたんだ! 相手は最後のポケモンで、こっちはエース出してんだぞ? 今ここで勝負にいかなくてどうするっ!

 

 思えば仲間が増えた頃からそうだった。最初はグレンの負担を減らすためのはずが、気づいたらアカサビやイナズマの強さに頼るようになり、グレンのことを信じてあげられなくなっていた。そんな俺の心中をあいつは見透かしていたのかも……。

 

「もう一度フラフラダンス!」

 

 もう迷わない。お前を信じるよ。

 

「グレン、決めちまえ!」

「ガウガッ」

 

 豪火一閃。この日最高の一撃。一致抜群天候、さらに急所を乗せた。もう計算するのも面倒な威力だ。グレンは混乱状態をものともせず見事に技を成功させた。技が発動する瞬間心が1つになるような一体感に包まれた。

 

 キレイハナは特防が高め。“かえんほうしゃ”なら乱数1発というところ。だが“オーバーヒート”なら文句なく一撃。急所に当たればオーバーキル。これで勝負アリだ。

 

「キレイハナ戦闘不能! 勝者レイン!」

『決まったぁぁ!! 驚くべき逆転劇でレイン選手……』

 

 勝った。あの状況からやったんだ……。もう実況の声も騒がしい歓声も耳に入らない。この勝利に酔いしれていた。ふと意識を戻せばこっちを見るグレンと目が合った。自然と感謝が口をついて……。

 

「グレン、ありが…んんっ!?」

「ガウガー!」

 

 グレンはよっぽどすぐに抱き着きたかったのか試合中に使いもしなかった“しんそく”で俺に突っ込んできた。そのまま見事に“のしかかり”……お前“のしかかり”なんか覚えないだろ! 実は覚えたりするのか?

 

「ギブギブ、グレンさんすぐにのいて……ぶべっ!?」

「ガゥゥーーン!」

 

 今何人が試合見てると思ってんだよ!? さすがにポケモンに押し潰されているところなんか見られるのはみっともなくて恥ずかしいんだけどっ!

 

「あなたとその子……グレンと言いましたか。ずいぶん仲がよろしいようですね」

「げっ、エリカ!」

 

 こいついつの間にこっちにきたんだ! 気配なかったぞ!

 

「女性の顔を見てそのような反応をするものではありません。気をつけた方が良いですよ」

「そりゃご親切にどうも」

 

 売り言葉に買い言葉。つい喧嘩腰になってしまう。こいつ俺に何の用だ?

 

「あなたにはいいたい言葉がありました」

「は? いいたい言葉? そういえば……」

 

 この前見かけた時もそんなことを言っていた気がする。

 

「わたくしはあなたに負けてから色々とありました。一時は本気でトレーナーをやめることも考えましたが、どうしてもあなたが許せなかった。だから見返してやるためにあなたに勝つことを目標になんとかトレーナーを続けて修練を積みました」

「そう。やめなくて良かったな」

「皮肉で返すとは冷たいですね」

「へぇ、通じるとは思わなかった」

 

 こいつ今までもわかっていてとぼけたフリをしていたのか? いつも昼寝をしてるとかいう件もさすがに冗談なのかもしれない。意外と常識ってもんがあったのか。

 

「……もちろん不純な動機だとはわかっていました。ですがそうでもしないと己を見失ってしまいそうだった。あなたはわたくしにとってわかりやすい目標になりました。そしてあなたを倒すために徹底的にあなたのことは調べました。バトルはもちろんあなたの関わった事件などもです」

「ストーカー?」

 

 何人目だ?

 

「些細なことでも勝つために情報が欲しかった。結果、わたくしはあなたを調べるうちにあなたの為人についても多くを知るところとなりました。ニビにも行きましたしマサキさんからイナズマさんについても聞きました。その他にもたくさん……」

「はぁ!? ちょっと待て! お前聞き込みまでしたのか!? ジムリーダーしてるのに出張し過ぎだろ!! ……ジムは?」

 

 ストーカーはスルーしながらとんでもないカミングアウトをしやがった! 何考えてんだ!?

