事件から一夜明け、俺の体調は万全と言えるレベルに回復した。ようやく一息つけるので、昨日の約束を果たすことにした。
「みゅー、約束だったし今からデートして町巡りしよう」
「ヤダ」
「えっ? イヤ? でも昨日はお前の方から……」
「ヤなものはヤだもん」
なんだこれ。みゅーのやつどうしてこんなに不機嫌なんだ? かなりイライラしてる気がする。こんな理不尽なことってあるのか。
「みゅーちゃん、一緒になんか甘いものでも食べない?」
「イヤ」
取り付く島もない。おそらくこうなっては何を言っても逆効果だ。諦めよう。デートはしなくていいみたいだし、先にジム戦をこなしておこう。
ジムに向かうとみゅーも距離をとりながらではあるがちゃんとついてきてくれた。今回は消えたりはしないようだ。みゅーはいつも俺にくっついているから普段は気にしないが、本気で逃げられたら俺に追いかける手段はない。困ったやつだ。
ジムへ向かう道すがら、ジムリーダーのツツジに出くわした。方角的にジムのある方からやってきたが、これからどこかへ行くのだろうか。
「あなたは昨日の! 本当にありがとうございました。おかげで生徒たちは皆無事で被害もゼロで収めることができましたわ。改めて感謝申し上げます」
「いえ。こっちの方こそ昨日は失礼なことを言ってしまって……」
「それならいいんですよ。あれは考えがあってのことだとわかっています。ところでお名前をうかがってもよろしいですか? 大恩人ですのに名前も存じ上げていないのは失礼ですので」
「レイン、旅のトレーナーです。ジム戦をしたいんだけど、これからどちらへ?」
「レインさんというのですね。ジム戦でしたら喜んでお受け致しますわ! ですが少し待ってください。これからスクールに行くことになっていますの」
「構いませんよ。あんなことがあって今は色々あるでしょうし。あと1ついいですか」
「なんでしょう?」
「最後にグラエナに嚙まれた子なんですけど、直接会って話をすることはできますか?」
「……そうですね。では私と一緒にスクールに来てください。あの子もいますよ」
「え? あの子、学校に行ける状態なんですか?」
「それが本当にタフな子で、あんなことがあったのに今日もスクールに来ると言ってるんです。早く強いトレーナーになりたいと」
「そうですか。じゃあすることもないですしスクールにお邪魔します」
ずっと気になっていたのは目があったときに感じたことだ。あの子もみゅーやナツメのようなエスパーなのかもしれない。テレパシーのこともある。会って確かめなければいけないだろう。
「着きました。このクラスにいます。ミキエは優等生で成績は1番なんですよ? 将来は私のジムを継げるほどの逸材ですの。今は授業中なので、せっかくですから見学していってください」
「学校見学か……授業を見るなんて久しぶりだなぁ。いいですね、ぜひ」
外から眺める立場になるなんて変な感じだな。ちょっと新鮮だ。
授業内容は算数のようだった。普通の科目もするのか。ポケモンが追加された普通の学校って感じなのかな。
「あっ! 昨日の人!」
「知らないポケモン使ってた人だ!」
こっちに気づいた生徒がいるな。だんだんとコソコソ話が広がってきたのでツツジが俺を紹介し、俺も少し挨拶した。
「昨日の事件解決の立役者のレインさんです。今日は授業見学に来てもらっています」
「どうも」
目的の子に目を向けると一瞬目が合ったがすぐにそっぽを向かれた。どうして? どうにも最近身に覚えのないことで冷ややかな態度を取られることが多い。
「はーい、続きを始めますよ! オオスバメとコータスが合わせて10頭、足の数が合わせて30本! ではコータスは何頭いるでしょう? さぁ、みんな考えて!」
普通の問題だけど題材がポケモンになってるようだ。鶴のポケモンはホウエンにはいなかったっけ。
生徒がノートに表や式を書いて計算を始める。しかし1番後ろの子が全く解けていなかった。
「コータスってどんなポケモンなんだろ?」
「そこからかよ!」
「うわ!?」
