ハナダから続く舗装された道を過ぎ、1人と1匹は険しい山道を歩いていた。初めての山道で慣れないこともありかなり疲労がたまっている俺とは対照的に、グレンの足取りは驚くほどに軽かった。
しんどけりゃボールに戻してやろうと思っていたのに、これじゃこっちが先にバテて乗せてもらう羽目になりそうだ。そんなみっともない真似はごめんだ。せめてまともな道なら自転車が使えるのにと思わずにはいられない。
グレンとしゃべったりしながら気を紛らわせていたが、ふとした拍子に考えてしまうことはあった。俺自身のことだ。今までは目の前を生きるのに必死だったりして考える余裕はなかったが、俺はいったいどうしてこんなところにいるんだろうか。最初に何かを見た気もするが、あまりわからない。考えても仕方ないだろう。
考えるべきは俺がこの後どう行動するか、だろうか。ここから元の場所へ帰ることはできるのか? 方法があるとすればこの世界の「神」に会うしかないか。そして本当にそうするなら、グレン達とはいつか別れることになる。
「ガーウ?」
「……なんでもない。さっさとここを越えるぞ」
やっぱり今は先のことより現在をどう生きるかが大事だな。まずは強くならないとできることも限られる。今まで通りで間違っていない。
そんなことを考えているとようやく洞窟が見えてきた。あれがおつきみやまで間違いない。ロケット団はもう引き上げているだろうし、特に苦も無く越えられるだろう。
「そういえば、なんで山なのに洞窟なんだ? よく考えたら変だぞ」
今まで全く気づかなかったがこれは本当に変だな。自分が洞窟に入る段になってやっと気づくのもどうかと思うが。山らしくなったのはテンガン山からだし仕方ないのはもちろんわかってはいる。そのために“ロッククライム”がひでんわざとして実装されたぐらいだし。だいぶメタな思考だが。
これ、たぶん洞窟に入らなくても山を越えていくことは可能なのだろうな。おつきみやまは試しに中を見て回ろう。次からは今回の結果を踏まえて考えられるし。洞窟までは割と道がわかりやすかったし中も一本道だろう。予想と違ったのはトレーナーがあまりいなかったことぐらいか。
おつきみやまの中へ入り、グレンの明かりを頼りに奥へ進んでいった。上り下りが激しく、スプレーなどの準備は万端だったが、かなり時間をロスしたあげく迷ってしまった。
これだけ道がややこしくなっているとは思わなかった。外とは大違いだな。一度方向を見失うともうそれを知る術はない。幸か不幸かトレーナーも全然いない。こんなところにいる方がおかしいし当然と言えば当然だが思ってたのと何か違うな。
方位磁針があればとりあえず西へ進めばなんとかなっただろうが、必要ないと思って用意していなかった。せめて“じしゃく”でもあれば水に浮かべて方角がわかったのに。まだ威力アップ系のアイテムは1つも見たことがないが、いったいどこにあるんだ?
もうこれは仕方ない。あれの出番だな。緊急用の“あなぬけのひも”を取り出すが使い方がわからない。そういえばゲームでどうやって使っているか説明されたことはないな。金銀でライバルがマダツボミの塔から脱出するのを見たぐらいしか覚えていない。あの時はワープする感じだった気がするしたぶんこれもそうだと思うが。とりあえず説明を見ることにした。
「何々? まず、迷いそうな洞窟などに入る前に入口付近のどこかに先端を結び付けて結び目の少し先に図のように少し切りこみをいれます。そして中に入って迷ったと思ったらロープを辿って入口に戻りましょう。もし迷わなければ瞬間的に力を込めて強く引っ張ると切り込みでロープが切れてまた再利用できます。これで暗くて迷いやすい洞窟も迷路のようになっていて道が紛らわしい森でも怖いものなし! 思い切って色んな場所を冒険しちゃいましょう! それでは良い旅を! …………」
ええええええ!?
