~水のフィールド~
カンナさんが口にしたユキノオーというポケモン……またしてもわたしが知らない名前だった。また何か仕掛けてくるつもりね!
「名前を聞いてその反応……やっぱり知らないようね。ユキノオー、頼むわよ」
「!?」
天候が……急に“あられ”の勢いが増した。あのポケモンは特に行動してないのになんでなの? あのポケモンって出てくるだけでこんなことできるの!?
「条件は整ったわ。アイスフィールド!!」
「これはヤバイッ! なんかわかるっ! 絶対阻止しないとっ! ハードプラ…」
――慎重に行動してください――
刹那脳裏に蘇るラーちゃんの言葉。わたしを戒める大切な訓示。そうだったわ……ラーちゃんサンキュー!
「…ヘドロばくだん!」
これで間違っていても悔いはない! 女は度胸!!
「なんですって!?」
「ノオォォォーー!?」
「効いてる!? やった、効果抜群だっ! いっけぇぇーっ! 倒しちゃえぇーーっ!!」
ありったけの思いを込めて叫んだ。フーちゃんの攻撃なら一撃で持っていくのも不可能じゃない!
「でも……」
「えっ」
「そう簡単には倒れないわ」
「……!!」
ウソでしょ!? フーちゃんの一致抜群技で倒れないの!? あのポケモン耐久寄りだった!? ん? 違う?……一瞬何か見えたような?
「ユキノオー、アイスフィールドよ!」
「あっ!! 全部が氷になって……水も凍ってる!?」
『出ましたアイスフィールド!! 出れば確実に仕事をこなすユキノオー、今回もしっかり攻撃を耐えて役割を全うした! 現れたのは凍てつく氷が対戦者の身も心も凍り付かせる魔性のフィールド!! ここからはこおりタイプの威力が倍増だ!!』
「うそでしょ!? そんなのアリ!?」
フィールドが変わっちゃうなんて反則よ! 相手の選んだフィールドまで消しちゃうんでしょ?! 今回はたまたま一緒だったけど、これってすっごくズルいわよね?!
「ノォォ……」
「ユキノオー戦闘不能!」
「え、うそ、なんでこのタイミング? もしかして技の反動とか?」
「あなた……強運ね」
「へ?」
「バナバーナー」
あっ! フーちゃんに言われてわかった。相手は“どく”にかかってたのね。フィールドが変わって見逃していたわ。“ヘドロばくだん”の追加効果までキッチリ決めるなんて……サンキューフーちゃん!
「あなた、まさか自分のポケモンの特性を知らないわけじゃないわよね? わたしは水タイプを好むのに、なんでハードプラントを使わなかったの?」
たしかに威力は圧倒的に“ハードプラント”が上。反動は痛いけど絶対に敵を倒したい場面だった。わたしも考えた結果はカンナさんと同じ結論だったわ。
でもね、長考して出した答えより直感に従った方がいいことってあるのよ。わたしが窮地で学んできたことの1つね。
「……カン!」
「なるほどね。最も納得がいく解答だわ」
自信満々で答えたのに何よその返事~!
「……バカにされてる気がする」
「ウフフ、お礼にいいこと教えてあげる。気づいているでしょうけどユキノオーは天候を操る強力な特性“ゆきふらし”を持っているの。そのユキノオーだからこそこんな荒業ができるのよ。誰でも簡単にフィールドを変えられるわけじゃないの」
え、そうなの!? そんなすごい特性があるのね。……もちろん気づいてたわよっ!
ということは“あられ”は重ね掛けされていたのね。カンナさんはさっき条件とか言ってたけどこのことかしら。そしてこのフィールドの変化が目的だったなら……
「それを確実に行うためにきあいのタスキを持たせたってわけね」
「ふぅん。道具もわかったのね。それも…」
「カンじゃないわ。さっきのポケモンはこおり・くさタイプでしょう? どくが抜群なのはくさタイプだけ。こおり・くさタイプなら弱点は多いだろうからきあいのタスキを持たせることにも納得がいく」
わたしの推測にカンナさんは嬉しそうな笑みを浮かべて答えた。
「かわいいだけでなくお利口さんなのね」
「かわいい言うな!!」
なんか調子狂う! カンナさん、さっきからかわいい、かわいいって……どこまで本気なの? 大人の余裕を見せつけられてる気分。わたしのこと子供だからってぬいぐるみかなんかと一緒にしてない?
でも四天王から褒められたのはやっぱり嬉しいかも。もじゃもじゃの体毛の隙間からちょっぴり“きあいのタスキ”が見えちゃったのはナイショね。
「ブルー、かわいくってもそれと勝負は別よ。覚悟なさい!」
「望むところよ!」
手加減なんかされたら許さないわ! そんなことされて勝っても意味ないもの。全力の四天王を倒してみせる! フィールドが変わって状況は悪いけど、この程度じゃ全然わたし達はへこたれないからっ!
