Another Trainer   作:りんごうさぎ

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真打登場


6.もうひとりのトレーナー

「回復できない……だと!?」

「申し訳ありませんがトレーナー手帳をお持ちでないとご利用できません。ここは特別に増設された場所なので無償というわけにはいかないんです」

 

 ようやく休めると思った矢先にこれか。思い出されたのはタマムシでトレーナーカードをゲットした時のこと。普通ならトレーナー手帳というものがもらえ、それを使って食事や宿泊もできるようになるらしい。今の俺にはそれがない。

 

 そういえば洞窟の外のセンターは2ヶ所しかない。やっぱここは難所という認識は普通にあるんだな。しかし回復できないとなると大丈夫か? かなり歩き詰めだし、グレンはボールに戻して休ませるか。俺だって疲れているのにここまで来て野宿とは恐れ入った。

 

「ガウガウ!」

 

 グレンは大丈夫と言っているが、HPは目減りして自然回復が遅くなっている。そんなに無理はさせられない。

 

「無理するな、疲れてることぐらい見ればわかる。仕方ないからお前はボールの中で休んでいろ。ニビに着くまでは無理はするな」

 

 イナズマも疲れているが、まだアカサビはHP満タンだ。なんとかなるだろう。だが、そもそもあのタマムシのジョーイが余計なことをしなければこんなことにはなっていない。意外なところでしっぺ返しをくらったな。全く余計なことばかり……。ああっ、あいつら思い出しただけで腹が立つ! 戻ってもう1回いじめ倒してやりたいが顔も見たくない。でも仕返ししてやらないと気が収まらない! 思考がループし出して苛立ちだけが際限なく増していった。

 

 横にグレン達がいないこともあって気分はどんどん落ちていった。思えばこっちに来てから俺は自分でも驚くほど情緒が不安定になっていた。急に気分が悪くなること数え切れず。異世界に放り込まれたストレスか、はたまた……。

 

「ねぇ、そこのあなた、トレーナーよね?」

「あ? 誰だお前……何の用だ?」

 

 今は疲れているのみならずこの上なく虫の居所が悪いってのに、どこのどいつだ、俺にちょっかいかけるのは。むしゃくしゃして無茶苦茶なことをしてしまいそうだ。速やかにどっかに消えてもらいたい。

 

「何を言ってるのよ。トレーナー同士、目と目があったらポケモンバトルでしょ!」

 

 この世界にもその考え方はあるのか。それにこいつ、どっかで見たような、なんか見覚えがあるな。白い帽子。緑っぽい服、動きやすそうな赤のスカート、耳にかかる特徴的な髪型。誰だったか、なんかもう少しで出てきそうだが頭がごちゃごちゃで働かない。いや、どうでもいいか。そもそも面倒事に付き合う気はない。

 

「悪いがこっちは疲れているんだ。他を当たれ。じゃあな」

「あら、逃げるつもり?」

 

 ピクリ。通り過ぎようとしていたがつい足を止めてしまった。何をしているんだ、俺は! こんな言葉無視してさっさと通り過ぎればいいのに!

 

「言い訳して逃げようなんて、敵に背を向けた時点で負けを認めたも同然よ」

 

 脳裏で朝日に誓った約束がよぎる。もちろん形のないものだし、軽い口約束。相手も気にはしないだろう。それに誰も知りはしない。だが、他人を騙すことはあっても、自分にウソはつきたくない。確かに俺は負けないと誓ったんだ。プライドが、逃げるという選択肢を消した。

 

「お前……喧嘩を売る相手は選んだ方がいい。こっちはその気になればお前ごとき一瞬でけちらしてやれる。ケガしないうちに失せな。さもないと今は手加減できそうにない」

「へー、言うわねぇ。面白いじゃない。じゃ、賞金を懸けましょう。だったらやってもいいでしょ?」

 

 あくまで引き下がる気はないか。むしろ賞金が最初から狙いっぽい感じもする。これは教育やろなぁ。

 

「なら1万かけろ。それなら受けてやる」

「いちまっ! ほ、本気!? いいわ、受けてやるわよ。負けても恨まないでね」

「そっちこそ後悔するなよ。やるからには徹底的に潰す」

「あんたこそ、負けてからしらばっくれたりしないでよ」

 

 馬鹿が。相手の力量もわからずに挑み、しかも大金をかけるなんてな。こういうことは相手の力量を推し量れない奴がすると破滅する。その身で教えてやる。

 

「頼むグレン」

「いくわよ、ピーちゃん」

 

 アナライズ!

