もうブルーは追ってこないだろう。いや、あそこまではっきりと拒絶したんだ。もう俺なんか顔も見たくないと思っているに違いない。願い通り、のはずだが少し心が痛んだ。
今日はもう疲れた。この町を出るのは明日にしよう。宿を取ってゆっくりするか。追ってくる心配はないのだから、別に問題はないはずだ。この日はポケモンと遊んでガリガリ削れた精神を癒そう。
「グレン? イナズマ?」
「……」
「……」
グレンとイナズマはブルーがいなくなって寂しいのか元気がない。そこまで深刻にならなくてもいいだろうに。……もしかすると自分自身もこいつらから見れば似たような顔をしているのかもな。後悔がないと言えばウソになる。
俺は普通の人間とは事情が違う。あるはずのない知識、出生も不明、怪しいことが多過ぎる。俺もいつボロが出てしまうかわからない。特に長くいればいるほど緩みは出やすくなるだろう。それにブルーだって、俺といればすぐに実力をつけて、いずれ俺の異常性には気づいてしまう。せめて1年は時間をおいて、俺が異常と思われないようになるまでは下手に他人と関わりを持たない方がいい。
とはいえ、こいつらの浮かない顔を見ると忍びない気分にはなるのは事実。こんな表情見たことない。本当にブルーは懐かれていたんだな。つくづくポケモンに良く好かれる奴だった。まあもう会うこともないだろうが……。
◆
翌朝、いつもより早く目覚め、さっさと身支度をして外に出ようとゆっくりドアを開ければ、目の前にはブルーが待ち構えていた……?! ブルー!? ブルーナンデ!?
「お前っ!!」
もう少しでとんでもない奇声を上げてしまうところだった。驚いて後ずさりして遅れをとった隙に、ブルーにはスルリと部屋に入られてしまった。淀みのない動き。洗練された、まるで予行されていたかのような身のこなし。俺の中で戦慄が走った。
「おはようシショー、今朝は早かったわね」
「まさか、ずっと待機していたのか。この時間まで、廊下でずっと!……す、ストーカーッ!!」
これは怖い。ストーカーなんて、今まで後をつけられるぐらいで何が怖いのか不思議だったが、実際に目の当たりにするとこれは本気で身の危険を感じる。この執念はヤバイ。何をされてもおかしくないという不安に襲われる。
「しっつれいね、これはわたしなりの誠意よ。ここまで来るのにすっごい苦労したんだから! でもまた会えて嬉しいわ。苦労した甲斐があったわね」
普通苦労した程度で住所特定なんて出来ねーよ! 誠意ってあれか、三顧の礼的なノリなのか? しかし……どうする? この調子じゃ、町をまたいでも追ってきそうな怖さがある。おつきみやまならこいつは抜けられないだろうから、いったんは撒けるかもしれないが完全に逆走になるし、どうするべきか……。
「ガウ!」
「ダース!」
悩んでいるうちに2体が出てきてブルーとじゃれあい始めた。こいつらも嬉しいのか。イナズマが心を開いているのだから間違いなくいい奴なんだろうが、どうするべきか。なんで普通に会って普通に仲良くなるという選択肢がなかったのか。
「あ、あの、図々しいのはわかっているけど、もう一度言わせて。わたしも旅に同行させてください。傍であなたがどうポケモンを育てているか、見させてほしいの。本当につれていくだけでもいい! 絶対に迷惑はかけないから、お願いします! この恩は必ず返します!」
