偵察に向かわせたユーレイはすぐに戻ってきた。有能な奴だ。
「1人? 2人?」
「ゲンゲン」
2回首を振る。
「もっと? 10人以上か?」
「ゲン!」
大きく頷いた。
「11,12,13,14,15,16」
「ゲン!」
「16か」
確認できたのは16人だそうだ。そして人質は広い視聴覚室に集められているようだ。具体的にどのあたりにある教室かは聞き取れなかった。YES,NOでわかる質問以外はどうしてもわかりにくい。今は通訳のみゅーがいないので教室、トイレ、体育館、図書室、などを全て聞いて確かめた。
「監視方法は? カメラ? 盗聴器?」
「ゲン!」
「盗聴か。そういえばさっきの女教師は長い髪が耳にかかっていた。辺りにアヤシイ機械は見当たらなかったし、それで通信手段を隠してたのかも」
だから男でなく女だったのかもしれない。実際監視カメラをこっそり設置するのは大変だろうし、案外即興の作戦なのかもしれない。じゃあなぜ監視されてないのにさっきの女教師が人の目を気にしていたかが疑問に残るが、おそらく「監視もしているぞ」とでも脅されていたのだろう。あの人に監視の有無を判断する術はない。
結果的には強行して押し入った方が速かったがあの時点では監視の目がある可能性の方が高かった。リスクを踏む場面じゃないしこれは仕方ないだろう。
ついでに会話を犯人が聞いていたなら俺がトレーナーじゃないと思った可能性も高くなるはず。念のため素人を装ったし敵も変な警戒はしてないはずだ。
「安全確認はできたし、これで心置きなく侵入できる。一応お前が先行して人がいないか見てくれ。いたら戻って知らせろ」
「ゲンガー!」
裏門を乗り越えて中に侵入した。一応サーチでポケモンの有無をチェックしながらグラウンドの周りを建物の影に隠れながら進み、悪党が徘徊する校舎に入った。
校舎に入るとサーチでポケモンがかなり探知できた。16体……人間の数と同じだ。おそらく全員が1体ずつ出しているのだろう。偶然一致したとは考えにくい。ユーレイの報告の信憑性も高まった。やはり16人で間違いなさそうだ。
視聴覚室には中央に集められた人質の周りを取り囲むようにして4人、さらにその周りで控えているのが4人、別の部屋で休んでいるのも4人いて、残り4人は校舎内を見回って巡回しているようだ。
見回りなんて必要ないと思うが……何かにそなえているのだろうか。対抗組織とか?
それはともかくどうやって敵を無力化するか考えないと。視聴覚まとまっている8人が少しきついな。手持ちは5体。先制攻撃しても3人残る計算だ。
まずはバラバラになっている4人を始末しよう。視聴覚のやつらをどうするかは後で考えればいい。
巡回してる奴らは全員同じ規則で動いているようだ。サーチでポケモンの動きを追いルートはすぐに把握できた。ならこちらから動いて気配を悟られるリスクを冒さずとも待ち伏せでことは足りる。敵さんは用心のためにポケモンを出していたことが仇となったな。
さて、後はどうやって仕留めるかだ。グラエナとトレーナーはどちらを仕留め損ねても仲間を呼ばれそうだ。グラエナは群れで行動するポケモンだから鳴き声で仲間を呼べるし、人間はもちろん通信手段があるはず。同時攻撃がマストだ。ここはアカサビとグレンに頼ろう。
「階段を降りて角を曲がってきたらアカサビがグラエナにバレットパンチ、グレンがトレーナーにしんそくだ。音を立てないように加減しろよ?」
ポケモンと一緒に敵が角を曲がった。その先には俺が1人で立っている。
「お仕事ご苦労様です」
「なに!?」
驚いた瞬間にボールから2匹が飛び出す。打合せ通りの動き。相手が行動を起こす前に一瞬でケリはついた。楽勝だ。気絶させた敵は“あなぬけのヒモ”で縛ってサイコキネシスで運んだ。
これを4回繰り返し4人を無力化。その後別室で休憩する4人に奇襲をかけた。やはり人数の少ないところから攻めるのがセオリーだ。
ギギィィィ……
まずはサイコキネシスで扉を手で触れずに開いた。
「なんだ!?」
「誰だ!?」
4人全員が警戒をあらわにし扉に注目するがそこには誰もいない。そして壁をつたって背後に回ったユーレイが無防備な背中に向かってこごえるかぜを放った。“こおりのジュエル”が発動し威力がアップする。しかもこの技は全体攻撃だ。
「「ぎゃぁぁ!!」」
まず人間4人が倒れて動けなくなる。そしてグラエナ達は攻撃を耐えきったものの動きが鈍くなり、なにより扉に対して背を向けてしまっていた。
「ほうでん!」
ビリビリビリ!!