 

 ピジョン♀ Lv18 ようき 

 個 23-29-24-15-14-27

 努 23-17-12-08-11-34

 

 グレン Lv30

 実 73/101-99-59-71-52-99

 技 1かえんほうしゃ 

   2かえんぐるま 

   3しんそく 

   4かみなりのキバ 

   5まもる

   6みがわり 

   7オーバーヒート 

   8こうそくいどう 

   9ひのこ 

  10おにび

 

 アカサビは温存、まずは様子見だ。……このピジョン、すごくいい素材だ。育て方が無茶苦茶じゃなければなぁ。もったいない。

 

「育てがなっていない。素材はいいのにもったいない」

「あんたちょっと、好き勝手言わないでよ! わたしのピーちゃんは強いんだからあんまりなめないでよね! つばさでうつよ!」

 

 おっと、口に出ていたか。怒ってそのまま突っこんできた。挑発ってホント有効なことが多いな。勝負事はメンタル勝負。ポケモンバトルも例外ではない。

 

「まっすぐ来たか。3、ひきつけて横から吹っ飛ばせ」

 

 “しんそく”を横から当ててピジョンが吹っ飛んだ。グレンは動けなくなるがトレーナーは驚いたまま何もできずにいた。驚いて動きが止まる奴も多いよな。気持ちはわかるけど。

 

「速過ぎよっ!? なんなの今のっ!!」

「2」

 

 驚く間にこっちは指示を飛ばす。グレンの動きを見てから相手は慌てて叫んだ。

 

「ヤバい、避けて!」

 

 あいまいな指示のため逃げ遅れて“かえんぐるま”が直撃した。しかしそれでも根性でピジョンは立ち上がってきた。

 

「よし、今度こそ“つばさでうつ”よ!」

「根性だけは認めるが、指示が雑過ぎる。グレン、こっちに来たところを噛み殺せ、4」

 

 “かみなりのキバ”がクリーンヒット。こうかはばつぐんだ。ピジョンは気絶した。

 

「くっ、一撃も与えられずにやられるなんてありえない……」

「で、次はなんだ? こっちはこのままでいいぞ。さっさとしろ。いや、なんならここで棄権してもいい。こんなところで手持ちを全て失えば大変なことになる。こっちも手加減してやるつもりはないしな。さぁどうする? 1万おいてずらかるかい?」

「何言ってるのっ。誰が諦めてやるもんですか! 絶対に勝つ! おねがいフーちゃん」

 

 

 フシギソウ♀ Lv20 ひかえめ 

個 31-10-20-27-24-21

 

 

 フシギソウ、くさタイプ。イラっとくるぜ、このタイプを見ているとな。だがこいつも個体値はかなり高い。偶然とは思えないが、トレーナーの方は特に変わったところはないんだよな。

 

「6、2、9」

「まずはしびれごなよ、動きを止めて!」

「予想通りだな」

 

 “みがわり”でやり過ごし“かえんぐるま”で攻撃させた。なぜしびれないのかわからず相手が慌てるうちにこっちの攻撃がヒットし、離れ際の“ひのこ”も命中。“はっぱカッター”で反撃するが性格が“ひかえめ”のため攻撃が低く“みがわり”を破るには至らず。完全に一方的な展開となった。

 

「弱い、弱過ぎる。普通のトレーナーの実力じゃ、弱ったグレンでも強過ぎたか。いい加減諦めたらどうだ? 今ならまだ体力は残ってる」

「い、いやよっ!! まだ私は負けてない!!」

 

