さぁ、いよいよバトル本番だ。準備は万端、いつでもオッケーだ。ツツジも用意ができたようだ。あらかじめランクは8にするように伝えている。生徒たちにもそれは伝えてある。
もちろんこれは特例措置だ。
「ねぇ、ランク8ってどれぐらい強いの?」
「1番強いランクだぜ? 勝ったらポケモンリーグに出場してテレビに出られるぐらいすごいに決まってるだろ!」
子供たちは勉強しているので知識としては知っているようだ。けど実際に目の前で繰り広げられるバトルは想像の遥か上をいく。俺のグレンは半端な強さじゃないぜ?
本当はシスイで経験を積ませたかったが、それは仕方ない。グレンだってたまには戦いたいだろうし、またの機会を待とう。
「では、これより公式戦を始めます。審判は講師の私が務めて、ルールはリーグ公式のものに基づき、使用ポケモンは1体です」
「了解。不利なタイプを使うのは俺の勝手だ。ジムリーダーのあなたは気にしなくていいですよ?」
「むろん全力でお相手します。ではレインさん、前へ」
互いに向かい合い、同時にモンスターボールを投じ、勝負の命運を託すポケモンが現れた。
「ゴロロ!!」
「グルルル……」
相手はゴローニャ。こっちはウインディ。ギャラリーに配慮して、いつもより少し控えめな“いかく”が決まって相手の攻撃力を下げた。
本来グレンは手持ちがバレると不利になるからリーグ戦を見据えて隠しておきたい切り札だ。しかし、今回はジムの外なので映像が残ることもなく出し惜しみは不要。子供達を巻き込んだ時点で実はここまで計算のうちなのだよ。
さて、一応ステータスは覗かせてもらおうか。
ゴローニャ Lv.45 わんぱく 努力値B252
おお、防御は振り切っている。すごいな。タケシといい、いわポケモンはなんかノウハウがあるのだろうか。
「は、はちじゅう……」
「ん?」
ツツジが片言で何か呟きながら顔を引きつらせている。グレンを見て驚いているのか? 事件の時一度見ているはずだが……あの時はちゃんと見ていなかったのだろうか。
「レインさん、只者ではないと思っていましたが……あなたは別の地方の名のあるトレーナーなのでしょうか」
「さぁ、気になるなら自分で調べなよ。それよりそろそろ始めない? 子供達も待ってる」
「そうですね。私は全力を尽くします! 審判!」
「それでは、バトル開始!!」
グレンにとっては久々の公式戦だ。派手に暴れてやれ!
◆
とうとうこの時がきましたか。事件の時からとにかくこの方は普通ではなかった。名を伺った際には聞き覚えがないと思いましたが、使用するポケモンはこの地方では珍しい種類のものばかり。薄々そうではないかと思っていましたが、やはりカントー地方で名のあるトレーナーなのでしょう。
フィールドに立ったときの堂々とした佇まい。信じられないほど鍛えられたポケモン。事件の時は人質を気にしていてあまり注視していませんでしたが、まさかレベルが80以上にも及ぶとは。これほどのポケモンはマスターリーグでも見たことがない。未知の存在故にわたくしが目測を誤っているとすれば、下手をすると90以上という可能性も……全く、恐ろしいですわ。
子供たちの期待に満ちた眼差しに心が痛む。レベル45程度のポケモンではいくら相性が良くても歯が立たないことは明白です。こんな形での勝負になってしまうなんて……恨みますよ、レインさん?
「ひのこ!」
「がんせきふうじ!」
集中して相手の出方を見ていると、最初の指示は決して強力とはいえない小技。まさか、わたくしを侮っている?
ニヤリ
表情を伺うとわたくしと目が合った彼は笑っていました。それは相手を見下すようなものではなく、純粋に勝負を楽しんでいるように思えます。これにはやはり意図がある。
「相殺されたか。ひのこを続けろ!」
「受けてはいけません! 全てがんせきふうじで叩き潰しなさい!」
よくある攻撃パターンとしてはこちらの特性を潰すための削り。ゴローニャの特性“がんじょう”は体力が満タンの場合にのみ一度攻撃を耐えるというもの。それを知った上での攻撃ならば、相手の狙い通りにさせるわけにはいきませんね。
「うしろに回り込め!」
「“ひのこ”ごとウインディにも攻撃しなさい!」
“がんせきふうじ”はわたくしの十八番。自由自在に操り、相手の攻撃を遮りながら本体へもダメージを与えることなど造作もないです。ましてや“ひのこ”に大した威力はない。しかしこちらの攻撃もまた敵にかわされていました。
互いにダメージを与えられない状況が続きます。
「ガウッ! ガウ!」
「ゴロロッ!」
相手は大きな円を描いて移動するのに対しこちらはその中心で体の向きを変えるだけ。いずれこちらの攻撃が相手に届くはず。“ひのこ”と“がんせきふうじ”……このやりとりはわたくしに有利です。
「ゴロロッ!?」
「あぶない!? くぅ……なんて速さ!」
しかし、徐々に敵の“ひのこ”をこちらが捌き切れなくなってきました。敵の動きが速すぎます! やむをえません、こちらだけタダで相手の攻撃を受けることは避けたい。ここはせめて相打ちにはしないと!
