「なんだあれは?」
「みゅ? キンセツシティでしょ?」
「それはそうなんだけどさぁ……」
やっと次の街に着いたのはいいが、なんか俺が知ってるのとえらく違っていた。なんかこう……記憶にあるよりも立体的だ。しかもデカイ。
またなんかこのゲームバグってる? ここホウエン地方で合ってるよなぁ?
他の街はだいたい記憶通りだったのに、理由が全くわからない。
とはいえやることは変わらない。キンセツに着いたら最初にやることは1つだ。
「うひょぉぉぉぉ!!! はえぇぇぇぇ!!!」
「レイン、そういうことするのはカッコ悪いよ」
「いいだろ別に! 念願のマッハ自転車とダート自転車なんだから!」
カントーと違って高性能! しかも値段も普通! 当然両方現金で購入。即決だ。
こうなるともはやグレンいらずだな。これでもう移動手段には困らない。
「みゅーのことは? やっぱり置いていくんだ」
「……」
みゅーは自力で移動できるのであんまり考えてなかった。勝手についてこいなんて今言ったら俺の手首がねじ切れるかもしれない。
「どうなの?」
「一緒に歩きます」
「みゅ……よろしい」
どっかで出番はあるだろう。すぐには思いつかないけど。衝動買い……ムダな出費……。あの4姉妹にも怒られそうな気がしてきた。まぁ、黙っていればバレやしない。
そうだ! なんならこの街にはゲームコーナーがある。そこでひと稼ぎして汚名返上といこうか。
しかし、探せど探せどゲームコーナーがない。ここ俺の知ってるのと違う世界線?
「ゲームコーナーがない世界とかどこの世界線だよ!」
「みゅー、諦めてジム戦したら?」
「しょうがないか。こんなにデカイ街なのになんにもないんだな、ここって」
残念な気持ちでジムに向かうと、何やら見覚えのある顔を見つけた。
「おじさん、お願いだから! 自分がどれくらい強くなったかこのジムで試してみたいんです! ね、ね、いいでしょう!?」
「まあまあ ミツルくん! たしかにポケモンと一緒に暮らすようになってからきみはずいぶん元気になった! だからっていきなりポケモンジムに挑戦なんて無理してないかい?」
「無理なんかしてません。ぼくとポケモンが力をあわせれば誰にだって勝てるはずです! ぼくは究極の力を手に入れたんだ!」
おぉ、おぉ……慢心したひよっこが騒いでいるな。どこぞのナメック星人みたいなセリフだ。
この流れは見覚えがある。また俺がミツルイベントを引いてしまったのか。どんな奇跡なんだよ。タイミングが良すぎだ。この状況からして、標的は俺になるのは間違いないだろうな。あの日のラルトスがどれほど強くなったのか、見せてもらおう。
「久しぶりだな、ミツル。ずいぶんと元気そうじゃないか」
「あっ! レインさん! ぼく、あれから強くなったんだ! ポケモンと一緒に! それをレインさんにもおじさんにもわかってもらいたいんです! レインさんおねがいです! ぼくとポケモン勝負してください」
己の力を少しも疑っていない、純粋でまっすぐな目だ。しかし、悲しいかな……それは無知故の蛮勇。愚か者の驕りでしかない。よもや俺に本気で勝てると考えるほど思い上がっているとは恐れ入った。
無知は大罪だ。
「おもしろい。俺に勝てるというのなら見せてくれよ、お前の力」
「ありがとうレインさん。それでは……いきますね!」
開戦のゴングは鳴った。俺とミツル、同時にポケモンを繰り出した。俺は当然手加減のためシスイ。対するミツルは……キルリア!?
キルリア Lv.28
なきごえ
テレポート
ねんりき
さいみんじゅつ
マジカルリーフ
めいそう
サイケこうせん
こいつ……どうやってレベルを上げた? しかもこの短期間でここまで鍛え上げるとは。なるほど、究極の力を得たと思うのも無理はない。実際ここらでは敵なしだろう。育てる腕は確かなようだ。
パッと最優先で技を確認するとやはり持っていた。危険な草技が1つ。そうなると俺が勝つための策は1つしかない。
いかに草技を受けずに勝負を進めるか……それだけだ!