予想の斜め下の発言に思わずツッコミを入れてしまった。どうせだし解き方を教えてあげるのもいいかもしれない
「悩んでるんだろ? 教えてあげるよ。コータスは足が4本。オオスバメは2本。それぞれが10頭と0頭、9頭と1頭のとき足の合計がどうなるか表にしてごらんよ」
「表?」
「横に並べていくんだよ、こうやって……」
元々頭の良い子だったようですぐに理解して解いてみせた
「やった! 答えは5頭だ!」
キーンコーンカーンコーン……
チャイムが鳴り休み時間が始まる。俺もやらなきゃならないことを済ませないと。恐る恐る例の子へ話しかけようと席へ向かった。
「ひゃ!?」
俺の顔を見ると血相を変えてどこかへ逃げていった。どんだけイヤなんだ? さすがに傷つく……。
「嫌われてる? 俺って怖そうに見えるのかなぁ……」
「お困りみたいですね。バトルがお上手でスラスラ問題を解いてしまう方でもできないことはあるものですね」
「あっ! 見てたんですか。あんまりからかわないでくださいよ……。ずっと見てたならなぜ避けられてるかわかります?」
「うーん……お年頃ですからね。気にしちゃダメですよ。良ければ私が代わりに聞きたいことをあの子に尋ねておきますが、どうですか?」
その親切心はありがたいがエスパーのことだから自分で確かめなければ意味がない。
「いや、ダメだ。俺が聞かないと……」
「なら後で本人から電話してもらってはどうでしょう? 直接対面していなければ落ち着いて会話できるのでは?」
「うっ……実はポケナビ持ってなくて」
「えっ!? それはさぞ不便でしょう。うーん。じゃあなんとかあの子と仲良くなるしかないですわね」
「そんなこと言っても……」
簡単に言ってくれる。それができれば苦労はない。
「大丈夫ですわ! レインさん、今日だけ特別講師になってみましょう!」
「えぇっ!?」
どうしてそうなった?
そしてあれよあれよという間に本当に講師になることが決まってしまった。ここではポケモンバトルに関する授業もやはりあるそうで、その授業は現役のトレーナーに特別講師になってもらうことが多いそうだ。
「レインさんは教えるのも慣れてらっしゃるようですし、みんな悪い奴を捕まえたすごいトレーナーだと期待してますわ。それにいいところをみせればあの子の見る目も変わるかもしれませんよ」
「……そういうことなら。じゃあその間みゅーは?」
みゅーは少し距離をおいたところから俺たちのやりとりをじっと見ている。瞬きもせずにじっとこちらを伺う様子は狂気すら感じる。ハッキリ言って今のみゅーはかなり怖い。
「この子はわたくしが責任を持ってお世話しますわ。元々わたくしが特別講師の予定だった枠なので手が空いていますから。じゃ、みゅーちゃんは私と一緒に作文をしてみましょう」
「……」
みゅーは油断なくツツジを見て険しい表情だ。かなり警戒している。このみゅーを見て面倒を見る気になるこの人はすごいと思う。俺ならちょっと尻込みする。
4姉妹といた時はみゅーもけっこう打ち解けていたと思ったのだが……人見知りするときとしない時の基準が未だによくわからない。
「みゅーちゃん、大丈夫です。わたくしを信じてください」
「……じゃあ、あなたは“いいひと”なの?」
「そうですね……いいひとかどうか、それは周りが決めることなのでわかりません。ですがいいひとでありたいと思って努力はしているつもりですわ」
「みゅ……わかった」
とりあえず納得はしたみたいだ。みゅーがとんでもないこととかを言わなくて良かった。ツツジさんが子供だと思って適当なことを言わなかったのが良かったのかもしれない。ウソとか言ったら一生嫌われかねない。
俺が授業するのは午後からの授業で座学と実践が1時間ずつらしい。座学ではシスイに協力してもらいながらタイプや技の説明などを当たり障りのない範囲で説明してみた。
「わー!! かわいい!!」
「ミズゴロウって進化したらこうんるんだ!」
「シスイ、よかったな。人気者じゃん」
「マークロッ!」
