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トウカの森を抜け、燦々と輝く太陽の下に帰ってきた。まるで別世界に来たかのようなのどかな景色が眼の前に広がる。キラキラと陽光が反射する湖を見つけてみゅーが走り出した!
「あーーっ! キラキラしてるの!」
嬉しそうに駆け出すとそのほとりでしゃがみこんで水底を覗き込んだ。そのあと靴を脱いでチャプチャプと足を水につけて楽しそうに遊ぶみゅー。その姿を見ているとこっちまで心が和やかになる。
「みゅーみゅー♪」
「楽しそうだな」
「うん。レインこっちきて」
「俺も? 別にいいけど」
「えいっ」
バシャ!
「あっ! やったな!」
「みゅふー!」
水をかけて嬉しそうなみゅー。すぐさま反撃といきたいが正攻法では倍返しされる未来しか見えない。ちょっと周りに利用できるものがないか探してみよう。
サーチしてみると意外と近くに反応があった。これは……。
「あっ……」
「みゅー?」
「ゴッゴッ!」
バシャバシャ!!
「みゅっ!?」
「あちゃー」
いきなりコイキングが水面で“はねた”せいで水しぶきがみゅーに飛んだ。俺に気を取られていたみゅーは驚いてひっくり返ってしまった。服がビショビショだしすごい格好になっている。
「もぅーーっ! 今からいいところだったのに!! 許さない……」
プンプン怒ったみゅーの体がピタッと静止。次の瞬間凄まじい力でコイキングの体がひしゃげた。それはアカンやつ!
「ゴゴ、ゴゴッ……」
「みゅー、落ち着け!」
「みゅぅっ!」
俺が肩に触ると“ねんりき”が止まりみゅーは振り返って俺の方を見た。間に合った……。汚い花火は勘弁な。
「悪気はなかっただろうし、今回はこのぐらいにしておこう」
「レイン! みゅ~、レインがそういうなら……あ、今度はあっちの方に行こう! きのみがいっぱいありそうなの!」
「あっ、ちょっと待って!」
体をすぐに乾かし、またもや1人駆け出すみゅー。あっちこっち忙しいやつだ。
「はやくきてきて! レインみて! すごいたくさんオレンのみ! どこもかしこもおいしそう!」
みゅーに誘われてやってきた場所は大きな果樹園だった。広大な土地においしそうなきのみがたくさん実っている。一目で人の手が加わっていることはわかった。
「こんなところでいったい誰が……」
「そういえばお腹減ってたの。ひとつ食べよっと」
お前さっきまで散々俺から巻き上げてただろ! まだ食うの?! いや、それよりも、だ。
「ちょっと待て! ここはたぶん誰かの育てたものだ! 勝手に食べるのはまずい!」
「みゅ? それは人間の都合でしょ? みゅーはポケモンだから知らないもん。きのみはみんなのものなの。独り占めは悪いことなの。あむ……んみゅんみゅ。んふーっ! おいひいー!」
あーあ、食べちゃった。よっぽどおいしいのか飛び跳ねながら食べている。ここまで喜ぶってことは相当なお味なんだろう。
しかしご満悦中のみゅーに向かっていきなり“みずでっぽう”が飛んできた。無防備な状態のみゅーは正面から直撃してしまった。……俺も油断していた。いったい誰だ?
ホウエンでみずタイプの技といえば……まさかアクア団!? そういえばこの辺りから出てくるようになったっけ。俺の中に緊張が走る……!
