「わかりましたわ。ポケモンリーグの決まりではジムリーダーに勝ったトレーナーに
これをお渡しすることになっています。どうぞポケモンリーグ公認のストーンバッジ、受け取ってください」
ストーンバッジを手に入れた!
「これで2つ目っと」
「レインさん、よければ今の勝負、子供達にもわかるように指示の意図や駆け引きを解説してくださらないかしら? あなた達もきいてみたいですよね?」
「ききたい!」
「気になる!」
ん? 説明か……そんなことしてもこの子たちには難し過ぎてわからないと思うけどなぁ。
「ね、いいでしょう?」
ツツジさん、まさかあんたが聞きたいのか?
「わかりました。簡単な説明しかできないですけど」
「そうおっしゃってくださると思っていました」
結局乗せられて全部説明することになってしまった。お互いの特性、技の威力や効果、そしてパワフルハーブと天候の影響などをまずは一通り説明した。ちなみにゴローニャの持ち物は“かたいいし”だった。
これで必要な事前知識は整ったのでここからはもっと踏み込んだ部分を考えよう。
「じゃあ、まず最初にウインディがなぜひのこを使ったのか、わかる人いる?」
「はいはい! がんじょうを発動させないために先に弱い技を使ったんでしょ!」
なんかすごいヤツがいるな。こんなこと考えられる子供がいたのか。
「おぉ! その通り! 少しでもダメージが入れば特性は使えないし、威力が低い技ほど小回りが利くからね。特性の“がんじょう”をまず潰して、そのあと“ソーラービーム”による一撃ノックアウトを狙おうと思ったから先に少しだけダメージを与えるために“ひのこ”を使おうと思ったんだ」
「うーん……」
「どうした? なんか気になる?」
「技の順番……逆にしちゃダメなの?」
これは驚いた。ずいぶんレベルの高い質問だ。
今度は別の子の意見。たしかに“ソーラービーム”と“ひのこ”は逆でもいい。むしろ先に“ひのこ”を使ったことであとの大技を警戒されてしまうので逆の方がいいように思えるのが道理だ。ゲームみたいにHPが減ったらキズぐすりで回復とかもないし。この点はツツジにも指摘された。
「わたくしも逆で良かったと思います。“ソーラービーム”が来ることは見え見えでした」
「逆でも上手くいく可能性は高いでしょうね。攻めだけ考えるなら」
「どういうことですか?」
「先にソーラービームを当てれば当然ゴローニャのHPは1になる。そうなると今度は“だいばくはつ”を遠慮なく使ってくるようになるから、その反撃を心配しなきゃいけない」
「えっ!? まさかあれをご存じなのですか?」
「なになにー?」
そう、あれだ。世にも恐ろしい“こらばく”コンボだ。“こらえる”は“まもる”より持続時間が長いので効果の適用中に爆発してしまおうという掟破りのコンボ。タケシが常習犯なのでツツジにも警戒していた。
説明すると子供達はスゲー!!という反応だがまさか真似する気だろうか。みんな爆発ばっかりする対戦環境になったらイヤすぎる。
「というわけでバトルではあらかじめ相手の攻撃を想定して未然に防ぐことも重要なんだ」
「トレーナーってみんな戦いながらそんなにたくさん考えてるの?」
「ステージがあがっていけばね。で、今度はグレン……ウインディの速さに翻弄されてゴローニャは技を変えたね。どうしてかわかる?」
「そのままじゃダメだから、タイプを変えてみた?」
「半分正解。ジリ貧だから変えたのは間違いないけど、じしんにしたのは威力と範囲が両方優秀だから。いわタイプの技が大好きなはずなのに、じめんタイプの技に魂を売っちゃうぐらい便利なんだよ」
「人聞きが悪いですね。しかしあなたは読んでましたよね。そんなにわかりやすかったですか?」
「ツツジさんは勘とかに頼るタイプではなく、理詰めで最善手を考えるタイプなのは最初の攻防でわかりました。こっちが“ひのこ”を使った意図をしっかり読んでいましたからね。俺の顔色まで伺って確認してたし」
敢えて目を合わせてそういうと少し顔が赤くなった。
「あなたもかなり観察してるじゃないですか! 人のこと言えませんよ!」