シスイもみんなにチヤホヤされて嬉しそうだ。授業を始めた時は少し昨日のことを引きずっていたのかしょんぼりしてたから良かった。
俺が授業をする傍ら、部屋の隅では時々俺の方を眺めつつもみゅーがツツジと行儀よく勉強をしていた。人間嫌いが発動しなかったのは良かったが、あいつ文字なんか書けるのか? 本当に作文なんてできるのだろうか。
「ここは“つぎのひ”とした方がわかりやすいですね」
「みゅ……どうしても“あした”がいいの。ダメ?」
「そうですね……。うん、使いたい言葉があるならいいですよ。それはみゅーちゃんの個性になりますし」
「よかった。あっ、あなたはなんていうの? あなたも書いてあげる」
「それは嬉しいですね。私はジムリーダーのツツジと申しますの」
「じゃあ“リーダー”ね」
あっちもけっこう楽しそうにやってるな。作文も順調そうだし良かった。こっちも頑張ろう。
「さて、まとめるとポケモンバトルでは相性が非常に大事だから使うポケモンのタイプだけでなく技のタイプもトレーナーが考えていかないとダメなんだ」
「じゃあタイプ相性さえ良かったら絶対勝てるんだな!」
「いや、そう簡単じゃない。相性はかなり重要だし、レベルが高くなるほどそれを覆すのは難しいけど、逆転することは可能だ」
「うっそだぁ~! ツツジねーちゃんがいっつも水タイプに負けてるの知ってるもんね!」
「カツオ! 聞こえてますよ!」
ハハハハハ!!
先生って意外とこういうのしっかり聞いてるんだよな。ツツジの声でクラスがどっと沸いた。
「そこまで言うなら次の実践では実際に相性不利な状況でバトルするのを見てもらおうか。それなら納得してくれるだろ?」
「え!? 私がみずタイプを相手にするんですか!?」
顔が引きつってるぞ、ジムリーダー。あんたならなんとかできるだろ? ツツジは若いし実力は他のジムリーダーよりあやしかったりするのかな? 一応例の子にいいとこ見せるのが本来の目的だし、ここは俺が頑張るか。
「じゃあ俺が不利なタイプで挑もう。カツオくん、いわタイプが苦手なタイプはわかるかな?」
「ツツジねーちゃんはいっつもほのおタイプには負けなしなんだ! 全部勝つんだよ!」
「よし、じゃあ俺はほのおタイプで勝負しよう」
「……でも、実はツツジねーちゃんがわざと負けたりするんだろ? ずるいぞ!」
この子めちゃくちゃ疑り深いな。子供ってこんなんだっけ?
「わかったよ。じゃあジム戦としてバッジをかけた公式戦をしよう。そしたらお互い真剣勝負になるだろ? どうだ?」
「えっ!? すげーー!! 見たい見たい!」
「楽しみー!!」
「やったー!」
生徒は歓喜の渦に包まれる一方ツツジはいきなり決まった公式戦に戸惑っていた。俺にいきなり授業させてるんだしこれでお相子だ。
「レインさん、そんな勝手な!」
「ツツジねーちゃん、ほのおタイプなら勝てるって!」
「頑張ってツツジおねーちゃん!」
「……仕方ないですね。今回だけ特例ですよ?」
キーンコーンカーンコーン……
生徒諸君ナイスアシスト! そして授業終了! 生徒は散り散りになるなか廊下の方から知らない大人がクラスに入ってきた。誰? ずっと見てたのか?
「あーっ!! デボンのおじちゃんだ!」
「デボン?」
会社の関係者か?
「社長、ご足労ありがとうございます。まさか社長が自ら足を運んでくださるとは思いませんでした。こちらがお話ししたレインさんです」
「社長!? デボンの!? なんでここに!?」
まさかのトップの人だった。なんで生徒は気軽に呼んでるんだ? けっこう庶民派なのか?
「初めまして。私はツワブキ、ここへはよく気分転換で来るのだよ」
「社長はこのスクールのオーナーでもあるんですよ。実は午前中に私からレインさんが来ていることを伝えてありましたの」
なんと、この人ここのオーナーもやってたのか。びっくりだ。
「ツツジくんから聞いたところ、君はポケナビを持っていないそうじゃないか。このトレーナーズスクールを守ってくれた礼として、私からのプレゼントだ。受け取ってくれたまえ」
ポケナビを手に入れた!
