1.アイドル発掘は誰がため
「マークロォォォ!!」
ヌマクロー進化!! おめでとう!! ヌマクローはラグラージに進化した!!
「さすがだな」
「ラァァグ!!」
パン!と小気味よくハイタッチしてジムリーダーテッセンを打ち破った。
「まさに無双。さすが地面タイプじゃな」
「まぁね。ラグラージだとこのジムは相性が良すぎる」
ミツルとの一戦の後、シスイはまたしても自信を失っていた。いつもグレン達を見て劣等感を抱いており、しかも俺の指示では圧勝できたキルリアにミツルとのコンビでは完敗。今までの勝利はポケモンの力ではなくトレーナーの力だったのだと思い知らされ、魂の抜け殻のように燃え尽きてしまっていた。
そんなシスイを元気づけるため、俺はシスイに宣言した。
「このキンセツジム、シスイ以外のポケモンは全て封印する!」
結果、シスイは俺の期待に応えて、全てのポケモンをたった1匹で倒してしまった。そして大量の経験値とともに、いよいよレベル36の大台を迎えたのだった。
これでゆっくりラグラージに乗って“なみのり”もできる。このままカイナ経由でムロにでも行ってみようか。
けど……その前にやっておくことがあるな。
「シスイ進化おめでとう&ジム戦突破祝勝会!!」
「みゅ……レインはしゃぎ過ぎ」
「ラーッグ!!」
いやいや、シスイも喜んでるじゃん! ちょうどキンセツキッチンとかいうバトルと料理が両方楽しめるところがあったのでそこで祝勝会をすることに。しかし、1人だけ姿を見せない子がいた。
カタカタッ
ボールを投げても出てこないのはラティアスのカノン。どうもまだマグマ団やアクア団に怯えているようで、中々外に出てこない。ボールに入るとき即決だったことといい、よほど外の世界が怖いらしい。
こりゃラティアスを使ってバトルするのは相当先になりそうだな。
カノンとはしゃべってみたいことなんかもたくさんあったのに、残念だ。この調子だとカノンとまた会うためには悪の組織をぶっ潰すしかないのかもしれない。
1日祝勝会に使ったあと、キンセツでポスターを貼る作業をして次の街へ歩みを進めた。なんかキンセツって明るい街だったはずなのに、立体キンセツは暗い感じの住人が多くて長居したくなくなってしまったんだよな。幸福度が低いというか、なんか闇を抱えている。
けど、俺は俺だ。切り替えて先へ進もう!
「とうとうきたぜ!」
「みゅー……」
待ってました、サイクリングロード!
マッハじてんしゃどこで使うんだって思ってたが、そうだよここだよ!
タイムアタックの時間だ!
「……9分16秒! ブラボー!!」
パンッ!!
計測の人とハイタッチ。やっぱり俺の運転技術は衰え知らずだな。
「ん? また次が来るな。ソーリー、俺は計測に入らせて貰う」
「俺以外にも走り屋がいたとはね……」
この峠の下り坂で俺より速いヤツなんかいるわけねぇけどな。
「みゅ」
「……9分15秒!?」
「はぁ!? みゅーちゃんかよ!? お前なんか反則しただろ!! しかもそれカントーの普通の自転車じゃねぇか!!」
「ちゃんと走ったもん」
俺の最強最速のマッハ自転車が……オンボロ鈍足自転車ごときに……。
ま、負けた……。
ドヤ顔で胸を張るみゅー。お前は豆腐屋の息子か! 珍しく腹立つ顔しやがって。胸はペッタンコだけどな。
「レイン……今何考えてた?」
「さっ! 次行こう次っ!」
あっというまにカイナに到着。しかし、カイナと言えば何がある? イベントは色々あるが見ていくポイントはあんまり思いつかない。とりあえず市場でも見ていくか?