今度は扉のある方から奇襲をかけた。背後からイナズマの攻撃を受けて抵抗することもできず4匹のグラエナも倒れてしまった。
まわりくどいものの、正面から攻撃すると先に仲間を呼ばれる可能性があったので念のため背後から奇襲する形をとった。案外簡単に制圧できたが、これはレベルの差が大きいのだろう。
「あとは本丸だけか。もう仲間に知らされる心配はしなくていい。次もユーレイと俺で挟み撃ちにする作戦でいこう」
「ゲン!」
視聴覚室。まだ味方が倒れたことに気づいた様子はない。チャンスだ。問題になるのは人質をいかにして守るか、そこに尽きる。1人でも敵につかまれば終わりだ。
人間とポケモン、どちらを先に狙うかがポイントになる。トレーナーは次々とポケモンを出す可能性があるが手持ちが一体ならポケモンを先に狙うべきだ。これまでは調べたところ2人が2体もっていた。
「……人間よりポケモンを先に倒す方が無難か。あるいは人質を守りながら“ほうでん”で全体攻撃する手も一応あるか」
悩ましいが……全体攻撃するべきか。上手くいったときのリターンがデカ過ぎる。タイプ一致の“ほうでん”なら威力も十分ある。一応ジュエルも持たせておけば準備万端だ。
バンッ!!
今度は俺自らハデにドアを蹴り破った。
「なんだお前!! ……ギャッ!?」
ユーレイが中央の人質の真上から現れ“あくのはどう”で周りにいた敵勢力をまとめて吹き飛ばした。ユーレイは俺がドアが開いた瞬間人質を守れる場所にいた方がいいので今回は少し手順を変えてみた。
ユーレイが上手く人質の傍の位置を確保できたので俺もすぐに指示を飛ばした。
「グレン、アカサビ!」
“しんそく”に“でんこうせっか”……打ち合せ通り2体が人質を守るように敵と人質の間に割り込む。今の技は攻撃ではなく移動のための一手だ。
「ほうでん!!」
バリバリ!
今度はジュエルでさっきの5割増しだ。とはいえ部屋がさっきより広いので届く威力は同じぐらいかもしれない。“ほうでん”がグラエナ達を蹴散らすがユーレイ、グレン、アカサビの3体が“まもる”を使ってバリアを展開し人質を見事に守った。“ほうでん”を完全にシャットアウトしている。
「いけっ、バグータ!」
「ブモォォォ!!」
敵トレーナーの声。さっきの攻撃の生き残りか。“ほうでん”を耐えられるはずはない……さては自分のポケモンを盾にしたな? トレーナーを名乗る資格もないようなクズだな。だがおかげで厄介なことになった。
バクーダはでんきタイプを無効化するじめんタイプを持っている。守りに回した3体は“まもる”の反動で動けないしシスイに頼るしかない。あいつはまだ頼りないしできれば使いたくなかったがこの状況では四の五の言ってられない。
「シスイ! たきのぼり!」
「マッ!?」
「シスイ! 聞いてるか!? あのバクーダに向かってたきのぼり!!」
「マッ!!」
動きが緩慢だ。誰を攻撃するか言わなかったので少し戸惑ったのだろう。動ける敵のポケモンは1体だけなので必要ないと思ったが……シスイの経験不足が祟った。
「ふんえん!」
「グレン!」
その一言で意図を理解したグレンは人質とバクーダの間に立ちはだかり、攻撃から人質をその身を呈して守った。しかしシスイは正面から直撃だ。もちろん俺に対しても攻撃は及ぶ。“ふんえん”も“ほうでん”と同じく全体攻撃。耐えるしかない。
「ダース!」
「イナズマ! かばってくれたのか!? サンキュー!!」
自己判断でイナズマが盾になってくれた。これはかなり助かった。
「クアッ……マークロ……」
しかし残念ながらシスイは直撃の上“やけど”を負ったようだ。しかも“たきのぼり”は届く前に中断されてしまった。火傷状態のシスイはもはや戦力にはならない。即座にボールに戻しながらアカサビに指示を出した。
「でんこうせっか!」
「……!」
「グゥタッ!」
無言で頷きアカサビが鋭い一撃を放ち勝負あった。ただの先制技で耐久力のあるバクーダを一撃。さすがだ。それに俺の意図をしっかり汲み取ってくれる。さっきのグレンといい、こいつらはやっぱりシスイとは大違い……と言ってしまうのはさすがに酷か。
「なんだこいつ!? つ……強すぎる!! どうなってんだ!?」
「お前も眠ってろ!」
トレーナーもアカサビがシバいて無事制圧完了。
「よし、気絶した奴はユーレイがサイコキネシスで隅に集めておいてくれ。起きたやつはさいみんじゅつで再び眠らせろ。念のためグレンも一緒にみておいてくれ。アカサビ達はこの人達の手と口を縛ってる縄を解くのを手伝ってくれ」
人質も15,16人ぐらいか。小学生ぐらいの子供だけでなく高校生ぐらいの人も1名混ざっている。……ん?