「そうですね。図らずも自分と似たタイプのトレーナーだったので行動は読みやすかったです。“ひのこ”を当てられたあとにいわ技で範囲の広い技を使ってダメージを取り返そうとするのも読めてましたよ」
「ううぅぅ……でもあの時は“ひるみ”状態でわたくしが1歩リードしましたよね」
「ふふふ……」
「なんですか?」
俺が笑うと露骨に不機嫌な顔になった。もう子供たちのために、っていう建前は行方不明だな。
「あの攻防が今回の勝負の分かれ目。あのとき実はウインディはひるんでいません。ちゃんと技を使っています。みんなもどんな技を使ったのか考えてごらん」
「うーん」
「わかんない!」
「あのときは何も起きていない……でもムダな行動をするわけないし、あの状態で勝敗に直結するような技なんて……」
やっぱりわからないものなんだな。この反応が見れただけでも俺にとっては大きな自信になる。これは今後も使えるな。
「ヒントはHPの減り方。本来ゴローニャの攻撃はウインディにはほとんど効いていませんでした。満タンの1割ちょっと、かすり傷程度です」
「え!? そんなはずありません! わたくしポケモンの状態はかなり正確に判断できます! あのときは4割程減っていました」
「ということは?」
「えっ? じゃあレインにーちゃん自分で体力へらしちゃったの?」
「もったいなーい!」
その言葉でピンときたのか、ツツジは「あーー!!」と大きな声をあげた。
「みがわりですね!! ズルイ!! それだけ技名を出さずに使うなんて!」
「“まもる”使う人には言われたくないんだけど」
結局ここが今回の肝だ。俺の勝利条件はソーラービームを当てること。そしてゴローニャの技にはどういうわけか“がんせきほう”があった。なら後はどうやってそれを使わせるか。そしてどうやってそれを受け止めるか。そこがポイントだ。
「それなぁに?」
「みがわりは自分の分身を作って代わりに攻撃を受けてもらうことができる。それで“がんせきほう”を防いで最後のあの反撃につながったんだ」
「すごーい!」
「そこまで考えてたの? すごいかしこいんだ……」
素直に感心する子もいるが、疑問を持つ子もいた。
「でもさ、何も言わずに技を使ったりできるの?」
「ポケモンが賢かっただけなんじゃないの?」
「練習すれば君たちもできるようになるよ」
「ふーん」
「……」
ツツジはかなり考え込んでいる。おそらく“がんせきほう”を使うように仕向けられたことにはもう気づいたはずだ。体力を減らしてゴローニャの攻撃でダメージが入っていると思い込ませることで詰めの場面でのミスリードを誘いつつ、“がんせきほう”を受け止める準備もあの一手でしている。反動で動けないから“こらえる”も許さない。
しかもパワフルハーブと合わせて2段構えなので油断も誘いやすい。普通はパワフルソラビが秘策の本命だと思ってしまう。ちゃんと「もう打つ手がありませんよ」というポーズを見せてからの“にほんばれ”だったからこそツツジも勝負を急いでしまったんだ。
ツツジにとっては元々負け戦だし、そんな状況で勝ちが視えたことで余計に勇み足になってしまった。
説明が終わるとツツジは感服しきった表情で呟いた。
「圧倒的な強者でありながらなんという用心深さ……」
「実際あなたは見込み通り“まもる”で1回目は防いだじゃないですか」
「あれは自分でも上手かったと思いますが、それすら手のひらの上だったとすると……」
「そんな目でみられてもご褒美にしかなりませんね」
「冗談はやめてください。はぁ……これではジムリーダーとして面目が立ちませんね」
いいや、ツツジも強かったよ。その場その場でしっかりと最善の行動をとってくれた。怯んだ敵には畳みかけ、隙を見せれば逃さない。だからこそ逆にそこに付け込むことができた。最善手は時に読まれやすくもあるってことだな。
次戦うことがあれば今日よりもさらに強くなっているだろうな。
「では、今日の授業はここまでとしましょう! ちゃんと感想文の宿題をやってきてくださいね!」
「はーい!!」
さて、後はあの子だ。どこかで見てるはずだが……いたいた!