 往生際の悪い奴。引き際をわかってないな。

 

「あ、そう。ならトドメだ。オーバーヒート!」

「なっ!? そんな技まともに受けたらフーちゃんが……」

 

 “オーバーヒート”がどんな技かくらいは知っているらしい。わざと相手をあざ笑うかのように技名を声に出した意味があったな。

 

「もしかしたら重傷で死ぬかもなぁ。だが降参するチャンスは散々やったはずだ。今更やめたりはしないからな。恨むなら自分の軽率さを恨め、愚かなトレーナー」

「ヴォウッッ!」

 

 逃げることもままならず直撃。白目をむいて倒れた。丸コゲに見えるな。見た目だけならかなりヤバい状態にも映る。だが案外乱数が悪い気がする。

 

 攻撃自体はモロに受けているからクリーンヒットのはず。それでもオーバーキルとまでいかないのはおそらくグレンが手を抜いたりしたんだろう。傷はそこまで大したことない。グレンもずいぶんと器用なことをする。

 

「フーちゃん、しっかりして! 死なないで! ご、ごめん、こんなに無理させて……ううっ」

「そいつはもうダメだな。ほっとけばあと1時間ほどで死ぬだろ」

「そ、そんな……!」

 

 具体的な数字を聞かされ顔を真っ青にしておろおろし始めた。冗談のつもりだったが真に受けるとは。大嘘なのに。

 

「それよりさっさと賞金を渡せ。たとえそれでキズぐすりを買えなくなろうが俺は知ったこっちゃないからな。早くしろ」

「うぅぅ……! 許してぇ……ぐす……」

 

 泣きが入ってきたがこれで考えを改めるなら最初からこんなことしない。ニッコリ笑ってやると一瞬泣き顔が笑顔になるが次の言葉で再び表情が絶望に染まった。

 

「拒否するならお前も仲良く黒コゲだ。さてどうする?」

「えっ!? あ、ご、ごべんなざい、じつはわたし1万円なんて持ってないの。それにこの子が死ぬなんてイヤ、早くポケセンにつれていかないと……。お願い、助けてください……」

 

 ニッコリからの黒コゲは効いたらしい。あと、相当やられたポケモンが気になるらしいな。逃げるための方便ともとれるが……今は俺に対して本気で怯えているように見える。あんまり下手なウソなどはつかないだろう。

 

 煤けているのは火力が十分でなかった証に思えるが、こいつは本気で本体が焦げていると思ったらしい。煤なのに。頭の中では俺がヤバい人間だと思っているんだろう。……実際ヤバいやろというツッコミは否定しないが。

 

「へえ、持ってないのか。どうりで諦めが悪かったわけだ。なら仕方ないなぁ」

「見逃してくれるのっ」

 

 期待したその表情を再び奈落に突き落とす。

 

「お前の手荷物全てで手をうってあげよう。無理やり1万払わせる権利が今の俺にはある。契約違反をしたのはそっちだから、代償として払う質は当然俺の決めた値段で売ることになるってわけ。あぁそうだ。あと借金するなら今キズぐすりを売ってやってもいい。ここからじゃポケセンまで間に合わない。そうだな、ひとつ1万で売ってやろうか」

 

 ニッコリ

 

 気分がいいな、弱者を食い物にする輩をいじめるのは。悪魔の愉悦。これで一緒にトレーナー手帳とかも奪えばこれからポケセンで困ることもなくなるんじゃないか? 今思いついたが意外といい考えかもな。ボロ儲けかもしれない。こいつはどうせここで金目当てのトレーナー狩りでもしていたんだろうし自業自得なんだ、気にすることもない。

 

「そんなぁ……! どうしてそんなヒドイこと言うのっ!?」

「はぁ? バトルの前散々自分が言ったこと忘れたのか? 俺は機嫌が悪いから手加減できないと言ったのに、バトルを強いたのはお前だろ? こういうのを自業自得って言うんだよ。トレーナーのくせにぬるいこと言ってんじゃねぇ。あんまり鬱陶しいとマジでグレンをけしかけるぞ!」

