Another Trainer   作:りんごうさぎ

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4.人魚は朝焼けの岬に

 まだ辺りが暗く肌寒い時間帯。朝日が地平線の下に隠れている頃、俺はグレンに乗って町から北へ向かっていた。カスミとは非公式ながら全力での勝負をすることとなり、その場所がハナダの観光名所、ハナダの岬。今日に合わせてポケモンの調整もしっかり行い、イーブイも“かみなりのいし”を使ってサンダースに進化させた。

 

 イーブイはポケモンの中で最も進化分岐が多い。遺伝子が不安定なので環境に合わせて様々な姿・形に進化する。そもそもイーブイというのはエボリューションの頭二文字、EVを当てて名づけられている。“しんかポケモン”と呼ばれるだけあってどのポケモンに進化させるかが重要になる。

 

 進化の選択肢はとにかく多いわけだが、かといって適当に決めていいわけではない。性格は後から変えられないからだ。性格を活かすことを考えれば進化先はおのずと限られる。

 

 “おくびょう”な性格なら基本的にサンダースかエーフィの二択だろう。どちらも優秀だが今回は素早さを重視してイーブイ系列、通称ブイズの中で最速のサンダースを選んだ。理由はターン制という縛りがないのでより素早さの重要性が高いと判断したから。

 

 そしてニックネームも、最初はふざけてカーネルと言った時は俺がふざけているのがわかったようで嬉しい時の甘噛みでなくマジの“かみつき”をくらったが、きちんとしたのを……イナズマ(稲妻)というニックネームをつけて今は満足してくれている。……と思う。

 

 マサキもイーブイの旅立ちを快く許してくれて、そのときイーブイは寂しそうだったが、また会いに来ることとリーグ戦で活躍しているところをマサキに見せることを約束した後、しっかりとお別れをしてくれた。

 

「ガウガウッ」

 

 グレンの声で意識を前に戻す。見えてきた。あそこがハナダの岬か。カスミはもう先にいるようだ。俺の姿が向こうからも見えたのだろう。手に力が入っているのがわかる。近くで降りてグレンをボールにしまった。

 

 両者あいまみえ、しばし無言のまま視線で火花を散らすが、カスミが先に沈黙を破った。

 

「やっと来たわね。待ちわびたわ、レイン」

「ずいぶんと早かったな。張り切り過ぎじゃないのか、カスミ?」

「チャレンジャーを待たせるわけにはいかないでしょ?」

 

 フッ、と口角が釣り上がるのが自分でもわかった。カスミは自分が上だということをチャレンジャーという言葉で示してきたのだ。その挑発的な言葉が逆にたまらなく愉快だった。

 

「なら、岬のおてんば人魚の腕前を見せてもらおうか」

「ちょっと! あんたねぇ……いつまで同じ話を被せる気!? 何回も繰り返してもしつこいだけなの、わかる?! これに負けたらもうやめなさいよっ!」

 

 さっきまでの空気はどこにいったのか、キレキレのツッコミを返してきた。条件反射なんだろうな。やっぱりこういうところを見ると“おてんば”に違いない。根っこの性格は簡単には変わらないよな。

 

「別にいいだろ。それに、案外そういうところも悪くないと思うけど?」

「はぁ!? なに言ってんのよ! 余計なお世話よっ! あんたこそ、負けたらコズエにがっかりされるわよ。あの子あんたのことかなり憧れているみたいだったし」

 

 ちょっと笑いながら言ったせいか俺がからかっているのがバレたらしい。だいぶ気にしているらしいな。早々に話題を変えてきた。これ以上は言い過ぎだしおとなしく乗っかっておこう。

 

「そりゃ負けられねぇな。さーて、もうこっちの準備は万全だ。勝負は一瞬。カスミが見とれているうちに決着がつくだろうぜ?」

「悪いけど、私はそんなに安くないわよ」

 

 お互い黙ってボールに手を当てた。合図も何もないが、自然と2人同時にボールを投げていた。

 

「頼んだイナズマ!」

「頼んだわよMy steady!」

 

 カスミが繰り出したのはギャラドス。“いかく”する間に能力を視た。

 

 アナライズ!