「ホントですか!? ありがとうございます!」
「いやいや、構わんよ。これからも何かあったら私を頼ってくれたまえ」
なんかルビサファやってた時を思い出したよ。マグマ団をやっつけて、社員を助け、ハギ老人を助け、色んな縁がめぐりめぐってカイナまでたどり着けた時はなんか感動したっけ。ポケナビをもらった時もめっちゃ嬉しかった記憶がある。その気持ちが蘇ってきた。
物としての価値以上に、なにより感謝の気持ちが嬉しかった。こういうのはエスパー関係なしだ。こんなに嬉しいものはない。
もちろん、スクールの件でデボンと友好的になれたのはきのみ作戦の面でも大きい。必要なものはたくさんあるからだ。ポケナビの使い方などを一通り聞き終わってからそのことについても尋ねておいた。
「実はデボンコーポレーションで買いたいものがいくつかあるので良ければ後でうかがっても?」
「おぉ、もちろんだ。待っているよ」
これでスムーズにポロックマシンを買える。社長が帰ると今度はみゅーが小走りで駆け寄ってきてくれた。
「レイン~!」
「みゅー! 待っててくれて助かったよ」
「みゅーちゃんはすごかったですよ! たった1時間で平仮名だけでなくカタカナも覚えて漢字まで少し書けるようになったんです! この子は本当にすごいですわ」
「みゅふふ! みゅーね、すごい頑張ったの! いっぱい褒められちゃった!」
どうやら良い先生に教えてもらえたようだ。普通ならどうして平仮名すら書けないんだって言われただろう。みゅーはもう小学生の高学年に差し掛かるぐらいの年齢だ。
でもそうはせず、みゅーが委縮してしまわないように、逆に褒めてあげてやる気にさせてくれたようだ。みゅーは嬉しいと頑張るタイプだし、根は素直な性格だ。
「あなたのために書いたみたいですよ。ちゃんと文章がしっかり書けていて、出来事だけでなく自分が思ったことまでよく書けていますわ」
作文もしっかりかければ立派なエッセイだもんな。みゅーが喜んでいるしこれはお世辞でなく本当に思ったことなのも間違いないだろう。やっぱりみゅーは天才なのかもしれない。……と思うのは親バカなんだろうか。
「タイトルは『レインへ』か……全体的に日記っぽい感じだけど、たしかに俺に向けて書いた感じのタイトルだな。ふむふむ、まずカナズミに来て、事件があって、それを解決して、学校に来て、俺が先生してることも書いてるな。…………!?!?」
「レインさん? どうかしましたか?」
「みゅー、お前……」
「みゅ?」
「みゅー、お前ってやつは!!」
「えっ!? どうしたんですか!?」
「みゅみゅ~~!! レイン喜んで良かった!」
みゅーをとにかく全力で抱きしめた。なんか泣きそうだ。絶対泣かないけど。
こんなのズルい! もしかしたら嫌われたのかもって思ってた矢先にこんな……。やっぱりみゅーはみゅーなんだ。改めてそれがよくわかったよ。
「俺もだいすきだよ」
今日1番、最高のプレゼントだ。
レインへ
大きなまちについた
すぐにじけんがおきた
ききいっぱつレインがかいけつ
あしたになった
リーダーのひとにあった
がっこうにいった
とつぜんがっこうのせんせい
うまくできてたよ
みゅーちゃん待たせてごめん……
そりゃこんだけ待たせたら怒るよね
でも最後はやさしい!
前話のタイトルはみゅーちゃんの作文に繋がる伏線です
4年越しの伏線回収()
なんとなく筆が止まって、1年経ったら忙しくなり、今に至る……
書けるときに書いておかないといつ書けなくなってしまうかわからんなーとつくづく思いました
カント―で完結にした方が良かったのでは?という説はあると思います。
でも、みゅーちゃんにしゃべってほしいんや……