「ダメッ! おねーちゃんが育てたきのみ勝手に盗らないで! ドロボー!!」
「ボーッ!!」
現れたのは5才ぐらいの子供とハスボー。……ただの子供かよ! 心配して損した。いや、マズイ状況には変わりないか。悪いことしているのは俺達だ。
「君がこの果樹園の持ち主? ごめんね、お腹が減ってたからつい食べてしまって。ちゃんとお金は払うよ」
「じゃあ100万円ね!」
「えっ!? ……高過ぎない?」
「大事なきのみなんだから当たり前! それにバレなかったらお金も払わないつもりだったんでしょ? だから罰金」
「ぐっ……こいつ……」
生意気5才児め! 舐めたマネを……。思わず怒りをぶつけそうになるがその前に沸点を超えた人物がいた。
「きのみはみんなのものってことぐらい子供でも知ってる。欲張って独り占めした上にまたみゅーの邪魔して、しかもまたビショビショにされた。もう限界……許さない……」
みゅーの体がピタッと止まった。これ、ついさっき見たやつだ……! さすがに人間相手にみゅーが本気の怒りをぶつけたら只事では済まない。自分の怒りはどこへやら、慌ててみゅーを止めに入った。
「待って! 落ち着けみゅー!」
「みゅぅぅぅ! どうして? レインはこの子とみゅー、どっちの味方なの?」
「もちろんみゅーちゃんの味方です! みゅーちゃんが全て正しい!」
当然だ! みゅーの言葉は世界の真理! ……決して言いなりになっているわけではない。
「ちょっと!? 何言ってるのよ!? ドロボーはドロボーでしょ! 早く100万円払って! 逃げたら通報するから! 絶対逃がさないからね!」
「みゅ!? 強欲で傲慢! やっぱり許せない!」
「あーもうっ! これじゃパラスに“オーバーヒート”じゃんか! 日照り手助け大炎上! どうすりゃいいの!?」
この女の子がコイキングのように捻じ曲がる未来がみえかけたその時、救いの声がかかった。
「あら? なんだか騒がしいけど……チフユ、どうしたの?」
「あっ! チハルねーちゃん! この子が勝手にきのみ食べてたの! ドロボーだよ!」
「あ、すいません。勝手に食べてしまって……」
「あら、それはオレンのみね。どう? おいしかった?」
食べかけのオレンを見て、優しく微笑みながらみゅーに問いかけるチハルと呼ばれた大人の女性。少なくとも怒っているようには見えない。みゅーも落ち着きを取り戻して問いかけに答えた。
「みゅ? これ? とってもおいしかったよ。あなたが育てたの?」
「ええ。喜んでもらえたなら良かったわ。おいしく食べてもらえればそれで構いません。そのきのみはどうぞめしあがって」
「えっ!?」
「ふーん……あなた良い人ね。ありがとう」
「ちょっとおねーちゃん! また勝手なことして! そういうのはダメっていつも言ってるでしょ!」
「あなたこそ、あの子に攻撃したでしょ? ダメじゃない」
「えっ……なんのことぉ?」
「みゅ! ウソついたの!」
「むっ! あなたに言われたくない!」
「こらこら、喧嘩しないの。あの子は攻撃されてもずっと大事そうにきのみを持っていたわ。私はそれだけでとっても嬉しかったから十分満足しているの。もう怒らないであげて」
そんなところまで見ていたのか。この人、ここに来て一目で……。おっとりした印象の人だけど、たぶんこの人がこのきのみ畑を仕切っているリーダーだろうな。
じっと見ていると俺の視線に気づいて話しかけてきた。
「よろしければあなたもどうですか? きっとお口に合うと思うんですが」
「……いいんですか?」
チラッと妹と思われる子の方を見ながら言うと、手慣れた動作できのみを取りながら笑って答えた。
「今は丁度刈り入れ時ですから。おひとつどうぞ?」
とても色つやの良いオレンを渡された。自分のいる周りを見る限り、この辺りで実っている中では1番おいしそうなきのみだ。いいやつを選んでくれたのか?
感心しつつ、渡されるままに一口食べてみた。
「……うまい。変な言い方かもしれないが、まるでオレンなのにオレンじゃないみたいな味だ。普通とは全然違う」
「あったりまえよ! おねーちゃんは世界一のきのみ名人なんだから!」
「ウフフフ……それは良かった。私達は姉妹できのみを育てていて、ホウエンでもっときのみを広められたらいいなって思っているの。世界中をお花でいっぱいにすることが私の夢なんです。あなたのなまえは……」
「俺はレイン。こっちはみゅーです」
「レインくんとみゅーちゃんね! とってもいい名前! レインくんきのみのこと知りたい? もし興味があるならうちのお店へ寄っていきませんか? きのみについてならなんでも教えて差し上げますよ?」
「お店?」
「おねーちゃん達は姉妹でこの『フラワーショップ サン・トウカ』を経営しているの! あたしもおねーちゃん達を見習って頑張ってお花を育てているの」
「へぇ……ここがサン・トウカだったのか。こんなおっきなきのみ畑があるとは」
これはいいところへやって来たな。こっちではきのみは大事になりそうだし、めぼしいものがあれば補充したい。なにより美味しいし……寄っていく価値はありそうか。
「レイン、ここのきのみおいしいから一緒に見てまわろうよ! みゅーもっとほしい!」
「そうだな。みゅーも気に入ったみたいだし、ぜひお願いします」
「ええもちろん。それではこっちへどうぞ」
案内された先にはかわいらしい見た目のお店があった。なんか知ってるのよりもオシャレだな。元のやつは飾りっけがなかったもんな。
カランカラン
店内に入るといい香り……こういうのってわざといい香りの植物を選んで置いてあるのかな?