 

 ギャラドス Lv42

 実 160-150-87-70-95-89

 

 イナズマ Lv25

 実 72-33-36-82-58-102

 技 110まんボルト

   2めざめるパワー

   3あくび

   4バトンタッチ

   5まもる 

   6みがわり

   7こうそくいどう

   8シャドーボール

   9でんこうせっか

 

 

 89と102か……。即座に素早さがイナズマの方が高いことだけ確認した

 

「あっ! あのイーブイはサンダースにしたのね。シャワーズにすれば良かったのに。もしかして私対策に電気タイプにしたの?」

「まさかっ。サンダースにするのは最初に見たときから決めていた。こいつの素早さを最大限に活かせるのは進化先で最も速いサンダースしかない」

「そういうことなら仕方ないか。だったらいいわ。でもその子には悪いけど、容赦はしないわよ。ギャラドス、いくわよ! りゅうのいかり」

「右へかわせ、イナズマ!」

 

 作戦通り序盤は避けることに専念して間合いを詰めていった。頼むぞ。

 

「また何か狙っているわね、みずのはどうで囲んで逃がさないようにして!」

「5,6,3」

 

 避けられない分は“まもっ”てやり過ごし、すぐに“みがわり”と“あくび”、いわゆる「みがあく」に入った。

 

 “みがわり”は追撃の“アクアテール”で剥がされたが、それを盾にする形で接近に成功。懐に潜り込んだ。吹っ飛ばないことに相手が不意を突かれた隙にイナズマが“あくび”を決めた。よし、相手は“ねむけ”状態だ。アナライズでも確認できた。さすがイナズマ、見事な手際だ。イナズマの類稀なる速さがあってこそできる芸当。イナズマの動きは相手より一歩速い。

 

 そしてこの瞬間、“あくび”が決まった時点でほぼ俺の勝ちだ。

 

 “あくび”とは相手をねむり状態にする補助技だ。相手を眠らせる技としては有名なものに“さいみんじゅつ”や“ねむりごな”などがあるが、“あくび”にはこれらの催眠技と決定的に違う点がある。

 

 それは技を当ててから“ねむり”状態になるまでにラグがあること。1ターン時間をおいてから眠らせる。なので単純に効果が遅い分デメリットだし、さらに致命的なのは1ターン経つ前にすぐ交代されると効果が切れて無効になること。その場合相手は眠らない。つまり確実性でも“さいみんじゅつ”などに劣る。

 

 こうして欠点を並べるといいとこなしのようだがもちろん長所も存在する。それは命中率が100%であること。普通の催眠技は基本的に命中難に悩まされることになるが、“あくび”にはそれがない。また、交換で効果が消え確実に眠らせられないデメリットも裏を返せば交換を強要できるともとれる。つまり使い方によってはどんな相手でも“あくび”を使えば一度引かせることができる。これはかなり強力といっていい。

 

 但し、以上のことは全てゲームでの話。今、このバトルにおいてはまた話が変わってくる。まず、この技は遠距離から当てるのは難しいので基本的に接近することが前提になること。もうひとつはこの技の認知度が高くないこと。これは相手にとって致命的だ。

 

 まず、催眠技として見る場合確実性に劣る、というデメリットは相手が交換で効果を消せることを知っているのが前提。その前提がなければ“あくび”は命中率100%の催眠技と化す。しかも、前回のジム戦でカスミ自身が言ったように技の出し方にはポケモンごとの個性がある。トレーナーの指示を聞けなければ何の技を使われたのかは判断しにくい。だから番号しか言わない俺が相手だと仮に“あくび”を知っていても対処は難しい。これでより確実に催眠を決められる。

 

 結局、接近してうまく“あくび”を当てさえすればほぼほぼ相手は眠ることになる。そうなればこっちから攻撃を加えるなどして相手を刺激しない限りはだいたい4,5ターン以上は夢の国へおさらばだ。ポケモンは楽しい夢を見ることになるだろう。トレーナーが見るのは悪夢だけどな。

 

 “ねむり”によってできるこの時間はとても重い。これだけで勝敗を分ける程の重大な隙ができる。そのことをカスミにはたっぷりと見せてやろうか。

 

「よくやった! 間合いを空けて逃げろ」

「逃がさないで! かえんほうしゃ!」

 

 “あくび”を当てた以上イナズマは1ターン生き残るだけでいい。ここは当然逃げの一手。やや攻撃をくらったが特殊技だったおかげでHPはなんとか残っている。

 

 カスミは即座に逃げるイナズマには追いつけないと判断して遠距離技を選択したのだろう。悪くない判断だが無駄な抵抗だったな。といってもイナズマはできればHPを1/4以上残したかったのでそれを考えると結構危ないラインではあったが。けっこうギリギリだ。

 

「もう一押しよ! ギャラドス、りゅうのいかり!」

「ギャーラァ……zzz」

「ギャラドス!?」

「さぁて、いよいよ始まったか。これから夢の時間の始まりだ、楽しんでくれよ? 7,6」

 