グレンとイナズマも便乗してつれていってやれと言ってくる。この2体に頼まれるとホントに弱い。姑に逆らえない嫁みたいな気分。この援護にブルーはうっすらと笑みを浮かべている。本当にポケモンの言わんとすることがわかるんだな。はぁー。仲間にした時のことを引き合いに出されるとな……。
一度ブルーを正座させて向かい合い、別方向から咎めることにした。
「まず勝手にここに上がりこむな。住居不法侵入だ」
「そ、そんな難しそうな言葉知らないっ。わたし子供だもん。お兄さん、年下の女の子が頭下げてお願いしているのよ。なんとも思わないの?」
こいつぜってー意味わかってるな。これってマジで犯罪なんじゃないのか。いや、ゲームでは好き放題他人の家に出入りしていたし、案外これが当たり前なのか? そう考えるとおかしくない気がする。いや、それよりも、だ。
「……思わないな」
「じゃあ、これでどうっ!」
「ちょ、やめろ! 何してんだ!」
今度は抱き着いて桃色作戦かよ! ホント手段を選ぶ気ないな! 自分も正座していたので避けられない。しかも抱きつき方もやんわりじゃなくてかなりがっしりと。絶対に逃がさないという鉄の意志を感じる。
もう本当にストーカー染みていて怖い。でも不思議と心の奥に伝わり感じるものもある。これがなんなのかわからないが、知らず知らずブルーに対する気持ちが変わり始めた。だが言葉と対応はそのままだ。
「こんなことしてもダメなものはダメ。むしろ印象悪くなった」
「むぅぅ! じゃあどうしろっていうの! ひどいわよっ。ホントのホントに後生の頼みだから!」
体を震わせいつぞやのように手にも力が籠もっている。後生の頼みなんて言葉どこで覚えたんだ。住居不法侵入は知らないって言ったくせに。まだブルーの手は俺を逃がさないようにしっかり体をつかんでおり、俺の体に爪が食い込んでいて結構痛いんだが……無意識なのか。
「その前に、俺がもう追ってくるなと言ったのは聞いてなかったのか?」
「だ、だって……わたし、初めて名前を呼ばれたり、慰めてもらったりしただけで嬉しくて……泣いているわたしを抱き締めてもらった時、何かが伝わってくるような不思議な感覚がして、すっごい嬉しくて幸せな気持ちになって、もうシショーのこと忘れられなくなっちゃったんだもん」
「あれは……さすがにあんまりにもかわいそうだったから。くっ、あの余計な助言といい、また墓穴なのか。なんであんなことしたんだ」
「そんなっ! わたしは嬉しかったのに、なんで後悔するの? そんなこと言わないでよ……ものすごく寂しくなるわ」
嬉しそうな表情を一変、また悲しみのどん底のように変わった。演劇女優かお前は。しかし、演技ではなく本当に気持ちの浮き沈みもそうなっているのがなぜか感じられて、こっちまで胸を締め付けられるような気分だ。
「……本当に困るんだよ。わかってくれ」
「シショーこそ、わたしが諦めないって、いい加減わかってよ! わたしは何度でも言うわ。一緒につれて行って! シショーと一緒に強くなって、それで楽しく冒険できたらなって思うの。シショーもほら、考えたらワクワクするでしょ?」
「……」
「だからお願いします。後生の頼みです。お願いしますっ!」
「でもやっぱり断る」
「ひうっ!」
「……といったら?」
「怖いことしないで! 寿命が縮んだわよ! そんなの決まってる、地の果てまで追いかけ続ける以外ありえない。ぜっっったいに『うん』って言わせる!」
顔が近い! 唾を飛ばすな! デカい声を出すな!