 

「あれだけ手酷い敗北をすれば突然胸が苦しくなることもあります。頭も。そういう時は気分転換でお外に出かけるのがよろしい」

「おまえ……まさか仮病か!」

「さて、なんのことやら」

 

 この顔はぜってー仮病だ! やっぱりこいつ自己中じゃねぇか! 許せんなぁ。

 

「ジムリーダーってのは自由でいいな?」

「調子が悪かったのは事実です。それにわたくしが言いたいのはそこではありません。あなたをよく知ったからこそ言っておきたいことがあります。イナズマさんを始め、ずいぶんポケモンから懐かれているようですね」

「……それが?」

「あなたほどポケモンから好かれるトレーナーはそうはいないでしょう。わたくしはあなたの一面だけしか知らなかった。ですがポケモンを見ればあなたの本当の人柄はうかがえます。あなたを倒すためにしたことが結局あなたを見直すきっかけになるなんて皮肉ですよね」

「……何が言いたい?」

「町であなたをないがしろにしていたこと、諸々含めてここで謝罪させてください。これで許されるとは思っていませんがこれがわたくしの気持ちです」

 

 そう言ってエリカは本当に頭を下げた。こんなところで……タマムシの住人も含めてカントー中が見ている中でこんなこと……だいいちなんでいまさらっ。

 

「何が目的? 俺を引き込んで何かさせようと企んでいるのか?」

「謝罪に打算などありません。あなたを見て、わたくしがそうしようと思っただけです」

「まさかこのためだけに俺を研究してここまで勝ち上がってきたのか?」

「本当はわたくしが勝つはずだったのですけどね」

 

 呆れたな。バカなんじゃないの? こんなくだらないことのためにここまでやるなんて。アホらしくて付き合ってられない。グレンはエリカが来た後頃合いを見てどいていたので俺は起き上がって立ち去ろうとした。

 

「ガウッ!」

「イダッ! ちょっとグレンッ! なんだよいきなり!」

「ガウガ」

 

 本当に無視して帰ろうと思ったがどうやらグレンがそうさせてくれないらしい。頭を噛まれてエリカの方に向き直された。わかったよ、ちゃんと話をつければいいんだろ。

 

「ポケモンに面倒を見られるようではまだまだ半人前ですわね」

「試合中に愛想つかされるよりはマシでしょ」

「……」

「あっ」

 

 さすがに言い過ぎたか。エリカは黙ってしまった。グレンにも小突かれた。

 

「たしかにそうですね。わたくしは何もわかってなかった。でも悪いことばかりではありませんでした。長くバトルをしてきましたがなかなかいい発見ができたと思ってます。あなたの言うことも少しはわかりましたし。でも、あなたはまだわたくしが憎いようですね。これ以上は迷惑になるだけでしょう。わたくしは帰らせていただきますね」

 

 そのとき初めてエリカと目が合った。オーラだけでなく言葉の端々からもエリカの気持ちが感じられ、つい引き留めてしまった。

 

「待って」

「……なんでしょうか」

「あんた……弱くなかったよ。いや、これまで戦ったトレーナーの中で1番強かった。ずっと過小評価していたと思う。過去の発言は撤回させてくれ。悪かったな」

「……やっとトレーナーになれた気がしました。ありがとう」

「礼を言われる筋合いはない。もうこれで俺が言うことはないし、謝ったんだからこれでチャラ。さっさと帰れば」

「あらあら、素直じゃありませんこと」

「はぁ? なんかいったか?」

 

 こいつ、こっちが下手に出れば調子に乗りやがって! 思いっきり睨んでやったがいつぞやのように全く気にするそぶりもない。調子狂うなぁ。

 