 “かえんほうしゃ”を使った後、バタン、と突然ギャラドスが倒れた。カスミは驚きあわてふためく。その間にイナズマには素早さを上げさせてから“みがわり”を張らせた。

 

「ちょっと起きて! 起きてってば!! なんで急に寝ちゃうのよ、朝早いけどそれはないでしょ?! どうしたの!?」

「もう十分か。イナズマ、いいぞ!」

 

 その合図でイナズマが“バトンタッチ”を使い、アカサビが出てきた。

 

 

 アカサビ Lv28

 実 86-101-56-37-56-88 

 技 1つばさでうつ 

   2でんこうせっか

   3みねうち

   4つるぎのまい 

   5まもる

   6みがわり

   7こうそくいどう 

 

 

 

「交代? このタイミングで? 今のうちに、攻撃される前に起きなさい! 今ならチャンスよ! 起きてギャラドス!」

「とにかく4!」

「ッサイ!」

 

 予定通りだ。威勢よく“つるぎのまい”を始めるアカサビを見てしばらく、ようやくカスミは俺の狙いに気づいたらしい。

 

「能力を上げるのが狙いだったのね! だったら戻って! スターミーあなたの番よ」

「いい判断だが少し遅かったな。もう準備は終わった。お前がこの舞に見とれてる間に、既に勝敗は決した。俺の勝ちだな」

「バカ言わないで、勝負はこれからじゃないっ。10まんボルト!」

「避けてから1」

 

 しかしアカサビは余裕でこれを避け、“つばさでうつ”を決めた。一撃だ。

 

 ランクは攻撃が4ランク、素早さが2ランク、各々3倍と2倍になっている。実数値にすれば、

 

 攻撃  303

 素早さ 176

 

 係数の兼ね合いを無視すれば、能力をレベル50のポケモンと比較すると攻撃力は“こだわりハチマキ”を持っている「いじガブ」(性格いじっぱりのガブリアス)とほぼ同じ。素早さは最速のゴウカザル(108族)と同じ。レベル50として見てもかなりの高水準。レベル40台で育成もままならないポケモンでは相手にならない。

 

「なんて威力! しかも私のスターミーよりも速い! この前とは比べ物にならない……まさかイーブイだけでなくこのストライクもこれだけ育てていたの!?」

「だから勝負は一瞬だと最初に言っておいたのに、呆けていたらこのまま一気に終わってしまうぞ?」

 

 ニヤリと笑うとカスミの目の色が変わった。

 

「だったら今度は耐久勝負よ! お願いラプラス」

「突っ込め!」

「れいとうビームよ!」

「遅い、後ろから1」

 

 ヒラリと冷気を避けてから回り込み、無防備な背面に強烈な“つばさでうつ”を叩き込んだ。前のめりにラプラスが倒れこんだところにもう一度攻撃してラプラスは倒れた。攻撃が重過ぎてバランスをくずし、ラプラスはまともに攻撃できずに終わってしまった。こういう耐久ポケモンを警戒して“みがわり”もバトンしたんだが、必要なかったかもしれない。

 

「速過ぎる。これじゃ次元が違う。これがレベル20代のポケモンの動きなの?……信じられない。この強さ、まるで四天王クラス。どうやってこんな強く……」

 

 カラクリは簡単。この世界じゃ積み技は1回で十分という認識で、それ以上は効果が薄い上に多大な隙が生じるから重ね掛けすること自体がそもそもあまりない。だから元々攻撃力が高かったと誤解しているわけだ。素早さの方も、“バトンタッチ”が能力変化を引き継ぐことは恐らく知らないだろうから元々の速さだと思っているはずだ。

 

「次は誰だ? 勝負はこれからなんだろ?」

「くっ、ならゴルダック! 出て来てみずのはどう!」

 

 次のポケモンを出すがストライクは余裕で全て躱した後、技後硬直を狙って“つばさでうつ”を当ててノックアウトした。

 

 ここまでくればもうアカサビは止まらない。その後も全ての攻撃を避け切っての完封勝ちを収めた。

 

「ッッサイィィィィクッ!!!」

 

 圧倒的な勝利。たった1体で手持ち全てを倒し、ようやく出てきた朝日を背に受け勝利の雄叫びをあげるアカサビの姿は神々しさすら感じさせた。

 

「ダァァッ!」

「おっと、イナズマお疲れ。お前のおかげで勝てたよ」

 

 ボールからイナズマも出てきたのでよしよしと褒めながら撫でてやった。「あくびバトン」あってこその今回の大勝利だ。イナズマにはとびっきりのご褒美をやらないといけないな。イナズマの加入で俺のパーティもかなり形になってきた。

 

 バタン

 