「ただいまおねーちゃん!」
「おかえりチフユー。おっと、そっちの方々はお客さん? いらっしゃい! ゆっくりしていってね」
「……トレーナーさんかしら? ここにあるきのみはどれも自慢の一品だからぜひ見ていってね」
明るく声をかけてきたのはいかにも夏って感じのイメージの受付の女の子。店内の花の様子を見ていた女の子は落ち着いた物腰で秋って感じの雰囲気。もしかして4姉妹で春夏秋冬とか?
「あの2人はチナツとチアキ……チナツはなんでもできるから経理や受け付けの仕事がメインで、チアキは私の手伝いをしてお花や木の状態管理を任せているの」
俺があの2人を気にしたのを見越しての発言だろうか。本当によく見ている。
「きのみはあなたが?」
「ええ。チフユにも手伝ってもらいますけどね」
「えっへん!」
普通なら「威張るな!」って言いたいところだが、本当に見惚れるぐらいすごく良いきのみが並んでいる。このちっさい子の腕もいいのだろう。この店……本当にすごい。もしかしたら高級なブランド品を扱う店だったりするのかも? いや、それにしては立地が変な気もするな。
「ここのきのみはどれもすごいですね。普通のきのみとは別格。逆にこれだけのものがそろっているのに町から外れたところでひっそりと店を構えているのが不思議なぐらい。何でこんなところにあるんですか?」
「あんた、はっきり言うタイプやねんな。普通少しは遠慮せん?」
チナツから苦言を呈されたが、本当に変だからな。ブランドが付きそうなきのみがこんなこじんまりしたところでたたき売り状態なんてはっきり言って異常だ。
「立地は私が決めたんです。この土地がホウエンで2番目に良い土壌だったので」
「なるほど……そういう制約があるなら場所は移せないのか。ちなみに1番は?」
「おじいちゃんのお庭です」
「おじいちゃん?」
「きのみ名人よ……知ってるわよね?」
今度はチアキ……そうか、この4人ってきのみ名人のお孫さん達か! そりゃ道理ですごいわけだ。やっぱりここって……。
きのみを手に取ってじっくり観察してみた。やっぱりいい。値段はみたところ普通よりかなり高いが、モノが違うのを踏まえれば格安だろうな。
「すごくきのみに興味があるみたいね。よければ外に出て収穫とかも一緒に見ていきますか?」
「いいんですか?」
「なんやったらウチもおしえたろか? どーせ会計なんてヒマなだけやし」
「え? お客さんとか来ないの?」
ピキッ! 瞬間凍り付く空気。慌ててチナツは前言を訂正した。
「いや、なんちゅうか、まぁ会計ぐらいチアキがしてくれるし……」
「おい! こっちまで火の粉を振りかけるな!」
「あはは……堪忍な……」
なんか変だな。今のツッコミも無理に空気を変えようとしている感じがするし……もしかしてこの店、全然もうかってないとか?
さすがに言葉に出して聴けないので視線でチハルさんに尋ねると、観念したのかポツポツとしゃべり出した。
「お客さんはほとんど来ないんです。きのみなんてただのエサなのに大金使えるかーって、特にトレーナーさんは高くても効果が変わらないなら安い方がいいという方が多くて」
なるほどな。たしかにその通りだ。俺だって味とか度外視で“おいしいみず”ばっかり使うし。
「おねーちゃんのきのみはみんなを幸せにしてくれるのに、みんなわかってくれないの!」
「ほんま世知辛い世の中やで」
そうか、そういうふうに思ってるのか。それは大きな過ちだ。これはあくまで商売なんだ。大事なのはきのみの良し悪しじゃない。そのきのみが必要とされるかどうかだ。
この店、実はかなりもったいない状態なんじゃないか? 化けるかもしれないな……。
それから外に出てきのみ畑にむかった。結局会計をほったらかしにしてついてきたチナツと一緒にチハルさんにきのみについてあれこれ教わった。
「どう? すごいやろ? こんだけ質も量もすごいのには実はワケがあるんやで」
「……肥料か?」
「そうそう肥料や肥料……ってなんでわかんねん!」
「すごいですね。なぜわかったんですか」
「普通きのみに対しては使わないが寒い土地では育てる工夫として肥料を用いる地域もあったはずだ。それをこっちで試してみたんじゃないか?」
「それ、実はウチのアイデアなんやで。あったかいとこで肥料使ったらアカン道理はないからな」
それだけじゃない。たぶん肥料の成分はオリジナルだろうな。こっちの土壌に合わせる必要があったはずだ。聞いても教えてくれないだろうから探ったりはしないが、きのみにかけてる情熱は本物だな。
「ねぇレイン、あっちにキレイなお花があるよ」
「あれは……観賞用の花かな」
「そうです。見た目だけじゃなくて枯れにくいのもいいところなんですよ」
「少々のことでは枯れへんからどんなとこにも置いとけるんやで」
何気にすごいこと言ってるが、それは逆にマイナスになるかもしれない。枯れないってことはあんまり売れてないはずだ。買い替える頻度が減ると実は店にとってはマイナスなんだよな。
「うーん。なんかちょっと足りてないなぁ。何が足りないのか……」
「すみません。お気に召しませんでしたか? 精一杯教えたつもりなのですが……」
「え!? いや、そういうわけでは」
びっくりした。いたのかチハルさん。急に後ろから声がして驚いた。独り言聞かれたな。
しかし、やっぱりこの店、何かあれば爆発しそうな感じはするが今の段階では絶望的にかみ合っていない。何が足りないんだろうか。
それにおかしいよな。これだけ人が来ないのにきのみ畑のあのデカさはなんだ? とんでもない赤字になるんじゃないか?