それはねーよっ! さすがに予想の斜め下過ぎる! 驚くべきことに入るときにひもを入り口につけて迷ったらそれを辿って脱出するらしい。なぜか驚くほど原始的だった。
ワープは!? ねぇワープはどうした!? 「それでは良い旅を!」じゃねーよ! まさに今詰んだわ! お前のせいで絶賛迷子中だよ! もしかしなくても異様に安かったのはこのせいか。無駄に再利用できるみたいだし絶対これ売れてねーな。そういえば入口に結び目の残りとか1つもなかったし間違いない。
これは罠だ! 俺を陥れようとする罠だ!……それは冗談にしても完全に出る術を失った。本気でヤバい。死活問題だ。
「ガウ!」
グレンが急にバッグに首をつっこみ中をあさり始めた。何のつもりかと見守っていると口にはわざマシン。“あなをほる”のやつだ。……はっ!?
「そうだ、その手があった! でかしたグレン、お前この技の隠された能力を知っていたのか! これならなんとか出られるぞ」
さっそく技をやる気マンマンのグレンに覚えさせて使ってみた。人間が教えると時間がかかるが、わざマシンなら習得は一瞬。“かえんほうしゃ”のときに確認済みだ。またこのわざマシンが役に立つとは。これも日頃の行いの賜物だな。
グレンは技を覚えてすぐ急にどこかへ走りはじめ、ある場所で技を発動した。もしかして地盤が緩くて出やすいところを探していたのだろうか。グレンはホント賢い奴だ。しばらくすると穴の中からグレンが出てきて、なぜか石っころみたいなものを持っていた。が、とにかく外につながったならそれでいい。
「もう外に繋がったのか? なんかやけに早いな」
「?」
なぜか首をかしげて俺の手にその石を渡してきた。穴の奥を見ると垂直に掘ってあるだけで外には通じてそうにない。つまり、だ。
「これを取り出すためにこの技を覚えようとしたのかっ!」
「ガウッ」
もち! と返事されて俺は全身の力が抜けた。このわざマシン、よく考えたらただの盗品だし日頃の行いはどちらかと言えばあまりよろしくはなかったな。
普通に考えればわかることだ、。困ったら一瞬で洞窟から脱出なんて都合良くできるわけない。こんな思考自体が頭エリカとしか言いようがない。習慣の怖さだ。グレンの方は「ほめてー」と言わんばかりにしっぽをふっている。こんな石もらっても今どうしろと。ん、でもこの石よく見ると何か……。
「まさかこれは琥珀か、“ひみつのコハク”!……グレン、お前、やっぱすげえよっ。最高だ!」
ガシガシとちょっと乱暴に撫で回してやると嬉しそうに俺の方へすり寄ってきた。そういえば……最近、イナズマが進化する前のイーブイだった頃は勧誘して仲間にするためにイナズマに構ってばかりだった。前のバトルもイナズマバトンからのアカサビ無双で勝負アリだったからグレンは見せ場ゼロだった。
仲間が増えることはいい。だけどグレンもちょっと忘れられたくなくて、こんな風に俺の気を引こうとしたのかもしれない。もっと大切にしてやらないと不安にさせてしまうな。
「なぁグレン」
「ガウ」
「お前はずっと俺にとって1番のパートナーだからな」
「……ガウガ!」
パン、と息ぴったりのハイタッチ。んー、サイコー!! だけど状況は変わらないんだよなぁ。
「さて、グレンさんよ、これからどうする? 依然として道がわからないままだぞ?」
「ガウーーン」
それは人間的には「うーん」というような感じなのか。一緒に首をひねって考えていると野生のピッピが飛び出してきた。あれこれしているうちに時間がけっこう経過していたみたいだな。
「スプレーの効果が切れていたか。あ、でも丁度いいな。なぁお前、ちょっと出口までの道を教えてくれないか?」
「ピ?……ピッ」
あっけなくそっぽをむかれるがその程度は想定内だ。
「おっと、教えてくれたらここらで取れないおいしいきのみをくれてやろうと思ったのに、残念だな。ま、ここならピッピは他にもいる。別の奴を探すか」
「ピィ!? ピッピッ!」
どうやら気が変わったらしい。このきのみを一目見ただけでどれほどのきのみなのかわかったみたいだな。あるいはポケモンだし香りで判断したのかも。意外とグルメだ。
今見せたのは努力値下げのきのみ。これは世間的にはただ美味なきのみという認識でホウエンだとポロックの良い材料として広まっているらしい。かなりおいしいことはイーブイの反応ですでにわかっている。
ただ、そのせいで値段もすこぶる高くなってしまっていて、そこがトレーナーとしてはネックだった。まぁ高いのはカントーでは生産されていないので遠くから取り寄せているのも理由のうちだが。転送してるくせに割高になるからな。タマムシデパートの闇だ。
そもそも努力値下げ用として仕入れて活用しているのは俺だけだから、トレーナの中で困っているのは俺だけで普通はこんなきのみセレブとか限られた人間しか買わないんだろう。だからアホほど高いと。この隠された効果が一般的に認知されたらここからさらに高騰しそうだ。そうなったらかなり困る。
ともあれ、ピッピは乗り気になってくれたのできのみを渡してやるとすぐに案内を始めてくれた。ピッピってジャンプしながら進むんだな。そういえば3年後のおつきみやまのイベントで月曜日に現れる時もこんな感じだったか。重力を感じさせない動き。まるで月の上を移動しているみたいだな。月から来たからこんな動きになるということなのかな?