「じしん!」
「しんそく、ひのこ」
わたくしが指示を切り替えた瞬間、レインさんは待ってましたとばかりに即座に対応してきました。この対応の速さ、読んでいましたといわんばかり。こういう時はイヤな予感がします。案の定すでに敵の姿はそこになく、ゴローニャは無防備な背後を敵に突かれてしまいました。
「ゴロッ!?」
「一瞬で背後に! しんそくは移動手段?!」
前方に繰り出したこちらの技は完全に空振り。“じしん”は周り全域にも飛ばせますがそうするとトレーナーであるわたくしまで受けてしまいます。なので前方に範囲を絞って使うこともできるのです。あの方はわかっていたようですね。
こちらの攻撃は躱され、“ひのこ”も受けてしまいましたが、ここで相手にも決定的な隙ができた。この程度で怯むわたくしではありません。相手は連続で技を使っているので今はこちらの攻撃チャンスです。すかさず最も攻撃範囲の広い岩タイプ技で応戦しました。
「いわなだれ!」
「グレン!」
トレーナーの呼びかけに対してポケモンは全く反応を示さない。ふふ……どうやら“ひるみ”状態のようですね。追加効果がいきなり発動するなんて幸先がいい。
あらゆる岩技を使い分けられてこそのジムリーダー。いわタイプエキスパートの面目躍如といったところでしょうか。いわポケモンの恐ろしさを存分に味わうと良いですわ。
あのウインディの体力は残り6割といったところ。あとは“がんせきふうじ”で動きを制限してから“いわなだれ”をもう一度当てれば倒すことができます! 緻密な計算が取り柄のわたくしにミスはありません!
とはいえ、こちらも“がんじょう”を剝がされた以上警戒を怠ることはできません。さきに“がんじょう”を剥がしたということはこちらを一撃で倒せる大技が控えていると見て間違いないでしょう。わたくしだって簡単には負けませんからね。
「急所に向かってストーンエッジ!」
「かわせ」
「がんせきふうじ!」
ストーンエッジは急所を狙いやすい。当たれば大ダメージになる以上これは絶対に避けてくると思っていました。そのスキを狙って一番小回りが利く“がんせきふうじ”を命中させ、さらに他の技で畳みかけるのがわたくしのいつもの勝ちパターンです!
「ソーラービーム!」
「まずっ!? 中断してすぐに“まもる”! 急いで!」
今の攻撃パターンはわたくしが最も信頼するもの。普通ならこれを中断するなど勝ちを投げ捨てることにも等しい愚行ですが、この方に限っては別です! 本来発動までにタイムラグのある“ソーラービーム”ですが、その制約を脱する方法がないわけではありません。このタイミングで使う以上、何かあると考えるべきです! いいえ、絶対に何かある!!
「グォォォンンン!!」
「ゴロロ!?」
目一杯チャージされた太陽光線が一直線に飛んでくる! やっぱり吸収時間はなしですか!
「いきなり発射!? やはりこちらの隙を狙っていましたか!!」
「ちょっとぉ~? そのタイミングで“まもる”使うのはズルくない?」
ズルだなんて言ってる余裕こっちにはないんですよ! 案の定切り札を持っていましたね。今の攻撃、すぐに光がみなぎっていた。
……“パワフルハーブ”ですか。
あれは何を持っているかわからないのがミソなのです。敵が隙を見せたと思い攻勢に出たところで大技がいきなりノータイムで飛んでくる。油断すると大やけどしやすいので道具アリのルールでは強者同士なら警戒必須です。あの人を侮らなくて良かった。
大技を警戒していたことが功を奏しました。今の攻撃を躱せたことはわたくしにとって非常に大きい。何かあると思っていなければ咄嗟の防御は間に合っていなかった。恐ろしい人です。
「にほんばれ!」
キタ!! キマシタわっ!! 絶好のチャンス! 今度こそ本当に隙を見せましたね! “パワフルハーブ”は1回だけの使い切り! 連射はできません! やはり待っていれば好機は必ず訪れる! これを逃すわけにはいきません!
「絶対に決めるのよ! がんせきほう!」
わたくしの計算ではこれが当たれば“がんせきふうじ”の補助なしであっても文句なくウインディは戦闘不能です。“がんせきほう”は“いわなだれ”の倍は効く。最初のダメージは4割。仮に少し誤差があったとしても十分。このダメージ感覚に間違いはない。そして技の使用中に回避行動をとることも不可能。技さえ命中すれば……勝負アリですわ!
「使っちゃったね、その技を」
「え?」
笑ってる……まさか今の攻撃が想定内だとでも? いいや、ありえませんわ!
そもそも私以外にこの技を教えられるトレーナーはいません。つまり普通のゴローニャは“がんせきほう”を覚えない。だからこれを想定することなど不可能。
あるいはこの攻撃を耐えきれると思っている? いわタイプ最強の技ですよ? 本当に耐えられると思っているのでしょうか? 自分のポケモンの残り体力すら把握できていないのならとんだ見込み違いですが……
「ガウゥゥ」
「まさか!? これを耐えて、しかもほぼ無傷!? ありえません!! どうして!?」
「もうそいつは何もできない。グレン、今度こそとどめのソーラービーム」
予備動作なしで即座に発射されるソーラービーム。“にほんばれ”とのコンボ……わかっていても“がんせきほう”の反動でゴローニャは動けない。
ほんの少し前とは真逆の状況になるとはなんたる皮肉!
……わたくし、負けたのね。
ゴローニャはソーラービームが直撃し戦闘不能。審判のジャッジで決着がつきました。でも今はそんなことはどうでもいい。頭の中を埋め尽くすのは大量の疑問符のみ。
「負けてしまったようですね。……もっと多くのことを学ぶ必要があるみたい」
これは何かタネがあるはず。なんとしてでも聞き出しておかなくては。
いわなだれ、ひるみドヤ顔(死罪)
ストーンエッジ、急所狙い(重罪)
がんせきほう、技改造個体(ガチ犯罪)
ツツジさん、スリーアウトです!
センリさんもなんかアヤシイことをしていたのでもうそういう地域ということで()
そして数値化できないリアル世界では珍しいゴリゴリのダメ計廃人
スクール通いで優等生ならこれぐらいやってそう