「出番よ! 三度出てきなさい!」
「ってことは……」
「パルパルパル!」
「バナッ!」
フーちゃんはわたしに警告するようにひと鳴き……ありがとね。
「もちろんわかってるわよ。さぁ、フーちゃんやっちゃって!」
「こおりのつぶて!」
『フィールドを味方につけた先制攻撃! 先制技と侮るなかれ、その威力はカイリューをも倒すほど強力だ!!』
カキンッ!
威勢よく声をかけたのはちょっとしたフェイク。わたし達が選択した技は“まもる”よ。どれだけ威力が高くても当たらなきゃ意味ないわ。
「ガード……“まもる”を使ったのね」
「何回もやられてたまるもんですか。フーちゃん、ギガドレインで体力貰っときましょう」
「バナッ!」
先制技っていうのは便利で強力だけど使った後の隙が大きい。もちろん“まもる”も同じだけど、フーちゃんは自分で判断して早めに使った分次の攻防で少し先手をとれた。素早さも負けてなかったみたいだしね。
先制技って読まれてしっかり対応されると逆にピンチになりやすいから難しい。こんなこと今まで気づかなかったけど……アホグリーンに少しだけ感謝ね。
「パルパルゥ……」
「パルシェン戦闘不能!」
よっしゃ! 回復しながら4体目を倒した! フィールドで強くなったパルシェンを倒せたのはかなり大きい!
できれば氷のフィールドの効果が活きる前に速攻で相手を倒していきたいわね。このフィールドの効果を十二分に使われるようならおそらくわたしの負け。なんとか阻止しないと。
あの時……ポケモンリーグ初戦では思いっきり失敗しちゃったけど、それがこんな場面で活きるなんてね。今日はラーちゃんに叱られないで済みそうかな。
「あなたは自由に行動させると厄介ね。しばらくの間……眠ってもらおうかしら」
「!」
「あくまのキッス!」
「くっ……ヘドロばくだん! 当てて!」
「ジュラァ~」
「十分耐えられるわ」
「フッジィィィ……zzz」
いきなりやられた! 水場がなくなったから前回のような回避ができない。接近されると避ける方法がないわ。手傷を負わせるのが精一杯ね。戻しても眠るポケモンが変わるだけだし。
ルージュラは特防だと意外と堅いし、考えてみればフーちゃんに繰り出すのがぴったりね。完全にやられた。想定しておくべきだったか。シショーなら“みがわり”してたんでしょうね。
「いっそまたどく状態になって!……なんないわよねぇー」
「ゆめくい!」
「はぁ!? ちょっとウソでしょ!? もうっ!!」
1回でごっそり体力持っていかれた。せっかく回復したのに! 逆に相手は回復するし……うぅぅ!!
「ルージュラ!」
「どうせやられるなら……ピーちゃん!」
“ゆめくい”は眠ってなければ効かない。交換すればダメージはないわ! それに時間が経って“あられ”もやみ始めた。まだなんとかなる!
「これは……“ゆめくい”じゃない。まさか“あられ”?! 読まれたの……!」
「ジョッ!?」
「そんなことだろうと思ったわ。ふぶき!」
「まもる!」
「ムダよ。天候を味方につければ確実に連続で当てられる。ルージュラ、トドメのふぶき!」
くっ……ごめんピーちゃん。わたしの読みが甘かった。
「ピジョット戦闘不能!」
何なのよこれ。こんなに簡単にポケモンって倒れるの? 威力が凄まじい。おそらく半端な耐久では効果抜群じゃなくても倒される。ラーちゃんを出したいけど一撃で倒せないほど回復されただろうからまた眠らされてしまう。そしたら“ゆめくい”されて延々倒せない。しかもラーちゃんのねむりはその後の展開も考えていくと即敗北級の痛手。……こうなったらあなたに全てかけるわ。
「体力はいいかんじのはず。あとはなんとか……」
「……どう来るのかしら?」
お願い、わたしの気持ちに……応えて!!
「フーちゃん、ハードプラント!!」
「……!! ふぶきで凍らせて!」
「ハッ……バナァーー!!」
起きた!? 偉い!! 天才!! やっちゃえ!!
全力の“ハードプラント”は荒れ狂う“ふぶき”を一閃してルージュラに直撃した。“しんりょく”は発動している。威力は十分!