「こううんのおこう!?」
「みゅ? また散財?」
「バカ! 逆だって! これさえあれば金運アップで賞金2倍だ! まぁ現実的に賞金2倍は無理としても、たぶん店に置いておけば御利益とかあるに違いない」
「レイン、なんか今ダメなときのレインな気がするの」
「ホントだって! 俺を見ろ! 信じろ、この眼を!」
「ウソだとは言ってないの。おバカだって言ってるの」
「みゅーさん辛辣……」
みゅーの反対を押し切ってこううんのおこうを購入。ついでに他の店も巡っているとダイバー用の服を販売しているところもあったので買っておいた。すてられぶね探索とかもしたいし、ダイビングする可能性もあるから用意しておくに越したことはないだろう。やっぱり海の街だからダイバーとか多いんだろうな。ついでにライフジャケットとか新しい水着とかも補充しておくか。
「ガウガウ!」
「ダース!」
「どうした? お前ら?」
「……レイン、自分のばっかり買い物ズルいって。なんかちょうだいって」
「たしかに。じゃあなんか食べて行こうか。海の幸とかここで食べるのが一番おいしいだろうし」
なんか最近食べてばっかりだけど、せっかくのバカンスだし楽しまないとな。色々楽しんで、満腹のグレン達はボールに戻り、イナズマさんは俺の頭の上に寄りかかって特等席を満喫。
その後もブラブラしていると人だかりを見つけた。
「おい! あっちでルチア達がロケしてるぞ!」
「まじかよ! ルチアちゃーん!」
「……なんだなんだ?」
なんか騒がしい。アイドルでも来てるのか?
人が集まっているのはどうやらコンテスト会場がある方だ。なんかイベントっぽいし行くだけ行ってみるか?
「ちょっと寄り道してみよっか」
「いいよ」
行ってみると本当にアイドルが来ていたみたいだった。
「みなさーん、こんにちは! わたしルチアとチルタリスのチルルはカイナシティのコンテストライブ会場に遊びに来てまーす」
「チルルー!」
「じゃあ今日もさっそくいっちゃうよー!」
「「うおおおお!!」」
どうもテレビの収録をやってるみたいだな。カメラも回っている。しかし、ルチアか……。聞いたことない名前だ。まぁ、ポケモン世界にもアイドルぐらいいるか。
「キラキラ~! くるくる~?」
「「くるくる~~~っ!」」
「く、くるくる~~~……」
なんだこのノリ……こんなんしらんぞ。でも周りの人間は全員知ってるみたいだ。相当な有名人みたいだな、この人。
「ミラクル☆ルチアの! コンテストスカウトー!」
「キターーーーーーー!!!」
「ルッチー! オレをカレシにスカウトしてくれー!」
「よーし! 素敵なトレーナーさんをコンテストの世界にいざなっちゃうよ! えーっと……」
スカウト? アイドルがアイドルのスカウトしてるってことか? どんな企画だよ。でも人気企画なのか盛り上がっている。コンテストって言ってるから普通のアイドルじゃなくてコーディネーターのアイドルってことなのかもしれない。
コンテストスターか。まぁ、バトル専門の俺には縁遠い世界だな。
「あっ! 不思議そうにこちらを見ているあなた! こんにちは!」
「……俺?」
「コンテストはまだやったことない?」
「はぁ……ないですね」
「それならよかった! さぁ、こっちに来て」
強引に引っ張っていかれてカメラの前に立つことになってしまった。なにこの急展開は?
「ではではー、今回は! こちらのトレーナーさんをスカウトしちゃいます! お名前は?」
「レイン」
「レインくんです! レインくんはよく見たらジムバッジも持っている強いトレーナーさんでした」
……俺は見えるところにバッジはつけていないんだが?
「レインくん。この会場ではコンテストライブを楽しめるの! ぜひ強さだけじゃないポケモンの新しい輝き! あなたに知ってほしいな! はい! これどうぞ! 持っていれば誰でもコンテストライブに出られるコンテストパスとポケモンにあげるポロックがきのみから作れちゃうポロックキットです」
コンテストパスとポロックキットを手に入れた!
アイテムを貰った辺りから、急にゲームのイベントっぽく感じてきた。これ、本当に微妙に違う世界線に迷い込んだとかじゃないのか?