「レイン、グレン、ここからは四天王達があなたに立ちはだかります。四天王はわたくしなどより桁違いに強い。その本当の強さはわたくしでは測りきれぬほど底なしです。弱ったままのポケモンでは絶対に勝てませんよ。どうするつもりですか?」

「……頑張ってけづくろいとかマッサージとかしてやって疲れをとる。やれることは全てやるつもりだ」

 

 いいながら自分でも苦しいことはわかっていた。だがなんとかするしかない。自分にできることは全てやるつもりだ。

 

「ブリーダーのようなことをするのですね。なるほど、戦った後癒してくれる人がいるからポケモン達は頑張れるのかもしれませんね。これはいいことを知りました。……レイン、こっちに来なさい」

「なんで俺がお前の指図を」

「いいから」

「ガウッ」

 

 グレンに無理やり引っ張られた。こっちに来いと言ってもいったいなにをするつもりだ?

 

「これをさしあげます」

「これは……ハーブ?」

「わたくしの家系に代々伝わるひでんのくすりです」

「ひでんのくすり?」

 

 なんか聞いたことあるような……思い出せないな。家系ってもしかしてエリカは名家の跡取り的な何かなのか? そういえばお嬢様っていってたがそういうことだったのか……。

 

「心地よいアロマが傍にいるだけで感じられるでしょう? これを使えばたまっていた疲れなどすぐに吹き飛びます」

「本当か? 今までのは芝居で本当はとんでもない劇薬でしたとかじゃないのか?」

 

 話が上手過ぎる。罠か?

 

「……」

 

 エリカは黙ったままじっと俺を見つめている。はぁ……わかってるよ。まぁ道具に罪はないからな。

 

「冗談だよ。ありがたく頂戴する。……いつか礼は必ずするから」

「礼などいりませんよ。あなたは次の試合に向けて集中してください。ささやかながら健闘を祈っています」

 

 それだけ言うとエリカは去っていった。大きな貸しを作ってしまったな。でも不思議と悪い気はしない。

 

 胸のつかえが1つ、なくなった気がした。

 




仲直りルートが待っていた……
もう何回目やねんという話ですがやっぱりお約束の展開に
いつのまにかこうなってますよね

毎度誰かが隣にいてエスパーが発動してツンデレになる
親の顔より見た光景
気づいたら誰か横にいますよね、フシギー

エリカは別格な悪役感でしたがやっぱり根は善人、殺人未遂のみゅーとも和解できたわけですし、最後はいつも和解してしまうところがレインなのかなって思ったのでこのような締め方になりました

もう少し話の展開は練り直すかもしれませんが大筋は変えないと思います
えぇーってなった方はごめんなさい


・グレンのレベル
マスターズリーグでも中心的に育て、さらにギアナでは炎4倍弱点がたくさんいて効率よくレベルが上がりました。
ポケじゃらしとピッピにんぎょうとみゅーで追い込み漁的なものをしたとかしてないとか

・ウツボットの性格
ランク7とは別個体ですね
こっちがひかえめだったのでいじっぱりの方も同じ育て方をしてしまったようです
性格と種族値を区別して認識できないので仕方ないですね

・試合中の会話
説明してもらうためにやむなしです
色々都合もあるのでそういうところは目をつぶってください

・豪火
造語みたいです
ゴウカザルがいるのでずっとあると思ってました
業火猿なのか……?

・仮病
ジムの休業理由がジムリーダー不在だったとは……
仮病かどうかは受け取り方次第です

・ひでんのくすり
効き目が強過ぎてどうのこうのというあれですね
名前を同じにしただけで関連性はないです
あながち劇薬っていうのは的外れでもない気がしますね

・信じるって?
レインは混乱麻痺眠り恐怖症
一度自爆したのを見てさらに弱気になり色々悩んでしまいました
ですがグレンを見て一か八か命運を託すふんぎりがついたわけですね
4割で勝てていたのに考えすぎて変なことをすれば負けていたでしょうね
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