ちなみにあの「つきのいし」が貰えるイベントには罠がある。隕石みたいなのから取り出す演出でもしたかったのか、なぜかゲットには“いわくだき”が必要となる。覚えてないと悲惨だな。
なお、この罠に全国のプレイヤーがキレたのかリメイクのHGSSではピッピが落としていく形に変わっていて“いわくだき”は不要になっている。
「ピッピピピー、ピッピッピ! ピッピピピーピッピッピ!」
ピッピはきのみを美味しそうに頬張りながらスイスイと淀みなくリズミカルに進んでいく。思ったより移動が速いのでグレンに乗って追いかけた。ここに住んでいるだけあってやっぱり洞窟内部の地形は全て把握しているようだな。
出口まで案内されると、うまいこと反対側まで辿り着くことができていた。一時は詰んだとまで思ったが案外なんとかなるものだな。
終わってみれば案内されてからここまであっという間だった。道さえわかっていればすぐに出られたんだな。おそらく迷った時点で割と良いところまでは来ていたのだろう。それでも出口に辿り着けないのが洞窟の恐ろしさだ。今度からは洞窟に入る時はよく準備をして迷わないように注意しよう。
「無事到着できたな。じゃ、お礼にこれもやるよ。予想以上にいい案内だったから俺から心ばかりのチップだ。ご苦労さん」
「ピッピ!」
最後にもう1つきのみをあげるとピッピが何か懐から取り出した。どこにしまっていたのか気になるが、ツッコミ入れるのは野暮か。どうやらこれを俺にくれるみたいだな。これは……。
「つきのいしか。これまた珍しいものを持っているな。いいお土産ができた。サンキュー」
“つきのいし”はこの前の“たいようのいし”と比べて用途が広い。カントーだけでもピンク2体、ニド2体、他の地方にもけっこういたし、持っていて損はないはずだ。本当にいいものを貰った。
このピッピ、最初はあれだったが案外イイ奴だったな。きちんと対価を渡せば、野生のポケモンといえど礼はするものらしい。
ただ、どうでもいいがなんでピッピがつきのいしを持っているのに進化しないのかは不思議だ。ゲーム中にはそんなこと全く思わなかったが、こっちに来てからそんなことばかり考えている。疑問は尽きない。
ついでにいえばこの山も、初心者が最初に登る山としてはちょっとハード過ぎるな。否応なしに連戦になるだろうし、スプレーも高レベルのポケモンがいないと効果は薄い。本当にこの世界はトレーナー修行も楽じゃないな。この山で挫折したトレーナーとかいたりしないのか?
「ピッピィー!」
「バイバイ、ありがとうな」
ピッピに別れを告げて、まずはこの辺りにあるポケセンを探すことにした。さすがに歩き詰めで疲れたし、そろそろゆっくり休憩したいなぁ。
ゲームの疑問を色々書き連ねた話になりました
意外と当たり前になってるけどよく考えるとフシギーなことって多いです
この回は大事なこともしていますが基本繋ぎで、次回からがこの章のメインです
アナザートレーナーとかいう謎の横文字の意味も明らかになります