そう思うとこのルチアっていう子、どことなく見覚えがあるような気がするんだよな。いや、見たことは絶対ないけど、なんか知ってる感じの雰囲気というか……。
「レインくんの物語が今日はじまりました! そう! タイトルをつけるなら……突然の出会い! ミラクル☆アイドルスカウト!……って感じだね」
なんだその動きは! これがアイドルポーズなのか……! アイドルとか全く興味なかったから全然わからん……。
「みんな! これからのレインくんの活躍に期待しちゃおうね。それでは……ミラクル☆ルチアの! コンテストスカウトでしたー! ばいばーい!」
「チルチルー」
「ぱちぱち」
「ルッチー! かわいー!」
カメラマンは撤収。収録は終わりか。いきなり過ぎて何が何やら……。テレビはリーグの時で慣れているとはいえ、こういう慣れないことで映るのは緊張するな……。
「よかったら、この後コンテスト会場の中にも来てね」
「えっ?」
ルチアは一言囁いてから会場の中へ消えていった。ま、まだ終わってないのか? コンテストするつもりはないから無視してすてられぶね探索に向かうつもりだったんだけど。
周囲からは羨望の眼差し。このままアイドル無視して先に進もうとしたらどうなるんだろう。ゲームだったら絶対引き戻されるんだろうな。
仕方ないので中へ入ってみた。
「あっ! レインくん! さっきはありがとう! 急に驚いたでしょ?」
「自覚あったんだ。悪いけど、俺は他の地方から来た流れ者で、君のこともよく知らないんだよね」
「えっ!? そうだったんだ! でもでも! コンテストってすごく素敵なの! それにレインくんにはものすごく素質があると思うなぁ~! 絶対はまっちゃうと思うよ~」
うーん。どうだろう? 実はコンテストはトレーナーカードをゴールドにするためにやったことはあるんだよな。でも、ゲームのコンテストバトルは運ゲもいいところ、戦略も何もあったもんじゃないし、奥深さがそこまでないからすぐ飽きるんだよな。
「ははーん……。レインくん? 思った通り、君ものすごく強いトレーナーさんでしょ?」
「えっ?」
「バトルほどコンテストが面白いハズがないって顔だね?」
うっ……図星だ。
「そういう風に思う人って多いんだよ? でも、騙されたと思って一度やってみてよ。もうすぐこの会場でコンテストがあるの。さっき渡したコンテストパスを使えば、すぐにでも参加できるよ」
「ふぅん……会場ごとにランクが決まっている感じではないのか」
ゲームではノーマルはシダケ、スーパーはハジツゲみたいなランクがあったはずだが、この世界ではないらしい。ジムと一緒でやはりリアルになって仕様が変わっているのかもしれない。
「コンテストなんてつまんないって思うのは、私を倒してからにしてほしいな」
「……アイドルなのに出るのか」
「アイドルだから出るんだよ? どう? 私の挑戦、受ける? それとも帰っちゃう?」
こいつ、俺が勝負から引けないとわかって……わざと挑発してやがる! 上等じゃねぇか! こっちにはサン・トウカ製の最強ポロックがある! 今まではハルカを広告塔にすることに拘っていたが、よくよく考えてみれば俺がコンテストで優勝しちゃいけない理由はない。ましてや、コンテストを極めるなんて造作もない。俺がこの地方でナンバーワンになってやる!
「いいぜ。その勝負乗った! 俺をスカウトしたことを後悔させてやるよ」
「わぁ! うれしいな! こんなレインくんの物語にタイトルをつけるなら……」
なんだ? さっきまでオフって感じのしゃべり方だったのに、急にポーズキメ始めたぞこの子? これで素なのか?
「はじまる! ドキドキ☆コンテストデビュー!! って感じだよね。だったらだったら、その前にこっち来てほしいの!」
連れて行かれたのは楽屋みたいなところ。これから何が始まるんだ?
「あのね! コンテストライブに出るならね、ぜひプレゼントしたいものがあるの! えへへ……いきなりごめんね」
意味深な笑みを浮かべながら渡されたのはコンテストスーツだった。なるほど、コンテストに出るための衣装か。こういうのには疎いから正直かなりありがたいな。何から何まで、不気味なぐらい気前がいい。
そしてこの部屋は衣装を着替える場所だったみたいで、そのままここで試着することになった。
「か……か……かっ……かっこいいーーーーーーー! すごいすごい! すっごく似合うよ! あーもう待ちきれないよ! レインくんの初めてのライブステージ、きっと素敵なんだろうなぁ! わたし精一杯戦うからね」
なんかめっちゃウケてる! そ、そんなに似合ってる? ものすごく本音が気になったので小声で横にいるみゅーに確認した。
「みゅー、この人ウソついてない?」
「……そういうこと聞くの、カッコわるい」
「うっ……」
みゅーは教えてくれないみたいだ。でも、「ウソなの」って言わないってことはそういうことなんじゃないの? ちょっと嬉しいかも。
「ふー! あんまり似合ってて興奮しちゃった! ライブスーツ絶対コンテストで着てよ! 応援してるね!」
……なんか、アイドルにはまってしまう人の気持ちがわかる気がする。こんなこと直接言われたら、嬉しいに決まってる!