 

 ぐうの音も出ないダメ押しでとうとう大声で泣き喚き始めた。

 

「う、ウソ……そんなことされたら、わたし、もう旅もできない、この子も死んじゃう、わたしも殺される、う……ううっ、うえーーん! ひどいわっ、許じてよ、ごべんなざいぃ!」

「泣いても無駄だ! もういい、さっさと全部寄越せ!」

 

 どこからそんな大声が出てくるんだ。みっともない。これじゃ赤子同然だな。無理やり荷物を奪い取ってグレンに乗った。後はほっとくか。ワンワン泣きじゃくって本当に鬱陶しいからな。ひったくられてようやく自分の状況に気づいたのか、慌ててグレンの方に駆け寄ってきた。

 

「待ってっ! お願いだからわたしのフーちゃんを助けて! わたしなんでもするから、この子だけは助けてあげてっ。こんなあっさり死んじゃうなんて、絶対にイヤ! な、なんでも……しますから、どうかお願いします。どうか……」

 

 ガチ泣くするほど俺が怖いくせにしつこいな。よく見れば体も震えている。何がこいつをそこまで突き動かすんだ? それに、なんでこんなに心がざわつくんだ。さっきのことを振り返ると、こいつと出くわしてからいつぞやのように心の乱れがひどくなった気がする。

 

「知るか、お前が招いたことだ。自分でなんとかしな。どうしようもないなら諦めてそのフシギソウに謝っておくんだな。自分が馬鹿なせいで死なせてごめんなさいとな。じゃ、俺も暇じゃないんだ。これ以上つきまとわないでくれ」

 

 軽くあしらって進もうとするがグレンが動かない。足元を見るとトレーナーがみっともなくグレンの足にしがみついていた。

 

「お願い、助けて、何でもするから。借金でもなんでもいいから、だから……」

「チッ、最後まで面倒な奴だな。なり振り構わないにも程があるだろ。お前、やっぱり丸焼きにでもした方が良さそうだな。そいつみたいにさぁ」

「うう……や、やれるもんなら、やってみなさいよっ。そんなの、こわぐ……ぐぅぅ、ううっ、うぐっ、ひっぐ」

 

 どう見ても怖くて仕方ないって顔じゃねぇか。ホントに頭おかしいのな、こいつ。さすがに人間に危害を加えればバレたらヤバそうだしな。脅しが効かないとなると……。

 

「なら、お前のもう1体のポケモンを俺に寄越せ。そうすればそいつの命ぐらいは助けてやろうか」

「そ、そんなっ! ピーちゃんを手放せっていうの! ひっ、ヒドイわっ! ううぅ、うわぁーーん! ひとでなしぃーー!」

 

 また泣き始めた。どさくさに紛れて俺に毒吐いてるし。無視して先に行こうとするとまた足にしがみついてくる。グレンもなぜか振り払おうとはしない。めんどいなぁ。なんなんだこいつ! 仕方ない、一度首でも絞めて気絶させるか? 俺が実力行使も辞さないつもりで動こうとすると、それを感じ取ってかグレンが俺を引き留めた。

 

「ガウガウガ、ガウ」

「傷を治してやれって? おいおい、お前まで情にほだされたのか?」

「ガーウ!! ガウガウー」

「……ったく、仕方ねーなぁ」

 

 グレンに説得され、仕方なく回復ぐらいはしてやることにした。グレンに自分は助けたのにこの子は見捨てるのか、と言われたからだ。そう言われると俺も弱い。なまじグレンやアカサビは言うことがはっきり伝わるから無下にはできない。

 

 きのみクラッシュ産“ふっかつそう”を取り出し、フシギソウに飲ませた。飲むとき苦そうにしたがすぐに体力が戻っていった。トレーナーは最初苦しむのを見て悲鳴を上げたが、すぐに良くなったのでフシギソウに寄りかかって喜んだ。よっぽど心配だったんだな。

 

「よかった! ほんとによかった、生きてるわっ! ごめんね、わたしがしっかりしてないせいで、本当にごめんねっ」

「ソウ、ソウ」

 