「あんたジムリーダー!?」
「ぷはぁ!? ありがとうございます! 助かりました!」
縄を解くと礼を述べたのはカナズミシティのジムリーダー、ツツジだ。この程度の連中に後れを取るはずはない。
「あんたどうして戦わない?」
「人質を盾にされてボールをとられてしまい……不覚でした。この子達には本当に悪いことをしました。今日は本来休校日で、ポケモンバトルの特別練習に来ていたこの子達だけ運悪く……」
「そういうことか。たしかに人質が多過ぎても邪魔か……。こいつらもわかった上で狙っていたのでしょうね。ちなみにもう一人の先生はなぜ学校に?」
「会ったんですか? 彼女がこの子達を教える先生で、私はバトルの仕方を教える手伝いとして来ただけなんです。すみませんが彼女も助けてもらえますか?」
「そうだな。人質が解放されたことを伝えとこう。ユーレイ、これを持っていって」
パパッと手紙をしたためてユーレイに持っていかせた。ひとまずこれで落ち着いたか。
「ツツジお姉ちゃん、おトイレ……」
「あぁ、そうね。ずっと縛られていたし……すみません、あの者達に他の仲間は?」
落ち着いた雰囲気を感じ取ったのだろう。人質の女の子が申し訳なさそうにツツジに耳打ちするのが聞こえた。まぁ実際仕方ない。
「敵の人数は割れています。残りは8人。全て無力化して縛ってあります。そっちもポケモンを向かわせておきましょう。アカサビ、イナズマ、見張っておいてくれ」
「なら大丈夫ね。暗いけど1人で大丈夫?」
「うん」
これで一件落着。後はさっきの先生にジュンサーさんに通報するように書いておいたからそのご到着を待つだけだ。……俺は自分で通報できないからな。
さて、それまでヒマだな。少しこの悪党共の素性を探っておくか。
おそらくバクーダを持っていたのがこの中で1番えらいやつだろう。所持品を漁るとマグマ団のマークが入ったアイテムを見つけた。薄々勘付いていたがやっぱりマグマ団か。恰好がいかにもだったし。このアイテムは一応貰っておこう。
自分のバックに押収したものをしまうといきなり大声が響いた。
「両手をあげろ!」
「なんだ!?」
さっきトイレに行った子が今日初めて見る顔の男に連行されていた。
「ミキエ!」
「お姉ちゃん……」
新手?! まだ仲間がいたのか! 状況は一転して最悪だ。俺は現在戦力を分散させてしまっている。“しんそく”持ちのグレンがこの場にいることが幸いか。
アイコンタクトで合図を出し、グレンにグラエナを狙って攻撃させた。しかしそれは失敗してしまった。
「ヴォウ!!」
「バクゥッ!!」
また新手?! いや、違う!! こいつが2匹目のポケモンを出したんだ!! タイミングよく出てきたバクーダが盾になり“しんそく”を受けられた。敵の手元は見てなかったがなんて早業だ。攻撃を読まれたのか? ほぼ予備動作はなかったはずだが……。
2匹目を持っていたことといい、このボールさばきといい、いなかったのが幹部クラスの強者だったのは間違いない。見通しが甘かったか……。
「ごめん……俺のミスだ」
「動くな!! 両手をあげろと言ったんだ! 従わなければこいつの首を嚙み切るぞ!」
「グルルルル!!」
「痛っ!? たすけて……」
グラエナが喉元に牙をかけた。真っ赤な血が滴っている。こいつ本気か。あれではどう攻撃しても先に嚙まれる。奇襲するにしても警戒されたこの状況では厳しい。
「手をあげました! だからその子は離して下さい!」
「ダメだ! そっちのトレーナーはポケモンもしまえ! おい、バクーダ起きろ!」
ツツジの言葉に対して安心せずに抜け目なく俺を無力化してくる。その上“げんきのかけら”を使ってバクーダを復活させてきた。2匹動ける奴がいるとやはり隙を突くのは格段に難しくなる。用心深いタイプはかなり面倒だ。
「これでいいだろう?」
「ボールをバックにしまえ」
どこまで用心深いのやら。グレンは掛け声1つですぐボールから出れるだけにこれは本当に痛い。
「たすけて……」
「……!!」
今、目の前の少女と目が合った。同時に少しだけ何かが噛み合うような感覚がした。もしかして助けを求めたのはこの子? 今までの経験則だとほぼ間違いない気がする。悪党に襲われるこの状況もさっきのイメージと合う。ならこの子はきっちり助けなければいけない!