やっぱりこいつストーカーだ。「言うまで」じゃなくて「言わせる」ってところに狂気を感じる。ナツメやらゴウゾウやらなんでいっつも俺はこんな変なのばかりに絡まれるんだ。
「別に俺以外でも誰か師匠になってくれる人はいるかもしれないだろ。どうにか今の自分を変えたいというのはわかるし、生半可な決意じゃないのは十分伝わっているが……まさか、俺に惚れてる、とかじゃないよな、ストーカーさん?」
正直もうそうでもなきゃこんなの説明つかないと思わなくもないし、今までの反応からしてもあり得ると思い念のため聞くと、ブルーは慌てて俺から離れて激しく否定した。
「ばっ、ばっか言わないでよ! そんなんじゃないわ! シショーをトレーナーとして尊敬しているってだけで、そういうことは思ってないわよ! 勘違いしないでよね。あとストーカーじゃないっ」
そりゃそうだよな。あれだけ泣かされてここまで拒絶し続けてまだ好かれていたら逆に引く。まぁわかりきっていたな……いや、内心はけっこうダメージくらったが。そしてストーカーなのはさっきの発言でもう確定しているから否定しても虚しいだけだ。むしろ言い訳がましい。
「はいはい、わかったわかった。さっさとここからトンズラしてもいいが、ここまではっきり言われるとそうもいかないし、これだけグレン達が懐いているんじゃ、無下にもしにくいか」
「じゃ、じゃあわたしのシショーになってくれるの?」
「そうはいかないな。俺の育て方はまぁなんというか、奇抜であまり人に知られたくはないものだし、俺にも知られたくないことはある。そういう事情で、はっきり言ってお前みたいなのがついてくると俺としては邪魔でしかない」
これは事実だからしょうがない。ポケモンお薬漬けってどういう目で見られるんだろうか。
「ええー! やっぱりすごい育て方とかあるの!? それに知られたくないことって、何か恥ずかしいことでもあるの!? 気に、なるっ!!」
なんでそんなに嬉しそうな反応なんだ。いったい何考えているんだろうねぇ。
「残念ながらそういうのじゃない。これは知るべきではない秘密とでも言おうか。最悪知ってしまえば、この世界そのものの否定にもなりかねないし」
ここは実はゲームの世界なんだー。へー、そーなのかー。とはならないだろう。
「な、何よそれ、世界って。もしかしてわたしを脅かすために冗談言ってるの?」
「……悪いけど俺はまだブルーのことを信用はできない。疑り深いタチでな」
「だったら、わたしは絶対シショーのこと探ったりしないし、邪魔もしない。とにかくシショーを裏切るような行動はしない。これでどう?」
攻め時だと感じているんだろう、ブルーも必死だ。俺としても無暗に突っぱねる気はもうないんだが、どうしても色々考えてしまう。
「……やっぱり無理だなぁ。望むか否かに関わらずお前は俺に疑問を抱き、そこに辿り着く。ブルーは素養だけは十分にあるんだ。俺についてくればまともにポケモンを育てるようになるだろうし、ゆくゆくは俺を凌ぐことになる……かもしれない。そうなった後俺を裏切るようなことをされたらかなり困る」
「な、なんの臆面もなくサラッと褒められると、本気で照れるわね。……さっきも言ったけど、恩は必ず返します。仇で返すようなことは絶対にしないわよ。わたしは絶対裏切ったりしない。どうしたら信じてもらえるの?」
嬉しそうにするブルーを見ると、ほんとに弟子にしてみるのも面白そうという気もしてきた。弟子と言っても一緒についてくるだけだろうし。でも、やっぱり決定的な明確な理由がないと気は進まない。そもそも、間違いなく俺の秘密や知識は粗末に扱っていいものではない。後々とてつもなく後悔しそうな気がする。直感なんて……と馬鹿にすることはこのトンデモワールドではできない。安易に判断は下せない。