モヤモヤしながらも店に戻ってくると例の子、チフユと呼ばれていた子が寄ってきた。
「ねぇ、それで何を買ってくれるの? ここまでしたんだから何か買っていくよね?」
「え、あぁ、いやどうしようかな」
「コラ! チフユ! それはお客さんが決めることなんだから何も言わないの!」
「でもっ! おねーちゃんだってお店のために一杯教えてあげたりして頑張ってるんでしょ! わかってるもん! だからあたしが言わなきゃ……おねーちゃんは自分から言えないもん」
「チフユ……」
「儲かってない店の性やな」
「そうね」
一瞬でどんよりした空気になる店内。なんか俺、このチフユって子のこと誤解してたかもしれない。自分から損な役回りを買って出て、本当はお姉ちゃん思いのいい子だったんだな。よし! ここは1つ、俺が奮発しよう!
「よし決めた! みゅー、ほしいきのみなんでも買ってやるよ。どれほしい?」
「ほんとにいいの?」
「当たり前だろ。男に二言はない。みゅーのためならなんでも買ってあげるよ」
「みゅふふ、実はずっといいにおいが気になってたの。あれがほしい」
「ん? どれどれ……ヴェッ!?」
高級ロメ 10万円……! いくらなんでもこれは……!
「レイン……やっぱりこれはダメなの? 今日はみゅーの日なのに」
「いえまさか! 買わせて頂きます!」
「ハイッまいどあり!」
「やったー! 1番高いの売れた!」
「「イエーイ!」」
パンとハイタッチするチナツとチフユ。あれ? なんかさっきとムード変わってない?
チハルさんは苦笑い。チアキは俺から目をそらした。こいつらわかってたんだ……罠だったのか! まさか今の全部芝居?!
「だましたな!」
「へへーん、だまされる方が悪いんやでー」
「子供か、お前は! じゃあせめて別の……」
「おっと! 男に二言は……ないんやったな? よっ! 大統領っ! 男前っ!」
「張り倒すぞてめぇ!」
5才児と一緒にはしゃぐチナツを見て同じことを思った人物がいた。
「その人は精神年齢だけ子供のままだから許してね。でもそのロメのみ、味は保証するわよ。一度は食べてみる価値があるわ」
「レイン、“はんぶんこ”してあげる」
「みゅーちゃん……お前は本当に優しいよな。ありがとね」
仕方ないからお金を払って俺も一口食べてみた。
「あっ!」
「みゅー!! 甘くってとろとろ! すぐとけるの!」
なにこれ、本当にきのみなのか!?
「すっごい美味いやろ? 一回食べてもうたら最後、もう病みつきやで」
「それも罠か! でもマジで病みつきになるな……あ、わかった!」
「みゅ? 何がわかったの? もしかしてみゅーが黙って……」
みゅーが何か言いかけたがそんなことはどうでもいい。さっきまでのモヤモヤが今晴れた!