 カスミは地に膝をつきうつむいて顔を上げない。様子を見に近づくと突然コズエが出てきてカスミに駆け寄った。

 

「カスミ、大丈夫?! しっかりしてっ!」

「だ、大丈夫よ、ちょっと力が抜けちゃって」

「全くもう! レインさんいくらなんでもあれはないですよ! 一方的過ぎ! 相手は女の子なんだからもうちょっと優しくしてよ!」

「バトルにそんなの関係ないだろ。つうかコズエ、お前最初からいたな? しかもカスミもそのこと知ってたんだろ?」

「ギクッ、な、なんでそれを」

「今の反応で確信したし、カスミがお前見ても驚いてなかったからな」

「変なところで鋭い」

 

 コズエとあーだこーだ言っているうちにカスミが立ち上がった。

 

「もういいわよ。レイン、あなた本当に強いわね。あれからあなたのことは調べたの。そしたら本当に駆け出しで、スクールにも行ってないみたいね。現実離れし過ぎていて、なんといったらいいかわからないけど……あなたホントに人間?」

 

 いきなり人間否定とは心外の一言に尽きるな。“へんしん”中のポケモンだとでも言いたいのか?

 

「わからないにしても、もう少し他の言い方はなかったのか」

「冗談よ。半分本気だけど。でも私も目が覚めたわ。こんなにバトルで気持ちがたかぶったのは久しぶりよ。あのムダのない研ぎ澄まされた動きを見ていると私もさらにもっと強くなりたいと思った。だから、あんたには絶対リベンジしてやるわ。だから……あんたも簡単に負けたりしないでよ!」

 

 これは遠回しに応援してくれているのか? 素直じゃないが、逆にそうまでして応援されると嬉しいな。地味に「あくびバトン」された試合をいい試合に分類しているのもすごい。

 

「ありがとさん。絶対に負けない。そうだな……この朝日に誓って、リベンジの時まで負けないでいてやるよ。こういう雰囲気の出るところで真剣勝負というのも悪くなかった。リベンジのときまでにお前も腕を上げとけよ」

 

 そういうとニッと笑ってカスミも負けじと軽口を叩いた。

 

「そっちこそ、怠けて今日より弱くなってたら鼻で笑ってやるわ! 元気でいなさいよ」

「またな」

 

 そう言うとふっとカスミの表情も柔らかくなり、大きな声で返事をした。

 

「絶対よ!」

 

 岬の人魚に見送られ、次の目的地、ニビを目指して歩みを進めた。

 




フルバトルなのに番人のときよりかなり短いです
それだけイナズマが強いということですね
イナズマは大活躍といっていいはずです
イナズマの加入によって、この前はランク7に苦戦していたのに今回は全力のカスミに圧勝できたわけですからね

「あくびバトン」や「かそくバトン」は物凄い強力というイメージです
しんそくみたいな高火力先制技か避けきれない範囲攻撃とかないと詰みに近いと思います
ほえるはこの世界の住人から産廃という認識なので誰も使わないでしょうからね、レインさん以外は
とはいえ毎回バトンするだけは芸がないので使わないことが不自然にならない範囲で控えるようにはしますが

なお、イナズマは活躍しましたが、経験値は丸ごと全てアカサビさんのものです
雄叫びは一気にレベルアップしたことによるもの
サポート役が経験値もらえない仕様はイナズマには辛いですね
一瞬だけ戦闘参加したら半分もらえる仕様がおかしいと思ったのでこういう感じに変更しましたが、どっちにせよおかしいのは一緒という説はあります。

イナズマはどこでレベルを上げることになるんでしょうね(すっとぼけ)

設定いじってるのでバトン最強とかパワーバランスが変わるのは面白いですね
持っているポケモンが少ないのであんまり何でもできるわけではないのが残念

眠っているターンについても触れておきます
レインはすでに味方に試し打ちするなどして実験しているものと思ってください
攻撃を受ける時と受けない時で眠る時間は変わり、今回のように何のアプローチもない場合には眠りターンが長めになります

また、素早さを上げているのでその分行動回数も増えます。極端に言えば倍の速さで動けば3ターンの間に6回行動できるわけです


手持ちも3体出たので触れますがニックネームは基本二字熟語統一にするつもりです
別に拘りはないので何でもいいんですが、何でもいいと逆に決めきれないので考える取っ掛かりがほしくてこうしました
あくまでレインが考える場合の話です
例外とかもあります
アニメとかでもたまにニックネーム持ちが出てくるのでやっぱりあった方がいいかなと思います

余談ですが一番印象に残っているニックネームはカメックスのクスクスです
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