目を輝かせながらこっちを見ている。俺と目が合うとさっと目を逸らした。うーん、嫌われてる感じはしないけどなんか避けられている。
「ねぇ君、今のバトルどうだった?」
「えっ」
ビクッと体を震わせる例の女の子。ちょっと話しやすくほぐさないとマズイな。
「きみさ、すごく優秀でバトルの練習とかも頑張ってるんだって? 少しは参考になった?」
「さっきのはすごくよかった。特にツツジ先生が驚いてたのがすごかった」
「なら良かった。この前は怖いこともあったけど、ポケモンのことは嫌いにならないでこれからも頑張ってね」
「……わたし、あのとき本当に怖くて、死んじゃうと思って、だからいつもはあんなふうにはならないの! わたしのこと、かっこわるいって思わないで……」
消え入るような声に縋るような眼差し。ものすごく深刻な様子だが、なんだ?
「ん?」
「カッコ悪い子だって思ったでしょ? もうバレてると思うけど、みんなの前でもれちゃったのみてたでしょ? 恥ずかしい……」
「……」
思わず息をのんだ。とっさに言葉が出ない。この子、それで恥かしくて俺に顔を向けれなかったのか! 年頃の子だしかなり気にしてたに違いない。そういえばあの時トイレに行こうとして出ていったんだったっけ。
「やっぱりわたしのこと……」
「なんとも思ってないよ。恥ずかしがることないし、それをとやかく言う奴がいたらそいつが悪い。むしろあれから頑張って学校にも来てるんだから俺はきみのこと凄い子だなって思って見てたよ」
「………………本当?」
「もちろん。人質にされていたあのとき、取り乱して泣き叫んだり暴れたりしていたら俺やツツジさんもどうなっていたことか。きみのおかげでみんな助かったんだから、それは誇ってもいい」
「……そっか」
ものすごくホッとした表情をしている。胸のつかえがやっととれたんだろうな。
理由がわかっていればここまで遠回りする必要なかったのになぁ。あの時この子はスカートではなかったし、暗かったし血まみれだったし最後は死にかけてたしで全く気がつかなかった。たぶんツツジさんとかが上手く後始末もしていたんだろう。他の人も気づかなかった可能性もある。とにかく血のにおいがすごかった。
ともかくこれで話をする障壁は取り除かれた。訊くべきことを訊かなくては!
「あと1つ、ききたいことがあるんだけど」
「んー?」
「君、あの夜に俺のことを呼んだ?」
「え? 呼ぶ? レイン先生を? どうやって?」
わざとぼんやりした表現で尋ねてみるが、どうも反応は芳しくない。なんか違う気がする。
「……君、変わった力を持ってたりしない?」
「ないと思うけど……先生はあるの?」
「俺? まぁ困ってる人がいるとわかったりするよ? 颯爽とかけつける!」
「えー?! ほんとー? うそみたい!」
わざとふざけて誤魔化したが、無邪気に笑う様子を見るにウソを言ってる感じは受けないし、何か隠しているようでもない。本当に無関係なのか? でも状況的にはこの子が呼んだとしか思えない。波長が合うような感覚もあったし。
「その子はレインとちょっとだけ似てるね」
「似てる?」
「波の形……ほんのちょっと似てるの」
みゅーが現れて俺だけに聞こえる声量で囁いた。“ちょっと”という部分を強調していたが、どうやらたまたま波長が似ている人が近くにいただけ、ということみたいだな。
「みゅー、お前最初から気づいて……」
「レイン、買い物するんでしょ? 早くしないときのみのお店に帰れないよ」
答える気はなしか。みゅーは話したくない様子だし、譲れない部分に関しては意志の固いやつだ。こういうとき、俺は待つしかないのかもしれない。
結局、あのときのテレパシーはなんだったんだろうな。
答え分かって謎深まる、か。
“みがわり”だけ事前に掛け声で使用するように打ち合わせしていたということですね
相当有効な戦術だと思います
実際にそれが勝敗を分けてますし