こんな状況だと人質を見捨てて敵を制圧するのが無難な選択なのだろうが、どれだけ困難でも人質を生かすしかなくなった。さて、どうしたものか。
何か手はないか? せめてユーレイが戻ってくればなんとかなる。一旦時間を稼いで……だがそうするとあっちの仲間が目を覚ますかもしれない。博打は打てない……どうする?
とりあえず困ったらなんか探せ! それがこれまでの俺の生き方だ!
サーチ!!
……あれは!?
視界に見えた1つの影。それに全てを託せばあるいは全員が助かる可能性も視えてくる。だがそのためには自分が……。ゆっくりと目の前の人質を見た。視線がハッキリと交差する。迷いは消えた。
「どうした!? お前が1番危ないんだ! おとなしくしろ! こっちはこいつが後でどうなろうが構わねぇ。いったん半殺しにしておいても構わないんだぜ?」
「ひぃぃ……」
「やめてください!!」
人質の子は恐怖で声も出ないようだ。無理もない。こんな何をしでかすかわからない奴に生殺与奪を握られたら生きた心地はしないだろう。早く解放しなくては!
「わかった。なら人質を交換しよう。その子の代わりに俺を使うといい。危険なやつは手元に置く方がいいだろう?」
「人質は弱いから人質として使えるんだよ!」
「とんだ臆病者だな」
「なにぃ……!」
「なら好きなだけ俺を弱らせればいい。足腰立たなくなるまで。そっちの仲間を全部倒したのは俺だ。お前も本望だろ?」
「ダメです!! 人質なら私が!!」
ツツジはわざと俺が挑発していることがわかったのだろう。だけどこの役は俺がやらないと意味がない。ツツジにいかせるわけにはいかないんだ。
「へへへ……よし! 乗ったぜ! やいジムリーダー! お前は下がってろ! ポケモンのねぇジムリーダーなんざ放っておいても怖くねぇんだよ。お前はこっちきて頭に手をおけ」
「……」
黙っていうとおりにすると敵はバクーダに攻撃命令を下した。
「へへ、話がわかるじゃねーか。……連続でいわなだれ!!」
「……」
「なんてことをっ……!? ダメッ!! やめなさい!!」
ツツジは真っ青になるが俺はむしろこれを望んでいた。今はとにかく耐えればいい。黙ってバクーダの攻撃を受け続けた。
「「きゃーーっ!?」」
「やめてぇぇーー!!! こんなことしたらこの人が死んでしまいます!!!」
目の前で人が攻撃される光景に悲鳴が上がる。けどそれでいい。それを待ってた。逆に敵はこの悲鳴に気をよくしたようでとんでもないことを言い始めた。
「いいんだよ! 死んでもらうためにやってるんだからな!」
「なんですって!? 約束が違いますわ!」
「はぁ? なんのことだ? 人質はこのガキだけで十分だ。反抗的なトレーナーには死んでもらうとしよう! 俺にとっちゃそれが1番安全なんだよ! バクーダ、ストーンエッジ!」
これまでの中で1番強烈な技が飛んできた。まともに受けてしまい激しい攻撃で視界が赤く染まる。頭部にクリティカルしたらしい。他にもあちこち体中裂傷だらけで床には血だまりができていた。
不意に頭がクラッとしてとうとう俺はその場に倒れてしまった。それを見てとうとう我慢できなくなったツツジが行動に出た。
「もう黙って見ていられません!」
「余計なマネすんな! 女はすっこんでろ!」
朦朧とする意識の中、気絶しそうになる自分を鞭打って大声でツツジを制止した。乱暴な言葉にツツジも黙っていない。
「なっ!? 何を言ってるかわかっていますの!? こんな状況で男も女もありません!」
「いいから黙って見てろ。あんたの出る幕じゃない」
とっさに止めたのでかなり乱暴な言葉遣いになったが許してくれ。もうほとんど頭が回らない。
「そんなボロボロの体で何を言ってるんですか!! 本当に死にますよ!!!」
俺より先にツツジが狙われれば取り返しのつかないことになる。矛先は俺に向いていなくてはいけない。
「掠り傷だ。この程度、大したことはない」
もちろんウソだ。このまま放っておかれるだけでも数時間であの世逝きだろう。しかし余裕を見せるためにない力を振り絞って起き上がった。
「ならお望み通りトドメをさしてやろうか。バクーダ、今度はかえんほうしゃで燃やしてやれ! 跡形もなく消し飛ばしてやる!」
「ほのお技!? これはマズイです!! どうかよけてっ!! おねがい!!」
「それは無理だ。もう……一歩も動けない」
「……!」
悲惨な未来を悟り言葉を失うツツジ。俺にとっては最初からわかっていたことだ。人質の交換を要求すれば俺は殺される。そうなるような言い方をした。でもこれでいい。あの人質の子が死にそうになっても意味はない。俺だからいいんだ。ちょっと虫が良過ぎるけど。
「バクゥッ!!」
“かえんほうしゃ”が放たれた。眼前に炎の塊が近づいてくる。当たれば無事では済まないだろう。死と隣り合わせの感覚。しかし恐怖は全くない。なぜなら俺は確信していたからだ。“あいつ”は必ず俺を助ける!