 驚くことにポケモンはそれに笑顔で返した。トレーナーのせいだとは思ってないように見える。かなりなつき度が高そうだ。

 

「ふっかつそうという薬草を飲ませた。それですぐに体力も満タンに戻る。これでいいだろ」

 

 さっさと戻ろうと背を向けた瞬間グレンにもっていた戦利品をふんだくられた。

 

「ガウガ」

「あっ、何してんだグレンッ!」

 

 荷物もグレンが勝手に返してしまった。これじゃ骨折り損だろうが! グレン! お前ホントに何考えてんだっ!

 

「わたしの荷物、返してくれるの?」

「違う! 返すわけないだろっ。グレン! どういうつもりだ!」

 

 そのあと口論を続けるが、イナズマも出てきてかわいそうだと押しきられて結局本当に返すことになってしまった。

 

 こ、こいつら性格が良過ぎる。イナズマも辛い目に合っているのに心根が真っ直ぐでびっくりだな。いや、いい子に育っていて嬉しいが、それも時と場合を考えてほしい。……もちろん俺の性格が悪過ぎるだけなのは自覚しているけれど。

 

「ありがとうグレンちゃん、イナズマちゃん。恩に着るわっ。わたし本当にもう終わりかと思ったもん。ありがと、ありがと……」

 

 あいつ、ちゃっかり2体と仲良くなってやがる。俺がニックネームで呼ぶのを聞いていたのか、さりげなくニックネーム呼びで距離を縮めている。自分以外と仲良くしているとなんか腹立つな。しかも悪いのは俺だけってか。

 

「運のいい奴だ。チッ、とんだ無駄足だ。さっさとここを抜けてニビヘ行くぞ」

 

 しかし、グレンはなんとそのトレーナーも乗せていくと言い出した。さすがにこれには開いた口が塞がらなかった。ほんまにどしたん? 見ず知らずのトレーナーにここまで入れ込むなんて。

 

 一応目的地は同じらしいが、もうグレン自体の残り体力もそんなにないのに、さらにしんどくなるようなことを自分から言うなんて考えられない。このトレーナーのことやけに気に掛ける。そういえばこいつの手持ちも驚く程トレーナーに懐いていた。初対面でもポケモンに好かれやすいのかもしれない。

 

「賞金を踏み倒したあげく、町まで俺に運ばせる気か? いい度胸しているな。もう一度泣かせてやろうか?」

 

 四面楚歌。こうなればもう本人にやつあたりするしかない。

 

「うう……そんなに睨まないでよぉ。グレンちゃんが乗ってもいいよって言ってるんだもん。お願い、乗せて?」

 

 言ってることがわかっただと? 面白い答えが返ってきたな。

 

「グレンの言うことがなんでお前にわかる?」

「なんとなく表情や仕草とかでわかるから……」

 

 たしかにグレンもそう言っているが、ホントにこいつ何者だ? グレンだけでなく人見知りの激しいイナズマまですっかり懐いてしまっている。ただの雑魚トレーナーかと思っていたが、使うポケモンも素材は悪くないし、もしかして何かあるのか? わからないが、まあどうせトレーナー手帳をかっぱらうのは失敗したわけだし、つれてってやるぐらいはいいか。俺はグレンに乗っているだけだし。

 

「気は乗らないが、グレンの言うことなら仕方ない。こいつによーく感謝しておくんだな」

「や、やった! ありがとう! ピーちゃんも早く回復させてあげたいの! よろしくお願いするわね、グレンちゃん」

 

 ああ、それでついてくるのにも必死に食い下がってきたのか。ま、自分のポケモンを大事にするところぐらいは好感が持てるな。

 

「うわぁ、けっこう背中って広いのね。失礼しまーす」

「振り落とされんなよ。俺の肩つかんで足に力入れとけ。グレン、Go」

「え、ちょっとまっ、きゃっ!」

 