「両者戦闘不能!」
「え、フーちゃんも!?」
「凍りついたわね。これがふぶきの恐ろしさよ。攻撃で相殺することは事実上不可能。そのうえ相手を凍らせる追加効果がある。もっとも、今回は先に体力が尽きているけどね」
「そうか。こおり状態……なんて恐ろしいの」
フフッ。びっくりはしたけど問題はない。これでカンナさんはあと1体。チェックメイトね。
「まぐれは続かないわ。いきなさいラプラス」
「ラァー……」
「ラーちゃん!……フフ」
「……」
「出たわね。その子が切り札でしょう? 氷使いとしてラプラスで負けるわけにはいかないわね。わたしのラプラスはこのフィールドではサシで負けたことはないわ。あなたのポケモン全部動けなくして…」
「クスクス……ウフフッ、アハハ!!」
だ、ダメよ……まだ笑うな……堪えるのよ。勝負は最後までわからないのだから。
「何がおかしいの?」
「ごっ……ごめんなさいっ。あの、実はわたし、最初からあなたのラプラスと勝負する気はなかったの」
「ん? 何を言って……」
「ラーちゃん、作戦通りよ」
(そういうのは性格が悪いですよ)
「ラァーーラァーー」
よし決まった! ソーちゃんもスタンバイしてたけど使わなくて済みそうね。カンナさん、悪く思わないでね? 勝負の世界って非情なの。
「ほろびのうた!? でもそんなことすれば自分も……!! ラプラス、急いで10まんボルト!」
「まもる」
「ラッ!」
「…………戻ってラプラス。参ったわ。降参よ」
「カンナ選手を降参とみなし、勝者ブルー選手!」
「んん~~~いよっしゃああぁぁーーーっ!!!」
勝つまで油断するな、まだ油断するなって抑えていたけどもう限界!
「イエイイエイイエーーイ!!! もうサイッコーだったわ! フーちゃん強過ぎ! 何体倒したの?! ほとんどフーちゃんよね?! ヤッホーい!!」
(ブルー、みっともないですよ。観衆の前です!)
「堅いこと言わないでよー。もちろんラーちゃんにも感謝してるわ。チュー!」
「ラァアアッ?!」
あっ! そっぽ向いてボールに戻っちゃった! せっかくキスしてあげようと思ったのに。もう、照れすぎでしょ。
……テレパシーでいじめちゃおっ!
(なんで逃げるのよ~)
(それは……あっ、ほろびのうたの効果をリセットするためです)
(ほんとぉ~? 上手いこと言っちゃって。別に倒れたら倒れたでわたしが優しく介抱してあげたのに。まぁラーちゃんが言うならそういうことにしておくわ)
(ブルーのいじわる!)
えへへ。それはお互い様よ。
そういえばカンナさんは……あっ、帰っちゃう!
「待ってカンナさん!」
「あら、何かしら?」
「あの、ごめんなさい。その……さっきは急に試合中に笑っちゃって」
さすがに悪いことをしちゃったと思う。さっきは目前の勝利に浮かれて相手のことを考えてなかった。わたしが負けたらきっと立ち直れないぐらいショックを受けるだろうし、このままカンナさんを傷つけたままサヨナラになったら絶対わたしは後悔する。だから夢中で引き留めていた。
「そんなこと気にしていたの? やっぱりかわいいわね。別にそんなこといちいち気にしたりしないわ。負けて悔しい気持ちはあるし、敗北っていうのは簡単に受け入れられるものじゃないけどね」
「えっ……四天王でもそうなんだ」
わたしの素朴な感想に、カンナさんは真剣な、でも優しい表情で答えた。
「あなたも覚えておきなさい。人生にムダなことなんてないの。負けたことでさえ、次の勝利への糧となる。そんなふうに思えたら、どんなときも前を向いて進んでいけるでしょう?」
「ムダなことなんてない……か」
「ねぇブルーちゃん、あなたチャンピオンになるのが夢なんでしょう? その夢、私も応援させてもらうわ。あなたならきっとなれると思う。頑張ってね」
温かい言葉を贈られ、心の中にじんわりと歓喜が広がっていった。なぜか言葉で言い表せないほど嬉しくなって、返す言葉に詰まってしまった。
「えっと、あの、カンナさんっ、ありがとう!」
「お礼を言うのは私の方よ。きっと私は限界を決めつけて諦めてしまっていた。でも諦めなければ不可能はないことをあなたに教えてもらえた。あなたがチャンピオンになったら、今度はわたしがチャレンジャーになろうかしら」
「えっ?!」
「冗談よ。そういう顔になると思った。かわいい」
「むぅぅーー!! いじわるっ!!」
「あら、ごめんなさい」
それまで真剣な顔だったから本気にしちゃったじゃない! たぶんわたし顔赤くなっちゃってる。
……なんか悔しい! とっても悔しい! でも……この感じ、キライじゃないかも。
「……やっぱり」
「ん? どうしたの?」
「やっぱり、カンナさんってラーちゃんみたい。ラプラスのラーちゃんに似てる」
「あら? そんなこと初めて言われたわ。どこが似てるのかしら」
「えへへ……それはひみつー! じゃあまたね……おねーちゃんっ!!」
大人で、厳しくて、でも優しい。そういうふうになりたいなぁ。
わたしっておねーちゃんっ子なのかも。
フィールドチェンジ!
やってみたかったことなので満足です
あんまり活躍しませんでしたけどね
ネーミングはこれが限界でした()
カンナさんのかわいい連呼な性格はめいぐるみ好きからの連想です
ブルーが気に入ったみたいですね
やたら親切な感じもブルーがかわいいからです