「そんな方法ありはしない。だから初めから無理だと散々言っている。お前には悪いとは思うが、こればっかりは仕方ないし、諦めてくれ。理由まで言ったんだからもういいだろ。本当はこんなことまで言うつもりなかったんだ」
「そんなっ! でも、わたしに悪いと思っているなら、条件さえ合えばやってくれる気はあるのね!! じゃ、わたしの眼を見てよ! ほらっ! この純粋な眼を見てまだ信じられないの!?」
「あのなぁ、眼を見たぐらいでそんなことわかるわけがないだろう」
「それでもよ! ホントに信じて! こんなにきれいな瞳を見てまだ信じられないの? 冗談抜きでわたしは本気なの! ねぇ、こっち見て!」
「無茶言うなよ。どこぞのエスパーさんじゃあるまいし。そんなことわかるわけ……え?」
この感覚……ポケモンのステータスを初めて視たときと同じ。ブルーの中のナニカがこっちに流れてくる。感覚が研ぎ澄まされて、相手の深層にあるものが視えてきた。
一途な尊敬と憧憬、貪欲なまでの強さへの渇望、そして俺への無上の信頼。どうしてここまで他人のことを信じられる? わからない。疑うことしか知らない俺には理解できない。だけど、相手が手を伸ばすなら、それをつかんでやることぐらいはできる。信じられないことだが、これがウソ偽りないブルーの感情なのだとはっきり確信できたし、ここまで慕われ尊敬されていたことに少なからず心を動かされた。今まで嫌われようとすらしていたのに、それでもブルーは手を伸ばしてくれた。
弟子になる、そうブルーは言うが、それだけじゃない気もする。打算だけじゃない気持ちがあることも確かに感じられた。この世界に来て1番嬉しかったかもしれない。最初に見たのは憎しみ。次に見たのは絶望。初めて暗闇の中で光を見た。
「えっ、なに、なんなの今のは! わたし、なんか不思議な感覚がして頭がボーッとしたんだけど」
「……ありがとう」
そっとつぶやいた言葉はたぶんブルーには聞こえてない。
「え? 今何か言った?」
相手の本質を読み取る力……未だに謎のままだが、今は考えても仕方ないな。
「お前の気持ちはよくわかった。もう十分だ。これ以上は必要ない」
「!……ま、待って、もっと考え直してよ! おねがい、まだわたしは…」
「あぁ、勘違いするな。断るという意味じゃない。気が変わった」
「えっ?」
「俺の素性の詮索をしないこと。俺の言うことには絶対に従うこと。この2つを守れるなら、お前が一人前……いや、トレーナーとして俺が納得できるところまで面倒見てやるよ。ただし、俺はそんなに優しい性格はしていないし、面倒見も良くない。もうわかっているだろうがな。きっと厳しいものになるだろうが、覚悟はいいな?」
「や、やった……やったやった! ありがとシショー!!」
バッと抱き着いてきて、条件を言い含めたことはスルーされ、ずっと狂喜乱舞というのがぴったりなはしゃぎようでピョンピョン飛び回って喜び続けた。現金なもので、こうして嬉しそうに抱き着いてきたり、はしゃいでいるのを見ると無性にかわいげのある奴だと思えてきて、あやすように頭を撫でてやった。真っすぐ進むのもいいが、ちょっとぐらいなら寄り道も悪くないかな。
「無邪気に喜んでいるところはほんっとかわいいな、ブルーも」
「……あ、ありがとね、わたしがんばるわっ」
自分の状況に気づいて恥ずかしくなったのか、さっと手元を離れて目を逸らしながらブルーは言った。愛嬌のある奴。不思議と後悔はないな。ブルーのためなら別にどうなってもいいや。最悪なんやかんやバレてもそんときはそんときだな。もともと拾ったような命と体だったんだし。
「きゃっきゃと忙しい奴だな。これからお前を弟子にすると決まれば、またあれこれやることが増える。この俺の弟子が軟弱なままなんて認められないからな。自分が納得いくまで鍛え上げて……いや、一から叩き直さないと。お前はさっさとその寝間着から着替えて、すぐに支度してポケセンまで来い。俺は用があるから先に行ってる」