 掛け声でグレンは一気に加速する。後ろの奴、慌てて俺につかまったはいいが、勢いよく俺の首をつかまれて窒息しかけた。後ろに振り返り首を絞め返すとよく反省したようなので一旦は許してやった。

 

「ゲホゲホッ、容赦なさ過ぎ」

「十分加減した」

 

 後ろから恨めしい視線を感じたが無視。行程が残り半分ほどの距離に来たところで休憩を挟むことにした。最初は飛ばしていたがかなり疲れが見えてきたからな。

 

「グレン、お疲れさん。そろそろ休もうか。あの岩陰に止まってくれ」

 

 スッと停止して俺は地面に飛び降りた。

 

「うひゃあ、この高さからあっさりジャンプなんてすごい。よし、わたしも……」

「お前は無理せずグレンが低くかがんでから…ちょ、待て!?」

 

 見事に着地した……俺の上に。蹴り殺す気かこいつ! まさに今のは“とびひざげり”だ。あわよくばさっきの報復でもしてやろうとか思ってないよな? 一睨みすると愛想笑いでごまかされた。こいつまさか確信犯か? こんなことでいちいち相手するのも面倒だ。目で牽制するだけにして早くグレンを休ませるためにおいしいみずを……。

 

 あれ、そういえばさっきまで続いていたイライラがなくなっている。目を見て気分が悪くなるなんてこともないし、そもそもさっきまでならいきなり“とびひざげり”なんかされたら倍返しにしていたはず。今はそんな気は起きない。

 

 冷静になって思い返せば俺はさっきまで何をしていたんだ。いくらなんでも、相手に非があるとはいえさっきのはやり過ぎじゃないのか。言葉尻に付け込んで精神的に追い詰め、さらに荷物も全て奪う気だった。こんな子供相手に容赦なさ過ぎだ。ここのところこんなことばっかり。最初が最初だったとはいえずっと思考が殺伐とし過ぎだ。これじゃ自分すら信用できない。

 

「ガウンー?」

「はっ!? いや、なんでもない。ほんとにご苦労さん。疲れているだろ? よく休んでおけよ」

「ガウ」

 

 バッグに手を入れたまま固まっているとグレンに心配された。笑顔でごまかしておいしいみず探しに戻った。

 

「グレン、おいで。これ飲んどいて。頑張り過ぎて無理するなよ。お前が倒れたら意味ないからな。……あ。おい、お前もこれやるよ」

 

 グレンを撫でていたわりながら、ついでにさっきの罪滅ぼしにトレーナーの方にもおいしいみずを投げてよこした。

 

「うわっと。これはおいしいみずね。あ、あの……わたしまでいいの? まだ賞金も払ってないし、はっきり言ってわたし、あなたにものすごく嫌われていると思ったんだけど。もしかしてこれって何かの罠なの? なんかこの中に混ぜてるとか」

 

 言い方は遠慮がちだが思ったことは本当にはっきり言うな……。

 

「いらん心配せんでも新品だ。さっきのことはもう別にいい。あのバトルは……その、多少はやり過ぎたと思っている。あの時は最初にも言ったが本当に気が立っていたんだ。イヤなことを思い出していて、疲れも重なっていた。お前がビビって断ればいいと思って1万かけろなんて吹っ掛けたが、別に金がほしいわけではない。実際金には困ってないし、そんな端金ここにきていまさら拘る気はない。だからもう気にしなくていいから。ポケモン回復する前にお前がダウンしたら元も子もないし、それは詫びとしてやるよ。それで回復しとくことだ」

 

 移動しているうちにもう不快な気持ちがなくなったのはグレンとしゃべっていたのが大きいのかもしれない。やっぱりグレンは自分が気づいてなかっただけでいつもムードメーカー的な役割を果たしていたんだな。いつも外に出ていたし。少しいないだけで自分のものじゃないみたいにあんなに心が乱れるなんて……どうかしていたのは俺の方だった。

 

「ええっ、い、いいの? いきなりそんな対応されると戸惑っちゃうわね……ありがとう。えーと……」

 

 名前を聞きたいのだろうな。グレンをマッサージしながら答えた。

 