「よく育てている。これは手強いな」
「いきますよ! サイケこうせん!」
「堂々と受けてマッドショットで反撃!」
いきなり草技以外のチャンス攻撃が飛んできた。撃ち合い歓迎。変に躱したりすると攻撃方法を切り替えてくる可能性がある。シスイはレベルが上で種族値もかなり上。殴り合いに持ち込めばこちらに分がある。
「たいした威力じゃない! もっとサイケこうせんだ!」
「キルッ!」
「躱してたきのぼり!」
「マークロッ!」
キルリアはさっきの“マッドショット”が効いているので素早さが下がっている。簡単に攻撃を躱して懐に潜り込んだ。
「えっ!? 速い!?」
「キルッ……」
もろに攻撃を受けて、キルリアはひるんでしまった。この隙を逃すわけがない。
「トドメのたきのぼり!」
「マックロッ!」
「キルゥゥ……」
キルリア戦闘不能。勝負あった。
“マッドショット”からの怒涛の連撃……今日も絶好調だ。
ミツルの手持ちが他にいないのは知っているが、一応確認しておくか。
「終わったな。他にポケモンがいるならどうぞ?」
「くっ……ボクのポケモンはキルリアだけ。ボクの……負けです」
さすがにこのレベルのポケモンを何体も持っているわけはないよな。ミツルは勝負の結果に納得いかないって表情を浮かべている。そんなに悔しいか? けど、これをバネにしてこの子は強くなる。そしてポケモンリーグでまた強くなった姿を見せてくれることだろう。
また1人、この地方で楽しみなトレーナーが増えた。
「さあ、うちにかえろう。みんな待ってるよ」
「……イヤだ」
「えっ?」
今のはおじさんの声だが、ミツルから強い否定の言葉が出てきて俺も驚いた。こんなセリフ、俺は知らない。ミツル、どうしたんだ?
「ボクは……弱くない。そうだ、ポケモンが弱かったからだ。レインさんのポケモンはすごく強いから、捕まえたばかりのキルリアじゃ勝てないのは仕方ない。当たり前だ。だからトレーナーのせいじゃない! ボクが弱いわけじゃないんだ!」
なんだって? ミツル、今おまえ……なんて言った?
「ミツルくん……」
「やっぱりボクこのジムに挑みたい! お願いだよおじさん!」
この子も必死みたいだが、どうしても黙って見ていられない。ミツルの願いを遮って、口を挟ませて貰った。
「待てよミツル。今のはどういう意味だ?」
「レイン? みゅ……?」
ミツルは今、超えてはならないラインを超えた。それは、その言葉だけは、トレーナーは絶対に言ってはならない。何があっても、トレーナーがポケモンに責任を押し付けることだけは許されない。なぜならそれは、トレーナーがトレーナーとしての役割を放棄したということだから。
「そのままの意味です。ボクのキルリアが弱かったから、ボクは負けたんだ」
「違うな……」
「なんだって?! どうしてなんだ……どうしてわかってくれないんだ、レインさん!」
悔しさで我を忘れている。しょせんまだ子供。そしてこれは俺のミスでもある。あのとき、急いでいたとはいえトレーナーとしての最も大切な心構えを伝え忘れていた。
「どうやら、俺はお前に1番大事なことを教え忘れていたようだ」
「1番大事なこと?」
「ポケモンの強さで勝負が決まるなら、トレーナーは必要ない。お前は、トレーナーの本当の役割を理解していない」
「役割? そんなの聞いたことない……」
聞いたことない、か。そういえば、ブルーは最初からこういうところはよく理解していた。たしかにあいつはバトルの腕はからっきしだったが、そんなもの些細なことだ。今にして思えば、トレーナーとして最も大切な部分を、あいつは最初からしっかりと自分の中に持っていた。
「トレーナっていうのはな、ポケモンの力を引き出す者のことだ。ただ技を言ってりゃいいってもんじゃない。自分のポケモンの力を引き出し、敵を見極め、最適な戦略と戦術を持って敵に勝利する。お前のようにただ強い技を言うだけのトレーナーなんて、ポケモンにとっちゃ無用な存在だ」
そしてポケモンの力を引き出すものはもう1つある。ブルーのラプラスがそうだったように、大事な者のためならばポケモンは時として信じられないような力を発揮する。ミツル……お前はそれを、自分で見つけなくてはならない。
「でも、レインさんだって、ずっと技を適当に言ってるだけじゃないか!」
「ミツルくん!? おそらくこの方は君のラルトスを捕まえる手助けをしてくれた方じゃないのかい? そんなこと言っては失礼だよ?!」
そうか、ミツルにはそう見えているのか。
「なるほどな。これはとんだ大馬鹿だ。そしてバカにつけるクスリもない」