「ギャウンッ!!」
「グラエナ? なんだ?」
異変はグラエナの鳴き声から。そして“かえんほうしゃ”を切り裂くようにして突如現れた水の波がそのまま攻撃を打ち消し、その先にいるバクーダもろとも吹っ飛ばした。バクーダは戦闘不能だ。
「バクゥ……」
「何事だ!?」
「グレン!」
「ガウガ!」
グラエナの声を聞いた瞬間、俺はバックからモンスターボールを取り出しグレンに指示を出していた。グレンは待ってましたとばかりにボールから飛び出し、俺の期待に応えて“しんそく”を放った。何が起きているか理解できないまま敵トレーナーは倒れてしまった。
「何が起きて? ……うげっ!?」
「なんとかなったか。ぐっ……」
さすがにもう限界か。膝をついてしまうがそれでも意地で倒れることはしなかった。
グラエナを仕留めた攻撃はおそらく“はどうだん”。死角からとんできた正確無比なあの攻撃は時間差で前もって発動しておき当たるタイミングを調節したのだろう。必中技だから外れることもないしコントロール抜群だ。
“かえんほうしゃ”を破ったのは“みずのはどう”で間違いない。小回りが利いて使いやすい技だ。威力が低いのがネックだが、そんなことは感じさせないあの破壊力。こんな芸当ができるのはあいつだけだ。
「もう助けてくれないのかと思ったよ」
「ウソつき。わかってたクセに」
「そうだな。お前の優しさには助けられっぱなしだ。恩に着るよ」
「ふん」
さっきサーチで見つけたのがこの最強幻ポケモン、みゅーちゃんだ。俺のこと、見殺しにはしないと思ったよ。周りの人質達はまだ何が起こったかわかっていない。とはいえ一難去ったのは確かなのでもう緊迫した表情を浮かべる者はいなかった。
「何が起こって……? と、とにかく手当てをしなくては!」
「大丈夫です。みゅー?」
「ヤダ」
「おいおい……まぁ見られてるところではダメか。うん、このぐらいたいしたことじゃないし、いっか。とにかくありがとうな、みゅー」
さっき周りがまだ驚いて右往左往している間に、会話しながら実はこっそり少し回復させてくれていた。ツンとそっぽを向きながらも俺に手を添えていたのだ。
やっぱりみゅーはミュウなんだな。さっきの技の連携にしてもそうだ。“はどうだん”と“みずのはどう”の波状攻撃は見事だった。技を使うことに関しては右に出る者はいない。手際の良さはさすがの一言だ。
俺の方は岩の連続攻撃で全身切り刻まれてあちこち出血していたが、みゅーのおかげで出血は止まり、もう歩ける程度には回復している。見た目はまだグロッキーだがもう大したことはない。
「……」
「みゅーちゃん?」
みゅーは全然俺と目を合わせようとしない。いつもじっと見つめられることに慣れていたから少し寂しい気分だ。気に障ることは何もしてないはずだけど……。
こういう潜入系書くのはしんどいですね
時間がかかるのもやむなしです()
関係ないですけど久々にランクマやったら静電気つのドリルで3割パチンコするのが楽し過ぎて脳ミソ溶けましたね
関係はないですけどね
一応補足すると最後にみゅーが拒否したのは回復してあげることです
人間姿でポケモンの技を使う瞬間を見せれないということですね