「レインだ。ずっと休んでいるわけじゃないからさっさと飲んでしまえ。もう少ししたら出発する」

「うん。レインって、意外と優しいのね。特にポケモンのことかなり気を使っているし。さっきでもポケモンに言われたことは結局全部聞いてあげてた。最初はもっと横暴なトレーナーだと思ってたのに、全然違うのね」

 

 褒めているのはわかるがなんか腹立つ言い方だな。

 

「意外で悪かったな」

 

 こいつの言うことは適度に流す方がいいと悟り、グレンのけづくろいをして放っておくことにした。確かにさっきのことに負い目はあるが、運んでやることでチャラだ。

 

 しばらくけづくろいしていると、視線を感じて何度かトレーナーと目が合った。ずっとこっちの様子をうかがっているようだ。あまりいい気はしないな。

 

「おい、さっきからジロジロと失礼な奴だな」

「ご、ごめんなさい。何しているのか気になって、つい」

 

 泣くほど酷い目に遭ったのに俺のことジロジロ見る度胸があるとはたまげたな。もちろん悪い意味で。普通はもうちょっと尻込みしたりしないか?

 

「見ればわかるだろ、けづくろいだ。お前はしないのか?」

「え? それが……ブリーダーしかしないもんだと思ってた」

 

 どうやらトレーナーがするのは珍しいようだな。世話ぐらいしても良さそうなもんだが。そういや、こいつの名前聞いてなかったな。丁度時間があるし聞いておくか。

 

「おい、お前」

「はい! あの……やっぱり怒ってる?」

 

 さっきのはお前が不躾な視線を送っていたからだろ。まぁさっきの今だし気持ちはわからんでもないが。

 

「いや、お前の名前でも聞いておこうと思ってな。名乗れよ」

「あっ、そういえばそうね。わたしはブルー。マサラ出身で、今年トレーナーになったばかりなの」

 

 はあああ!? マサラでブルーということはレッドの同世代、というかこいつの容姿ってFRLGの女主人公そのものじゃねぇか! 顔の印象薄いから忘れていた。だが、そうすると気になることが出てくるな。なぜこいつはこんなところにいる? レッドはもうクチバには行っているだろう。それにこいつがいるならゲームとは微妙にキャストが変わっているのか。展開も違うのか? 一度に色々判明し過ぎだ!

 

「あのー、どうしたの、レイン……さん?」

 

 こいつ……最初からずっとフランクだったのに、いきなりさん付けされても気持ち悪いだけなんだが。なんのつもりだ?

 

「気色悪いからレインでいい。お前、マサラに赤いトレーナーはいなかったか?」

「きしょくっ……もしかしてレッドのこと? あいつとグリーンはわたしと一緒に旅に出たけど、昔からの幼馴染ってやつなの。でもわたしは置いてかれて、あいつらはどんどん先へ行って、もう追いつけないぐらい遠くに行っちゃった。わたしはこんなところで躓いているのに」

 

 そういえばおつきみやまはヤバかったし、それだろうな。

 

「おつきみやまか」

「そう。最初はバカみたいに勢いだけあって、チャンプにでもすぐなってやるって息巻いていたのに、ちょっと壁に当たると簡単にしぼんじゃって。今じゃすっかり自信喪失よ。それでせめて道具をためてなんとかポケモンを強くして、ここを超えようとしてたのよ。でも、もうわかったわ。わたしにはここが限界。今日も負けたし、この子達には悪いけど、もうがんばれそうにない。こんなところで終わるはずじゃなかったのに……何でわたしだけ……」

 

 泣きそうな顔で語るブルーの言葉には悔しさと無念さがにじみ出ていて、どうしようもない不条理を嘆く心の叫びがレインには伝わっていた。

 

 ――身に覚えがありすぎる――

 