「なっ……! いくらレインさんでも、それは言い過ぎですよ!」
言い過ぎはどっちの方だっつーの。怒るミツルを見て、1つ面白いことを思いついた。脳裏に蘇るのはカントーリーグでのみゅーの活躍。メタモンの躍進は、そのまま俺と相手の力量差を残酷なまでにハッキリと浮き彫りにした。そして今、ここで、あのときの絶望を再現してやろう。
「なぁミツル、そのキルリア、こっちに渡しなよ。手当してやるから」
「えっ!? 急になんですか?」
「いいから、渡しな」
別に謝ってもらえるならこれ以上何も言いませんけど、と呟きながらキルリアをこっちに渡してくれた。そういうことじゃないんだけどな。まぁ訂正するのも面倒なのでパパっとキルリアとヌマクローを共に全回復させた。これでミツルに思い知らせてやることができる。
「みゅ? レインもしかして……」
みゅーは俺が何をしようとしているか気づいたみたいだな。ずいぶん勘のイイエスパーだこと。
「おい、たしかお前が言うにはバトルっていうのはポケモンの強さで勝負が決まるんだよなぁ?」
「えっ? そりゃそうでしょう? 強い方が勝つに決まってますよ」
「だったらさぁ、この2匹を入れ替えたらどうなるんだ?」
「ええっ!?」
「俺がキルリア、お前がシスイを使って戦えば、今度こそお前が勝つ。そういうシナリオでいいんだよな?」
「えっ!? まさかレインさん、ポケモンを入れ替えて再戦するつもり!?」
「あぁ、そのまさかだ」
ミツルには本当のトレーナーっていうのがなんなのか、思い知らせてやろう。ポケモンを入れ替えての勝負……勝てばミツルの言う通り。だが、負ければどうか?
今度こそ、言い逃れはできない。
そしてもう二度と! ポケモンのせいだなんてことは言わせない!
「で……でもっ! ボクのキルリアがボク以外の言うことなんか聞くわけない!」
「ほう、相手を気にする余裕があるのか? 心配ご無用。ほら、キルリアはこの通り」
「キルルッ!」
「ウソでしょ!?……もう懐いてる!!」
さっき手当するときにこっそり高級きのみも食べさせていた。すぐに戦闘をこなす程度なら十分なほど、なつき度は上がっている。
ついでに言えば、俺には数々のジムバッジがついている。これらがゲーム通りの働きをしているのならば、人のポケモンでも俺の言うことを聞かせる効果はあるはずだ。
「ミツル、お前は以前、何度もシスイでポケモンバトルをしている。俺がシスイに指示を出すところもさっきみていたよな? 条件はむしろ、お前に有利なはず。違うか?」
「……」
「これで勝つことができれば、たしかにお前は俺以上のトレーナーだったとその人に証明できる。さぁ? どうする? この勝負、受けるのか? それとも受けないのか?」
「……」
ミツル、選択を迫るのはお前だけの専売特許じゃない。ゲームじゃいつも理不尽な勝負を挑まれる側だったが、この世界に来て、初めてミツルに理不尽を味合わせてやれそうだ。
それに、図らずも一度は俺が手ほどきをしてやった相手だ。それが間違った方へ歩きかけているのなら、それを正しく導いてやるのも、先達の務めというもの。
「どうした? さっきの発言はウソだったということか?」
「違う! いいよ、ボク受けます! シスイとならレインさんにも勝てる! お願いシスイ! ボクに力を貸して!」
「マークロッ!」
任せとけ、と兄貴肌全開のシスイ。ヤル気は十分みたいだな。存外、ミツルのヤツも上手くシスイを味方に引き込んでいるじゃないか。即席にしては中々いい信頼関係が芽生え始めている。
「勝負はさっきと同じ、1vs1の真剣勝負。準備はいいか?」
「いつでも!」
「それじゃあ、はじめっ!」
さぁ、リベンジマッチの始まりだ。まずは様子見。先手はミツルに譲った。
「たきのぼり!」
やはりか。さっきのバトルと戦闘パターンが同じ。単調で単純な攻撃。ただ何も考えず1番威力が高い技を選択してきた。この状況で能天気にもバカ正直な接近戦を選んだか。
今、ミツルが警戒するべきなのは“マジカルリーフ”だ。だとすれば遠距離からの攻撃に対応できるような攻め方が求められる。いきなり近づいても敵の攻撃の餌食になるだけ。だからさっき、俺はまず遠距離攻撃の“マッドショット”でキルリアの足を奪ったんだ。
「テレポートで遠くへとべ」
「キルッ」
「テレポート?!」
そこで使うのかってリアクションだ。ミツル、お前ならこの技のことはよくわかっているはずだろう? この技なくして経験値稼ぎはできなかったはず。なぜこれをもっとバトルで活かそうとしない?