しかし、去り際にルチアが耳元で小さく囁いた言葉は、俺を絶望させるには十分な言葉だった。
——隠し撮りだよ——
「それじゃあね。あっ! その子で出場するなら、かっこよさ部門がオススメだよ? 私はそこに出場するから、待ってるね」
まさか……全部……テレビ用の演技だったのか! あぁ、よく考えればわかったはずだ! 普段からあんなポーズ取るわけない! それもこれも全部わかってたからみゅーちゃんはあえて……くっ!
もしかして、スカウトしたトレーナーがコンテストに出るところまで込みの企画なんじゃないか? それで、ルチアがアドリブで対応してトレーナーを参加するように誘導する。企画だったらスーツくれたり気前がいいのもわかる。渡すときの意味深な笑みも、カメラが回っていたからだったのか。……着替えも撮られてたのかよ!
あっ! しかもルチアに褒められて嬉しそうにしてたのも撮られ……ぐっ!!
「レイン。この悔しさはコンテストでぶつけよう?」
「あぁ……ルチア、絶対に倒す! やるぞイナズマ! お前であのアイドル小娘をぶっ倒す!」
「ダーッス!」
人の心をもてあそびやがって……絶対許さん!
そのうえ、かっこよさがオススメだと? 俺に有利な土俵で戦おうとするその驕りも許しがたい。ハンデ貰って勝負するなんて、初めての屈辱だ。
逆恨みも甚だしいが、打倒ルチアを心に固く誓った。
まずはコンテストの出場エントリーだ!
「コンテストは3日後です」
「3日後か……」
「レインさんは初参加ですので、ルールのご説明をさせていただきますね」
ここで初めてルール確認をしたが、ものすごく驚いた。俺の知っているルールとは全然違う!
まず、コンテストは1年間各地で大会が開かれて、優勝するとリボンが1つ貰えるらしい。それを5つ集めると、1年の最後にあるグランドフェスティバルに出場できるのだとか。優勝者にはリボンカップが授与され、大会優勝者はトップコーディネーターの称号を得る。この辺はアニポケ仕様っぽいな。
問題はそのコンテストがランク分けされていないこと。単に5つ集めるだけなので、ノーマルとかスーパーとかがない。アニポケもそうだったが、この仕様だと初心者でもトップコーディネーターと戦うことになるので優勝はだいぶ厳しい。
そして予選は2回。1次審査で見た目審査。2次審査で技審査。この2つを勝ち抜くと決勝ラウンド。ルールはまさかのバトルロワイヤル形式だった。
「バトルロワイヤルだからこそ、強ければ勝てるわけでなく、ビギナーズラックも起きやすいんですよ」
「なるほどね」
強い者は当然マークが厳しくなる。だから棚ぼた優勝もありえるということか。さらに説明を聞くと、リボンは10個までしか集められず、11個目は大会にエントリーできないらしい。決勝まで進むと順位に応じて賞金が出るらしいが、制限がないと大会荒らしみたいなのが出てくるからなんだろうな。
決勝は予選でのポイントを引き継いだ状態で、ポイントの削り合いを行うらしい。技を出し合って、華麗に技が決まれば他の対戦相手のポイントが減っていく。あるいは体力が尽きて戦闘不能になっても脱落。最後まで生き残っていた者が優勝らしい。
それだと、最後の決勝戦に残りさえすれば“ほうでん”でまとめて他のポケモンを倒して勝ち逃げできそうだ。アニポケみたいに演技で勝とうとする必要とか別にないからな。直接対決なら強さでゴリ押してしまえばいい。
あとはポロックでコンディションを上げて、技のコンボの確認をするだけか。細かいポイントとか、妨害の点数とかは覚えてないが、とにかく技の系統とコンボだけは頭に叩き込んでいる。逆に言えばそれさえできていれば大方勝てるようになっている。あとは盛り上がりという運要素がどこまで俺に味方してくれるか、それだけだな、心配なのは。
さぁ、暴れてやるぜ。
悩みどころの多い3章目
構想が完全にはできてないまま見切りで進めてます()