「わかったわ! すぐに行くし、期待に応えてどんどん強くなってやるわ!」
バン、とドアを強く叩きつけてすごい勢いで出ていった。張り切り方が尋常じゃないな。あれならすぐに来るかな。さて、最初にどこまでやるか。努力値振りだけ最初にさせて、理屈は段階的に教えてやるか。あとは俺についてきていれば勝手に覚えていくだろ。最初に必要なものは、きのみとドーピングとあとは……
ポケセンでこれからどうやって教えていくか考えながら必要なものをパソコンから取り出してブルーを待っていると、バタバタしながら駆け込んできた。
「ぜえぇーぜえぇー。良かった、ちゃんといた! はぁっ、ほんとに、はっ、疲れた。もう、かなり、ふーっ、焦ったわ」
「おうブルー、張り切っていた割には意外と遅かったな。しかしそこまで急ぐこともなかったのに随分と慌ててどうした?」
「最初は、んっ、浮かれて、んぐ、気づかなかったけど、ふぅ、てっきり、私を撒くために、先に行ったんじゃないかって、心配になって、慌ててここに」
「あぁ……お前って、前のめりになるとけっこうバカというか、単純というか。そんな回りくどいことするわけないだろ。撒くだけなら簡単だし。いったんやるといったことは最後まで責任持ってやってやる。お前が音を上げない限りはな。ま、ブルーならモノになると思うけど」
「ウフフ、いいわ、何でもやってやるわよ! さあ、どんどん来て! 最初は何をするの?」
すごく嬉しそうだな。普段よっぽど褒められ慣れてないんだろう。おそらくマサラにいた頃はあの2人と比べられていたのであろうことを思えば仕方ない部分もあるが。
最初はお互いに手持ちを出し合い、顔見せをすることにした。グレンはフシギソウ達には最初怖がられていたが、ブルーの取り成しもありなんとか打ち解けたみたいだ。なぜか今度は俺が全て悪いような、悪の大魔王みたいな印象をフシギソウとピジョンから持たれたが。顔見せもできて打ち解けてきた頃、聞き覚えのある声が聞こえた。
「おー、君達はブルーちゃんにレイン君。奇遇だな、こんなところで会うなんて。それにどうやら仲良くなったみたいだな」
「タケシ! また出てくるとは。毎度ジムリーダーっていきなり出てくるな」
「えへへ、実はそうなのよ! シショーったらわたしのことベタ褒めするんだから困るわー」
「してない。実力はまだ駆け出し未満なんだから調子に乗るな」
「……アハハ、すぐ照れるんだから、もうっ!」
ほんとにポジティブだな。顔は引きつっているようにも見えるが。あと常に俺が照れているみたいに言うのいい加減にやめろ。お前の中で俺はいったいどんだけシャイボーイってことになってんだよ。おかしいだろ。
「それで、そっちは何の用でここに? 普段はジムにいないとか言っていたし、忙しいんじゃないのか?」
「いや、君とのバトルで俺もさらにもっと鍛え直さないといけないと思って特訓中さ。普段は化石堀の仕事をしている時間だが今日は特別だな。で、ポケモンを回復させるためにここに来たってわけだ」
「え、こんな朝早くから特訓!? すっごーい。いつ起きたの?」
「4時ぐらいかな。まぁいつも通りだ。化石探しをする人間は朝が早いんだよ」
さすがにそれは早起きのレベルじゃない。異次元過ぎてもはや生活サイクルそのものが違うといっていいだろう。ブリーダーといい化石マニアといい、ヤバイ奴ばっかだな。
そんな風に雑談しながらほのぼのした空気が流れていたが、突如舞い込んだ凶報でそれは一瞬で吹き飛んだ。
「大変よぉ!! 一大事一大事、住民を避難させる避難勧告を出してくださぁい! ああこんなときタケシさんがいればいいのに、もうどうすればっ」
「落ち着いてくださいジュンサーさん、自分ならここにいます、何があったんですか!」
なんだなんだ、こいつがジュンサー? こっちで初めて見たが目の前のタケシに気づかないって慌て過ぎだろ。何があった?