あっさりと“テレポート”が決まりキルリアは“たきのぼり”を躱した。しかもキルリアとシスイの間には十分な距離ができた。これでシスイは終わりだ。
ここまで余裕だと、ちょっとオシャレな勝ち方を目指してみたくなってきたな。正面から“マジカルリーフ”を連打したとしてもシスイにこれを防ぐ術などないのだが、あえて変化球で攻めてみようか。その方が、ミツルにとっても学べることが多いだろう。
「そのまま右に向かってマジカルリーフ」
「右? どこ狙ってるの? だったら今のウチに攻撃だ! もう一度たきのぼり!」
「マーァァ……マッ!? クロッ……」
攻撃しようとしたシスイの背後から“マジカルリーフ”が炸裂。死角からの予想外の攻撃。しかも4倍弱点だ。そのまま攻撃は中断され、膝をついてしまった。
「あっけない。トドメのマジカルリーフ」
「マズイ!? よけてシスイ!」
「マッ!?」
マジか!? という表情のシスイ。そりゃそうだ。こんな態勢からすぐに避けるなんて無理だ。しかも奇跡的に躱せても“マジカルリーフ”は必中技。追撃されて意味がない。
ミツルは終始、最悪の指示を出し続けていた。
「終わったな」
「マークッ……」
「みゅ。シスイは戦闘不能。レインの勝ちね」
「そんな……ありえない。なんだこれ……なんにも、まったくなにもできなかった……」
「お前はまだ本当のトレーナーじゃない」
「……」
「せめて1度目のバトルで己に足りないものを理解できれば、2戦目でここまで無様には負けなかったんじゃないか?」
「……」
「何も学べないなら、お前はそこまでの存在だったということだ」
「んぐっ……んっ……」
ミツルは涙を押し殺しながら崩れ落ち、顔をぐちゃぐちゃに歪めながら倒れ伏すシスイを眺めていた。その姿をキルリアは申し訳なさそうに見つめている。
キルリアにしてみれば自分の力でミツルを倒してしまったのだから、無理もない。エスパーで、相手の気持ちがわかってしまうからこそ、余計に罪悪感が募っているのだろうな。
とはいえ勝ちは勝ちだ。キルリアにはお礼も込めてウンと褒めてあげた。
「キルリア、おいで。よく頑張ったな。ありがとう」
「キルル!! ルゥゥ……」
嬉しそうに喉を鳴らすキルリア。近くで見ると……この子、かわいいな。
「みゅ……」
みゅーの視線が痛いのでかわいがるのはこの辺にしておこう。それに、だ。キルリアには大事な役割がある。
「キルリア、よく聞いて」
「キル?」
「今、ミツルはトレーナーとして大きな壁にあたっている。しばらくの間、落ち込んで、動く元気もなくなってしまうかもしれないけど、ミツルはまた立ち上がるべきときが来る」
「……」
「だから、そのときは、お前が支えてあげるんだ。それがポケモンの果たすべき役割なんだ。お前ならできるな?」
「キルッ!」
「よしよし、いい子だな」
これでミツルはまた立ち上がれるはずだ。自分の力だけでな。
「ミツルくん、今度こそ、もういいよね?」
「…………」
「さぁ、帰ろうか」
「………………はい」
おじさんは軽く俺にむかって会釈した後、ミツルくんの手を引いてシダケの方へ帰っていった。当のミツルはしょんぼりしたまま、キルリアと一緒に俺をチラリと見ることもせずに帰っていった。
「ねぇレイン」
「なんだ?」
「あの子……気になる?」
「さぁ? どうだろうな」
ストーカーはもう懲りてる。必要以上に関わるつもりはない。
ホウエンに来たのは、あくまでバカンス目的だからな。