 ここに来て不自由な日々で自分も味わってきた気持ちだった。自分は屈辱をバネにしてここまで来たが。とすると、こいつは経験値を稼ぐためにおつきみやまに近いところにいたのか。金稼ぎなら雑魚をトキワ辺りで探す方がいいし、持っている金も少ない……もしかしなくても邪推だったのか。……相手が蛇に見えるのは自分がそうだからってことかよ。さすがに少し反省しよう。醜い人間でごめんなさい。

 

 そして悟った。なぜブルーがここに留まっているのか。こいつは俺に会わずともここで朽ちる定めだったのだ。

 

 ブルーは表舞台から弾かれ、レッドの影としてゲームには出てこない。誰にも知られることのない、もうひとりのトレーナー。それがブルー。どうしようもないことだが、思わずにはいられない。ああ、なんて……。

 

「ああ。なんてもったいない奴なんだ。きっかけさえあればなぁ。だが、ここで朽ちるのも運命ということか」

「え、ど、どういうことっ」

「それだけ天性の才を持ちながらこんなところで埋もれているなんて、お前ってホントに惜しいな。これじゃダイヤの原石止まり。もうすこし向上心、いや、執念があればなんとかなったか。でも結局きっかけがなけりゃ無理だな。仕方ない。ま、ポケモンと仲良くできればそれでいいだろ。ポケモンには好かれやすいみたいだし」

 

 進む勇気がないんじゃその先はない。意地でも這い上がる覚悟があれば俺のように駆け上がれたかもしれないがな。ポケモンに好かれたり、意思疎通が少なからずできたり、そういうのは才能でしか得られないものだけに本当に勿体ないとは思う。間違いなくバトルの才能もあるだろうし。

 

「わたしがダイヤの原石……はは。それ、からかってるの?」

「……そうか。お前自分の価値もわからんのか。とことん憐れだな。どうしてもトレーナーとしてやり直したいならどこかのジムに弟子入りするとか、やりようはあるだろ。変に手段に拘るからこんなところでムダにボンヤリする羽目になるんだ。ほんっと執念が足りない。育てが悪いと言ったのも、結局技術の話だしな。ちゃんと訓練すれば……。別にぃ? お前の人生はお前の勝手だしぃ? 俺には関係ないからどぉーでもいいけど。さて、長話が過ぎた。いい加減そろそろ出発するぞ」

 

 その後の行程はブルーが驚くほど静かになり、グレンもしっかり休んでいたので特に何事もなくすぐに着いた。もう夕方だが、普通なら何日もかかるところをすぐに来られたな。

 

「じゃあな。二度と俺に喧嘩売るなよ。今度は本当に身包み剥ぎ取るからな」

「う、うん。グレンちゃんも送ってくれてありがとう」

 

 気の抜けた返事だな。わざとブラックジョークをかましたのに無反応とは面白くもない。まぁいいか。早く宿をとらないとここまで来てまた野宿になるのはさすがに勘弁願いたい。

 

 その時ブルーの俺を見る目が明らかに変わっていたことに全く気が付かなかった。重要人物と関わって何も起きないはずもなく……。

 




この話のサブタイはこの小説のタイトルと同じ意味です
いつからもうひとりがレインだと錯覚していた?
ということで真打ブルー登場
ブルーについては2,3思うところがあることでしょう
あのな、その子本当はリーフっていうんやで、とか
名前青の癖に使ってるポケモン緑じゃねーか、とか

まず名前
マサラ3人組は全員出てきますが、その名前はレッドは当然確定、ならグリーンもほぼ確定
とするとリーフはグリーンと被り気味、ブルーなら赤青緑で都合が良い

で、ポケモン
レッドはリザードンでしょう。グリーンは相性考えてカメックス一択
じゃあフシギバナしか残ってないです
ブルー……きっとレッドとグリーンに先をこされて選ばれてしまったのでしょうね、あはれなり

オリジンでも2人の名前と御三家は同じでしたし、残り考えたらやっぱりこうなるのは仕方ないですね、ということで納得してもらえれば


途中手帳を奪えば万々歳という内容がありますが実際にはそんなことはありません
他人の手帳は使えないようにできています
冷静に考えれば当然ですよね
つまりあの時レインは冷静ではありません
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