「あ、こんなところにいたんですか! 実はポケモンが大量発生してその群れがこの町に向かっていて、もう被害が出始めているとかでっ」
「なんだって!? それはマズイな……。今自分の手持ちは疲れ切っていてここへは回復に来たところなんです。そのポケモンの名前はわかりますか?」
「それがわからなくて、この地方じゃ見ないポケモンで……あっ、ジョーイさん、急いで避難勧告を! 危険度Sです。すぐにお願いします」
ジョーイが慌てて奥から出てくるがそれを聞いて頷いた後すぐにとんぼ返りしていった。あのふざけたジョーイがあんな真剣な表情になるなんて相当ヤバイらしい。初めて聞く危険度Sってのも気になる。
「ひとまずこれで避難はできます。まずは詳しい話を」
ようやく落ち着きを取り戻し、ゆっくりと事の顛末をジュンサーが話してくれた。
「そうですね、わかりましたタケシさん。一から説明します。事の始まりは昨日の夜、北の外れのドラゴン仙人の家がそのポケモンに襲われて、自慢の流星群で追い返そうとしたけど失敗。流星群は相性が悪くてこうかはいまひとつだったようで、たまらず敗走しました。この町に来て、その後色々調べて大量発生の事実にようやく気づいたんです。もうかなり時間が経っているし、ポケモンの数は未知数。しかもかなり強い。このままだとこの町は廃墟になるかもしれなくて……」
「待て、なんでそんなに強いポケモンがこんなとこにいる? しかも人里に降りてくるなんて変だろ、誰かの差し金とかじゃないのか?」
真っ先に浮かんだのはロケット団の仕業という線。カントーの厄介事は9割方奴らの仕業だ。しかし俺の予想はすぐに打ち消された。残りの1割を引いたらしい。
「そのポケモンはさっきも言ったけど外来種らしくて、おそらく誰かがこの地方に持ち込んで捨てたポケモンが生態系を崩して増えて、人間への恨みとかで襲いに来てるんじゃないかと予想されてるわ。だから強いのよ。山を棲み家にする、“てつのよろい”を持ったポケモンということしかわからないし、もうどうしたらいいか……」
ジュンサーがまたパニックになりそれをタケシがなだめるが、それより俺は思い当たることがあった。
「シショー、どうしたの?」
「そのポケモン、知ってるぞ。おそらくボスゴドラ。ホウエンにいるポケモンだ。間違いないな。それなら手こずるのも納得だ。レベルは40以上と見た」
それを聞いて反応は3種類。驚くもの、絶望するもの、そして……
「シッショー! すっごい、あっさりこんなことまでわかるなんて……」
今ブルーにしたら俺は何でも知っているそれこそ仙人みたいな感じなんだろうな。反則で知っているようなものだから居心地が悪いが。
「なんでそう言い切れるのっ!? り、理由はっ!!」
ジュンサーが絶望的な事実を認めたくないとばかりに言うが、状況は正確に把握しておく必要がある。
「外来種で“てつよろい”とくればボスゴドラしかない。それにボスゴドラは“はがね”タイプで、三段階進化の最終形態。流星群の“こうかがいまひとつ”なのもはがねタイプだけだし、進化先ならレベルが高いのも納得だ」
「なるほど。ほぼ間違いないと見ていいな。じゃあ他に特徴はわかるかい?」
声も出なくなったジュンサーに代わり、タケシが問うた。
「タイプはいわ・はがね。防御がものすごく高い。並のトレーナーじゃ傷をつけるのも難しいだろう。みずタイプがいれば楽に倒せるが……」
「じゃあ、ハナダのカスミさんを呼べば!」
「着く頃にはここは廃墟だろうな」
ジュンサーはまた意気消沈して黙ってしまった。
「自分のいわポケモンなら倒せますよ。回復さえできればじしんで一気に殲滅できるはずです。問題はそれまで持つかどうかですが……」
ポケモンはさっきジョーイが回復を始めたので急げば1時間とかからずに回復するだろう。
「手詰まり……やはり逃げるしか……」
「そう結論を急ぐなよ。まだ手はある」
「え、でも今並のトレーナーじゃ無理ってあなたがっ」
「並ならたしかにそうだ。だが並じゃないトレーナーがいる。俺がそいつらを引きつけて、全員ボールに捕獲して、ホウエンに送り返してやるよ」
ボスゴドラの大量発生。この俺の経験値稼ぎには丁度いい。
さあ、狩りの時間の始まりだぜ!
久々にカントー以外のポケモンの名前が出たので補足
ここでは基本ポケモンのグローバル化はあまり進んでいないと思って下さい
分布の面でも知識の面でもカントーではあまり見ません
無論、ドサイドン、ニョロトノ、ピチューみたいな進化前後はいてもおかしくはないですし、今回のように持ち込みが皆無でもないので外のポケモンがゼロというわけではないです
また進化レベルについても大幅にずれることは少ないですが個体差があると思って下さい
レインも野生のポケモンの観察の結果などから承知しています
こうしないと改造カイリューみたいなのが出てきたとき説明をつけられませんし