「あんたら、さてはこれでもうけてるんだろ?」
「あ、バレた? 実はこれがウチらの切り札なんや」
「この辺はカモがたくさんいるからねー」
「みゅ? カモ? カモネギ?」
この5才児どこでそんな言葉覚えたんだ。末恐ろしいな。みゅーの純粋さだけが癒しだ。
「実はここを選んだのはもう1つ理由がありまして……この辺りは有名な別荘地でお金持ちの方が多いんです」
「金持ち?」
「この辺おぼっちゃまとか多いやろ? ああいうのは金遣い荒いからか知らんけど値段が高いほど逆に売れるようになんねん。フシギやろ?」
なるほど、確かに覚えがある。この辺りはホウエンで唯一おぼっちゃまとおじょうさまがいる地域だ。たしかにこの辺は別荘地にはうってつけの環境。だからここに集まっていたのか。
自分も昔そいつらを金づるにしていた記憶がある。“かいふくのくすり”を使ってくるのはうざかったがお小遣いをくれるありがたい存在だった。そういう認識は世界共通なのかもしれない。
「このきのみだけ割高っぽいのはターゲットが金持ちだからなのか」
「本当はこういうのはイヤなんですが……きのみをたくさん育てるためなんです」
「ハル姉が鬼になった瞬間やな。実際これなかったらウチらとっくに破産しとるで」
こいつらもやることはやってるんだな。だがこのことはやり方さえ間違えなければこの店で儲けることも不可能じゃないと証明してくれた。この方法、もっと応用できるんじゃないか? この美味さと品質は他じゃマネできない唯一無二のものだ。欲しい人間にとってはどれだけ高くてもここで買うしかない。ホウエンでここだけなんだ。
ホウエン、ホウエン……ホウエン!?
ホウエンといえばカントーにはないアレがある! そうだ、それだ!
「レイン、どうしたの?」
「みゅー、また寄り道だ」
「またなの? みゅー退屈しちゃうかもしれないよ?」
「心配すんな、退屈はさせない。みゅーも絶対喜ぶから」
「やっと決心ついたのね。いいよ、見ててあげる」
みゅーの許しも出た。これから忙しくなりそうだ。にんまり笑みを浮かべていると下の方から視線を感じた。みゅーとは反対側だ。
「なんか悪そうな顔してる。あなた、なんか企んでない?」
「え? 何言ってるのチフユちゃん?」
「怪しい……もしかして他のフラワーショップから来たスパイとかだったりしないよね」
「はい?」
ピシッと凍り付くお姉さん方。見事なシンクロ……って感心している場合じゃない。なんか変な容疑にかけられてしまった。これから大事な話があるのに!
「確かになんでもかんでも詳し過ぎるし、やけに熱心にきのみを見とるからおかしいと思ってたんや」
「トレーナーにしては知り過ぎている……」
これでもかというほど疑いの眼差しを向けられるが、1人チハルさんだけは違った。
「そんなことどっちでも構いません。あなたが私達の育て方を見てきのみのことをもっと知ってもらえたなら、きのみ好きの1人としてこれ以上嬉しいことはありません。たとえ商売敵だったとしてもこの方のきのみを愛する気持ちは本物です」
「チハル姉さん……」
「あんたはきのみ好きである前にこの店の店長ちゃうの? ま、終わったことをあれこれ言うても仕方ないけど」
「ねぇ、本当はどっちなの?」
この人は本当にきのみ大好きお姉さんだな。後先考えずに至れり尽くせりだったのは本当は愚かな行為だったんだろうが、それでもなぜか自分自身この言葉に共感できる。なぜだろうか。
「クスクス、この人レインと一緒ね。おバカさん」
「は? 何言ってんだみゅー」
「レインは強いトレーナーを見つけたらすぐバトルのこと教えちゃう。この人もきのみが好きな人がいたら何でも教えちゃう。どっちも自分の損得考えずに行動しちゃうおバカさんなの」
言われてみれば……ごもっともでございます。俺も知らず知らず同じことしていたんだな。
「ってことは普通のトレーナーなのね。だったら悪い顔しないでよ」
「一応バッジもあるし、これでもマジメにトレーナー修行の旅をしているつもりだ」
「みゅ? マジメ?」
チフユに文句を言われたのでトウカのバッジを取り出した。意外にもこのバッジのことはよく知られていたようで、すぐに反応が返ってきた。
「それはトウカジムの……ランク5以上の実力者しかクリアできないはず。意外と強いのね」
「知ってるのか。まぁ少しは腕に覚えがある。これで潔白は示せたかな?」
「せやな。トレーナーが本職で間違いなさそうや。ほんま人騒がせやな。でもハル姉がおバカさんっていうのは納得やったわ。いっつも苦労すんのはウチらやから」
「チナツ! もう、全く心外ね。まさかそんな風に思われてたなんて。それにおバカっていうならあなた達だって一緒でしょ?」
えへへと笑うチナツ達。みんな根っこの気持ちは同じか。軽口を言い合ってる様子からは姉妹の仲の良さが伝わってきた。こういうのも悪くないな。
……さて、なんて切り出そうかな。
「チハルさん、あなたに話がある」
「お話、ですか?」
さっと4姉妹がこっちを振り返る。これからこの4人の命運は俺が預かるんだ。
「この店さ、俺に預けてみない?」